この記事は、もともと2013年に米国で公開した記事ですが、V2MOMの手法やSalesforceの創業者であり会長兼最高経営責任者であるマーク・ベニオフの想いは今も変わっていません。ベニオフの最新の著作からの引用を交えて、あらためてご紹介します。
Leading Through Change – いま、私たちができること。-
21年前に4人で始めたSalesforceは、今や従業員数5万以上の大組織になりました。私はいつも、Salesforceの最大の強みは、急成長のなかでも全員の足並みが揃っていることだと思っています。
成功の基盤となるのは、継続的なコミュニケーションと、完全な意思統一です。Salesforceでは、その両方を実現するために、私が考案した「V2MOM」という管理手法を長年にわたって活用してきました。V2MOMは、ビジョン(Vision)、価値(Values)、方法(Methods)、障害(Obstacles)、基準(Measures)の頭文字です。
V2MOMで全員の意思統一を図ることが、当社の成功に不可欠な要素だと私は考えています。その理由と、当社での毎年の取り組みについてご紹介します。
V2MOMでチームを一つに
一瞬一瞬を大切にし、今の状況を正確に把握していないと、あまり重要でない小さな問題にかまけている間に時間が過ぎてしまうことがあります。ビジョンに沿って皆の足並みを揃え、前進の道筋を描くことが大切です。優先順位を付ける必要があります。また、大企業となれば、数万人や数十万人の従業員にも対応できるよう、優先順位付けのプロセスにもスケーラビリティが求められます。
V2MOMによって、自分が今何をしているのかを明確にし、会社全体にはっきり示すことができます。V2MOMの中核は、次の5つの問いです。これをもとに、意思統一とリーダーシップの枠組みを作ります。
- ビジョン(Vision)— 達成したいことは何か?
- 価値(Values) — 達成するうえで大切な信念は何か?
- 方法(Methods) — 達成するためにどうするか?
- 障害(Obstacles) — 達成の妨げになるものは何か?
- 基準(Measures) — 成果をどう測定するか?
V2MOMでは、この5つの要素を使って、自分たちの進む道を示す地図を作成し、目的地にたどり着く方法をつかんでいきます。
Salesforceが初めて作ったV2MOMとは
Salesforceの創業から間もない頃、私は共同創業者らに、V2MOMを作ってみようと提案し、American Expressの大きな封筒の裏に、Salesforce.comの最初のV2MOMを走り書きしました。共同創業者の1人のパーカー・ハリス (現在はSalesforceの最高テクノロジー責任者)は、当時変なことをするなと思ったのかもしれませんが、このV2MOMをなぜかとっておいてくれて、株式上場の日に額装でプレゼントしてくれました。
このV2MOMでSalesforceの土台が固まり、現在に至るまでの進路が決まりました。ある意味、このV2MOMは当社の事業計画になったのです。
V2MOMは随時更新される「生きた文書」
V2MOMのいいところは、創造性と変化を促し、力を与えてくれることです。チームの一人ひとりが、それぞれの手法を追求し、月日が進むなかでV2MOMを更新していきます。V2MOMは生きた文書だと私たちは考えています。
年1回の業績評価のような硬直化した管理手法では、目まぐるしく変化する現在の環境には対応しきれません。企業は環境の変化に絶えず順応していく必要があります。順応しない企業は、長い目で見れば問題を抱えることになります。旧態依然とした手法では、継続的な変化が促されません。V2MOMなら、意味のある対話のきっかけが生まれ、1年を通した意思決定の土台ができます。活動の優先順位について、従業員と上司との間で継続的に話し合っていくことができます。
現在Salesforceでは、V2MOMの対象を全社の従業員とチームに広げており、すべての部署、すべての従業員が、それぞれのV2MOMを毎年作成しています。こうした実践的な取り組みを通じて、会社の意識を高め、組織全体に浸透させています。
作成したV2MOMは、極秘に保管しておくわけではありません。透明性を促すために、すべてのV2MOMは社内コミュニケーションツールであるChatterに公開されます。
社内のすべての従業員が互いのV2MOMを閲覧して、各自の計画が会社の未来にどうつながるかを把握できます。V2MOMの各項目の進捗状況を従業員が自ら把握するためのアプリもあります。
V2MOMを作成してみましょう
Salesforceが行う意思決定はすべてV2MOMに沿っています。これは1999年の創業当時から、サンフランシスコで最大規模のハイテク企業となった現在に至るまで変わりません。私は、多くのビジネスリーダーたちにもV2MOMを紹介しています。
V2MOMの利点は、組織のライフサイクルのどの段階であっても同じ構造が使えるところです。創業当時の事業計画でも使っていましたし、上場企業として毎年の年間目標を設定するときにも、この構造が変わらず効果を発揮しています。
自分もV2MOMを作ってみようと思った方にお勧めしたいのは、常に初心を忘れないことです。これは禅の考え方です。初心を忘れなければ、常に新鮮な見方で世の中を捉えることができます。まっさらな気持ちで、時代遅れの思い込みを捨て、些末なことに惑わされずに、今後の目標、理由、手段に意識を集中させることができます。
V2MOMのプロセスでは、組織全体としての目標や、組織内の現在の課題について考え、成功に至る手順を明確化する方法を探っていきます。それぞれの設問に複数の答えがあるかもしれません。答えの優先順位についても必ず考えましょう。
ビジョン (Vision – 達成したいことは何か?)
価値(Values :達成するうえで大切な信念は何か?)
「目標を達成するうえで、自分にとって大切なことは何か?」このビジョンを支える価値は何か?」それを自問してみましょう。
価値のリストを作成したら、重要度の順に並べ替えます。競合する優先事項のなかで、さらに重要なものを選び出します。すべてを優先事項としてしまうのは、どれも優先事項ではないのと同じです。
方法(Methods :達成のためにどうするか?)
ビジョンと価値を実現する道筋を確立します。ここでは、その業務を遂行するために皆が取り組むべきアクションやステップを挙げ、「Value」と同様に優先度順に並べ替えます。
障害(Obstacles :達成の妨げになるものは何か?)
ビジョンを達成するうえで妨げとなる障害を挙げていきます。成功までの道のりにどのような課題や問題があり、どの問題を解決することが最も重要か、そのためにどうするかを考えます。
測定(Measures:成果をどう測定するか?)
最後に、成功をどのような尺度で判断すればよいかを考えます。何をもって成功と言えるでしょうか?主観的な○×式の判断では役に立たないはずです。データや指標にもとづく判断が必要です。
Salesforceでは、組織のマネジメントはすべてV2MOMを基盤にしています。V2MOMには次のような効能があります。
- ビジネスの進め方に自信がもてる
- 目標を明確にし、筋道を立てて実現する方法を整理できる。
- 常に進化を追求する姿勢を反映できる。
V2MOMを使ったコラボレーションが特にうまく機能するのは、状況が急速に変化しているときや、危機に直面したときです。状況が目まぐるしく変わるなかで、社内の全員が一致団結して同じ方向に進むのは簡単なことではありません。しかし、V2MOMがあれば、それが可能になります。
Salesforceの無料学習体験プラットフォームTrailheadでは、組織の意思統一に役立つV2MOMの学習モジュールが公開されています。ご興味がある方はぜひご活用ください。
この記事は、ベストセラーとなったマーク・ベニオフの最新刊『トレイルブレイザー 企業が本気で社会を変える10の思考』と、初めての著書『クラウド誕生 セールスフォース・ドットコム物語』から抜粋、編集したものです。