AIは人の仕事をサポートし、業務の生産性向上や新しい価値創出を可能にします。SalesforceもAIを活用したマーケティング業務の高度化を強力に支援しています。それを実現するのが「Salesforce Einstein」。すでにEinsteinを実際に利用し、大きな成果を上げている企業の1社がヒューマンテクノロジーズです。本プログラムではIT Leaders 編集長の川上 潤司氏、セールスフォース・ドットコムの津野田 潤、そしてヒューマンテクノロジーズの秋田 智美氏がEinsteinの魅力について語り合いました。
2005年よりSalesforceを導入
業務改革を継続的に推進
川上氏:最初にEinsteinはどのようなものなのかを教えてください。
津野田:Salesforceのクラウドサービスの1つとして提供するCRM用のAI機能です。最先端のディープラーニング、予測分析、自然言語処理などを駆使して多様なデータを学習し、ビジネスに有益なインサイトや最適なアクションを提示します。マンパワーだけでは難しいスマートなビジネスが可能になります。実際、多くのお客様が商談成約率の向上にEinsteinを利用して、結果を出しています。
川上氏:その1社がヒューマンテクノロジーズというわけですね。事業概要と、その中でSalesforceをどのように活用しているかを教えてください。
秋田氏:当社は業務システムと生体認証技術を融合した製品やサービスを開発・提供しています。とくに近年はクラウド勤怠管理システム「KING OF TIME」やクラウド人事管理システム「huubHR」などクラウドをベースにしたサービス提供に力を入れています。当社の製品・サービスは大手企業を含む約9000社、約57万人のお客様にご利用いただいています。
Salesforceとの出会いは2005年。まずSales CloudとCommunity Cloudを導入し、80種類のワークフロー作成によるオペレーションの自動化、営業・サポート業務におけるダッシュボードの活用による業務プロセスの可視化などに取り組み、業務のスピードと質の向上を実現しました。Chatterの活用により、海外拠点との円滑なコミュニケーションも可能にしています。
その後、Pardotを導入。Webサイト、メルマガ、展示会などでの反応をもとに、リード(将来顧客となる可能性のある見込み客)のスコアリングを自動化する仕組みを構築しました。毎月の問い合わせ件数は約750件。それを10名の営業担当者で対応していたため、より効率的・効果的な仕組みが必要だったのです。
感覚値のスコアリングに限界を感じEinsteinによる「形式知」化を目指す
川上氏:10年以上Salesforceを使い続け、成果も上げていた御社が、なぜEinsteinを使おうと考えたのですか。
秋田氏:スコアリングのもととなる情報、たとえば「本当に興味があるのか、ないのか」「契約に前向きか、そうでないのか」といった判断は営業担当者の経験や勘に頼っていました。いわば、感覚値です。検証すると、スコアの高いリードが必ずしも申込に結び付くわけではないし、スコアが低くても申込に至るお客様も少なくない。スコアリングと実際のコンバージョンとの間に、相関関係が見られなかったのです。そこでスコアリング精度の向上を目指し、Einsteinの導入を決めました。
津野田:EinsteinはSalesforceのPlatformにあらかじめ組み込まれているため、別に導入して利用感環境を整えるといった、インフラ面の整備は不要です。導入してすぐに使い始められます。まずパイロット版で検証してから、部門単位で利用を始めるといったスモールスタートも可能です。ヒューマンテクノロジーズ様も2017年6月からパイロット版をお試しいただき、スコアリング精度のチューニングなどを経て、同8月より正式導入していただきました。
秋田氏:現在はWebサイト、メルマガ、展示会などで得られた情報を、直接Einsteinに学習させることで、感覚値によるスコアリングから形式知への転換が図れました。Einsteinは多様なデータを分析し、スコアの高い順にリードを表示してくれます。それをもとに高スコアのリードに優先的に営業活動を仕掛けていきます。
スコアリング精度が向上しコンバージョン率が80%に
川上氏:スコアリングが感覚値から形式知へ変わったことで、どのような成果が上がっていますか。
秋田氏:成果は衝撃的です。リードスコアと申込件数との相関を集計したところ、スコアが81点以上のリードに対するコンバージョン率が80%にも達していたのです。優先度の高いお客様にアプローチすれば、80%は申込に至るというわけです。これを見た時は、正直、震えました。コンバージョン率の高さもさることながら、代理店経由のリードの方が申込率や継続率が高いというベテラン社員の経験則を裏付ける結果も出たからです。
川上氏:スコアの高いリードに営業していくことで、生産性向上にもつながりますね。
秋田氏:実際、出張業務にEinsteinのスコアリングを活用し、営業の生産性向上に取り組んでいます。地方に出張した際は、アポのあるお客様との商談の合間に、隙間時間ができてしまうことがあります。訪れる機会の少ない地域では、その隙間時間も貴重な時間です。そんな時、以前は企業規模や知名度などをもとに営業していましたが、今はスコアの高いリードに優先的に営業するようにしています。
信頼の置けるスコアなので、その方が勝率も上がります。
生産性向上だけでなく、営業改革のツールとしても期待しています。Einstein Analytics上でスコアの根拠まで確認できるからです。根拠の1つとして、アサインする担当者の評価までわかります。Aさんが担当ならプラス1.5ポイント、Bさん担当ならマイナス0.5ポイントといった具合に、誰をアサインするかでリードのスコアが変わってくるのです。
津野田:ポイント評価はリードとの因果関係ではなく、地域性や類似案件の経験などを加味した相関関係にもとづいて算出しています。「ポイントが高い人をアサインすべき」と指示しているわけではありません。あくまでマネジメントの支援機能という位置づけです。たとえば、経験を積ませるため、ポイントの高い人と低い人を組ませて営業を行う場合などに参考になります。これをどう使うかは、マネジメントする人の腕の見せ所です。
秋田氏:当社はまだそこまで使い込んでいませんが、将来的には取り入れて、戦略的な営業活動に活かしていきたいですね。またさまざまな広告宣伝活動の成果を確認できる点にも魅力を感じています。低スコアが付いている広告に関しては、その目的を再確認するなど今後のマーケティング戦略を行う上で重要な分析ツールになると思います。
成果を上げるポイントはデータと運用ルールの整備
川上氏:Einsteinで衝撃的な成果を叩き出したわけですが、導入してすぐに成果に結びついたのですか。
秋田氏:実は最初はスコアリングの精度が上がらず、苦労しました。原因は運用ルールがしっかりしていなかったからでした。Einsteinのトライアルを始める1年前に、リードの運用ルールを変更していたのです。以前は資料請求する際、会社名や人名、電話番号、メールアドレスなどの入力が必要でしたが、これをメールアドレスだけで資料請求できるようにしました。ハードルを低くして、より多くのお客様と接点を持つためです。その結果、Einsteinが時系列も加味してメールアドレスだけのお客様の方がスコアが高いと学習してしまったのです。
間違ったスコアになったのは、ちゃんとしたデータで学習させなかったからです。ですがEinsteinはルール設定が毎月更新されるので、そのタイミングで運用ルールを元に戻し、登録情報をすべて学習させるようにしてからスコアリングの精度が上がっていきました。Einsteinで成果を上げるためには、必要なデータを準備した上で運用ルールをきちんと整備する。これが非常に重要なポイントになります。
川上氏:今後の活用展望やチャレンジしてみたいことがあれば教えてください。
秋田氏:チャレンジしてみたいのはA/Bテスト。スコアの高いリードに注力する営業とスコアの低いリードに注力する営業で、成果にどれだけの差が出るのか。コンバージョン率だけでなく、収益性なども含めて検証し、今後の営業戦略を考えていきたい。
もう1つは、お客様からの問い合わせ件数予測です。今後どれくらいの件数の伸びが期待できるのか。それが分かれば、いつまでにどれだけの人材が必要か見えてきます。人材の配置や採用活動の最適化に役立ちます。当社では今後もEinsteinのさらなる活用を図り、お客様との接点強化や営業の生産性向上を推進していき、2020年までに「KING OF TIME」の100万ID利用を目指します。