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関西企業特集Vol.3 DXのヒント:成長企業のつくり方 – 空き駐車場や個人宅の車庫を手軽に一時利用できる シェアリングサービスの草分けとして

関西企業特集Vol.3: DXのヒント:成長企業のつくり方 <br>空き駐車場や個人宅の車庫を 手軽に一時利用できる シェアリングサービスの草分けとして

デジタルは、全世界に等しく情報を提供し、すべての人々が情報を発信できるプラットフォームです。そのため、デジタルを軸に魅力的なサービスを展開すれば、オフィスを構える物理的な場所がどこであっても、ユーザーはついてきます。このシリーズでは、首都圏に本社を置かないデジタル成長企業を紹介します。

デジタルは、全世界に等しく情報を提供し、すべての人々が情報を発信できるプラットフォームです。そのため、デジタルを軸に魅力的なサービスを展開すれば、オフィスを構える物理的な場所がどこであっても、ユーザーはついてきます。このシリーズでは、首都圏に本社を置かないデジタル成長企業を紹介します。第3回目となる今回は、akippa株式会社の創業者、金谷 元気氏に登場いただきます。akippa(あきっぱ)は、未契約の月極駐車場や個人宅の車庫、空き地などのスペースを短期利用の駐車場としてシェアできるサービスを提供する企業です。

現在の立ち位置:210万人の会員、全国に4万2000か所の駐車場

累計登録会員数は210万人を突破し、全国にある累計4万2000か所の駐車場をシェアできる規模になりました。世の中の困りごとを解決したいという思いを持って立ち上げたサービスで、交通の課題に対して世の中を良くできた実感があります。中でも、いくつかのプロスポーツチームとの提携では、交通混雑や迷惑駐車の解消という目に見える成果を得られました。akippaでオフィシャル駐車場を事前予約制にすることで、来場者はスタジアムへ向かう前に駐車場が満車かどうかわかります。来場者のストレスを軽減し、近隣住民の方にも喜んでいただくことができました。

おかげさまで提携先も増えて、J-リーグの8チームと提携しています。この分野はコロナ禍による入場人数の制限があり、いまはコロナ後により良くしていくための種まきの時期です。一方、サービス利用全体で見ると、前年の四半期比では成長しています。これは、通勤・通学利用において、会社や学校の近くにある駐車場のニーズが高まっているためです。“車はオワコンだ”と言われることもありますが、全くそんなことはありません。車は、プライベート空間です。好きな音楽をかけながら移動する満足感などQoLを高める存在として見直されていますし、レンタル市場も伸びています。akippaは、自家用車だけではなくレンタカーの駐車場予約でもご利用いただけます。2022年に会員数1000万人を目指して、サービスのさらなる充実を図っています。

サービス開始に至るまでサービス開始に至るまで:電気のように、なくてはならない存在へ

会社を設立したのは2009年です。携帯電話の法人契約を売り込む代理店としてスタートしました。しばらくは順調だったのですが、あるとき、数字だけを見てビジネスをしていることに気がつきました。お客様のことを考えず、売ることだけに注力していたのです。結果、クレームは増え、業績も下がりました。ちょうどそのころ、創業時から片腕となって支えてくれた部下から、「会社には理念があるべきだ」と苦言されました。自分たちの仕事は世の中のためになっているのか、きちんと考えた上で理念を定め、その理念に基づいて仕事をすべきだと。そして、そうでなければもうついていけない、とまで言われてしまいました。その頃は資金繰りも厳しく、出張から帰ってきたら自宅の電気が止まっていて……。次の日にお金をかき集めて電気代を払いに行くと、すぐに電気がつきました。そのとき、電気ってすごいな、と感動したのです。生活になくてはならないものだ、と。

世の中になくてはならない、電気のようなサービスを作ろう。世の中のために、お客様のためになる仕事をしよう。そう考えて、全社員から“いま、生活の中で困っていること”を200個集め、壁に貼り出しました。

200個のアイデアから本格的に検討したのは3つ。1つは「ゴルコン」で、これはゴルフと合コンを組み合わせた出会いサービスでした。構想段階までいったのですが、サービス開始には至りませんでした。次に、「宅食べ」。主に独身男性をターゲットに、飲食店が賞味期限ギリギリの食材で作った料理をデリバリーするサービスです。フードロス削減という社会的意義もあり、飲食店側からは多くの賛同を頂きました。しかし、Uber Eatsもまだなかったころで、サービスを直感的に理解してもらいにくく、ことも難しいと判断しました。

紆余曲折:肌で感じた課題を解決する

利用者と飲食店、デリバリーする人の3者を集める必要がある宅食べに対して、akippaはオーナー(空き駐車場保有者)とユーザーの2者とのコミュニケーションで済みます。それでも困難な道ではあるのですが、ほかのアイデアと比較すれば何とかやれるのではないかと考え、akippaに絞りました。6人のメンバーを選抜してプロジェクトチームを立ち上げ、システムとアプリの開発は、フリーランスのエンジニアに依頼。アプリの利用イメージを記した紙芝居を見せて「これを作ってください」、と(笑)。

会社を立ち上げた頃は資金繰りが大変で、何でもやっていました。すぐに現金が稼げるアイドルのライブを開催したこともあります。それでも、「これから世界ナンバーワンを目指す」という夢だけはありました。そんなところを面白いと感じてもらえたのか、大手のベンチャーキャピタルから投資してもらうことができたのです。債務超過の会社でしたし、akippaのアイデアもまだなかったころ。どうして投資してくれたのか、いまでも不思議に感じています。

新しくakippaサービスを開始する際にも資金繰りに不安を感じていました。そこで、広報に力を注ぎました。ワールドビジネスサテライトで取り上げてもらうなどメディアの後押しを受けることができ、先行登録ユーザーを3000、駐車場を700集めてスタート。投資家も好意的で、「シェアリングエコノミーを具現するビジネスモデル」、「Airbnbの駐車場版」などと評価してもらうことができました。実は、私を含めて、社内のだれもシェアリングエコノミーという言葉も、Airbnbの存在も知らなかったのですけれど(笑)。

結果論ですが、スタートアップのコミュニティと交流しなかったことが幸いしたのかもしれません。私たちは、“大衆層”なんですよ。東京に住んでいないし、IT業界の人も知らなかった。スタートアップの多くが見せてくれるキラキラした未来や斬新なサービスではなく、肌で感じた課題を解決しようとした結果が、ちょうど時代に合ったのではないでしょうか。

近い将来の展望:MaaS領域に取り組む

会社としての理念は、「”なくてはならぬ”をつくる」ですので、変えていません。akippaも、駐車場のシェアリングという視点ではなく、「会いたい人に会えない題」や「移動にかかわる課題」を解決しようという枠組みの中でとらえています。

そのため、私たちがMaaSによって解決できる課題もあるかと思います。レンタカーとakippaをセットで提供したり、移動した先にEVの充電スポットを拡充させたり。そして過疎地域の課題解決もやりたいですね。バスが廃止され、タクシーもない地域で、移動できないという課題はすでに出てきていますし、これからも増えるでしょう。そうなると、人が体験できることが大きく減ってしまいます。人がより良い体験をできるよう、akippaというサービスを軸に、自動運転車のメーカーなど広くパートナーを募ってさまざまなサービスと組み合わせ、幅広いソリューションを提供したいと考えています。

2025年には大阪万博があり、スーパーシティ構想もテーマのひとつになっています。akippaだけで大きな注目を集めることは難しいかもしれませんが、交通の課題という、より俯瞰的な視座から世の中の困りごとを見極め、その解決策を提供できる会社へとさらに成長したいと考えています。

創業地、大阪:好きな街で働き、心を健康

本社は何度か移転しましたが、ずっと大阪です。一方、akippaは全国サービス。残念なことに、大阪を前面に出すと、駐車場への営業の際などに、「テレビに出ていたし有名なようだけれど、地方の会社がやっているサービスだから、東京に住む自分には関係ない」と見られてしまうこともあるのです。これは、実感としてありました。そこで、当初はWebサイトの東京のオフィスをあたかも本社のように記載するなど、工夫しました。

ただ、十分に名前が浸透したいまは、元に戻しています。それに、大阪に本社を置くメリットも大きいのです。中でも採用には困りません。デザイナーにしてもエンジニアにしても、Uターン希望の優秀な人を採用することができるのです。スタートアップで働くことに興味があって、東京に住んでいる人は多く、結婚したり子どもができたりすると、地元や親御さんの近くに住みたいという思いが出てくる人もいます。家賃も安いですしね。そのような優秀な人材に、数多く来てもらうことができました。

私は柏原市の出身で、大阪に愛着があります。私にとって大阪は、好きな人たちが住んでいる大好きな街です。ごはんも安くておいしい(笑)。これからakippaを大きく成長させて、世の中の困りごとをなくしていくのは、マラソンを走り続けるようなもの。メンタルヘルスを維持するためにも、この街で仕事をしていきたいと考えています。

【語り手】
akippa株式会社
代表取締役社長 CEO 金谷 元気 氏

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