4月も後半に差し掛かり、平成も残すところわずかとなりました。連載「営業現場の脱・3Kを考える」Vol.1では、いわゆる3K(勘・経験・気合い)になりやすい営業マネジメント現場のお話をしました。今回のVol.2では、営業の仕組み化をどのように進めるべきか、TORiX株式会社の代表を務める私、高橋 浩一が具体的にお話をしていきます。
このブログ読者の中でも、「プロセスマネジメント」という言葉をご存知の方は多いかと思います。
プロセスマネジメントを直訳すれば、「仕事の流れ・工程を管理する」ということになります。営業プロセスマネジメントがしっかりできていると、再現性高く成果を出しやすくなります。
ここではまず、営業プロセスマネジメントについて、5W1Hに沿った整理をしてみました。
- Why/When/Who:何のために/いつ/誰が行うか?
- What:何の指標や情報をウォッチするか?
- Where:どの画面を見るか?
- How:画面を見た後、どうやりとりするか?
例えば、営業プロセスマネジメントを行うためにSFAの導入を検討されている方が、システム導入の稟議にあたり、「これからこういった便利なシステムを導入していきたいと思います」と社内でプレゼンしたら、経営陣からは「そのシステムは何のために使うのか?」ということを問われるでしょうし、導入決定後、現場とのコミュニケーションにおいては、「具体的にどうやって使っていくのか?」を詰めていかねばなりません。
今回の記事では、プロセスマネジメントを支える5W1Hの全体感をお伝えしていきたいと思います。
1. Why/When/Who:何のために/いつ/誰が行うか?
プロセスマネジメントは、時間の単位に合わせて大きく3つの目的があります。
- 「計画策定」(年/四半期ごと):
経営上の計画を、部署やチーム、個人に対して割り振っていき、目標の形に落とし込みます。この際、達成すべき数字を単に分解して、現場に対し「さあ、この目標金額を達成してくれ!」といったコミュニケーションをするだけでは、目標の妥当性が腑に落ちないまま活動がスタートしてしまいます。過去の受注トレンドから、チャレンジングであっても現実的な目標かどうかの検証がなされたり、顧客リストを一覧して、どのお客様でどのぐらいの数字を見込むか、といった議論が必要になってくるでしょう。こういった議論の際、SFAに過去のデータがしっかりと入っていると、計画策定における目標設定の精度が上がります。また、期が終わるごとに、きちんと振り返りやレビューがされた上で次の期の目標が設定されることが望ましいです。
- 「進捗確認と介入」(月や週ごと):
策定された計画に対して、目標と実際のギャップを追いかけながら、順調に進んでいるかどうか、もし順調に進んでいないとしたら、何をどうテコ入れするのかを検討・実行していきます。これを月単位で行うか、週単位で行うかといったPDCAサイクルの尺は、扱う商材やビジネスモデルによって変わってきます。一般的には、現場のメンバーから管理職に数字や活動状況が報告され、管理職がメンバーとやり取りしながら、取りまとめた状況のサマリーが経営に報告されていき、そういった諸々の報告に対して、指示や指導が随時行われていきます。この際、SFAが効果的に活用されていると、報告の取りまとめ作業に関する負担が減ったり、コミュニケーションが円滑に進みやすくなります。
- 「活動推進」(日ごと)
日々の商談の中で、お客様に対する提案活動が行われます。メンバーが単独で遂行するのが難しい案件は、上司に対する相談や同行依頼がされ、そこで案件の状況を確認しながら上司は商談を進めるためのアドバイスや同行訪問をしていきます。また、この商談はメンバーに任せようといった案件でも、活動が順調に進んでいるかどうかモニタリングしていき、ピンチになったら助けに入る、といったことも起こります。
SFAに活動情報が蓄積されていると、過去に似たような案件でメンバーがどのようなやり取りをしていたかの情報が参考として活用できたり、ハイパフォーマーの活動から「使える」資料が共有されることで、活動の効率が上がっていきます。
2. What:何の指標や情報をウォッチするか?
KPI(Key Performance Indicator)管理と言えば、セールスフォース・ドットコムも実践する「The Model」が有名です。そもそも、なぜ、こういったKPI管理が必要になってくるのでしょうか。
受注目標に対して達成率が思わしくないと、「数字が足りないから、頑張って数字を増やすように」という指示がされがちです。しかし、「受注額が不足しているので、なんとかして増やそう」としても、もちろん受注や売上はいきなり増えません。受注を増やすためには案件を増やす必要があり、案件が増えるためには見込客が一定ボリューム存在することが必要です。見込客は、「リード」とも呼ばれますが、リードを効果的に増やしていくためにはマーケティングと営業の連携が欠かせません。
こういった状況を俯瞰して全体を眺めたり、詳細を分析していくわけですが、指標や情報をウォッチしていく際には、「比べる」観点が必要です。
- 目標や基準値と比べる:
目標に対して達成状況はどうか?という観点です。目標の受注や売上を分解したプロセスKPIに対しても、「このぐらいは数字がいっていないと目標達成は難しいよね」といった基準があります。そういった目標や基準値に対して実際とのギャップを見ていきます。
- 過去と比べる:
典型的なのは、昨年度の同じ時期と比べてどうか?という観点です。いわゆる「昨対比」と呼ばれます。過去の同時期と比較して、目立って大きい・小さい数字があれば、その原因を探っていく必要があります。
- 時系列で比べる:
月や週を並べていって、トレンドとして増えているか、減っているか?という観点です。トレンドの変化における原因を分析し、施策に役立てていきます。
- 人どうしで比べる:
あるメンバーが高いパフォーマンスを発揮しているのに、成果を挙げられていないメンバーがいるとしたら、その違いはどこにあるのか?というのを探っていきます。
3. Where:どの画面を見るか?
実は、「目標に対してうまく進捗していないときに、画面をどう見たらいいか」が曖昧なままSFAが導入されている営業現場が少なくありません。というのは、SFA導入説明会では、「SFAでこんなことができる」といった機能説明や、「情報を入れるのにはこういった操作が必要」といった操作説明がほとんどだからです。
しかし、営業現場でプロセスマネジメントが効果的に機能するためには、「画面をどう見ていくか」が鍵になると私は考えています。
詳細は、また次回以降の記事で書きますが、SFAに入っている情報を、画面のカテゴリで分類すると下記のようになります。
A. 売上集計や着地見込/パイプライン管理:
現時点で、売上や受注が目標に対してどのぐらい積み上がっているか、このままいくと目標は達成できそうかを見るもの
B. プロセスのKPI:
売上や受注に至るプロセスを要素分解した数字について、色々な観点から比較がされているもの。工程としての営業活動が順調かどうかを一覧化したものは「ダッシュボード」とも呼ばれる
C. 顧客リスト:
お客様の基本情報(企業、責任者、担当者に関するプロファイルなど)が格納されているもの。お客様に対する取引経緯や商品・サービスの提案状況、過去の活動概要などもここから参照できる
D. 案件/商談リスト:
受注や売上につながる案件/商談の一覧およびその詳細。いわゆるBANTCH(予算・決裁者・ニーズ・決定時期・競合・社内体制)情報や、それに類する情報がある
E. 活動履歴:
顧客リストや案件/商談リストの中にある、一つ一つの活動履歴及びその詳細。どんな会話のやり取りをしたか、どんな情報をヒアリングしたか、自社からどんな紹介をしたかなど
F. ナレッジ:
活動において得られた情報や、提案活動に使用したファイルなど。これが、提案テンプレートやメールテンプレートなどの形で、「他のメンバーがすぐに使える」状態になっていると便利
まず、画面は、「A.売上集計や着地見込」が頻繁に参照されるでしょう。そして、もし数字が思わしく進捗していないときは、「B.プロセスのKPI」を見て原因を探っていったり、「C.顧客リスト」を見てアプローチ漏れや提案漏れを探したり、「D.案件/商談リスト」を見て受注に必要な介入を検討する、といった流れになります。
マネジャーがメンバーに対して効果的な介入をするためには、「E.活動履歴」に必要な情報が入っていなければなりません。そして、活動履歴を見ていくと、他の案件でも同じような箇所で行き詰まっていたり、この資料があればスムーズに進むなというポイントがあります。そんなとき、メンバーが活用できる「F.ナレッジ」が、わかりやすく探せる状態になっていると望ましいです。
私が以前見学させて頂いた、メンバーの活動生産性が高い営業組織では、新人営業マンがいちばん使っているSFAの機能は「検索」でした。
4. How:画面を見た後、どうやりとりするか?
画面を見ていった後、「コミュニケーションのやり取り」が発生します。ここでは、大きく、「タテのやり取り」と「ヨコのやり取り」があります。タテのやり取りは、いわゆる報告や相談に対して指示やアドバイスがされるもの、ヨコのやり取りは、メンバーどうしの共有やディスカッションです。
SFAが効果的に活用されていると、タテのやり取りが行われる際に、SFAの画面を見ながらのコミュニケーションがメインになります。要は、マネジャーの頭のなかにある経験や勘によるものではなく、入力されている具体的な事実情報をもとにした指導が行われやすくなるということです。
また、活用が進んだチームでは、「私の担当している商談でいまこういう情報が必要なんですが、どなたかご存知ですか?」といった全体への投げかけに対して、「それだったら●●さんが似たような案件を担当していたよね」といった協力がスムーズに行われます。
今回のVol.2では、営業プロセスマネジメントの5W1Hを整理しました。
プロセスマネジメントは、時間の単位に合わせて
- 計画策定
- 進捗確認と介入
- 活動推進
大きく3つの目的があると申し上げました。 次回のVol.3では、この3つそれぞれの考え方をさらに深く解説していきたいと思います。
TORiX高橋連載 営業現場の脱・3Kを考える 〜いまさら聞けないKPIマネジメント〜
Vol.1 – 3Kはなぜ起こるのか?
Vol.2 – 仕組み化を支えるプロセスマネジメントの5W1H
Vol.3 – 目標達成につなげるための計画策定とは?
Vol.4 – 予実のギャップに対するマネージャーの適切な介入とは?
Vol.5 – 日々の商談や活動を前に進める指導とは?
Vol.6 – 成果が上がる営業会議はどこが違うのか?
Vol.7 – データをもとにした効果的な人材育成とは?