Salesforceの大きな特長の1つである「カスタマーサクセス」の取り組み。前回は誕生の背景やコンセプトを聞きました。今回は活用定着に向けた、より具体的な活動内容を紹介します。語り手は前回と同じく、セールスフォース・ドットコム カスタマーサクセス本部で執行役員 コマーシャルサクセス部長を務める仲澤 輝宏です。
導入手法によって異なる活用率の時系列変化
―― トップを説得できれば、その後のシステム活用はスムーズに進むのでしょうか。
仲澤 残念ながら、必ずしもそうではありません。そこで知っておきたいのが「活用曲線」です。このグラフを見てください。3種類の導入手法と、それぞれの活用曲線が示されています。導入手法とは要するに、新しいシステム(変化への対応)を促すための動機付けは何か?という話です。
―― 動機付けによって、活用の広がり方が変わってくると。
仲澤 最も短期間で活用が広がるのは、強制力を生かした導入方法です。つまりトップダウンで「システムを使え!」と指示するわけです。しかし、強制されるだけでその意味を理解していなければ、活用率はその後急速に低下していきます。
―― あまり好ましいパターンではありませんね。
仲澤 第2の活用曲線は、報奨やインセンティブを生かしたケースです。例えばデータを入力したらその件数に応じて報奨金を与える、という方法が考えられます。これも最初のうちは活用率が上昇しますが、インセンティブがよほど大きいものでない限り、いずれは効果が薄くなり、中長期的には活用率が低下していきます。
―― やはりいちばん望ましいのは、利便性実現による活用曲線だと。
仲澤 そうです。新しい変化(システム)を利用することが、便利だと実感してもらうことですね。例えば、Salesforceにデータ入力したら日報や各種レポートは作成しなくてもいい、ということにしたらどうでしょうか。レポート作成の手間よりもデータ入力の手間が小さければ、自然とデータ入力するようになるはずです。あるいはデータ入力さえしておけば、システムが状況に応じて次に取るべきアクションを教えてくれる、というのもいいと思います。価値のあるリターンさえあれば、入力の手間をかける意味が見出しやすくなるのです。
―― しかし立ち上がりはゆっくりですね。
仲澤 やはり人は変化を嫌うため、新たなリターンへの理解が浸透するには、それなりの時間がかかります。短期間で活用率を高め、それを長期にわたって維持するためには、これら3種類の導入手法を組み合わせるのが効果的です。
―― 強制力からスタートして、インセンティブへと移行し、最終的には利便性実現を重視していく…。
仲澤 その通りです。利便性実現までたどり着ければ、あとは「使うことが当たり前」になります。会計や在庫管理のようなシステムは企業経営上「Must Have(必須な)」なシステムだと認識されていますが、SFAやCRMは報告業務に使う「Nice to Have(あってもいいがなくてもいい)」なシステムと思われがちであり、Excelやグループウェアで代用しでもいいのではないかという意見も少なくありません。しかし社員が多くなり、製品やサービスも増えていくと、人間が記憶していられる範囲を越えてしまい、ノウハウが個人に依存したままです。Salesforceはこの壁を超えるためのツールであり、企業資産である営業をはじめとするノウハウや顧客情報を蓄積して共有・活用していけるツールです。そのことを実感していただければ、企業にとって必須なシステムなのだと理解していただけるようになります。
フレームワークとサクセスマップでお客様の業務改善を支援
―― ここまででカスタマーサクセス誕生の背景やコンセプトをお聞きしましたが、最後に「顧客を成功に導く(カスタマーサクセス)」ための具体的な方法論について教えてください。
仲澤 当社では、お客様のシステムの利用状況を分析するツールがあります。この話をするとよく聞かれるのですが、お客様自身の保有しているデータはお客様の所有物ですので、私達社員でも中身を見ることはできません。ログイン率や、データ変更率(データをどのくらい変えたか)、Chatter(社内SNS)利用率、レポート数や、レポート参照数など、あくまでシステムログとして記録されているものを集計し数値化して表示しています。
―― これらの利用状況の数値をどのように活用するのですか。
仲澤 まず見るべきなのは、ログイン率とデータ変更率です。これが低いお客様は、まだ十分な活用が行われておらず、そのままではシステムが使われなくなる可能性が高いと考えられます。次に見るのはレポート参照数です。ログイン率と変更率が高くても、レポート参照数が少なければ要注意です。これは入力されたデータが活かしきれていないことを示すので、今後利用率が下がる危険性があります。そして第3に見るのはワークフロー設定数です。だいたいこの3つのデータを中心にチェックし、先行事例のご紹介など、各ステップで必要な情報提供を行い、利活用レベルを上げていくためのサポートを行っています。
―― サポートを行う時の方法論は用意されていますか。
仲澤 SFA/CRM活用支援フレームワークがあります。これはSalesforce活用に関するドメインを7つに分け、それぞれについて評価を行うというものです。
仲澤 このフレームワークに基づき、3つのステップで活用を広げていきます。これは日本発のコンセプトです。
仲澤 第1ステップでは、まずゴールを設定した上で、それを目標、戦略、施策、KPIへとブレークダウンしていきます。例えば「2020年までに業界シェアNo.1になる」というのがゴールなら、その金額を明確化した「売上金額 50億円」が目標になり、そのために何を重視するかが戦略、具体的な行動が施策になります。これらを記述したのがこの「サクセスマップ」であり、これも日本のカスタマーサクセスチームが考案したものです。
仲澤 そして目標、戦略、施策それぞれにKPIを設定し、ダッシュボードで見える化するための設計を行います。
仲澤 第2ステップでは、定着化のための運用ルール策定を行います。これで活用を広げていくことで、見える化を実現していきます。しかし定着化はあくまでも手段であり、目的ではありません。目的はあくまでも、第3ステップの業務改善です。最終的には定着化を業務改善にどうつなげていくかが重要になります。
カスタマーサクセスマネージャーはパーソナルトレーナー
―― 具体的にどうすればいいのですか。
仲澤 「80:20の法則」として知られている、パレートの法則を活用します。実はほとんどの企業では、売上の80%は20%の社員が生み出しています。この上位20%がやっていることを、他の80%が共有・実行できれば、業務改善が実現できます。最初に見える化にこだわるのも、上位20%を見つけ出し、その行動を徹底的に把握するためです。その中で、システム化できるところはシステムに置き換え、自動化していくという取り組みも進めていきます。
―― 実際の成功例は。
仲澤 例えばあるお客様のルートセールスのケースでは、売れている人はまんべんなく訪問を行っているのに対し、売れていない人は特定の行きやすいところにしか行っていないことが判明しました。そこでSalesforceで訪問先リストを表示する時に、最後に訪問してからの時間が長いものをトップに表示するようにしたのです。このような簡単な工夫で、売上が急増しました。
―― 方法論等を聞くとコンサルタントのようにも見えますが、実際にはかなり地道な活動を行っているのですね。
仲澤 コンサルタントというよりは、カスタマーサクセスマネージャーは、スポーツジムのパーソナルトレーナーのようなものですね。目標を設定し、それを達成するにはどうするのかを、お客様と二人三脚で取り組む。これが現在の、カスタマーサクセスで行っている取り組みなのです。
(Vol.3につづく。Vol.3では、「カスタマーサクセス」をテーマに実施されたユーザグループの分科会(勉強会)の様子をご紹介します!)