AIエージェントのような新しく革新的なテクノロジーに困惑することは、当然です。本当に価値があるのか。何ができて何ができないのか。過大評価されたボットにすぎないのではないのか。
AIエージェントに限らず、新しいテクノロジーが登場した時は誤解も生まれます。間違った理解を解消することは、エージェントAI活用の成功につながります。本記事では、AIエージェントに関する5つの誤解を紐解いていきます。
Agentforce
あらゆる役割やワークフロー、業界にわたって自律型AIエージェントが業務を変革します。
目次
誤解その1:AIエージェントは過大評価されたチャットボットにすぎない
複雑さと機能の点でチャットボットとエージェントは根本的に異なります。ボットはデータを取得し質問に応答することが目的ですが、エージェントは行動します。
ボットは、あらかじめ定義されたルールとスクリプト化された応答を使用して質問に答え、そこから逸脱することはありません。例えば、カスタマーサポートでは「私の商品は今どこですか」「返品ポリシーは何ですか」といった頻繁な質問に使われています。
これがボットの限界です。ボットは複雑な文脈を理解できず、問題をクリエイティブに解決できませんし、自己学習をしないので時間が経っても賢くなりません。会社のポリシーに変更が入るたびに、手動で変更が必要です。データを取得し、定型的で予測可能な質問に応答するようにプログラムされているためです。ボットの能力はここまでです。
一方、AIエージェントは、シンプルなQ&Aを超越した機能を持ちます。完全な自律型AIエージェントは、人間が直接介入することなく、複雑な多段階のタスクを実行できます。半自律的なエージェントは、ある程度の作業は自動化されていますが、特定の判断や指示が必要なタスクでは人間が介入し最終的な判断をします。
AIエージェントはチャットボットとは異なり、膨大な量のデータを処理し、意思決定を行い、環境から学習し、ワークフローを管理してプロセスを最適化し、戦略的な提案を行うことができます。AIエージェントには、強化学習や意思決定アルゴリズムなど、より高度なテクノロジーが組み込まれていることが多く、プロアクティブに行動し、状況の変化に適応できます。
例えば、ボットは単に販売データを分析するだけにとどまるのに対し、AIエージェントは分析した後に、それを利用して在庫レベルの調整やマーケティング戦略の更新、サプライヤーとのコミュニケーションを行うことができます。
誤解その2:AIエージェントは予測不可能で制御不能
自律型AIエージェントというと『2001年宇宙の旅』や『ターミネーター』のような、AIシステムが暴走して悲惨な結果をもたらす映画を思い起こすかもしれません。
しかし、実際には今日の最も効果的なAIエージェントは、エラーやハルシネーションを防ぐための洗練されたツールや技術を使用しており、安全性と信頼性を担保しています。
その中核技術が、ユーザーが行おうとしていることに基づいて行動プランを生成する推論エンジンです。推論エンジンは、CRMや他のシステムからデータを抽出し、プランを評価・改良します。要求に基づいて、どのビジネスプロセスを使うべきかを決定し、それが正しくなるまでプロセスを繰り返し、そのたびに賢くなっていきます。
要求されたタスクが組織によって設定されたガードレール(ユーザー権限を含む)から外れていると思われる場合、推論エンジンはチェックし、自動的に人間を呼び出して監視します。
「AIエージェントが正確に行動し、何が許可されないのかを理解できるように支援することは複雑な作業です。しかし、推論エンジンはAIが行動する前にアプローチを計画し評価することを支援します。また、AIが行動を起こすのに適切なスキルと情報を持っているかどうかも判断します」とSalesforceのソリューションエンジニアリングマネージャーであるKrishna Gandikotaは述べています。
この意思決定プロセスは、AIエージェントがそのやり取りや経験から継続的に学習し、時間をかけて対応を洗練・改善する能力によって強化されるとGandikotaは続けます。
最も効果的なAIエージェントは、コンテキストを認識しその情報に基づいて柔軟に行動します。
これを行うための方法のひとつに、検索拡張生成(RAG)と呼ばれる技術があり、使用する最適な情報を見つけ、それに基づいて新しい応答を作成します。もうひとつは、セマンティック検索と呼ばれるコンテキストを考慮した検索で、タスクに必要な最新の関連データを表示します。
Agentforceは、これらの技術を組み込んだData Cloudを使用しています。さらに正確な結果を得るために、Data Cloudはゼロコピー技術を使用しており、AIエージェントはあらゆるデータソースから取り込まれたデータを別の場所に移動したり、コピーや変更を加えることなく、リアルタイムでデータにアクセスできます。
【3分動画】SalesforceのData Cloud – ゼロコピー編
ゼロコピーなら、プラットフォーム間でデータを移動・複製することもなく、リアルタイムにデータを簡単に接続して使用できます。Data Cloudがもたらすこれからの企業データ活用のあり方をご覧ください。
誤解その3:AIエージェントのセットアップは複雑+時間と費用がかかる
AIエージェントのようなインパクトのあるテクノロジーは、複雑な開発と統合に何か月もかかり、費用が高額になると思うかもしれません。
しかし、生成AIと大規模言語モデル(LLM)を搭載したAIエージェントは、AIエージェントが処理するように設計された関心分野であるトピックと、AIエージェントが実行するタスクであるアクションを事前に構築しておけば、数分でセットアップが完了します。
カスタマーサービスやコマース、セールスコーチングなど、すぐに使えるAIエージェントはすでにあります。ただし、カスタマイズ可能なAIエージェントを素早く構築するためのローコードオプションもあります。自然言語処理(NLP)を使用すると、それを記述できれば、カスタムエージェントを構築できます。
「Agent Builder」のようなツールは、エージェントが安全に仕事をするためのガードレールを自動で提案します。
AIエージェントにやってもらいたい仕事のNLPディスクリプションを使うことで、Agent Builderはアプリのメタデータの中から関連リソースを見つけます。これにより、ビジネスがどのように機能しているかを認識し、仕事を完了するために最適な知識とアクションを自動的に提案します。
Gandikotaは言います。「洗練された機能はすべて、すでにプラットフォーム内にあります。Einstein Trust Layer、推論エンジン、ベクトルデータベース(RAGとセマンティック検索用)は、すべて自動的に機能します。最も信頼できるオープンな方法ですべてを統合するプラットフォームで、エージェントの軍隊を構築できます」
誤解その4:AIエージェントは常に完全に自律的
AIエージェントは、常に100%自律的なわけではありません。AIエージェントの自律レベルは、その目的やタスクの複雑さによって異なります。しかし、AIエージェントは人間と協同して、顧客の成功とビジネス成果の向上を促進する場合に最も効果的です。
半自律的な状況では、エージェントは通常、意思決定するために人間の介入を必要とします。例えば、金融サービスにおけるAIエージェントは、顧客のポートフォリオを分析し、それを最適化する方法をポートフォリオマネジャーに提案します。
医療や保健、輸送、医薬品など、安全性が最優先される規制の厳しい業界では、AIエージェントは常に人間に監視された状況下で自律的にタスクをこなします。
完全な自律型エージェントは、人間の介入なしにタスクを実行します。データの取得や分析、決定、適応および行動を独自に実行します。しかし、このようなAIエージェントでも、人間が事前に設定したガードレール内で動作します。
「AIエージェントは行動を実行する際、常に完全に自動化される必要はありませんが、リクエストを理解し、自分たちだけでアクションを起こせるかどうかを判断し、必要に応じて人間の介入を要求します」(Gandikota)
誤解その5:AIエージェントは真のビジネス価値をもたらさない
GPTベースのAIを一般的な汎用タスクに使用している多くの組織は、期待した生産性向上やビジネス価値を得ることができていません(英語)。
AIエージェントは違います。セールスリードの育成、キャンペーンアイデアのブレインストーミング、サービスコールの取り次ぎなど、目的に応じて構築されたAIエージェントはひとつの特定の仕事に集中し、それをうまくこなします。
最も優れている点は、あなたに代わって行動することです。特定の問題を解決するために設計されたこれらの目的別AIエージェントは、ビジネスニーズに対応していないAIよりもはるかに有望です。事実、大企業の82%は2027年までにAIエージェントの導入を計画しています(英語)。
教育系出版社のWileyは、AIエージェントを導入して以来、サポート案件の解決数が40%以上増加し、これまで使っていたチャットボットを上回る成果を上げています。AIエージェントは定型業務の管理に役立ち、サービスチームはより複雑な案件に対応できるようになったと言います。
調査会社のMarketsandMarketsによると(英語)、「AIエージェント採用の決定的な要因は、効率、規模、意思決定を強化する自動化に対する需要の増加。AIエージェントは、反復的な機能を自動化し、大規模なデータセットを分析し、リアルタイムで実用的なインサイトを提供することで、効果的な代替手段を提供する」といいます。
同社は、AIエージェントの市場は今年の51億ドルから2030年までに470億ドルに急増するとも予測しています。
ビジネスリーダーにとって、「事実と虚構」を区別することは非常に重要です。AIエージェントを誤解すると、チャンスを逃したり、最悪の場合、コストのかかるミスにつながる可能性があります。AIエージェントの機能と限界を明確に理解することで、より効率的な作業と、より賢明で情報に基づいた意思決定を行うことが可能になります。
※本記事は米国で公開された “5 Myths About AI Agents” の抄訳版です。本ポストの正式言語は英語であり、その内容および解釈については英語が優先されます。