生成AIの普及で変化する人材育成とスキルのあり方
── リスキリングなど人材育成に、これから企業はどのように取り組んでいくべきでしょうか。
國本 知里 氏(以下、國本):職種によって、リスキリングとアップスキリングを見極めることが成功のカギです。リスキリングは将来の変化に対応するために新しいスキルを習得することですが、アップスキリングは既存のスキルをより高めて業務を効率化するために行うもの。
AIに代替される職種に従事する人にはリスキリングが有効ですが、新しくAIを活用したスキルを習得する上でも、その前提として基本的な業務スキルがあることが重要です。
一方で、アップスキリングも重要であり、既存のスキルをさらに向上させることによって、業務の効率化や品質向上が可能となります。組織において、どの職種がリスキリングを必要とし、どの職種がアップスキリングを行うべきか、これらをマッピングして明確に定義することが大切です。
木内 翔大 氏(以下、木内):AIスキルとして、「プロンプトのスキル」「専用ツールと汎用ツールを使いこなすツールの活用スキル」、応用編として「AIを組み合わせてワークフローを作る」AIマネジメント、これら3点を身に付けると、人材としての価値や生産性は上がります。
そして、それが身に付いた先には「マルチスキル」が手に入ることになる。つまり、生成AIツールの精度が近い将来に8割程度まで上がってくると、「すべてのAI専用ツールを使えること」と「すべてのスキルを持つこと」がやがて同義になってくる。
そうすると、人間がリスキリングに多くの時間を費やすよりも、AIスキルを身につけてAIを使いこなせるようになる方が、結果として生産性が高くなってきます。
そう考えると、専門的なツールが担う技術的なハードスキルの重要性が薄まってくる一方で、きちんとした論理的思考でAIを使いこなせるような「ソフトスキル」と、自分にそもそも何が必要なのかを見極めていくような「メタスキル」の2つが重要になってきます。
開発者たちと話をしていたとき、たとえばプロンプトエンジニアリングも、論理的に欠如のないプロンプトを考えるロジカルライティングのような、ソフトスキルの上に成り立っています。
また、人間としてのコミュニケーションもますます重要になっていくので、今後はソフトスキルやメタスキルという人間の本質に回帰していく流れになっていくことでしょう。
セールスやマーケティングでどう活用していくか
── エンジニア以外の分野で、セールスや顧客マネジメント、マーケティングの領域では生成AIにどう向き合っていけばよいのでしょうか。
木内:営業の現場では生成AIの浸透率はとても低く、10%以下とも言われていますね。現在の生成AIでは、商談を分析して顧客に刺さる提案書を丸投げして作れるほどの精度はないですが、営業の新人教育には充分にパワーを発揮できます。
新人を育成する際のロールプレイングや、反対処理のような対話をAIに行わせてそれに対処していくトレーニングを生成AIで設計することもできます。また、市場調査や競合分析にもAIを活用できますし、メールなど文章の作成を効率化することもできます。こうした色々な使い方があるので、今後活用シーンは広がってくると思います。
マーケティング領域では、昨年の夏頃の段階で、グローバルでCMOの7割が生成AIを使っているというデータもありましたので、早くから活用が進んでいます。
日本でもサイバーエージェントのような先進的な企業、そして大手の一部では導入が進んでいます。ただ大手でもメディア企業などではあまり活用が進んでいないようですね。文章生成、画像生成で活用できるので、生成AIと相性はいいはずなのですが。
國本:私自身も長い間セールスの仕事をしてきましたが、セールスでのAI活用は非常に難しいと感じてきました。なぜならば、セールスではお客様と会話をすることが業務の重要な部分を占めていて、非構造データを扱うことが多いためです。
ただ、今までは非構造データを構造化することは難しい課題でしたが、生成AI技術の進化により、非構造データから要点を抽出したり、要約を行ったりすることが可能になりました。
さらに、音声データをテキストに変換する技術も精度が向上しています。これらの技術の進化により、セールスプロセス自体に変革が起きつつあり、音声入力が自動的にデータ化され、CRMシステムに自動的に組み込まれるような時代が近づいていると感じています。
また、AIエージェントが顧客対応するような時代も始まってきています。私自身、最先端のテックを駆使していることで有名なNOT A HOTELに宿泊した際にも、AIとはわからない人間のようなカスタマーサポートがAIで運用されているのが印象的でした。
今は動画生成AIの進化も早いので、誰でもできる営業のようなものはAIエージェントにリプレイスされていくことでしょう。そうすると、逆に人間にしかできないコンプレックスな営業の領域には、大きな価値が生まれてくるはずです。
Salesforce の AI 、Einstein (アインシュタイン) ってなんだ?
Salesforce の AI である Einstein とは何かについて解説します。実際の製品デモ動画を通じて、Einstein がビジネスのためのAIとしてChatGPTと何が違うのかも説明しています。
──セールス部門は重要度が高く規模も大きいことが多いので、生成AI導入をセールス改革から始めていくことは、企業全体への生成AIの浸透に向けた最善の策とも考えられますね。
木内:生成AI導入がインパクトに繋がることが証明できるかどうか、営業成績や成約への寄与率をどう測るのか、という点が課題です。PDCAサイクルもデジタルマーケティングなどに比べて非常に長かったりもするので、寄与率の判定がより難しくなっている事情がありますね。
國本:生成AI導入の推進担当者が社内で報告する際によくあるのが「ROIはどうなのか?」という議論ですが、そもそも生成AIのROIを可視化することはとても難しいのですよね。
それがたとえば営業なら、現場スタッフがCRMツールに入力するワークフローもデータも既にありますし、セールスプロセスにおいて個々人とAIの貢献度合いを測定できるようになってくると、人的資本経営の観点からも意義が大きいと考えています。
木内:AIのツールでは、AIが生成したもののパーセンテージをダッシュボードでモニターし管理することもできるようになってきているので、「生成AIがどこまで業務効率化に貢献したか?」ということも、ある程度までは判別できてくると思います。
──営業の業務の7割が本来のセールス活動に関係のない間接業務だというような話もあります。
國本:それは日米の間で大きな格差がある課題です。私たちの生成AI導入のプロジェクトでも「営業スタッフがお客様と向き合う時間を増やす」ということを、主軸のテーマとしていますね。
生成AIの利用に求められるセキュリティとは
──今後、 生成AIを企業が利用する上で気を付けるべきポイントはどのようなものになりますか。
木内:AIモデルやデータの利用に関しては、いくつか重要なポイントがあります。
まず、正確性が最も重要な要素の一つ。生成AIではハルシネーションが起きてきますので、情報の正確性を保つために、AIが生成したコンテンツやデータをチェックするプロセスが欠かせません。
これはAIに限らず、開発やマーケティングなどの領域でも一般的なプロセスですが、人間がチェックする、あるいはAIにチェックさせる、そうした形で責任を持って生成物を正確なものとしてリリースしていくこと。
そして画像生成の場合では、著作権の問題が出てくるので、著作権がクリアランスされているものを使うということ。モデルの開発でも著作権を意識した上で、データ入手の戦略が必要になってきます。
次に、プログラム開発では、著作権だけでなく、ライセンスの問題も重要です。オープンソースの情報が混入してしまったり、社員がオープンソースのコードを流用することで、自社製品が自動的にGPLライセンスになってしまったりするリスクが存在します。
そうした問題への対応策として、大企業が提供する信頼性の高いツールを使っていくことで、野良でGPTを叩いたりググって野良のものを引っ張って使うよりも、安全性が保たれるということです。
まとめると、「正確性」「著作権」「ライセンス」この3点に留意することですね。
國本:それに付け加えていうと、「倫理」もとても大事です。生成AIはAIにどんな指令を出せるため、倫理的にNGなものも出せるようになってしまう。当然、そうしたものをフィルタリングする対応も企業にとっては重要です。
同時に、生成AIが出力したコンテンツをどのように扱うかも重要で、たとえば性的なコンテンツなども簡単に生成されてしまうため、倫理性の観点から、アウトプットの取り扱い方を考える必要があります。
さらに、AIモデルに投入されるデータに、バイアスが含まれていることがあります。データを提供する側、モデルを提供する側が、そこのバイアスをなくしていくことが必要です。
私自身「Women AI Initiative」という女性のAIリーダーコミュニティを主宰しているのですが、現在もやはり男性社会ですし、過去のデータも男性メインなので、そこに女性目線での気づきを与えていけるよう、AIを開発する組織への啓蒙や、AIを使う側のリテラシーを上げる活動を展開しているところです。
(取材・執筆:池上雄太、撮影:小澤健祐、編集:木村剛士)
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