世代別に興味・関心や好みを把握し、ターゲットに合わせた戦略を練ることは、商品開発、店舗運営、EC、マーケティングといった企業活動の方針策定にあたり、極めて重要です。近年、世代によって購買行動に違いがあることを前提に、「それぞれの世代に最適な商品・サービスの提案」が一般常識のように語られるようになってきました。
しかし、それは真実なのでしょうか。「担当者の思い込み」が、「世代の違い」として一人歩きしてはいないでしょうか。そこで、セールスフォース・ドットコムの業界インサイトチームは、正確な情報に基づき、世代別の購買行動を明らかにするグローバル調査を実施しました。約12,000人の消費者に対するこの調査から、ベビーブーム世代(団塊ジュニア:1946~64年生まれ)、X世代(1965~1980年生まれ)、ミレニアル世代(Y世代:1981~1996年生まれ)、Z世代(1997年以降生まれ)の購買行動について、よくある“一般的に真実と思い込まれていること”をひっくり返すかもしれない現実を明らかにします。以下に、この調査の日本における傾向についてレポートします。
Z 世代だけではない!ソーシャルメディアは全世代が利用
思い込み:ソーシャルメディアを楽しんでいるのは若い世代が中心
真実:ソーシャルメディアを使いこなし、アプリから商品を購入する40歳以上が増加
10代のころからスマートフォンを使いこなしてきたZ世代は、ソーシャルメディアで育った世代と言うことができます。彼らが友人との交流や買い物に、Facebook、Instagram、Snapchat、TikTokなどのデジタルチャネルを積極的に活用していることは言うまでもありません。
今回の調査では、日本において55%のZ世代がソーシャルメディアの投稿に影響されて商品を購入した経験があり、11%が頻繁にそうした購入を行っていると答えました。対して、X世代では41%がソーシャルメディアの投稿に影響されて商品を購入した経験があり、さらに28%がソーシャルメディア上で直接商品を購入したことがあります。この傾向はベビーブーム世代でも見られ、ベビーブーム世代でさえもソーシャルメディアの投稿に影響されて商品を購入した消費者が32%も存在します。このように、ソーシャルメディアはミレニアム世代・Z世代だけのものではなく、40歳以上の消費者にアプローチする際にも重要な顧客接点であると言えます。
別の興味深いデータもあります。セールスフォース・ドットコムが保有する全世界10億人以上のオンライン行動が集計された購買指標によれば、2020年に新規のオンライン購入者が対前年比40%増加しています。パンデミック以前からECを利用していた若い世代が多いことを考えれば、新規の40%増という傾向は高齢者の参入ととらえることができます。コロナ禍で外出しにくい状況に直面し、高齢者もECで生活必需品を買うようになったわけです。
メディアが若い世代のデジタルショッピング傾向について詳しく報道するケースは目立ちますが、小売業者は自社のオーディエンスデータを注視すべきです。新規訪問者に高齢者が増えていませんか? 高齢者世代もソーシャルメディアの影響を受け、オンラインで買い物をするようになってきています。
実店舗不要論は誤りだ
思い込み:ECが実店舗を駆逐する
真実:実店舗とECの使い分けは複雑化しているが重要だ
パンデミック以前の世界において、85%の購入は実店舗で行われ、オンラインは15%にすぎませんでした。コロナ禍で、この比率は大きく変化しました。食料雑貨は、実店舗が強く、2019年には97%が実店舗購入でした。2021年、コロナ禍でオンライン購入を経験した消費者はその利便性を支持したようで、20%の消費者が「今後もオンラインで食料雑貨を購入するつもりだ」と答えています。
日本では、ヘルス&ビューティー業界、アパレル/フットウェア業界、PC周辺機器でオンラインショッピングが浸透していることがわかります。Salesforceの調査によれば、ヘルス&ビューティー商品の購入において、31%の消費者が主に買い物をする場所として、Amazonなどのオンラインマーケットプレイスや、ブランド・小売業者のWebサイトといったオンラインチャネルを挙げています。
若い世代ほどオンラインを利用する傾向が強くなるのはアパレル/フットウェア業界です。ベビーブーム世代の7割が実店舗を利用していますが、ミレニアル世代とZ世代では店舗を好むのは46%まで減少し、店舗よりもオンラインを好む傾向にあります。ただし、それに伴って返品も増えています。Z世代の42%が郵送での返品経験があり、他の世代が2割程度であることと比較すると突出した返品率になっています。リアルな商品を見られないオンライン購入と返品率には相関がある可能性があり、実店舗における接客やショールームとしての要素など、その価値について改めて判断する必要がありそうです。
ロイヤルティプログラムの魅力
思い込み:若い世代はロイヤルティプログラムに魅力を感じにくい
真実:Z世代は価値観が多様なだけだ
ロイヤルティプログラムはあらゆる世代に効果的で、中でも特別割引に魅力を感じる人は多いようです。ベビーブーム世代の74%が割引に魅力を感じており、他のあらゆる要素を大差で引き離しています。Z世代でも53%が割引に魅力を感じていますが、他の世代と比べると割引に魅力を感じる度合が低いと言えます。割引以外の要素を見てみましょう。Z世代では、ベビーブーム世代と比較すると、Z世代ではイベントに約3倍、コミュニティに2.5倍の魅力を感じていることがわかります。
ベビーブーム世代とX世代/ミレニアル世代とZ世代で商品選択の基準に傾向差が見られました。前者は“割引”を優先し、後者は“商品の品質”と“利便性”を優先します。Z世代に特筆すべき傾向としては、持続可能性が他の世代に比べて約2倍となっており、サステナビリティが商品や小売企業の選択基準になりつつあることが分かります。その一方で、Z世代は各基準の凹凸が緩やかになっていることから、Z世代の価値観の多様性を反映していると言えるかもしれません。もしかすると、彼らはまだ若く、好みも発展途上だということを意味しているのかもしれません。これら両方の可能性もあります。
ショッピングにおけるカスタマージャーニーは、もはや直線的なものではありません。さまざまなチャネルやデバイスにわたるタッチポイントが無限にループしています。ブランドや小売業者があらゆる世代の特徴を把握し、訴求するのはほとんど不可能に思えるかもしれません。
ここで、データの価値が生きます。あらゆる顧客接点で得られた顧客情報を統合する(=顧客360°ビューを構築する)ことの価値が、かつてないほど高まっているのです。小売業者は、顧客一人ひとりのデータにもとづき、顧客の欲求やニーズを先回りして把握し、彼らのニーズに最適なものを提供しなければなりません。この調査によって、先入観にとらわれた戦略の危険性はご理解いただけたのではないでしょうか。顧客についての360°ビューを作り上げ、それを活用することで、あらゆる世代の顧客一人ひとりに対してパーソナライズした提案ができるようになります。思い込みを排して、世代間の傾向差とらえた上で、顧客個人へのパーソナライズを推進することで、来たるコロナ後の成長戦略を描くことができるでしょう。