皆さんはSalesforceの認定資格をご存じでしょうか。
Salesforce認定資格とは、Salesforce製品を活用するにあたって必要なスキルを保持していることを証明する全世界共通規格の資格です。
特定の資格を保持していれば転職や業務委託の契約において、自分のスキルを定量的にアピールできる材料のひとつとなります。
2021年時点でSalesforceに関わる雇用は日本で44万人以上、GDP(国内総生産)へのインパクトは約10兆円*といわれており、Salesforce認定資格の保有はこうしたビジネスエコノミーへの扉を開くカギといってもよいでしょう。
*出典:IDCホワイトペーパー『The Salesforce Economic Impact』
ドキュメント番号:US48214821(2021年9月20日)
本記事では、Salesforceの認定資格の中で高難度となる「認定テクニカルアーキテクト」の資格を保有する、アクセンチュア株式会社テクノロジーコンサルティング本部の小坂駿さんの軌跡を紹介します。
Salesforce認定テクニカルアーキテクトとは?
Salesforce 認定テクニカルアーキテクトは、Salesforceの最高峰資格と言われる難度の高い資格です。
複数の開発プラットフォームにわたる幅広い知識を持ち、アーキテクチャ環境と要件を評価して、Lightning プラットフォーム上に安全で高パフォーマンスのテクニカルソリューションを設計することが求められ、日本に取得者が*20名といない非常に高難度の資格です。Salesforceの製品知識や他システムとのインテグレーションスキルに加え、顧客の課題を解決して伝えるコミュニケーション能力、ハイパフォーマンスなソリューションの設計構築技術など、さまざまなスキルが求められます。
*2024年2月現在
では、Salesforce認定テクニカルアーキテクトを取得するにはどのような準備が必要で、資格取得によってどんな変化があるのでしょうか。Salesforce認定テクニカルアーキテクトを取得し、現在はテクニカルアーキテクトとして活躍する方のお話を聞いてみましょう!
「自分の裁量でシステムを作りたい」とSalesforceに着眼。キャリアのギャップは資格で埋める。
――まず、小坂さんがSalesforceと出会ったきっかけを教えてください。
アクセンチュアには新卒で2014年に入社したのですが、すぐにSalesforceと関わりがあったわけではなく、最初は基幹システムのITプロジェクトでのエンジニアリングや、PMO(プログラムマネジメントオフィス)として数年間活動していました。その後、社内の部署異動説明会を通して、現在在籍している、Salesforceを中心としたSaaSを扱う部署を知ったのがきっかけです。
――どういった点に興味を惹かれたのでしょうか?
元々の部署で担当していたITプロジェクトはかなり大規模で、自分が担当するのはその大きなシステム群の一部分でした。
大規模なITシステム導入プロジェクトの勘所を早くから得られたことは私のキャリアの大きな根っこになっていると感じています。しかし、規模は小さくてもフットワーク軽く業務改革を推進できる領域で働きたいと考えるようになり、Salesforceのようなクライアントの業務に近い領域のSaaSとソリューションは、自分の希望に合う分野だと思い異動を決めました。そこからはずっとSalesforceを中心とした仕事に携わっています。
――異動して初めてSalesforceにふれたとのことですが、どのように学ばれたのでしょうか?
当時はTrailheadができたばかりの頃で、Visualforceワークブックという公式の資料で画面開発を学びました。その後Trailhead も活用するようになりましたが、簡単でも良いので動くものを自分で作ることを大切にしていました。元々、気になる点があれば、調べて実際に試してみるのが好きなので、「この機能はどうなっているのだろう?」とか「次はこの設定画面を見てみようかな」とか、システムに触れれば触れるほど日々疑問や興味が湧き上がってくるので、その積み重ねの中で学ぶことも多かったです。
――資格の取得を意識したのはいつ頃からですか?
会社から Salesforce認定アドミニストレーターの取得を奨励されていたこともあるのですが、より意識が高まったのはプロジェクトを少し経験してインプットの必要性を痛感したからです。何も分からない状態の自分に対し、先輩たちは知識も経験も豊富でクライアントコミュニケーションにも長けていました。
そんな先輩たちに早く追いつきたいという気持ちがあって、普段の業務に加えた学習の1つとして資格の取得を目指すようになりました。試験に向けた勉強としては、受験ガイドにある出題範囲を確認し、内容と実際のSalesforceで対応する機能やリソース、ドキュメントは何かというのをきちんと照らし合わせ、一つずつ内容を理解していくことを意識していました。
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1度目の失敗を生かし2度目の挑戦で合格
――Salesforce認定テクニカルアーキテクトは、Salesforceの資格の中でも高難度であり、受験資格を得るにも高いハードルがあります。Salesforce認定テクニカルアーキテクトを取得できるのではないかと考え始めたのはどのタイミングでしたか?
実は、Salesforce認定テクニカルアーキテクトの試験に1度失敗しています。基本的にSalesforceの試験は選択式で、与えられた選択肢の中から最適な解を選ぶことになりますが、認定テクニカルアーキテクトの試験はそれとはまったく異なります。試験はアーキテクチャソリューションのプレゼンテーションと質疑応答で構成されていて、受験者はその場で渡されたシナリオを読み、詳細なアーキテクチャソリューションを自ら考案して設計、それをプレゼンテーションする内容です。
正直にいえば、1度目はそれまでの試験の延長のように思っていて、軽い気持ちで受けてしまいました。しかし、実際に試験に臨んでみたら、自身の実力不足を痛感しました。
緊張から思うようにソリューションを組み立てることができず、質疑応答でもジャッジ(ソリューションを評価する方)から鋭い質問があり、どんどん自分のソリューションに自信がなくなってしまいました。当たり前のことですが、自分のソリューションに説得力を持たせるには座学だけでは不十分で、十分な練習や経験が必要です。
――具体的にはどのような準備をしたのでしょうか?
1度目の受験が2019年で、資格を取得した2度目が2021年なのですが、その間は試験そのものの勉強に限らず、仕事の中で試験に役立つような経験を積むようにしました。
たとえば、クライアントのIT部門の方とシステム連携や認証レイヤーの設計・実装等について議論する機会を増やしたり、あるいは自分があまり経験したことがない領域や製品のプロジェクトに、スポット的にでも関われるように上司に相談したりしました。また、テクニカルアーキテクト資格を持っている社内外の先輩方に、自分のプレゼンテーションを何度もレビューしていただきました。
このような積み重ねの結果、自分の中で引き出しが増え、ビジネス要件から複数のソリューション案とそのトレードオフを考慮するスピードが上がっていくことを実感しました。その上で迎えた2度目の試験では、いくつかミスもありましたが、比較的スムーズにソリューションを構築でき、ジャッジの方との質疑応答では、「普段と同じように話せばいいんだ」と思えて平常心で臨むことができ、無事に合格することができました。
――Salesforceの資格は数多くあるため、ある程度取得できた段階で満足する方も多いのではないかと思います。小坂さんは最初からSalesforce認定テクニカルアーキテクトの取得を目指していたのですか?
いつかは取得したいと思っていました。社内には、社歴が長いベテランの方でも資格を保有していない人もいます。そういった方々は、豊富な知識や経験によって、資格がなくても説得力のある提案をすることができます。
一方、自分のように中堅クラスの社員にとっては、資格を保有していることが周りに説得力を持たせられる要素の1つになりうると感じています。クライアントへの提案時に認定テクニカルアーキテクトの資格を持っていることで一目置いていただいたり、武器になったりすることもあります。
自分のキャリアだけでなく、会社としても意義があるなと思ったので、どこかのタイミングで必ず取得しようと考えていました。
――Salesforce認定テクニカルアーキテクトを取得されて、ご自身の業務に変化はありましたか?
資格を取得できたことで、これまでのスキルや経験が客観的に認められたという自信にはつながりました。ですが、業務が大きく変わったかというと、実はそれほど変わってはいません。
もちろん「困ったことがあったら小坂さんに聞こう」といった感じで、社内で自分を頼ってくれる人や社内での認知は増したので、それはすごく嬉しいです。それよりも、より自信を持って仕事に取り組めるようになったことに加え、下手な仕事はできないといいますか、資格保有者だからこそこれまで以上にしっかりしなくてはと考えるようになったので、気持ちの面での変化が大きかったですね。また、社内で次の認定テクニカルアーキテクト保有者を輩出したいという気持ちも強くなりました。
Trailblazer インタビュー
Salesforceとの出会い、これまでの自分を形成したものとは?
コミュニティで広がる視野と知見と好奇心。世界に羽ばたくTrailblazer。
――小坂さんはTrailblazerとして長年コミュニティでも活躍されています。普段の業務もある中で、なぜ協力してくれているのですか?
主に自分の勉強やネットワーキングのためです。若手の頃先輩に「勉強会で自分がスピーカーとなる経験は、聴衆として100回参加するのと同等の価値があるから、登壇や発信を重視するとよい」とアドバイスをいただきました。
実際に、自身の発信から得られるフィードバックや、終了後に話を聞いてくださった方々との会話などから得られるものがたくさんあるので、小さな内容でもアウトプットすることを大切にしています。
また、コミュニティでは会社の枠を超えて様々な話題に触れる機会がたくさんあります。普段の業務から得られる学びももちろん大切ですが、他の方の経験談を伺うことで、それが自分の引き出しになりうる点もいいなと思いますね。
――小坂さんは現在、インドのNPO向けにアプリケーションを無償開発する活動も行われていますね。そのきっかけもコミュニティだったとか。
そうですね。インドのデリーで行われたSalesforceのコミュニティイベントに参加したことがきっかけでした。そのイベントを主催する方とは元々ソーシャルメディアでつながりがあって、Dreamforceで実際にお会いした際にイベントの話を伺い、異文化交流のチャンスだと思って行ってみることにしました。
――どのようなアプリケーションを開発されたのですか?
保健師さんの活動をサポートするモバイルアプリです。インドのダージリンで活動するNPOの方から、保健師として訪問した各家庭の情報をSalesforceに集約したいという相談がありました。しかし当時、現地では回線も3Gで、停電することも多く、電波が安定しないため、オフラインで使える、かつコストのかからないフィールドサービスのモバイルアプリが必要でした。
もう一人、そのNPOを支援するアメリカの方と話を聞いていたのですが、その方はコンサルタントのような立場だったので業務部分の支援は彼女を中心に、テクニカル部分は自分が補う形でモバイルアプリを開発しました。当時はインドのそのNPO専用のアプリでしたが、今ではそれをもう少し汎用的な仕組みにして、南米の災害支援等でも活用してもらっています。今後、さらに様々なユースケースで使えるように、より汎用性を高めたアプリの作成を目指して活動中です。
――インドから世界へとフィールドが広がっているんですね。
私自身もここまで大きくなるとは思っていませんでした。元々は個人的にやっていたプロボノ活動が、今ではSalesforceからオフィシャルにサポートを受けられるようになりましたし、国を超えた仲間が多くできました。続けていると大きくなるのだなとしみじみ感じています。
キャリアのかけ算。Salesforceに何かプラスできると武器になる
――これからSalesforceとの関わりを持ちたい方にアドバイスするとしたら、どのようなことを伝えたいですか?
とにかく続けること、自分で手を動かす機会を絶やさないことが大切だと思います。また、製品やユースケースが多様化しており、案件のマルチクラウド化が進んでいると感じています。そのため、それぞれの機能についてはもちろん、お客様の業務だったり、それらに付随する技術的な要素だったり、知っておかなくてはいけない情報がものすごく増えました。Trailheadや資格試験も大切ですが、あまりそればかりに固執せず広い視点を持つことが大切だと思います。
私は技術的な仕事が多いですが、Salesforceの技術的な部分はもちろん、一般的なシステム開発やアーキテクチャに関する知見も必要不可欠だからです。これはビジネスサイドの仕事をされている方にも似たようなことが言えると思います。
Salesforceの認定資格の価値って?転職した方に聞いてみた
――難しい時代を乗り越えるためには何が必要だと思いますか?
やることが多くなったということは、言い換えると武器になるスキルや取れるキャリアの幅・選択肢が広がったとも言えます。認定テクニカルアーキテクトというのも1つの道のりですが、単にSalesforceについて詳しくなること、設定や開発だけを極めようとすると差別化が難しいかもしれません。
しかし、特定の業界や業務領域への知見があることや、コンサルティングスキルがあること、他のシステムに関する知見があることなど、組み合わせで強みを出すことはできます。実は私は業務では営業領域よりもカスタマーサービス領域が、Salesforceの製品で言うと特にService Cloudが得意だったりします。Salesforceの一般的なスキルにプラスできる、自分の得意な領域を日々の仕事の中で見つけていけるといいですね。
それから、一人だけで頑張らないことです。社内でも社外でも、相談できる人や一緒に頑張る仲間を見つけましょう。コミュニティは選択肢の1つです。一緒にチャレンジを続けていきましょう!
――一方、近年は「ChatGPT」などのAIが進化し、Salesforceの製品の中にもそれらを導入したものも登場し始めました。小坂さんはAIを使った製品を使うことに対してどのように考えていますか?
チャンスだと思いますね。アップデートの激しいSalesforceエコシステムに加えて、AIについてもキャッチアップしていかないといけないのは非常に大変ですが、誰もがAIを自由自在に使いこなせているかというと、まだまだそうではないと思います。
特にSalesforceのような業務システムに絡めてAIを活用することと、単にAIを試したりアプリを作ったりしてみることとの間には大きな壁があると思います。プロンプトを考えるスキルもそうですが、トライアンドエラーを何度も繰り返しながら多くのリスクや課題に取り組んでいく必要があります。
しかし、実際にAIで課題解決をやり遂げることができれば、それはAIのTrailblazer(先駆者)と言えるのではないでしょうか。そこにこれまでのキャリアは関係ありませんし、トレンドが始まったばかりのAIについて習得しSalesforceと掛け合わせることは、大きな強みとなると思うので、学び挑戦する価値は十分にあると思います。私もAIのエキスパートを目指して頑張っていきたいと思います。
AI搭載型CRMであるジェネレーティブCRMで、仕事はどう変わる?
――最後になりますが、今後の目標を教えてください。
Salesforceだけではなく、他のクラウドサービスや基幹システムを含め、社内で活用しているシステム全般をこれまで以上にきちんと語れるようになりたいと思っています。プロジェクトの成功には全体を俯瞰する力が必要不可欠です。視野を広げるという意味でも、新しいテクノロジーやいろいろなシステムについての知見を今後も増やしていきたいですね。
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