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生成AIとクリエイティブの終焉

生成AIとクリエイティブの終焉

生成AI (ジェネレーティブAI)によりクリエイターの在り方が急速に変化していく近未来において、ブランドとクリエイティブはどう変容していくのか。ニューヨークを拠点に世界のクリエイティブシーンの最前線で活躍するレイ・イナモト氏からのインサイトを、経済キャスター瀧口友里奈氏によるインタビューでお届けします。

生成AI (ジェネレーティブAI)によりクリエイターの在り方が急速に変化していく近未来において、ブランドとクリエイティブはどう変容していくのか。ニューヨークを拠点に世界のクリエイティブシーンの最前線で活躍するレイ・イナモト氏からのインサイトを、経済キャスター瀧口友里奈氏によるインタビューでお届けします。

ジェネレーティブAIと人間の新たな関係

瀧口友里奈氏(以下、瀧口):
今後20年から30年にわたる変革が起きるものとして、OpenAIのChatGPTに代表されるジェネレーティブAIが注目されています。レイさんも日頃からAIをお使いですか?

レイ・イナモト氏(以下、イナモト):
はい、様々なジェネレーティブAIを試しています。
僕は世代的に、ちょうど検索やインターネット、その後にソーシャルメディアが出てきた頃にキャリアを始めていて、その頃と同じような興奮と感覚を感じています。
一番最初、僕が高校生くらいのとき、まだブラウザもないときに、インターネットのチャットというものがあって、アメリカから、シンガポールに住む友達と、リアルタイムで白黒の画面越しでチャットを楽しむことができた興奮を、「これは魔法だ!」と言いながら分かち合ったことをよく覚えています。
それ同じような感覚で、ChatGPTというツールにプロンプトをいれることで、人間が会話するような言葉が返ってくる。これは「次のフェーズの一番最初」で。まだ不完全なところもたくさんあるので、テクノロジーは良いことに使われる場合もあれば、悪用される場合もたくさんあるので、その辺はまだついていけてない企業や制度がいっぱいあると思うのですが、止められない波ですよね。

瀧口:そうですよね。ChatGPTを規制する各国の動きもありますが、現在のこうした動きをどう見ていますか?

イナモト:ジェネレーティブAIには色々なものがあって、MidjournyやDALL·Eなど絵を生成してくれるツールなどもあるなかで、一般の人が普通にアクセスできる代表的なツールがChatGPTですよね。
アメリカでは、以前、ニューヨーク州で小学校と中学校と高校でジェネレーティブAIを禁止する動きもありましたが、ジェネレーティブAIはもう止められない波になると受けとめています。
もちろん、ガードレールのようなものをつくることは大事ですし、どこまでが倫理的でどこからがそうでないのかなどの、AIへの向き合い方も文化や国によって全く異なる判断が出てくるかと思います。
僕は大学の頃にコンピューターサイエンスを学んでいてAIにも少し関わっていたのですが、規制するよりかはどうやって共存していくかを考えた方が効果があると思いますし、社会のためになるのではないかと。

瀧口:教育の現場で禁止されている色々な理由があるなかで、課題をAIが解いてしまうことが懸念されていますね。
私も以前、レポートを本当にChatGPTに書けるのか実験してみたことがあって、実際は「検索するよりちょっと楽」なくらいで、いい壁打ち相手にはなってくれましたが、魔法のようなレポートが上がってくることはなかったです。

私の質問力をもっとブラッシュアップしてもっと使いこなすことができれば、より良い結果が出たとも思います。学生自身が解くことを意図して教員の方が出した課題をAIに解かせること自体には賛同しませんが、そうしたAIの使い方を学習するプロセスは重要で、そうしたものを一概に禁止としてしまうのは、もったいないなと感じます。

イナモト:新しく一般的に使える道具が誕生する時には似たようなことが起きています。古いところでは「写真」も100年くらい前には、かなり高度な技術と経験、どうカメラを操作するのかということをわかっていなければ、上手な写真を撮ることができず、撮ったあとにも長い現像のプロセスがありました。それが今では、スマートフォンさえあれば、プロ用のカメラにも近い、映画も撮れるような精度になりつつあって、プロのような技術がなくても一般の人でも、やる気さえあればある程度のものが創れる、つまり平均レベルが上がって、モノを創るハードルが下がっています。お金をかけないアマチュアでもスマートフォンのフィルターなどを使って、かつてのプロの9割くらいの写真ができてしまうところまで、いま時代は来ていますよね。

AIが普及すると、写真だけでなく、絵でも文章でも音楽でも、平均レベルが上がってきています。

これからのプロの人の腕の見せどころは、そのレベルからどう突き出て面白いものやいいものを創っていけるのか?というところで、それはその人の「アイディア」に左右されるところが大きくなってくると思います。

瀧口:「どうAIから引き出すか?」ということですよね。

イナモト:そうですね。以前に瀧口さんが言っていましたが、大事な能力は「発注力」なんじゃないかという話題で盛り上がりましたよね。
アナウンサーの古舘伊知郎さんがすごいのは、ひとりでしゃべるだけでなく、サポートしている作家さんたちに「こういうことを調べてほしい」と事前に発注をする。その力がすごいので、それをインプットしてカメラの前に立った時に面白いことを面白く話せるということでしたね。こうした発注力と、英語でいうCreative Directorが、ただものを創るだけでなく、何をどう創り現状をどう変えていけるか?というところが、優れた人間の能力が発揮されるところだと思います。

瀧口:そこで、なにが人間の頭のなかで想像できるか?と。

イナモト:想像できることに加えて、逆に人が想像できないことに取り組むことがクリエイティビティの醍醐味であり、大事なことでもあるので。
たとえば、ChatGPTでいうと、僕もあるサービスのネーミングを考える仕事が最近あって、人間2, 3人のグループとブレーンストーミングしながら、ChatGPTと壁打ちとしてラリーをしていると、あっという間に100個200個というネーミングを出してくれるので、使い勝手はいいです。
今までの検索だと今まであったものしか出てきませんが、ChatGPTやMidjournyではそのデータに基づいてそこからパターンを見出して、AとCとGをくっつけて新しいものをつくる、そのように新しいものを大量生産して試しにつくるのにはすごく優秀だと思います。
でも結局、最終的に何百個も出してきたのですが、人間が出したものの方が面白かったのです。AIだと、当たり前なんです。出てくるものが。

瀧口:どこかで見たことがある。

イナモト:そうなんです。点と点では繋がってはいるんですけれど、当たり前のありきたりなことばかりで。上から目線ですが、アマチュアがやっているようなところなんです。

瀧口:壁打ち相手やアシスタントのような役割としては、いま現状では、ジェネレーティブAIは非常にいいかと。また数ヶ月経つと変わってくるかもしれませんが。

イナモト:そうですね。「今のところは」ですが、すごくいいと思います。

プロはどうAIと付き合えばよいのか?

瀧口:それでは、どのようにプロのクリエイターがAIと付き合っていけばいいか?ということでは、「アシストしてもらう」ということになるのでしょうか?

イナモト:僕がいま自分でやっているポッドキャスト番組「世界のクリエイティブ思考」で、4月に配信したエピソードで、アメリカに住んでいる小説家でPJ Caldasさんという人がいて、その方とはとても仲の良いお友達なのですが、彼がここ最近、AIを使いながら、その新しい本の内容を配信していました。そこで、小説を書いたり宣伝したりするときに、どうAIを使っているのかを訊いてみたところ、実は「小説を書くことにはAIはあんまり役に立たなかった、面白いストーリーにするには使えなかった。小説自体は全部自分で書いた」というふうにおっしゃっているのです。
ただ、その小説の内容がAIに関係していることもあり、本をプロモーションするときに、ChatGPTやMidjournyのようなツールを彼はできるだけ使っています。まず本のカバーアートは彼が全部AIで創っていて、そのプロセスを自身のソーシャルメディアで公開して、色々なバージョンを数ヶ月かけて「これどう?」「これはどう?」と発信してオーディエンスの意見を巻き込みながら、最終的に自分で一番気に入ったものをカバーにしています。また、小説の内容をChatGPTとMidjournyでストーリボードに起こして、それを元にAIを使ってプロモーション動画を制作しています。
いまは完全ではないけれど、効率的かつ効果的に、本の内容がAIということもあるのでそれにも乗っかりながら、というように、うまくAIを使っている事例です。

瀧口:AIを使っているということをプロモーションの一環として、世界観として取り入れている状態、ということですね。

イナモト:そうですね。

瀧口:そうしたなか、AIの恩恵を受けるクリエイターと、逆に悪影響を受けるクリエイターの違いとは、どういうところで出てきそうでしょうか?

イナモト:「職人」と「アーティスト」の違いがあって、今後、デジタルの世界だと「職人」はAIに潰されてしまう一方で、「アーティスト」は残っていくと思うのです。
これまでの「つくる」ということはある種の作業で、カメラを使う・筆をとる・ソフトで何かをつくる、そうしたことにこれまである程度の訓練や技術が必要だったのが、そこをAIがやることになる。もちろん物理的なところでは違うものがあるとは思いますが。
アメリカの伝説的な音楽プロデューサー、リック・ルービン氏が言っていた言葉で「つくりたいものが決まっていて、それをつくるのは職人の仕事。つくりたいものが決まっていなくて、新しいことを発見する『旅』に出るのがアーティストだ」というものがあります。
職人/Craftspeopleは残念ながらAIに食われてしまうと。よりクリエイティブ思考やアート思考というところが人間にとっては大事なことになってくると思います。

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SalesforceのAI倫理専門家

高まるストーリーとコンテクストの価値

瀧口:「つくりたいものを新たに見つける旅」って、とてもすてきな言葉ですね。「旅」とはプロセスということを示す言葉でもあると思うのですが、AIでつくったものと人がつくったもので何が違うかを考えてみると、旅の様(さま)が想像できるのが人間がつくったものなのかな、と。AIだとそれがブラックボックスになってしまって、プロセスがわからないですよね。
人間だと、たとえば、「レイさんという人が、こういう人生を歩んできて、だからこそ、これを思い付いて世の中に出した」という、そういうストーリーとプロセスがあります。

イナモト:グッドニュースで言うと、人間がつくったものの価値が上がる可能性は充分にあると思うのです。機械がつくるものは量産されてマス化するものとして、手に入りやすくなるのはいいことだと思います。
一方で、ブランド力があるものでは、「誰が創ったのか?」「AIがつくったものなのか?」というところが重要になってきます。
先ほどのリック・ルービン氏が言っていたのは”Adventure of Discovery”というものですが、それを写真でいえば、AIが作り上げた、最終的なアプトプットとしての質はすごくいい100年前の白黒のポートレートのような写真と、100年前に実際に撮られたポートレートでそれをきれいに修復した写真とで、見かけが全く一緒の写真でも、後者の方にはストーリーがあるので価値があります。そのため、コンテクストというものが大事になってきます。

アーティストの世界では、コレクターや美術館が買う絵や彫刻などは、それが1個しかない、あるいは世界に10個しかないものを手にいれることに価値があります。

一方で難しいのが、ヒットする音楽という世界では「どれだけ沢山の人に聞いてもらえるのか?」「その音楽が人に直感的に与える歓びや気持ち」というところが大事で、「それが好き」となれば裏にあるストーリーはあまり関係ない。そのため、これは僕の憶測ですが、大半の音楽が、今後はAIによるヒット曲となってくるのかと考えています。

ヒット曲には方程式があって、たとえばいまミュージシャンがTikTokでダンスのしやすい音楽を敢えて出す、というようなことがありますが、それはダンスをしやすいパターンを見極めてつくると。

また過去の有名なミュージシャンのヒット曲をデータで分析してみると、全然違う音楽のアーティストでも似たようなパターンがあって、プロデューサーや作曲家の人たちはそれを直感的にわかっているか、理論として持っていて、それに当てはめてつくることでヒットになります。そうした人間が行う作業を、 AIは一瞬でやってしまいます。すると大半の音楽がAIでつくられるような時代が来るのかもしれません。

ただそれでもトップの1割2割の人たちは自分でつくることでしょう。なぜなら、クリエイティビティとはオーディエンスの期待を裏切って驚きを与えることで、AIやマシーンだと期待に沿ったものができるためです。

今後AIもできるようにはなるとは思いますが、今のところは、何がいいかを見極めたり、どう期待を裏切るのか?という点では人間の方が優れているのかなと思います。ただ今でもAIは充分裏切ってはきますので、「どこで驚きを与えるか?」というところの経験やアーティストのタレント、創り手の能力が、大事になってきます。

ブランディングと消費に生成AIが与える影響

瀧口:そうしたなか、ブランドの価値やブランディングと、人々の消費の仕方は、ジェネレーティブAIが出てきて、どのように変化していくとお考えですか?

イナモト:結論からいうと、ブランディングというものは終わるのではないかなということを、ひしひしと感じています。
ブランドというものはなくならないですし、ブランドの力というものは色々な意味でつくれることはあるので、例を挙げます。
先日、フォロワー数十万人レベルのファンに支持されているファッション系インフルエンサーがいて、その人が自身のセレクトによる商品でポップアップストアを2日間限定でつくったときの売上が、アメリカの大企業のアパレルブランドのフラッグシップストアのオープニングの売上とほぼ同じだった、そんな話を聞きました。
何年もかけて何千万円や何億円もかけてつくってきたブランドと、個人がInstagramやTikTokで毎日投稿してファンをつくってその人たちに刺さるプロダクトを開発して、それが売上の結果としては同じになる。大きいブランドも、個人のブランドも、対等のレベルで戦える時代になったのです。
10年前にはできなかったことが、いまはソーシャルメディアが世界的に普及したことで可能になって、さらにこの先の10年で大きく変わると思うので、個人的にはワクワクしています。

瀧口:インフルエンサーによる「共感による消費」は、すごく求心力があってエッジが立っていて、どんな層が集まっているかがわかりやすいもので、ジェネレーティブAIがつくるような商品とは対極にあるようなものにも見えます。

イナモト:共感のつくり方にもいろいろありますが、その人の創る世界観やストーリー、サービス、そうした共感を得るための手段としてジェネレーティブAIが普通にあってもいいと思います。人が共感をつくるためのツールとしてジェネレーティブAIがあるわけです。
ただ人間がAIの使い道を慎重に見極めないと、どこまでが本当で、どこから間違いかを見極められなくなる危険性もあります。
例えば、ChatGPTが質問に対して返してくる答えは、真実とはほど遠い答えを返してくることを、僕たちはあらかじめ理解しておくべきです。
インターネット上で使われている言語が英語がメインで、日本語は数%ですので、ChatGPTも英語で訊ねた場合と日本語で質問した場合とでは違う答えが返ってきます。「Who is Rei Inamoto?」とChatGPTに英語で質問を投げかけると、だいたい8~9割は正しい答えが返ってきます。ところが日本語で「レイ・イナモトって誰ですか?」と聞くと、実際には存在していない大学の研究者について、あたかも本当のことのように答えてきたりします。この辺は、現状はかなり危ないと思います。
そうした状況のなかで、どうやって「ジェネレーティブAIが使いやすく安全に普及していくか?」という最終目的地に行きやすくしてあげるか、というところが、技術でありクリエイティビティを発揮すべきポイントでしょう。

ジェネレーティブAI時代に起きる、ブランドの4つのシフト

瀧口:レイさんは従来のブランドのあり方は、今後どのように変化していくとお考えでしょう?

イナモト:ブランディング、あるいはブランドの価値について過去10年間の動向を踏まえたうえで、今後の10年を見通したときに僕は次の「4つの大きなシフト」が起きると予想しています。

  1. 「独自の機能/Unique Selling Proposition(マーケティングの古典的セオリー’USP‘)」から「独自の視点/Unique Point of View」へのシフト
    AIは独自の視点を定めたうえで活用しないと、結果として他と似たような顧客体験があふれてしまいます。企業の中でマーケティングやブランディングの仕事に携わる方々は、顧客に先鋭的な体験を提案するために「Unique Point of View」を養うことが大事だと思います。
  2. 「取引/Transaction」から「会話/Conversation」へ、コミュニケーションスタイルのシフト
    従来インターネットのようなコミュニケーションツールは取引の手段でした。ChatGPTに代表されるチャットができるAIが誕生したことで、ブランドと顧客との「会話」がより重要になると考えます。
  3. 「規模/Scale」から「速度/Speed」へのシフト
    従来は企業の価値をはかるための指標として、売上げや社員の数など「Scale」が重視されてきました。これからビジネスの要所で「Speed」を発揮できることに価値が置かれるでしょう。
  4. 「Connected」から「Intelligent」へのシフト
    様々なデジタルテクノロジーやソーシャルサービスによって築かれてきた人と人による「つながり」は、今後さらに一歩踏み込んだ「Intelligentなつながり」に深化するとみています。

この4つのシフトを、クリエイティブやマーケティングに携わっている人たちは、根底で意識しておいていただくと良いのかと思います。

瀧口:1点めのシフト、「Unique Point of View/独自の視点」からブランドの価値が新しく生まれた事例はありますか。

イナモト:パタゴニアの創業者イヴォン・シュイナード氏は、地球を大切にするという会社のビジョンと「Unique Point of View」を守るために、環境保護に注力する非営利団体を創設しパタゴニアの株主とすることで、自社の株主が「地球」であることを2022年に宣言しました。
これは「プロダクトの機能がいいから買ってください」というメッセージをブランドが発するのではなく、「地球を守りたいという思想に共感してくれたらプロダクトを買ってください」という、独自の視点「Unique Point of View」をパタゴニアは提示しているのです。

瀧口:4点めのシフトについて、ただつながるだけの状態ではなく「Intelligentなつながり」を持つことの違いをより詳しくご説明いただけますか?

イナモト:従来、ブランドと顧客とのつながりは「Transaction」として効率化が求められてきました。今後は一人ひとりの顧客との関係に「深さ」が求められるようになります。その際にジェネレーティブAIによる会話を通して、一人一人の顧客の世界観や生活の背景などをブランド側が把握しやすくなります。

なぜ「Intelligent」という言葉を使っているかと言えば、そのつながりをつくるところの手段としてAIが活用できると思っているからです。今までは単純に検索をするような「Transaction」が、ジェネレーティブAIを活用する「Conversation」にシフトすると、「Intelligentなつながり」が生まれるきっかけにもなります。

顧客からみると、ブランド側がIntelligentな深みをもって対応してくれることで、「ここのブランドは私のことをわかってくれるから、また何かを買いたくなる」という行動が生まれてくるのです。

「クリエイティビティの終焉」の時代へ

イナモト:今から10年前の2013年に僕は「広告の終焉」という記事を発表し、そのとき言っていたことがこの10年で現実になりました。
いまAIがかなり普及してきて、ブランドのあり方やブランディングの仕方が変わっていく一方で、もうひとつ考えているのが、「クリエイティビティというものが終焉する」ということです。
今までのクリエイティブという人たちやクリエイターたちは、「つくる」というところが凄いから認められているのですが、これからは誰もがクリエイターになれるのだから、今までのクリエイティビティというものが終焉すると。
先ほどの「アーティストとは新しい発見を求める旅人」という考え方に戻ると、今までは技術があって初めてアーティストになれたのが、これからは「旅人」になれさえすればアーティストになれる、つまりアーティストになることのハードルは下がってくると思います。
日本に限った話ですが、僕の父親は飛騨で家具の木工職人で、そうした日本の職人文化などリアルのものには、デジタルとは別の可能性があると思います。
現代アートの歴史を振り返っても、アンディ・ウォーホルやジェフ・クーンズは、自らの手で絵画や彫刻をつくる「職人」ではなく、スタッフに指示を出して「発注」するスタイルのアーティストです。彼らのそうした手法はアートシーンで批判されていたこともありますが、その作品はアートとして成立しています。
従来は技術の習得を必要としてきたものが、これからはジェネレーティブAIに任せれば誰でもアートを生み出せる時代が来ました。ただ、やはり全員が同じ方に向いてしまうと創作されるものもまた似通ってしまいます。あらためて「Unique Point of View」が大事ということなのです。
ビジネスの世界でも同様に、たとえばセールスフォースのツールはすごく普及していて、物事を効率化するために、僕たちがお付き合いする企業も沢山使っています。こうしたツールも、他のジェネレーティブAIと同じく「Unique Point of View」、ブランドの視点をハッキリとした尖ったものを使う側が持っていなければ、埋もれていってしまうと思います。

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プロフィール

レイ・イナモト

I&CO 共同創業者
Creativity誌「世界の最も影響のある50人」、Forbes誌「世界広告業界最もクリエイティブな25人 」の1人に選ばれ、ニューヨークを拠点に世界で活躍するクリエイティブ・ディレクター。 東京都出身。スイスの高校に留学した後、アメリカのミシガン大学で美術とコンピューター・サイエンスを同時専攻し、好成績で卒業。1996年にタナカノリユキのもとで活動を開始。1997年からニューヨーク在住。 1999年よりアメリカの大手デジタル・エージェンシーR/GA に所属。その後2004年10月から2015年まで欧米大手デジタル・エージェンシーAKQAに所属し、ナイキ、アウディ、Xbox、グーグル等、世界を代表するブランドのデジタル戦略とクリエイティブを数多く手がける。 2010年に日本人として初めてカンヌ国際広告祭チタニウム・インテグレーテッド部門の審査員に抜擢され、2012年には「Advertising Hall of Achievement」(アメリカ広告業界40歳以下で業績をあげた人に与えられる栄誉)を受賞。2015年秋に独立を発表し、2016年にI&COを立ち上げる。2019年7月に東京オフィスを開設。

瀧口友里奈

経済キャスター 東京大学工学部アドバイザリーボード/SBI新生銀行 社外取締役/株式会社グローブエイト代表取締役
幼少期に米国に滞在。東京大学卒。在学中にセント・フォースに所属し、以来アナウンサーとして活動。「100分de名著」(NHK)、「モーニングサテライト」(テレビ東京)、「CNNサタデーナイト」(BS朝日)、経済専門チャンネル「日経CNBC」の番組メインキャスターを複数担当するなど、多数の番組でMC•キャスターを務め、ForbesJAPANエディターとして取材•記事執筆も行う。
経済分野、特にイノベーション・スタートアップ・テクノロジー領域を中心に、多くの経営者やトップランナーを取材。東京大学 公共政策大学院 修士課程に在学中。「個のエンパワーメント」「D&I」「社会のイノベーションの加速」を目指し株式会社グローブエイトを設立。

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