「カスタマーサクセス」という言葉をご存知でしょうか?
直訳すると、「顧客の成功」という意味ですが、実は今「カスタマーサクセス」というコンセプトがクラウド業界を中心に大きな注目を集めています。
Salesforceはこの「カスタマーサクセス」というモデルを2000年初頭から、いち早く提唱しはじめ、その重要性を訴えてきました。(Salesforceの「カスタマーサクセスグループ」詳細はこちら) なぜ今この言葉が注目されるのか、またSalesforceがこのようなコンセプトで取り組みを開始した理由とは?そして顧客の成功とはどのようなことを示唆しているのか。セールスフォース・ドットコム カスタマーサクセス本部で、執行役員 コマーシャルサクセス部長を務める仲澤 輝宏に話を聞きました。
独自のビジネスモデルから生まれたカスタマーサクセスという発想
―― 最近主にクラウドサービスを行っている企業で、「カスタマーサクセス」という言葉や「カスタマーサクセスマネージャー」と言った役職をよく見かけるようになりました。企業によってその業務内容はマチマチのようですが、古くからこのアイディアを掲げてきたSalesforceにおける背景と取り組みについてお聞きしたいと思います。いつ頃からカスタマーサクセスへの取り組みを開始したのですか。
仲澤 カスタマーサクセスという概念自体を唱えだしたのは、2000年初頭だったと思います。またカスタマーサクセスという部署ができたのは、確かグローバルでは2003年頃、日本では2005年頃です 。この言葉が生まれた背景には、Salesforceのビジネスモデルが関係しています。当社のビジネスモデルは、従来のITベンダーとは大きく異なります。従来は、システム導入時に大きな売上が立ちます。これに対してSalesforceは、クラウドを通じて必要なITシステムを必要なだけ利用していただき、そのサービスに利用料を支払っていただくサブスクリプションモデルです。従来の売切り型と異なり、お客様に継続的にシステムをご利用いただかないとビジネスが成り立たない。そこでシステムを導入するだけでなく、その後も継続的にシステムを利活用いただき、お客様の業務改善を支援していく「カスタマーサクセス」という概念と役職が誕生したわけです。これは従来のITベンダーのサポート業務とは大きく異なり、システム利活用を通じてお客様の業務改善を支援していくものです。
―― Salesforceが米国で創業したのが1999年ですから、かなり早い時期から取り組みを始めていたのですね。
仲澤 そうですね。そもそも当社の創業コンセプトが、従来型ITシステムビジネスへのアンチテーゼだったので、カスタマーサクセスへの取り組みが始まるのも自然な流れだったと言えます。
―― そう言えば2002年頃「Success. Not Software」といったキャンペーンも行われていました。これがカスタマーサクセスにつながっていくわけですね。
仲澤 創業時にも「NO SOFTWARE」というロゴマークを使っていたような記憶があります。実はこの頃は、営業支援システム(SFA)や顧客関係管理システム(CRM)の大手ベンダーのオンプレミス製品が大きな注目を集めていて、数多くの企業が導入していたんですよ。しかしほとんどのオンプレミス製品は、導入後の変化に対応できませんでした。ERPのようなシステムはプロセスがそれほど変わらないのに対し、顧客を相手にするプロセスは戦略や戦術が頻繁に変更されるので、変化への対応が重要です。しかしこれを考慮していない設計だったので、結局は使われなくなってしまった。その結果、巨額の導入資金だけが費やされ、効果を生み出さないシステムになったのです。
―― そのようなシステムではいけないというわけですね。
仲澤 そう、こんなシステムはおかしいと。創業者のマーク・ベニオフが当初から考えていたのは、ITシステムも電気や水道と同じように使えるべきだということでした。オンプレミスシステムは、電気や水道の設備を自社で持つようなものであり、合理的ではありません。インフラ会社がこれを一手に担って、利用者は使った分だけ支払うというモデルに、ITもシフトすべきだと考えていたのです。これを実現するために設立されたのがSalesforceです。
重要なのは管理ありきではなく、目標ありきで話を進めること
―― カスタマーサクセス本部にはカスタマーサクセスマネージャー(CSM)という役職があって、彼らがお客様にアプローチするわけですが、実際にどのようなことを行っているのですか。
仲澤 正直に申し上げますと、設立当初のCSMは、「もうSalesforceを解約する!」というお客様に対して「やめないでください」と説得するために、企業訪問するという活動が多かったです。「何をすればやめないか」をヒアリングし、お客様の代わりに設定を行うこともありました。しかし、完全にシステムが使われなくなり、言うなれば末期症状になってしまったら、どのような対応をしても「もう一度使おう」という気にはならなくなります。そうなってしまう前にシステムを通じてお客様の業務改善を支援していき、お客様に有用性を実感していただく必要があるわけです。
―― うまくシステムを活用できていないお客様のケースとしては、どのようなものがありますか。
仲澤 データ入力を営業担当者が行う必要があるわけですが、その理由が理解できないため、入力されないといったケースが一般的ですね。導入検討段階のお客様でも、「いくらツールがいいものでも、本当にデータ入力してもらえるのか」という懸念が示されるケースは少なくありません。人間というものは変化を嫌う生き物なので、今までのやり方をそのまま踏襲したいのです。
―― 確かにそうですね。
仲澤 例えば、ある企業では、経営企画部門が「現状のままでは大きく売上を伸ばすことができないから、何が原因なのか見える化したい」というアイディアを思いついたとします。しかし、営業部門は「これまでもきちんと売っているのだから問題ない」と考えたとします。このような状況の中で経営企画部門が「営業担当者を管理したい」という発想でSFAやCRMを導入すると、両者が衝突しやすくなります。特に営業部長が抵抗を示した場合には、この軋轢はかなり深刻なものになります。営業部門というのは社内で強い立場にありますが、営業部長はその中で成功体験を積み重ねて今の地位に上り詰めた人なので、「自分が売っているから今の会社がある」という自負が強い。そのため社内での説得が難しいのです。
―― 上記のような社内状況を生み出す前に、導入後、CSMはどのようにして働きかけるのですか。
仲澤 まず行うのは、お客様の課題とゴールを明確化することです。どの会社でも売上を上げて成長したいと考えており、その想いは営業部長も一緒です。しかし現時点ですでに多忙であるため、これまでのやり方でさらなる売上は望めないということも、薄々ながら感じています。そこで「これ以上の成長を達成するには、営業部長の分身を作らなければいけません」と言います。そのためにもシステムでできることはシステムで処理し、営業部長として本当にやるべきことと、自動化すべきことを分けていきましょうと。このように話をしていくと、営業部長のノウハウがSalesforceにたまっていくことで、他の営業担当者の成績も上がっていくというイメージを、ご理解いただけるようになります。実際に2人の営業部長が猛反対していた会社でこの話をしたところ、最後には「全くその通りだ」とおっしゃられ、帰り際に握手を求められたケースもあります。
―― 管理ありきではなく、目標ありきで話を進めることで、ハードルを解消しやすくなると。
仲澤 Salesforceを導入もしくは導入を検討されている企業では、社員全員がそれなりの危機感を持っています。その危機感を共有し、意識を合わせていくことが重要です。
(Vol.2につづく。Vol.2では、活用定着に向け、より具体的な活動内容を紹介します!)
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