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医師の偏在と僻地医療の課題にVirtual Careで立ち向かう

医師の偏在と僻地医療の課題にVirtual Careで立ち向かう

オンライン診療が注目を集めています。これは、医師の偏在や診療科の偏在に悩まされる日本においても、大いに期待できますが、課題もあります。本ブログでは、オンライン診療を本格化させるためにクリアしなければならない課題について、記載しております。

「オンライン診療(バーチャルケア)」が注目を集めています。これは、医師の偏在や診療科の偏在に悩まされる日本においても、大いに期待できる分野ですが、まだ課題も残っています。このブログでは、Salesforceの考える「Virtual Care(バーチャルケア)」をご紹介するとともに、日本が「オンライン診療(バーチャルケア)」を本格化させるためにクリアしなければならない課題について、皆さんにシェアしたいと考えています。一緒に考えていただければ幸いです。

Saleforceが考えるVirtual Careの範囲

「オンライン診療(バーチャルケア)」 とは、医療/ヘルスケアの分野で認知度を得てきた言葉です。日本では、遠隔地から患者に問診することや、遠隔地から現地の医師を指導するという意味で使うケースが多いようですが、人によってその規定する範囲は違います。Salesforceの定義はこれより広く、遠隔地から直接的な医療行為を行う遠隔医療やリモート診療も含みます。そのため、ここからは「Virtual Care」と書いて、話を進めていきます。

図1:Virtual CareのScope

上図が、Salesforceの考えるVirtual Careです。最も軽度なVirtual Careは、「より良い生活を送ろうとする中で必要になる薬が欲しいけれど、医師の診断が必要になる」といったケースで効果を発揮します。この分野は日本でも進んでいて、以前にSalesforceブログでオンライン診療後にピルを宅配する事業を紹介した株式会社ネクイノ様など、企業が取り組んでいる事例も出てきています。

一方、最も高度なものはロボットを使った遠隔医療(リモート診療)です。この分野は世界的に見ても先進的な分野になります。

そこで、このブログでは、まずはVirtual Careの考慮する機会として、日本の抱えている2つの課題を中心に考察します。1つは、遠隔地に居る医師が現場に居る看護師/介護士に指示を出し、現場の看護師/介護士が患者に軽度な医療行為を行う際の課題。もう1つは、同様の状態で遠隔地の医師が現地の医師=主治医に指示を出す際の課題です。

考慮すべき課題:医師の偏在

日本において、医師の勤務地域は都市部に偏っています。人口当たりの医師数を都道府県別に見ると、不足している地域が多いことは一目瞭然です。

図2:人口あたりの医師数
(出典:二次医療圏ごとの人口10万対医師数(平成26年度) DtoDコンシェルジュ, https://www.dtod.ne.jp/dekurasu/dvoice/008/images/dvoice008_pdf_003.pdf)

ただし、不足している地域でも、県庁所在地の周辺には十分な数の医師が勤務しています。問題になるのは厚生労働省の言うところの「へき地」※1 です。「無医地区」、「準無医地区(無医地区に準じる地区)」の存在しない都道府県は、千葉、東京、神奈川、大阪の4つしかありません。実は、都道府県単位で医師数を判断する以上に、全国的な問題なのです。各自治体は、医師の巡回診療などを実施していますが、そのリソースも限られています。

※1へき地とは、「無医地区」、「準無医地区(無医地区に準じる地区)」などのへき地保健医療対策を実施することが必要とされている地域 。(詳細はこちら

考慮すべき課題2:診療科の偏り

この課題も、多く指摘されてきました。これは、医学生の診療科選択自由度が高まったためとも言われています。以前は、医学校が学生を各診療科に割り振ることで、半ば強制的に診療科別医師数をコントロールできたのですが、いまは違います。そのためもあり、近い将来、以下の図のような診療科別医師数の過不足が生まれてしまいそうです。

図3: 不足する診療科/余る診療科
(出典: 診療科別医師数の推移,「医師偏在対策について」(平成30年2月) 厚生労働省医政局, https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000194394.pdf)

もう1つ、大きな問題があります。それは、「集中治療専門医」が不足していることです。現在、日本には約32万人の医師が存在しますが、集中治療専門医は1700人。わずか0.5%なのです。日本にICUは1100病院に設置されていますが、その内800施設にはICUの専門医は不在です。IICUで対処することになる重症患者管理は、集中治療専門医の関与が大きいほど診療成績が良いという報告がありますが、集中治療専門医が勤務していない施設も多数あり、専門医ではない医師が集中治療にかかわらざるを得ない状況も見られるようです。

日本集中治療医学会は2021年9月に『我が国の集中治療医療提供体制を強靭化するための提言』レポートを公表。集中治療の強靱化に向けた提言の1つとして、「集中治療科医による集中治療医療提供を効率的に行うため、平時より広域集中治療搬送システムとIT 技術を駆使した遠隔 ICU による診療支援を推進する」を挙げています。

解決策としてのオンライン診療(バーチャルケア)が現在抱える課題

ここまで見てきたようなオポテュニティはありますが、すぐにVirtual Careが実現するかどうかは未知数です。Virtual Careの推進にあたっては、以下の4つの課題をクリアする必要がありそうです。

課題1:医療データの標準化

電子カルテは普及しつつありますが、そのデータフォーマットは病院によって異なります。画像フォーマットも統一されておらず、医療に使用するデバイスの信号などIoT分野は医療機器メーカーに依存します。これらがHL7/FHIRに代表されるような標準モデルに統一されることで、遠隔地に居る医師が正確な情報をスムーズに把握できるようになります。

課題2:医師法

現在の医師法は、主治医=現場で患者と相対している医師にのみ医療行為を許しています。遠隔地に居る専門医が現地の医師に対して適切な指示を出せたとしても、現場の医師がその処置を不要と判断してしまえば、患者に対して指示した治療が実行されないリスクがあります。この状況を改善するためには、医師法を改正する必要があると考えます。

課題3:看護師/介護士/薬剤師の業務範囲

たとえば、現在でも看護師さんに注射を打ってもらうことは患者も当然として受け止めています。ただし、これは現地に居る医師の監督の下で行わなければなりません。看護師、介護士、薬剤師などによる医療行為をどこまで許すかという議論になりそうですが、遠隔に居る医師の監督下である程度の医療行為が可能になれば、人的リソースという課題解決は大きく前進しそうです。

課題4:高速・大容量通信インフラ

Virtual Careでは、3D CTやPET、MRIなどで取得する画像データから患者の状況を把握し、医療方針を決定するケースがあります。離島などで通信インフラが整備されていない状況では、緊急を要する重篤な患者への対応に際し、これらの大容量データを高速に送受信できる通信インフラの整備が不可欠です。

なぜSalesforceがこの分野に?

読者の皆さんは、Salesforceの社員がどうして日本のVirtual Careについて書いているのか不思議に感じるかもしれません。しかし、この分野に注力する理由があります。Salesforceは、Health Cloudというヘルスケア/医療分野に特化したソリューションを提供しています。そして、海外ではすでに、Teladoc Health社というVirtual Care大手が、Salesforceを業務に利用してくれています。

とはいえ、この分野は国によって大きな違いがあります。法制度や各種規制、文化的な制約もあり、海外の活用事例をそのまま日本に持ってくるわけにはいきません。このブログで書いたように、日本は現状でもさまざまな課題を抱えていて、さらに私たちが認識していない課題も多いと考えています。

そこで、多くの方々と課題と解決の方向性について共有し、議論しながら日本にあったVirtual Careのあり方を考えていきたいのです。この分野は、Salesforceのようなソフトウェアだけで前へ進められるものではありません。現場の医療者や看護師/介護士/薬剤師の皆様、医療機器メーカー、通信インフラを担うキャリア、法制度にかかわる方々など、多くの人と議論を重ねたいと願っています。

「オンライン診療(バーチャルケア)分野で一緒にやってみたい」、「Salesforceがいま何を考えているか、もっと知りたい」、もしくは「いまVirtual Careに取り組んでいるので仲間に入れてやらなくもない」という方もいらっしゃるかもしれません。よければぜひ、当社までお問合せください。多くの方々と一緒に、日本のVオンライン診療(バーチャルケア)の構想を作っていきたいと考えています。

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