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【SFUG CUP 2024 ファイナリスト】「仕掛学」を生かしたSalesforce浸透術。自発的に学び合う文化の作り方

「SFUG CUP 2024」のファイナリストを紹介する連載シリーズ。今回は、「仕掛学とCoEで生まれた自発的学習文化」を醸成した株式会社Hakuhodo DY ONEの取り組みをプレゼンテーターのインタビューで解説します。

株式会社Hakuhodo DY ONEの成功事例:仕掛学とCoEで生まれた自発的学習文化

Salesforceを導入している企業の中には、部門ごとに利用のばらつきが生まれたり、推進者のSalesforceスキル習得に課題を感じている方も多いのではないでしょうか?全社的な定着とスキルアップが進まず、どうすれば効果的な活用ができるか悩んでいるユーザーも少なくありません。

株式会社Hakuhodo DY ONEでは、Center of Excellence(CoE)による推進体制と、仕掛学の知見を活かした工夫により1年間で100人以上のSalesforce資格取得者を生み出すという成果を達成しました。

組織全体がSalesforceを自発的に学び、活用する文化を築くための取り組みについて、TXソリューション本部 ナレッジマネジメント部 部長 廣本 嶺さんに伺いました。

組織を動かすSalesforce CoEの取り組み

〜1年間で100人以上の資格取得者を生み出すことができた理由〜

知識が不十分な中、CoEリーダーを任されて

──SFUG CUP ではMarketing Cloudの資格取得を促進するためのCoEの事例を話していただきましたが、Hakuhodo DY ONEではどのような目的でMarketing Cloudを導入したのか、改めて教えてください。

廣本:私の所属するTXソリューション本部は、お客さまにBI(ビジネス・インテリジェンス)やCDP(カスタマー・データ・プラットフォーム)の導入や活用を支援するのがミッションです。コンサルから開発、導入後のサポートまでを一気通貫で行っています。

Marketing Cloudは、我々が提供するBIやCDPとの親和性が高く、お客さまのニーズにも合致しているため、導入を行いました。

一方で、こうしたソリューションは自社内で活用することも重要だと考えています。社内での活用が浸透し、我々の本部以外の部門からも認知されることで、より幅広いお客さまに提案できるようになるので。

弊社社長(現会長)からの後押しもあり、Marketing Cloudの社内認知を高めるための最初の一歩として、CoEを設置し、Marketing Cloudの資格取得者100人を目指すことになりました。


廣本 嶺 氏
株式会社Hakuhodo DY ONE
TXソリューション本部
ナレッジマネジメント部 部長

2016年、株式会社博報堂DYデジタル(現:株式会社Hakuhodo DY ONE)入社。BI構築業務を行いながらナレッジマネジメトを実践。人材育成の仕組みづくりやナレッジを共有する組織風土の醸成に向けた取り組みを行う。2024年度より株式会社Hakuhodo DY ONE TXソリューション本部ナレッジマネジメント部の部長を担当。

──CoEのリーダーを任されることになって、どんな心境でしたか。

当時、まだまだMarketing Cloudの知識があまりなかったため、そんな人がプロジェクトをリードしてもついてきてくれないんじゃないかと、率直に言って不安でした。100人という目標も本当に達成できるのか、あまり自信はなかったです。

──資格の取得など、 Salesforceを社内に浸透させるための取り組みはトップのコミットメントやリーダーシップが大切と頻繁に耳にしますが、貴社もリーダーの強力な推進力があったのですね。さらに力強く推進するために、廣本さんから社長に対して働きかけたことはありましたか。

私から社長に対して、定期的に資格取得の進捗や取り組み内容の報告を行いました。また Salesforceのイベントに一緒に参加してもらうことで、“Salesforce熱”を高めてもらえたのではないかと思っています。

社長自らも、方針の発表や社内ブログへの寄稿などを通して資格取得の意義を発信していただきました。そうした社長自身の行動も、社員の士気を高める刺激になったと思います。

──そもそも、CoEを設置する方法をとった狙いは何だったのでしょうか。

トップのリーダーシップはとても重要ですが、それだけだと意図が伝わりきらなかったり、サポートが不十分だったりすると考えました。

今回作ったCoEは、正式な組織図に載っている部門ではなく、さまざまな部門に所属するメンバーが兼務で参画するバーチャル組織です。CoEは所属が異なるメンバーが集まり、各自がそれぞれの部門で推進することで組織全体への浸透を早めることと、きめ細かいサポートができることが利点だと考えました。

最初は私ともう1人で、まずは自分が所属するTXソリューション本部内での資格取得を推進。ある程度の取得者になって全社的な動きにしようとした時には、資格取得済みで入社2、3年目の若手に加わってもらいました。

──他部署の人をCoEに巻き込むにあたり、上司の了承を得るのは大変ではありませんでしたか。

私たちの本部内である程度合格者が出てきて、うまく回りそうだという根拠があったタイミングで巻き込み始めたことと、トップのリーダーシップでこの取り組みの意義は理解してくださっていたのでそれほど大変ではありませんでした。ただ、CoEの活動が通常の業務の支障にならないように、進め方やルールをある程度決めた上でお願いするように心がけました。

お手本は北風と太陽。仕掛学が生きた「みんなで学び合う風土」作り

──少し話はかわりますが 、自己紹介で学生時代は「仕掛学」を学んだというエピソードをお話しされていました。プレゼン視聴者からのアンケートでは「仕掛学の本を読みました」という回答もありましたし、みなさん興味を持ったようです。

触れていただいて、ありがとうございます(笑)。大学でどのゼミに入ろうかと悩んでいた時に出会ったのが、人を動かす仕掛けについて学ぶ仕掛学でした。

仕掛学は、ルールなどによって無理やり人の行動を変えるのではなく、仕掛けを用いた新しい選択肢を与えることで、自発的な行動を促すという考え方です。

「報酬を払うから○○してください」「ルールを決めたのでそのとおりに行動してください」といった方法ではなくて、新しいアイデアで人を動かす方法を考え、それで人が動き結果が生まれるところが面白いのです。「北風と太陽」に出てくる太陽のようなやり方ですね。

「こんなことを投稿していいのか」「バカだと思われないだろうか」からの解放

──資格取得の取り組みでも仕掛学のエッセンスを盛り込まれたそうですね。

今回の取り組みで仕掛学が生きたのは、自分が得た経験を他の人にシェアしながらみんなで協力していく雰囲気をつくることによって、自主的に勉強するようにしたことです。

トップダウンだけで資格を取るように命じたり、進んでいない人をさらし上げたりするよりも、このほうが結果的に多くの人を動かせると考えたのは、仕掛学の経験があったからでしょう。

また、以前の経験も発想を後押ししました。私は元々BIの開発部署にいたのですが、そのときにTableauの社内コミュニティを作成しました。コミュニティに投稿する意義やメリットについてメンバーに何度も伝えてみたのですが、それでもなかなか投稿されない状態が続きました。

そんな日々の中、ある日ふと、もしかするとこれは「こんなことを投稿していいのか」「バカだと思われないだろうか」という抵抗感が原因なのかもしれないと思いました。そこで、誰もリアクションしてくれなくても、私自身がまずは投稿しまくることにしたんですね。業務に役立つTipsはもちろん、初心者がつまづきやすいポイント、マニアックなナレッジ、必ずしも業務と直結しない好奇心で試した結果など、様々な内容・レベル感の投稿を行いました。

最初の50投稿のうち47投稿は私です(苦笑)。それでも地道に続けていると直接質問やリアクションが来るようなったので、「口頭ではなくてコミュニティで投稿して」と誘導。

他には研修プログラムの合格条件にコミュニティでの投稿を加えるなどしました。まずは自分でやってみせることで徐々に信頼されるようになり、自然と周りの人もそれについてきてくれるようになったのかなと思います。

人を無理やり動かそうとするのではなく、行動を促す。仕掛学の考え方を活かせたのかなと思います。

だから今回、Salesforceの資格でもまずは自分が受験して、その経験を発信したりコンテンツをつくったりしよう。そしてそれをフックにコミュニティを盛り上げていこうという発想に至りました。

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他部署の「盛り上げ仲間」の協力で軌道に乗ったコミュニティ活動

──今回も、最初のうちは投稿があまり盛り上がらなかったようですね。

そうですね。私が既に資格取得を終えていたので、進捗を見せようにも見せられなくて、基本的に事務局からの一方的な情報発信のみだったのです。

また、会社全体でSalesforceを知ってもらうのも目的だったので対象者が広く、一部のメンバーや部署からはネガティブな反応もありました。

そこで今回は、裏で個別に声をかけて一緒に盛り上げる仲間を作り、コミュニティを軌道に乗せました。親しい人、特に同じTXソリューション本部でお客さまにサービス提供する役割を持つ人に声をかけ、本当は知っていることでもあえて質問する投稿や、投稿へのリアクションをしてもらったりしました。興味を持って自主的に勉強している人の活動を見せることで自然とコミュニティが活性化していきました。

やがて合格報告の投稿が増えてくると、身近な人の名前を目にすることも多くなるので、受験に前向きになるなど相乗効果も表れてきます。

「やってるだけでプラス」孤独でも地道にやり抜くためのモチベーションの保ち方

──SFUG CUPの準備は大変だったと思いますが、誰に何を伝えたくて応募していただけたのでしょうか。

あまり業務に関係ない人たちも巻き込んで資格取得を推進するのは大変で、その苦労と、100人以上の成果をいろんな人に知ってもらいたい気持ちがありました。また今回、それぞれの業務で忙しい中、70%以上の人が受験をしてくれたので、その人たちの貢献をしっかりアピールしたいという気持ちもありました。

──ファイナリストになったことで、その気持ちも広く共有されたのではないでしょうか。今回ご紹介のあった成果に続いて、今後どのような取り組みを予定していますか。

資格取得のモチベーションが高まるようにさまざまな工夫を探求していきたいですね。Marketing Cloudから受験者の状況に応じたメッセージ配信を行ったり、Slackを活用したコミュニケーションを活性化させたりしていきたいです。

──資格取得以外では、Data Cloudによるデータの一元管理や、AIを用いた営業活動を展望しているとのことでした。

今回、資格取得の取り組みを通じて社内の多くの人にSalesforceのことを知ってもらうことができ、さまざまな部署から案件の相談がくるようになりました。

今後は社内でのSalesforce活用をさらに推進していきたいと思っています。Data Cloudで散らばったグループ内のデータを一元管理。そしてAIを活用しながら、Sales Cloudによる営業活動の分析やMarketing Cloudによる社内リード獲得を行っていきたいと思います。

【3分動画】SalesforceのData Cloudとは?

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──最後にこの記事を読んでいる管理者や推進者の方にメッセージをお願いします。なかなか動いてくれない人もいる中で廣本さんはどのような気持ちで地道にやり抜いたのでしょうか。

あまり周りから反応がなくても、少なくとも自分自身のスキルアップや経験にはつながっているのだと思うことでモチベーションを保てます。

うまくいかなくても落ち込むことは決してありません。予想と反した結果も新しい発見なのだという探究心を持てれば面白い。成果が出るかどうかは置いておいて、やっているだけで自分の経験になっていて自信を持っていい。私はそう思っています。

──すべての推進者の方に「自分の力になっている」「やっているだけでプラス」と伝えたいと思いました。廣本さん、本日はありがとうございました。

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