2022年後半に生成AIが登場し、人々やビジネスの興味を大いに集め、その可能性に熱い視線が注がれています。
ところで、生成AIとはつまり何なのでしょうか?平たく言えば、一連のデータを使って新しいものを作り出す技術です。人間からの指示(プロンプト)に応じて、詩や物理学の説明、顧客へのメール、画像、新しい音楽などを生成します。
従来のAIモデルとは異なり、生成AIは「単に分類や予測を行うのではなく、人間を相手に言葉でやり取りしてコンテンツを作成する(英語)」とSalesforceのチーフサイエンティスト、シルビオ・サバレーゼ(Silvio Savarese)は説明します。
もちろん、データを正確に分類して予測することは、生成AIに不可欠な要素の1つです。生成されるコンテンツは、使用されるデータの質に左右されるからです。
“AIの質は、元となるデータの質で決まります。そのため、適切なデータセットを使うことが重要です。”
Salesforce、最高倫理的・人道的利用責任者、ポーラ・ゴールドマン
SalesforceのAI(人工知能)
Salesforce AIは、Salesforce Platform全体をグラウンディングする、信頼性と拡張性の高いAIを提供します。 SalesforceのAIを顧客データと合わせて利用すると、ビジネスのあらゆるニーズに合わせて、カスタマイズ可能な予測・生成AIのエクスペリエンスを安全に構築できます。Einsteinがあれば、あらゆるワークフロー、部門、業種で対話型AIを活用できるのです。
生成AIの仕組み
生成AIモデルの開発手法はいくつかありますが、現在主流となっているのは、事前学習済みの大規模言語モデル(LLM)を使って、テキストで書かれたプロンプトからまったく新しいコンテンツを作成する方法です。私たちは生成AIの力を借りて、履歴書やプログラミングのコード、デジタルアートなどさまざまなものを作れるようになっています。しかし、Salesforceにとって、また、企業のビジネスにとって、この技術の可能性はベースギターを弾くシロクマの画像を生成(英語)して楽しむことにとどまりません。
ユーザーが作成してほしいものを生成AIに指示すると、生成AIは使用するLLMにもとづいて、言葉やコード、さらには新しいタンパク質の構造まで生成します。
こうしたAIツールはいずれ、「生活のさまざまな側面で人間を支援する、頼れる助っ人になってくれる」とサバレーゼは予言します(英語)。そのようななかで、企業が生成AIの技術を開発、利用するにあたって特に重要になるのが、「人間が介在する」という点。たとえば、自動化したワークフローを人の目でテストしたうえで、完全自律型のシステムへと移行すれば、潜在的なリスクを防ぎ、責任を持って倫理的に技術を使うことを徹底できます。また、人間が介在することでお客様を含むすべての人が、技術を安心・信頼して使える土壌を育めるのです。
生成AIの多くには、ディープラーニングの2つのモデル、敵対的生成ネットワーク(GAN)かTransformerのいずれかが使われています。
- GANは、ジェネレーターとディスクリミネーターと呼ばれる2つのニューラルネットワークで構成されます。この2つのネットワークは対立関係にあり、ジェネレーターが入力に応じて出力を生成し、ディスクリミネーターはその出力が本物かどうかを識別します。ジェネレーターは、ディスクリミネーターのフィードバックにもとづいて出力を調整します。ディスクリミネーターが真偽を判断できなくなるまでこのサイクルを繰り返します。
- ChatGPT(Chat Generative Pretrained Transformerの略)に代表されるトランスフォーマーモデルは、個々のデータポイントではなく連続したデータ(文や段落など)にもとづいて出力を生成します。モデルはコンテキストを効率的に処理できるため、文章の生成や翻訳に使われる手法です。
- 生成AIのモデルとしてはGANとTransformerがよく知られていますが、ほかにも使われている技術があります。たとえば、変分オートエンコーダー(VAE)は、2つのニューラルネットワークを利用して、サンプルのデータにもとづいて新しいデータを生成します。また、Neural Radiance Fields(NeRF)は、複数の写真から自由視点画像を生成します。
ビジネスのためのAI
SalesforceのAIは、CRMに直接組み込まれたエンタープライズAIです。あらゆるアプリ、ユーザー、ワークフローがAIを利用し、企業全体の生産性を最大化します。パーソナライズされたAIアシスタントを使って、セールス、サービス、コマースなどさまざまな業務で、優れた顧客体験を提供できるように従業員を支援します。
生成AIはビジネスをどのように変えるのか
世界中のビジネスリーダーの興味や期待が、ChatGPT、StableDiffusion、Midjourneyなどの生成AIモデルに向けられています。
Salesforceが実施した調査(英語)では、ITリーダーの3分の2(67%)が、今後18か月の優先事項として生成AIを挙げ、3分の1(33%)は生成AIが最優先事項であると回答しています。
SalesforceのAIであるEinsteinは、「オープンで拡張性があり、CRM専用のパブリック、プライベート両方のAIモデルをサポートし、信頼できるリアルタイムデータでトレーニング」されています。
Salesforceは長年にわたり、お客様のニーズをサポートする生成AIの開発と展開に取り組んできました。たとえば、Salesforceが発表したCodeGen(英語)は、簡単な英語のプロンプトから実行可能なコードを生成して、誰もがソフトウェア開発に参加できるようにします。また、LAVIS(LAnguage-VISionの略)(英語)プロジェクトでは、AIの言語・画像処理機能を幅広い研究者や実務家が利用できるようにしています。
また最近では、SalesforceのProGenプロジェクト(英語)で、文字や単語ではなくアミノ酸配列を使って言語モデルを作成することにより、自然界では見つかっていない、より高機能なタンパク質を生成AIで生み出せることを明らかにしています。今後さらに研究を進めることで、こうしたタンパク質を医薬品やワクチンの開発、病気の治療に利用できるようになると考えています。
SalesforceのSales Cloud担当エグゼクティブバイスプレジデント兼ゼネラルマネージャー、ケタン・カルカニス(Ketan Karkhanis)は、生成AIは大企業だけでなく、中小規模の企業にも恩恵をもたらすと述べています。
「自動化されたAIによる提案、顧客とのやり取り、売上予測モデルなどの機能により、中小企業は、優れたカスタマーエクスペリエンスを提供し、営業費用を管理し、持続可能な成長を実現するための強力なツールを手に入れることができるでしょう」とカルカニスは言います。
Salesforce AIのCEO、クララ・シャイ(Clara Shih)は、生成AIによって「カスタマーサービス分野が根本的に刷新される」と考えています。
「サービス向けEinsteinとCustomer 360に生成AIを組み合わせることで、パーソナライズした応答を自動的に生成し、オペレーターが顧客にメールやメッセージをすばやく送れるようになります。より複雑な問題に対応したり、顧客と長期的な関係を築いたりするために、多くの時間を割けるようになるということです」とシャイは述べています。
生成AIがもたらすリスクとチャンス
生成AIは非常に大きな可能性を秘めていますが、Salesforceの最高倫理的・人道的利用責任者、ポーラ・ゴールドマン(Paula Goldman)と、AI倫理の実践に取り組むプリンシパルアーキテクト、キャシー・バクスター(Kathy Baxter)は、生成AIにはリスクもあると指摘します。
共同執筆した記事のなかで、2人は次のように述べています。「生成AIでできることを実現するだけでは、十分ではありません。私たちには、責任あるイノベーションを重視し、この革新的な技術をどのように利用できるのか、利用すべきかを示す義務があります。また、従業員・パートナー・お客様が、この技術を安全に、正しく、倫理的に使うための手段も提供すべきです」
Siliconのインタビュー(英語)で、ゴールドマンは、「AIをビジネスで利用する際には、正確であることが最も重要です。プロンプトに応じてAIが提案する、顧客とのチャットや営業メールの内容には、嘘が含まれていないことを確認する必要があります」と述べています。データが正しく、信頼できるものであることが、ビジネスにおけるAI利用の基本です。
ChatGPTの回答は信頼できそうな感じがしますが、サバレーゼはそれこそが注意すべき点だと指摘します。AIは、「自信満々に失敗」することがあるからです。
「AIモデルは、落ち着き払った、いかにも専門家のような調子で質問に回答するので、思わず感心してしまいます。しかし、そこに正しくない回答があっても気づけないという危険が潜んでいます。その説得力には、プロですら油断して足をすくわれることがあるのです」とサバレーゼは言います(英語)。
企業規模でChatGPTのようなツールを活用するようになると考えれば、その危険性がイメージしやすくなるでしょう。ITリーダーは、当然そのリスクを認識しており、10人中約6人(59%)(英語)が、生成AIの出力は正確でないと考えています。
考えるべきはリスクだけではありません。生成AIを倫理感と責任感を持って、誰もが使えるようにするには、どうすればいいでしょうか。
Salesforceはそれを実現するために、信頼できるAI機能を開発しています。安全に利用するための「ガードレール」やガイダンスを組み込み、問題が起こる前に食い止める仕組みづくりをしています。社会が生成AIを有用と認めるには、あらゆるレベルでモデルが信頼に足るものであるという根拠が必要になるでしょう。
責任あるAIとは、持続可能なAIの開発も意味します。AIは従来のワークロードよりもはるかに多く電力を消費します。ITリーダーの71%(英語)が、生成AIによってエネルギーの消費が増え、カーボンフットプリントが増加するだろうと考えています。
考慮すべきことは多々ありながらも、生成AIという技術には、CRMの未来に影響を及ぼす大きな可能性が秘められています。
Salesforceの生成AI – CRMにとっての意味
AIは、Salesforce Platformにとって切っても切れない存在です。SalesforceのAIテクノロジーであるEinstein AIは、1日あたり2,000億件以上の予測を提供して、商談の成約を後押しし、よくある質問に会話形式で回答したり、顧客の行動を理解したりできるようにユーザーを支援します。
最近、Salesforceは世界初のCRM向け生成AIを発表しました。パーソナライズされた営業メールから自動生成されたコードまで、営業、サービス、マーケティング、コマース、ITなど、あらゆる業務でAIが生成したコンテンツを使えるようになります。また、Data Cloudのデータと公開されているデータを組み合わせて、Salesforce Platform全体でコンテンツを作成するため、お客様それぞれに合わせた出力が可能です。
そして、私たちはSalesforce製品の中核にある包摂性、責任、サステナビリティという同じ基盤のもとでそれを実現します。詳しくは、ジェネレーティブCRMと、ビジネスにもたらす価値についての記事をお読みください。
SalesforceのAIに関する詳細はこちらをご覧ください。