昨今、ミニマリストと呼ばれる必要最小限の物だけで暮らす人たちが増え、注目を集めています。ミニマリストまでいかずとも、できるだけ物を持たない暮らしに憧れて出来る範囲で物を減らしている人も増えています。
そんな中「サブスクリプション」、通称“サブスク”と呼ばれるサービスが普及しています。一体サブスクリプションとはどのようなサービスなのか、メリットやデメリットについてご説明します。
「サブスクリプション」とは?
サブスクリプションとは、月額や年額など定額料金を支払うことにより契約期間中は商品やサービスを何度でも利用できるというものです。
この形態は音楽や動画などデジタル系のサービスから自動車やファッション、飲食、教育、PCソフトなど、すでに多様な分野で展開されています。
・「所有から利用へ」をベースとした事業のサービス化
サブスクリプション拡大の背景には、「所有から利用へ」という消費者の価値観の変化があります。
2019年に内閣府が行なった世論調査で、「これからは心の豊かさか、まだ物の豊かさか」という質問に対して「心の豊かさ」と回答したのは62.0%、一方の「物の豊かさ」は29.6%でした。
こうした層を中心に、サブスクリプションは市場を拡大しています。矢野経済研究所によると2019年度の国内市場規模は6,835億2,900万円となっており、今後もこの傾向は続いて、2022年度には9,975億円に達すると推計しています。
また、冒頭で述べた「必要最低限の物しか持たない生活」への憧れが広がっていることもサブスクリプション流行の要因といえるでしょう。
物の所有や従来の価値観にこだわらず、生活が豊かになることに重きを置いてサービスを選ぶユーザーの増加が伺えます。
サブスクリプションで提供されるサービス
それでは、実際にどのようなサービスがあるのでしょうか。
・音楽
有料会員数1億2,000万人と世界最大シェアを誇るのが、スウェーデン発祥の「Spotify」です。無料で5,000万曲にフルアクセスできるサービスもあります。また、iPhoneの普及とともに伸びてきた「AppleMusic」は、6,000万曲を広告なしでストリーミング再生することが可能です。LINEが運営する「LINE MUSIC」も3,200万ダウンロードを達成し、お試し聴き放題や学割プランもあって若者から人気を集めています。
また、映画やドラマ、アニメなどの動画サービスは既に馴染み深いものではないでしょうか。現在、世界をマーケットに多数のサービスがあり、「Hulu」「Netflix」「Amazon Prime Video」などアメリカ発のものから、NTTdocomoの「dTV」のような国内企業のサービスやフジテレビの「FODプレミアム」やテレビ東京の「ビジネスオンデマンド」などテレビ局のものもあります。
・飲食店
2017年、飲食界のサブスクリプションの走りとして登場したのは、二郎インスパイア系こってり大盛りラーメンの「野郎ラーメン」です。月額8,600円で毎日1杯が無料で食べられます。他にも、居酒屋チェーンの「金の蔵」は、月額4,000円の定額飲み放題を行っています。
反響が大きい例としては、2019年末の焼肉チェーン店「牛角」のサブスクリプションが挙げられます。1カ月食べ放題プラン(月額1万1,000円)を発表しましたが、想定を超えるユーザーが殺到し、わずか1カ月でサービス終了となりました。
サブスクリプションの展開は食事に限りません。都内に3店舗ある月額制コーヒースタンド「coffee mafia」では、月額3,000円、4,800円、6,000円のコースを用意するなど、ジャンルを問わず幅広く取り入れられています。
・車
テレビコマーシャルで有名なトヨタの「KINTO ONE」では、コンパクトカーが月額5万円以下から、レクサスも10万円前後から利用できます。
この他にも、コスモ石油の「コスモMyカーリース」、リース期間終了後に車がもらえるプランもあるオリックスのサービスなどがあります。
・ファッション
アイドルグループの欅坂46をイメージキャラクターに起用した「メチャカリ」は、20~30代の女性から人気を集めています。
また、250人以上のスタイリストが似合う服を選んでくれる「airCloset」は、働く女性から支持を集めています。
女性向けだけでなく、男性向けファッションのサブスクリプションも存在します。例えば毎月20着のワイシャツが届き、洗濯やアイロンがけの手間が省ける「ワイクリン」などが挙げられます。
サブスクリプションのメリット
なぜ今、これほどまでにサブスクリプションが人気なのでしょうか。改めてサブスクリプションのメリットをみていきましょう。
・ユーザーのメリット
-入会・解約が簡単で気軽に利用できる
基本的に、サブスクリプションを始める際に必要な手続きは個人情報の入力とクレジットカードの登録くらいです。気軽に始めることができ、さらに一度登録してしまえばそれ以降はいちいち登録や決済を行う手間が省けるため、時間がかからず利便性が高いというメリットがあります。
-金銭面でもお得に楽しめる
車などの高額商品を購入する際は、購入費や頭金としてまとまった現金を用意しなければなりません。
しかしサブスクリプションであれば、月額のため少ない負担で手軽にスタートできますし、追加の維持費もかかりません。不要になったら契約を解除すればよく、金銭面でもお得に楽しめます。
-モノを持たなくてよい
CDやDVD、書籍などを購入していると、次第に量が増えて保管場所に困るということもあるでしょう。
しかしサブスクリプションであれば、PCやタブレット端末、スマートフォンを通じてその都度利用することができ、部屋に物が増えません。現物として持ちたいものだけを集めて、それ以外はデータで楽しむという使い分けも可能になります。
-購入前に試すことができる
サブスクリプションサービスの中には、最初の数カ月をお試し期間として無料にしているものも多くあります。
もしも自分のニーズや好みに合わなければ課金される前に解約することができます。
また、これまでサブスクリプションサービスを利用したことがなかった方でも、「試しにやってみる」と一歩踏み出すだけで趣味や人生の幅が広がるかもしれません。
・企業としてのメリット
-継続的な売り上げを期待できる
サービスに満足したユーザーは利用を継続します。つまり、サブスクリプションは一回きりの売り上げではなく一定額の収益を継続的に見込めるサービスというわけです。
これはビジネスにおいて大きなメリットです。売り切り型と比べて請求額を管理しやすく、収益予測が立てやすくなります。
-新たなユーザーを獲得できる
定額で費用が低く設定されていることから、気軽に始められます。
すでに注目を集めているサブスクリプションは話題になりやすく、新規ユーザーを獲得しやすい状況にあります。
-利用ユーザーのデータを収集できる
サブスクリプションサービスの多くはインターネット経由で提供されています。そのためユーザーの属性や好みに関するデータを収集して、そのユーザーが好むコンテンツを紹介し、利用を促すことが可能です。
こうして集められたビッグデータを分析することでヒット商品の把握がしやすくなり、同時に的確な広告展開ができるようになります。
サブスクリプションのデメリット
一方で、サブスクリプションにも考慮すべき点があります。デメリットにはどのようなものがあるのかもみていきましょう。
・ユーザーのデメリット
-利用頻度に関係なく料金が発生する
サービスを長く利用していると、興味が薄れたり費やせる時間が少なくなったりして、使用頻度が低くなることがあります。しかし利用しなくても一定の料金がかかるため、解約するか再度利用しないと無駄な出費となってしまいます。
また、サービスの料金に対して不満を感じたり割高感を感じて満足度が下がる可能性もあります。
-安価で導入やすいため、費用がかさむ可能性がある
音楽や動画などのサービスは安価で気軽に始めやすいというメリットがありますが、ついあれもこれもとさまざまなサービスに手を出してしまいがちです。
気がつくと、家計を圧迫するほどに出費が費えていた…ということも。こうした予想外の出費をおさえるには、自分が今どんなサービスを契約しているか確認できるようにしておき、利用していないのに契約が続いているサービスはないかを見直す必要があります。
・企業としてのデメリット
-サービス内容によっては競争が激しい
音楽や動画のようなデジタルコンテンツサービスでは、こだわりの少ないユーザー層が厚いため、サービスを提供する企業はユーザーの争奪戦を繰り広げています。
この競争に勝ち続けるためには、常に新しくて魅力的なコンテンツを提供し続ける必要があります。それだけの体力や資金があるかどうかが勝敗の分かれ目となってきます。
-初期リソースを担保する必要がある
サブスクリプションサービスは、サービス内容や決済などの業務を自動化するシステムなど、最初からクオリティと満足度が高いサービスを用意する必要があります。
このため、ほとんどの業種で初期リソースを担保することが課題となります。
-ユーザーを増やせるかはノウハウ次第
ユーザーを増やすには、マーケティングのノウハウをどれだけ持っているかどうかが非常に重要となります。
「無料や低価格で始め、その後に価格を上げる」など効果が実証されている手法もありますが、すべてのケースに適応できるわけではありません。ビジネス特性やターゲットの志向を考慮して、最適な施策を組み合わせる必要があるでしょう。
サブスクリプションをユーザーと企業の新たな架け橋に
サブスクリプションはユーザーにとっても企業にとっても、上手に利用できれば大きなメリットをもたらしてくれるでしょう。それまでユーザーの手が届かなかった商品やサービスをサブスクリプションというモデルで提供しすることで、生活を豊かにするという新しい価値をユーザーに提供できるという可能性も秘めています。
特に重要なことは、サービスを提供する企業がユーザーを理解し、ユーザーの「エンゲージメント」を高めることでしょう。企業とユーザーの間に、いかにして信頼関係を築くのか。それは単にユーザーの満足度を高めるだけでは達成できません。品質の良い商品を低価格で提供するだけでは十分ではないのです。
ユーザーと企業の間に生まれた親密な関係。それは、商品やサービスを自ら宣伝し、商品やサービスの改善点の不満をSNSなどで拡散するのではなく、フィードバックしてくれるような関係です。サブスクリプションモデルによるサービスはそうした可能性を秘めています。
そうすればその企業は、その業界においてきっと確かなポジションが築けるでしょう。今後、ますますサブスクリプションはユーザーと企業をつなぐ新たな架け橋になるはずです。