近年、幅広い業界でIoTやビッグデータ、AIなどを利用している企業が増えています。とくにDXを推進していくうえでビッグデータをはじめとするデータ活用は欠かせません。
しかし、課題となるのはデータ活用の方法や手順です。データを正しく活用し、分析できなければビジネスに役立てることはできないでしょう。
本記事ではデータ活用の概要やデータ活用のメリットデメリット、データ活用の手順や事例について解説します。
最後まで読めばデータ活用の方法がわかり、自社での利用を検討できます。
目次
データ活用とは
データ活用とは、企業に蓄積されているデータや入手できる社外データを日々のビジネスの中で継続的に活用することです。
近年、IoTやビッグデータ、AIなどを活用する企業が増えています。顧客や社員の情報を収集・分析し、システムを用いてマーケティング戦略や人事戦略などを立案しているところも少なくありません。また、今年はChat GPTなどの生成AIツールが大きな話題になったこともあり、AI活用の検討を始めた企業も多いのではないかと思います。
データの分析結果を製品・サービスに反映させることで、自社の売上や利益につなげられる可能性もあります。
データを活用した意思決定とデータ分析の採用によって生産性の向上が期待できます。
データ活用とデータ分析の違い
データ活用と似た言葉でデータ分析があります。データ分析とは、収集データや加工データなどを整理した後、目的に沿って分析することをいいます。
それぞれの違いは以下のとおりです。
データ活用 | データ分析 |
---|---|
データから収集した情報を活用しビジネスに役立てる | データから知りたい情報を獲得する |
以上のようにデータ分析は、データ活用の手順のひとつで、あくまでも手段にすぎないことを知っておきましょう。
データ活用の現状
データ活用の現状について、以下の2点を紹介します。
- 幅広い業界で開発や効率化のためにデータが活用されている
- ビッグデータによってDXが推進されている
データ活用が多くの企業で取り入れられていることについて、具体的にイメージできる内容になっていますので、ぜひ参考にしてみてください。
幅広い業界で開発や効率化のためにデータが活用されている
総務省が公表している「デジタルデータの経済的価値の計測と活用の現状に関する調査研究の請負報告書」によると、以下のような業界でデータを活用していることがわかりました。
- 製造業
- 情報通信業
- エネルギー・インフラ業
- 商業・流通業
- サービス業
また、各業界で以下のような用途で活用していることも明らかになっています。
- 経営企画・組織改革
- 製品・サービスの企画、開発
- マーケティング
- 生産・製造
- 物流・在庫管理
- 保守・メンテナンス・サポート
以上のように幅広い業界で、さまざまな用途で使用されていることがわかります。ただし、中小企業で活用しているのは55%程度で、データ活用に向けた取り組みができていない企業も少なくありません。
今後、グローバル市場で競争力を向上させ経済成長を実現するためには、大企業だけではなく中小企業もデータ活用をしていくことが求められています。
ビッグデータによってDXが推進されている
現在、IT技術が発達しており、ビッグデータを活用できるようになり、さまざまな企業がDXを推進しています。
ビッグデータとは、人間ではすべてを取り扱えないくらい膨大なデータ群のことです。ビッグデータには以下の3つの要素(3V)があります。
- データの量(Volume)
- データの種類(Variety)
- データの発生頻度・更新頻度(Velocity)
ビッグデータの分析を通して、企業は一人ひとりの顧客の嗜好や行動を理解でき、マーケティングの改善に活用できます。
ビッグデータの活用により成功した企業もあります。
たとえば、AppleやGoogleのようなビッグテック企業です。ビッグデータと先進的な分析技術を活用した結果、世界のトップを争う企業になりました。
今後、企業の成長力を高めるためにはビッグデータを活用し、DXを推進することが重要です。
分析に活用されているデータの種類
総務省の「令和2年版情報通信白書」分析に活用されているデータの種類として主に以下のようなものがあります。
カテゴリ | データの種類 |
---|---|
業務データ | ・顧客データ ・経理データ ・業務日誌データ |
販売記録 | ・POSデータ ・eコマースにおける販売記録データ |
顧客とのコミュニケーション | ・電子メール ・CTI音声データ ・固定電話 ・携帯電話 |
自動取得 | ・アクセスログ ・動画・映像視聴ログ ・Blog・SNS等記事データ ・GPSデータ ・RFIDデータ ・センサーデータ ・交通量・渋滞情報データ ・気象データ ・防犯・遠隔監視カメラデータ |
医療 | ・電子カルテデータ ・画像診断データ ・電子レセプトデータ |
それぞれ業界や職種によって利用しているデータは多種多様です。
データ活用のメリット
データを活用するメリットとして、以下の4点があります。
- 自社の経営状況や課題を正確に把握できる
- 素早い意思決定ができる
- 業務を効率化できる
- 新商品や新規事業の発見につながる
メリットを知ることでデータ活用が自社にとって必要なものかどうかを判断できます。それぞれについて詳しく解説します。
自社の経営状況や課題を正確に把握できる
自社の経営状況や課題などが可視化され、俯瞰して自社の状況を把握することが可能です。
業務担当者や経営者のカンや経験による主観的な判断で行うと、誤った方向性で戦略を立ててしまう可能性もあります。
データ活用によって、販売不振の原因やボトルネックになっている業務などを正確に把握できるため、適切な対処方法を見つけやすくなります。
素早い意思決定ができる
データ活用によってリアルタイムで情報を共有でき、迅速な意思決定が可能です。
昨今は顧客のニーズや嗜好が複雑化しています。テクノロジーの発展によって市場の変化が激しく、カンに頼った判断や意思決定にはリスクがあるので注意が必要です。
データ活用によって短時間で最適な対処方法を見つけやすくなるので、行動にスピード感が生まれ、改善点の発見や新たなビジネスの創出をしやすい体制を整えられます。
業務を効率化できる
データ活用によって、ムダな作業を削減できるようになり、業務の効率化につなげられます。
たとえば、経理業務のデータを電子化することで書類作成や管理が容易になります。人的ミスも減らせるため、手戻りが発生するのを防ぐことが可能です。
社内にある大量のデータもAIを利用して自動で簡単に分析することができるようになります。売上予測やマーケティング施策の提案などもできるため、経営戦略や商品・サービスの企画の立案もより効率的にできるようになるでしょう。
新商品や新規事業の発見につながる
膨大なデータを用いてさまざまな観点から分析できるため、ビジネスのヒントになる情報を入手できます。得られた情報を活用することで、新たな製品や事業領域に踏み出すチャンスにつながります。
たとえば、需要予測を分析して顧客のニーズに合った新商品を開発したり、自社の強みをデータで客観的に把握して新しい事業を展開したりすることも可能です。
データ活用のデメリット
データ活用にはさまざまなメリットがある一方で、以下のようなデメリットもあります。
- スキルが不足していると成果を得るのが難しい
- 導入時にコストが発生する
適切に活用できないと費用対効果が低くなるおそれがあるので、デメリットについてしっかり把握しておきましょう。
スキルが不足していると成果を得るのが難しい
データ活用に関するスキルが不足していると、データ分析をしても十分な成果を得られません。
データ活用には以下の3つのスキルを持った人材(データサイエンティスト)が必要です。
カテゴリ | データの種類 |
---|---|
ビジネス力 | 自社のビジネス課題を理解し解決できる力 |
データサイエンス力 | 情報処理・AI・統計学を駆使できる力 |
データエンジニアリング力 | データサイエンスを実装・運用できる力 |
以上のスキルを持っていないと、うまくデータを活用できない可能性が高いので、人材の育成が必要になります。
データ活用を成功させるには、データサイエンティストに指示を出すマネージャーや、経営層の理解も必要です。
人手が不足している場合はデータサイエンティストの採用や業務委託も検討しなければなりませんが、データ関連の人材は日本ではまだまだ不足しており、優秀な人材の獲得は容易ではありません。
導入時にコストが発生する
データ活用ツールを導入時に以下のものが必要になるためコストがかかります。
- データ収集ツール
- データ処理システム
- 分析ソフトウエア
ツールやシステムの導入以外にも、導入を担当する社員の人件費が発生するので、運用を始めるまでにある程度の資金が必要です。
ただし、最初にコストがかかっても、業務の効率化や事業拡大などの効果があるので、金額以上の効果が得られるでしょう。
データ活用を行う手順
データ活用は以下の手順で行います。
- 目的と課題の設定
- データ収集
- 分析データの準備
- データ分析
- アクションプランの策定
- 効果を検証
目的と課題の設定データ収集分析データの準備データ分析アクションプランの策定効果を検証データを適切に活用できるよう、正しい手順で分析を行いましょう。
目的と課題の設定
はじめにデータを活用する目的や課題を明確にしましょう。
目的と課題の設定例は以下のとおりです。
- 利益率が前期よりも低下しているので、生産コストを10%削減する
- 商品Aの売上で競合に勝つために、商品Aの売上を20%増加させる
- 急激な需要に対応できず欠品が続いたため、在庫の最適化をする
部門ごとに課題や悩みを洗い出して、使用するデータや、データの収集方法を検討しましょう。部門間でデータを共有したい場合は、担当者同士で意見を交換することが大切です。
データ収集
目的と課題に合わせ、必要なデータを収集します。データを収集する際には、以下のようなメタデータ(データに関するデータ)も合わせて収集する必要があります。
- データソース(データの提供元)
- データの所有者
- データの項目名
- 項目についての説明
なお、AIを活用したいと考えている場合は、予測の手がかりとなる情報を大量に用意しなくてはなりません。たとえば「スーパーの顧客がクーポンに反応するか?」と予測する場合でも、数ヶ月分の購買データや個人属性のデータが必要になることがあります。
分析データの準備
収集したデータが分析に使えるかどうかを確認するために、以下の3点をチェックしましょう。
- データの品質
- データのバリエーション
- データのボリューム
品質については主にデータに誤りがないかを確認します。間違いがあれば修正や削除をしましょう。
バリエーションについては、分析したい内容に必要なデータ項目が揃っているかどうかを確認します。
ボリュームに関しては分析に必要なデータ量があるかどうかを確認します。AIを活用する場合は膨大なデータ量が必要であるため、不足している場合はさらに収集しなければなりません。
必要に応じて分析に使うシステムにあわせてデータを加工して準備する必要があります。
データ分析
データの準備ができたら、分析を開始します。
適切なデータ分析により、合理的な意思決定が可能です。今まで気づけなかった課題やビジネスチャンスにも気づけるでしょう。
データ分析には、以下のような手法があります。
分析手法 | 方法 |
---|---|
クロス集計 | 収集したデータを属性や設問で分析する手法 |
クラスター分析 | 特徴が似たものをグループ分けする手法 |
ロジスティック回帰分析 | ひとつの問いに対する回答をYESとNOの二択で整理し予測する手法 |
決定木分析 | 予測の繰り返しにより複数の結果を導き出す手法 |
ABC分析 | 商品・売上・顧客などをA、B、Cの3段階にランクわけする手法 |
複数の手法を使い、多角的に分析することで高精度な結果が得られます。
▶ 利益を最大化するデータ分析の基本と営業・マーケで有効な手法を解説
アクションプランの策定
アクションプランは以下のように分析結果の種類に応じて内容が異なります。
分析結果の種類 | 内容 |
---|---|
1回のみの分析 | 結果をベースにアクションプランを策定する |
継続的な分析結果 | 予測モデルをどのように経営戦略や事業に落とし込むかを考慮してアクションプランを策定する |
アクションプランを策定する場合、最初に設定した目的と課題に合っている、かつ実現性の高いものにすることが重要です。
効果を検証
アクションプランを策定して実施したら、効果を検証しましょう。効果を検証しないと課題が解決できたかどうかがわからないため、事前に確認します。
効果検証は長期的に実施するのが大切です。持続的に効果がなければ、偶然成功しただけで成功事例のノウハウとして蓄積できないためです。
継続的にデータ分析や効果検証をすることで、より精度の高い予測や課題解決方法の発見ができるようになります。
データ活用の事例
データ活用の事例について紹介します。
- 本田技研工業
- ミツカン
- ダイキン
データ活用を実践し、どのような成果が得られたかを具体的に把握できますので、ぜひお読みください。
本田技研工業
本田技研工業はドライバーの快適なカーライフを実現するため、ドライブ情報ネットワーク「internavi」を2002年から開始しています。「internavi」とは安全や天気、低燃費などの情報を提供するサービスです。
「internavi」の活用により約20%早いルートが案内され、約16%のCO2削減ができたり、急ブレーキ回数を約7割減できたりしました。
ミツカン
ミツカンには、主力製品である冷やし中華つゆがオフシーズンになると余剰在庫を抱えてしまうという課題がありました。そこで冷やし中華つゆについて、以下の観点から需要予測を分析しました。
- 売上
- 発注量
- 廃棄量
- 気象
結果、冷やし中華つゆの余剰在庫を約40%削減でき、物流で排出されるCO2も削減できました。
ダイキン工業
ダイキン工業は故障・品質管理を強化するため、以下のようにデータ活用を実施しました。
- AIでエアコンの具体的な不具合箇所や、交換が必要な箇所を特定
- AIで運転異常が出る予兆を検出
結果、不具合の原因を特定することで、故障時の現場訪問が1回で済むようになりました。1年以上早く製品の不具合をフィードバックできるようになり、PDCAをよりスピーディに回せるようになりました。
データ活用で業務改善・改革の促進へとつなげDXを成功させる
データ活用によって業務の改善や改革ができ、コストの削減や顧客満足度の向上につなげられます。新規事業の拡大や新商品の開発にも活用できるので、売上の増加も期待できます。
データ活用で成功するには、顧客管理情報や商談管理など、社内におけるすべてのデータを収集できるシステムを活用しましょう。
たとえば、営業部門やマーケティング部門であればSFAの導入を検討してみてください。
また、ツールを選ぶうえでAIが搭載されているかどうかも重要です。AIが生成する提案や需要予測などの機能によりムダな業務を省けるため、顧客との関係を築くために多くの時間を割けられるようになります。
以下の記事でAIの価値についてお伝えしています。ビジネスにおける影響や活用するメリットについて紹介していますので、ぜひ参考にしてみてください。
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