いつもはSalesforceもしくはIT業界から見た関連記事を掲載しておりますが、今後各業界に精通した方・メディアと連携して、新たな切り口で記事をお届けしていきます。今回は経済・金融の専門サイトZUU onlineによる金融関連記事の連載です。ぜひご覧ください。
「働き方改革」という言葉が、昨今のキーワードの一つになっている。残業規制や業務の効率化などが叫ばれつつあり、銀行業務においても例外ではない。もともと銀行業界では労働時間の縛りがそれなりに厳しいが、より残業規制、長時間労働の排除という方向へ舵を切っている状況である。
しかし、それで現場の社員が幸せになっているかと言われると、そうとは言い切れないところがある。手持ちの業務が減っていないのに労働時間を減らすと言われても、そのしわ寄せは仕事の質の低下や昼食時間の切り詰め(なくなることもある)へつながる。
現場のモチベーション低下を防ぐためにも、人事部が社会情勢にあわせて小手先だけで行うのではなく、経営層や本社経営企画部などが自ら主導する改革が求められる。
働き方改革を行う前にマインドシフトの必要性
一時期、話題にもなったが、日本の労働生産性は低いと言われている。経済協力開発機構(OECD)が発表している35ヵ国の労働生産性比較によると、
- 労働生産性水準(就業1時間当たり付加価値)42.1ドル(4,439 円)【 35ヵ国中20位】
- GDP 基準改定後の 労働生産性水準44.8ドル(4,718 円)【35ヵ国中19位】
- 就業者 1 人当たりの労働生産性74,315ドル(783 万円)【35ヵ国中22 位】
- GDP基準改定後の就業者 1 人当たりの労働生産性78,997ドル(832 万円)【35ヵ国中22 位】
となっている。(公益財団法人日本生産性本部のレポート)
トップ3は比較的人口が少ない小国(1位ルクセンブルク、2位アイルランド、3位ノルウェー)であり、どうしても労働生産性は高くなりやすいことを差し引いても、OECD全体の平均が50ドルであることを鑑みると、日本の42.1ドルは低いと言わざるを得ない。
しかし、労働時間を増やして生産性をあげることだけでは、これからのグローバル競争に打ち勝つことはできないし、国内外を見て優秀な人材を雇用することに対しても有利かどうかは一目瞭然だ。従って、経営層は「長時間労働=勤勉」ではないとマインドシフトを行う必要がありそうだ。
ドイツの「働き方改革」
日本と同じような産業構造を持ち、少子高齢化が進んでいるにも関わらず、労働生産性の改善に成功しつつある国がある。ドイツである。前述のOECDの労働生産性を確認してみると、ドイツは65.5ドルで7位につけている。日本は42.1ドルなので、あくまでドルベースではあるものの、1時間あたりの労働生産性が日本の1.5倍以上という計算だ。
2000年代初頭、「欧州の病人」と揶揄されたドイツでは、シュレーダー政権が抜本的な労働市場改革を断行。「失業者への手厚い保護」が就労意欲の低下を招いたとの認識の下、「就労促進支援」へと政策方針を大転換した。(参考:みずほフィナンシャルグループ『持続的成長に向けた「働き方改革」の必要性』)
リーマン・ショック後もドイツの労働市場は改善が続き、高齢化が進む中でも労働力率が改善、失業率が低下している。しかも、このドイツでは、基本的に長時間労働というものは存在しない。夏季休暇に1ヶ月休みを取ることもあたり前というお国柄だ。
「Industrie4.0(第4次産業革命)」に加え「Work 4.0」を提唱
さらにドイツ政府は、バズワードにもなった「Industrie4.0(第4次産業革命)」に加え、新たに「Work 4.0」を提唱している。デジタル経済化はもう止めようがないメガトレンドと捉え、多様な雇用形態と、それを支える法規制の再構築している。
日本ではよく「AIの発達によって消滅する職業は?」といった議論がなされているが、ドイツでは既に、AI化にあらがうのではなく、雇用創出や働き方改革の「新たな機会」と捉え、「Industrie4.0」と「Work 4.0」を組みわせた生産性改善を国策として推し進めている。このような状況を客観的に見ると、10年後、20年後、ますます両国の差は広がってしまうではないかと不安になるかもしれない。
システム化と人員の最適化
ドイツなどの働き方先進国の例を見れば分かるように、労働力をさらに活性化させ、かつ労働時間を減らすためには、トップの強い意志とビジョン、テクノロジーの利用が欠かせない。例えば、銀行の営業活動の効率化は、営業支援システム(SFA)の導入で成果を上げられるだろう。大口顧客や見込客の絞り込みなどはシステムで容易になるし、基幹システムより導入費用も低めとなる。
その場合、課題となるのは「システムの分かる(を使いこなせる)人員配置および人員育成」と考えられる。これまでの営業体制で長く業務を行ってきたベテラン職員になればなるほど、新システムの利用自体にアレルギーを持っていることも少なくない。システムを使いこなせるようになるまでにかかる工数と、使いこなしたことによって得られる(であろう)メリットを天秤にかけ、「従来の通りの営業を続ける」という選択肢を取る人もいるかもしれない。
システム効率化の問題は、結局「人」の問題に戻ってくる。現場に生産性向上の責任を押しつけることなく、現場と一体になって、長期的な視野で業務へのビルトインができるかどうかがポイントになるだろう。
参考文献:
労働生産性の国際比較(公益財団法人 日本生産性本部 生産性研究センター 2016年12月19日)
持続的成長に向けた「働き方改革」の必要性(みずほフィナンシャルグループ 2017年3月16日)