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AIで「こども福祉」を変える。きめ細かい住民サービス実現に必要なこと

AIで「こども福祉」を変える。きめ細かい住民サービス実現に必要なこと

社会環境やライフスタイルの変化に伴い、こども福祉領域の住民ニーズが多様化しています。住民サービスの向上に向けて尽力している自治体に求められる支援体制とはどのようなものでしょうか。基本戦略となる「Customer 360」とその具体的なアプローチを紹介します。

社会環境やライフスタイルの変化に伴い、自治体に寄せられる住民ニーズはどんどん多様化・複雑化しています。中でも、「こども福祉」は、家庭ごとに課題や悩みが異なるため、対応が難しい領域の1つ。この領域で自治体に求められる支援とはどのようなものでしょうか。数多くの自治体のデジタル変革を支援してきたSalesforceのエキスパートが独自の基本戦略「Customer 360」と、その具体的なアプローチを紹介します。

課題山積の「こども福祉」。AIで打開を

少子高齢化の加速、貧困やいじめ、虐待、ひとり親世帯の負担増加など、現在のこども福祉の領域には多くの問題が存在しています。この状況のもと、各自治体は児童虐待防止や障がい児支援、子どもの貧困対策など、相談・支援内容の拡充に向けて取り組みを加速させています。

国もそれに向けた支援を展開しています。こども家庭庁は、「全てのこども・子育て世帯を対象にライフステージ全体を俯瞰して、切れ目ない子育て支援の充実を図る」ことを基本とした「未来戦略方針」を発表。

異次元の少子化対策を踏まえ、子育て世帯に対する理解を促すとともに、自治体が必要なサービスをタイムリーかつ継続的に提供できるようにする重要性を提唱しています。

しかし、かねて自治体では、窓口での長い待ち時間や画一的な対応が住民サービス低下の要因となっていました。背景には慢性的な人材不足があるため、この課題を解決することは容易ではありません。

そうした中、注目を集めているのがAIです。

「職員が行わなくてはならなかった煩雑な事務作業を代替し、業務生産性を高める上で、AIは大きな効果を発揮します」とセールスフォース・ジャパンの山中 晋典は話します。

対応時間の短縮や業務効率化、および住民サービスのパーソナライゼーションなどを強力に支援してくれるAIは、自治体が住民サービス向上を目指す上で欠かせないものになりつつあります。

データ+AI+CRM+信頼が支えるひとり親家庭に寄り添った相談支援

データ・AI・CRMを駆使して、支援が必要な対象者に対して適切な対応を継続的に行う「寄り添い型支援」をSalesforceでどのように実現していくのか、ひとり親家庭への相談支援のユースケースを例にデモ動画でご紹介します。

AI活用に欠かせないデータとセキュリティ

ただ、多くの自治体にとってAI活用は簡単なことではありません。

「例えば、『ChatGPT』に質問したが一般的な回答しか得られなかったという経験を、多くの人が持っています。これでは『AIを使う意味はあるのか』と感じるのも無理はありません。AIの効果を引き出すためには、まずデータとプラットフォームに関わる適切な戦略を立てることが肝心です」と山中は説明します。

この戦略について、Salesforceが提唱するのが「Customer 360」のデータモデルです。「Customer=住民」を中心に据え、多様な住民データや自治体と取引する外部事業者のデータ、それに関わるサービスやソリューションなどを、関係する全部門の担当者がシームレスにアクセスできるようにするのです。

「また、AI活用に向けては高度な機能を備えたAIプラットフォームが欠かせません。それに向け、当社が提供しているのが『Einstein 1 Platform』です」と山中は紹介します。

住民・事業者の情報を持つCRMシステムや、多彩な外部データとEinstein 1 Platformを連携することで、データの横断分析を実行したり、住民からの問い合わせに対して適切な回答を生成して返信したりすることが可能になります。

「CRM以外のシステムに保管された情報も活用できます。特に自治体の場合、重要情報が複数のシステムで個別に管理されているケースが多くあります。それらの情報とも柔軟に連携し、リアルタイムに活用できるようにする『Salesforce Data Cloud』というソリューションも用意しています」と山中は続けます。

さらに、重要情報を多く扱うAI活用の仕組みで不可欠なのがセキュリティです。これについては、信頼性の高いAI活用を実現する「Einstein Trust Layer」を提供しています(図1)。

図1 Einstein Trust Layer:信頼性が高く、制御できるAI
図1: Einstein Trust Layer
データの内容のうち個人情報に関する部分をマスキングすることで、様々な生成AIサービスに入力できるようにする。また、侮辱や差別的表現などを検出し、取り除く機能も備えている

例えば、ChatGPTなどのオープンな生成AIサービスでは、入力した情報が再学習されてしまうため、住民のプライバシーに関わる内容を直接入力することができません。

Einstein Trust Layerを使うことでこの問題を解決できます。例えば、入力内容に特定の住民の氏名・年齢・家族構成などが含まれていた場合、Einstein Trust Layerが内容を識別して、個人情報に関わる部分をマスキングします。再学習されても問題ない状態にすることで、データを様々な生成AIサービスに入力できる状態にするのです。

「整えたデータはChatGPTに入力することが可能です。利用ログも残るので、どの職員が、いつ、どのような問い合わせを行ったのかを可視化し、監査などの際に活用することもできます」と山中は言います。

「表面」では見えないひとり親家庭を救い出す

Customer360という戦略のもと、Salesforceの多彩なソリューションを用いることで、自治体は高度なAI活用を具現化できるようになります。ここでは、ユースケースの例として、こども福祉領域における「ひとり親家庭の支援」の仕組みを紹介します(図2)。

図2 重要度を増しているひとり親家庭への対応
図2: 重要度を増しているひとり親家庭への対応
各自治体が最重要対応項目に掲げている領域の1つ。Salesforceは、多くの課題や問題点を解決するためのソリューションを提供している

まず、地域住民の中からひとり親家庭を抽出します。それには家庭ごとの状況や課題を把握する必要がありますが、これは1つのシステムに格納された情報だけでは難しいことが多いです。

そこでSalesforce Data Cloudを活用し、複数のシステムから横断的に情報を収めてCRMに統合します。これにより、住民の中から支援が必要なひとり親家庭を容易に抽出できるようになります。(図3)

自治体のDXを実現する One Platform
図3

次に、抽出したデータをAIで仕分けます。例えば「給付金の対象家庭」「経済的にひっ迫している家庭」などのグループ(セグメント)分けを、AIによって自動で行うのです。

「支援を必要としているにも関わらず、自治体が存在を把握できていないことが原因で支援対象から外れてしまっているひとり親世帯は多くいると思います。この仕組みを活用することで、そうした潜在的な要支援家庭を見つけ出せるようになります」とセールスフォース・ジャパンの森井 拓は説明します。

各家庭に寄り添った相談・支援を支える総合インフラ

そして、自治体にとって最も重要なのは、把握した支援対象家庭に向けて具体的な支援策を提供することです。このようなアクションもSalesforceが支援します。

例えば、BIツールの「Tableau」を活用すれば、支援対象家庭のこどもの健康診断受診状況や登園率、親の就労状況などを多面的に可視化・分析できます。また、チャットツールの「Slack」を使えば、保育所などの関係組織とも意見を交換しながら、実施すべき対応内容を検討できるでしょう。さらに、MAツールの「Salesforce Marketing Cloud」を活用すれば、メールやSMS、LINEなど、支援対象家庭ごとに適した手法でアプローチすることも可能です(図3)。

図4 Salesforceソリューションによる住民支援のプロセス
図4: Salesforceソリューションによる住民支援のプロセス
システム横断的なデータの利活用によって、潜在的な要支援家庭の可視化、関係機関とのコミュニケーション、および適切な支援策の立案・実行をトータルにサポートする

「職員の負担を抑えつつ、寄り添い型支援などの高度な住民サービスを具現化していくためにはAIを活用することが不可欠です。また、紹介したひとり親家庭の支援以外、例えばヤングケアラーの支援やこどもの安全確保などにも、Salesforceのソリューションは大きく貢献できると考えています。住民を中心に据えた統合的なAI活用を推進する際は、ぜひ検討いただければと思います」(山中)

Salesforceはこれからも、自治体業務の効率化、住民サービスの高度化に向けたトータルなソリューションを提供していきます。

記事監修

山中 晋典
株式会社セールスフォース・ジャパン
エンタープライズ公共・金融・地域SX営業統括本部
文教・NPO営業部長

森井 拓
株式会社セールスフォース・ジャパン
公共・金融・地域SXソリューション本部 公共ソリューション部
Principal, Account SE