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飛躍するディップのAI事業をリードするキーパーソン、志立正嗣COOの「頭の中」 

飛躍するディップのAI事業をリードするキーパーソン、志立正嗣COOの「頭の中」 

生成AIなど先進的なテクノロジーを積極的に活用し飛躍的な成長を遂げるディップで、COOとCHO、AIエージェント事業のトップを兼任する志立正嗣氏のインタビューから、リーダーシップとテクノロジー活用を促進させる企業カルチャーを探ります。

生成AIなどの先進テクノロジーの活用に積極的な企業として知られるディップで、COOとCHO、そして今注力するAIエージェント事業のトップを兼任する志立正嗣氏。

SlackやChatGPTなどを駆使し、全社が一丸となったチャレンジを可能とする経営インフラを整えて、成長へと邁進している。そんな志立氏のリーダーシップの秘訣とAIの可能性など、多角的に詳しくお話を伺いました。

Slack AI とは。「3つのAI 」で働き方はもっと楽になる。

Slack AI とは。「3つのAI 」で働き方はもっと楽になる。

日本の「働く幸福度」を上げたい

──志立さんは現在、ディップの代表取締役COOとCHO(最高人事責任者)、AIエージェント事業本部長を兼任、幅広い領域をマネージしています。2020年にまずCOOに就任した経緯をお聞かせください。

私は、ディップに籍を置く前は、ヤフーで23年間働いていました。20〜30種類ほどの新サービスを立ち上げたり、広告事業責任者を務めたり。当時子会社だったデータセンター事業のIDCフロンティアの社長を務めたこともありますし、CIOの役割も担いました。

志立 正嗣 Masatsugu Shidachi 
ディップ株式会社  代表取締役COO(最高執行責任者) 兼 CHO(最高人事責任者)兼 AIエージェント事業本部長
志立 正嗣 Masatsugu Shidachi
ディップ株式会社 代表取締役COO(最高執行責任者) 兼 CHO(最高人事責任者)兼 AIエージェント事業本部長

1991年、凸版印刷株式会社入社。1998年からヤフー株式会社にてサービス開発に従事。2012年に同社執行役員に就任し、広告・メディア事業・データ部門の責任者、社長室長、コーポレートグループCIOなどの要職を務めた。2017年、株式会社IDCフロンティア代表取締役社長に就任。2019年ディップ株式会社の社外取締役、2020年同社取締役COOに就任。

1つ目が2019年にディップが新たに発表した構造的な人手不足をはじめとする労働力に係る諸課題を解決する“Labor force solution company”へ進化するというビジョン。ディップが求人メディアから、AIなどテクノロジーを駆使して労働市場の課題解決へと事業を飛躍させるビジョンを知って「これは面白そうだ」と感じたことです。

私がヤフーで手掛けてきたインターネットテクノロジーを活用した事業開発の経験やデータストラクチャーを作るノウハウを役立て、世の中に貢献できると思ったのです。

2つ目は、少し抽象的な話し方をしますが「幸せな人を増やしたい」から。

インターネットが広く普及し始めた1998年頃、私はこのテクノロジーの大きな可能性に心が躍り、世の中全体が今よりずっと幸せな世界になると信じていました。

でも、25年以上経ってどうでしょうか。地方格差も情報格差も広がり、SNSでの心ない投稿に自殺する人もいます。実際、この20年間で日本の幸福度は下がっているという調査もあります。

私は長年にわたってテクノロジー業界に身を置き、数多くのサービスを立ち上げてきました。日本はとても便利になって、その中でヤフーの果たした役割は大きいという達成感もありました。

ただ、デジタルなサービスだけでは幸せな社会は実現しない。リアルな世界に直接インパクトのある事業に、インターネットやテクノロジーを活用しながら携わることが大事という想いが強くなっていたんです。

そんな時に、“Labor force solution company”というビジョンに出会い、心に大きく響いた。多くの人にとって労働は人生の中心にあります。幸福な労働を提供できるインパクトは、その人の人生の幸せに与える影響は大きい。「このビジョンが実現できたら、働く幸福度を上げて、日本を幸せにできる」。そう思ったんです。

飛躍するディップのAI事業をリードするキーパーソン、志立正嗣COOの「頭の中」 

Slackを全社導入。1か月で利用率90%に

──テクノロジー活用では、社内の効率化や生産性向上のためと、新サービスの創出など顧客向けの2種類があると思いますが、志立さんが入ってから、まず社内向けではどのような取り組みをしたのでしょうか。

いろいろあるのですが、入社して半年でSlackを全社導入しました。当時はコロナ禍で、リモートワークの中で、管理職から上がってくる「チームに指示が届かない」という声に疑問を感じて調べてみると、コミュニケーションの全てがメールだった……。そこで、Slackを一気に全社員に導入したのですが、ディップのすごいのが1ヶ月で利用者の割合が90%を超えたんですよ。

──テクノロジーツールを浸透させるのはどの企業でも苦労しますが、1か月で90%はすごいですね。

数年前までは、ディップのようなある程度の規模の日本の会社はTeamsを使うのが普通で、その頃にSlackを使っていたのは、スタートアップやエンジニア中心のテクノロジー企業が中心だったように思います。

そんな中でディップがSlackを数千ユーザーの単位で全社導入したことは、Slackの日本での立ち位置を変えたエポックメイキングな事例だったと僕は感じています。

Slack導入が爆速で進んだ背景は、現場でこうしたツールが求められていたというのもありますが、一番大きいのは会社の風土・文化ですね。

ディップの社員には、会社が一度決めたことを素直に受け止めてやってみようというチャレンジ精神が根付いている。だから、こういう場合に生まれがちな抵抗勢力がないんです。ここは、私も入社して驚きましたし、ディップの強みです。

Slack AI で組織内のナレッジを活用して生産性をアップ

AI で Slack 内のデータをフル活用する方法とは

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飛躍するディップのAI事業をリードするキーパーソン、志立正嗣COOの「頭の中」 

ニューテクノロジーを浸透させるための術

──ChatGPTの利用率の高さでも日本トップレベルと聞いていますが、その理由もやはり「文化」ですか。

一緒ですね。付け加えるとしたら、僕が決めるトップダウンの部分と、現場からのボトムアップをサンドイッチで進めていける体制もあることでしょう。

ディップでは、SlackやChatGPTなどの新しいテクノロジーを導入する際には、「アンバサダー制度」というものを取り入れて、ボランタリーな導入支援をする社員を任命するんです。Slackの時は170人くらい、ChatGPTの時は250人くらいのアンバサダーを設けました。

──アンバサダー制度は他企業でもやろうとしているケースがありますが、「笛吹けども踊らず」という状態でフェードアウトしてしまうケースも多いです。ディップではなぜ上手くいっているのでしょうか。

先ほど話したように、会社がやるぞと言ったことに素直にチャレンジする風土が前提としてありますね。その上で「最初に踊りたがる」(笑)人が全社員の1割くらいいて自然とアンバサバーが集まる。頑張って集めて無理やりやらせるようなことはありません。そして、アンバサダーをしてない人も冷ややかに見る人はいなくて、応援する。

「笛吹けど踊らず」という場合は、アンバサダーを集める段階でなんらかの無理が生じているのかもしれません。

──他の会社ですと、目の前の作業が忙しいことを理由に、業務のフレームや仕組み、ツールを変えることは敬遠されがちで、それも阻害要因になりますよね。

それもないですね。なぜなら、ディップにはフィロソフィーをとても大事にしている会社だからです。企業理念、ビジョン、ブランドステートメント、dip way、ファウンダースピリットで構成するフィロソフィーの浸透に心を砕いていますので、そうした変化を受け入れない環境ではありません。

先日、「CPO(チーフ・フィロソフィー・オフィサー)」を設置したんです。フィロソフィーにこそディップの一番のバリューと強みがあるので、そこにフォーカスして全社横断で管轄して責任を持って育てていく人を定めたんです。

他の会社だと、フィロソフィーが建て前のように経営陣から降りてきて、でもトップの本音や実態とズレているため現場が白けてしまうこともありますが、ディップの場合はそれがない。

創業者として冨田がずっとこだわってきた、社員総会などイベントも大切にして、社員たちはそこからエネルギーをもらって一丸となる文化があって、SlackやChatGPTのような新しいチャレンジもスピーディーに進められています。

少し脱線しますが、そんな冨田が最近良い本だと言っているのが、マーク・ベニオフさんの「トレイルブレイザー: 企業が本気で社会を変える10の思考」なんですよ。Salesforceとディップの考え方には近いところがあります。「オハナ(家族/共同体)」の考え方には僕も感動しました。

飛躍するディップのAI事業をリードするキーパーソン、志立正嗣COOの「頭の中」 

生成AIを活用したさらなる成長の実現

──ありがとうございます。テクノロジー活用のもう一つの側面、顧客向けの商品・サービス開発ですが、AIエージェント事業本部長を自ら務めリードしています。生成AIのインパクトをどう捉えていますか。

ChatGPT 3.5が出てきて何が起こったかというと、自然言語で話している言葉でコンピューターをコントロールできる時代がついに来たということ。

今までコンピューターというのは、コンピューター言語やコンピューターの構造に最適化された仕組みが生まれ、それに人が合わせていました。

入力するためのシナリオが綺麗にできているのがUXデザインですが、それは必ずしも人に寄り添ったベストな方法ではなく、「コンピューターに入力するために人がどう動けばいいか」に焦点が当てられていたわけです。そこから、ChatGPT 3.5の登場により、自然言語でコンピューターをコントロールできるようになった。これは本当に画期的なことです。

私たちは求職者と求人企業をマッチングするビジネスをしていますが、今までは情報の非対称性が大きい中で、求職者に本当に合った仕事を探すのは大変でした。コンピューターを使ってマッチングを行うにしても、求職者と“対話”しながら適職を見つけていくアプローチは難しかった。

そこにChatGPTのような生成AIが登場したことで、求職者一人ひとりと自然言語で対話しながら、その人に最適な職を提案していくことが可能になる。 これは私たちのビジネスを根底から変える可能性があると一昨年前の段階で、社長の冨田が直感したんです。そして今は、それが現実になりつつあると確信しています。

──AIエージェント事業開始の背景となる、働くに関する社会課題とはどのようなものでしょうか。

求人を探す方法としては、大きく分けて2つあります。1つは、自分でメディアを使って検索する方法。もう1つは、人材紹介会社のように仲介者が間に入って支援する方法です。

人材紹介の場合、「あなたはこういう特性があって、こういうことがやりたいと。でもこの条件だと求人がないので、この部分を調整するといい仕事がありますよ」というように、専門家が求職者の要望を汲み取りながら、求人とのマッチングを行います。

そして、企業側にも「こういう人材がいますよ」と紹介して、成約したらマージンをいただく。このビジネスモデルは、ここ数年で手数料が大きいエグゼクティブ層や比較的年収の高いミドル層で市場が大きく伸びています。

ただ、この市場が拡大している背景には「仕事探している人が、実際に働く職場のことがよくわからない」という、情報の非対称性が非常に大きいという課題がそもそもの前提にあるのです。

では1つ目の、求職者側がメディアを使って自分で探していく方法はどうか。昔は求人における情報が乏しかったので、「明るい職場です」というような曖昧な情報だけで選ばざるを得なかったですよね。

その後、インターネットの普及で情報量は増えたけれど、求職者側には職務への理解や情報を読み解く一定のリテラシーが求められる。ディップの求人メディア「バイトル」でも、営業が企業を取材して職場の特徴を記事にしたり動画を掲載するなど、情報の充実には努めています。

でも、その情報が、求職者一人ひとりにとってどのような意味を持つのか、その人たちのニーズにどれだけマッチしているかは、実際のところ未知数でした。

求職者の行動データを分析して最適な求人を提案するレコメンデーションもやっていますが、求職者からすると、「これが推薦されているのは、なぜだろう」と思ったまま、とりあえずクリックしている。

あるいは、比較サイトの口コミでも、書いている人の部署と隣の部署は全く違った、ということもよくある。生成AI以前のテクノロジーには、そういう限界があったのです。

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生成AIで加速するAIエージェント事業の未来

──生成AIを具体的にどのように組み入れていくのでしょう。

まず、生成AIの登場で今まで人でやらないとできなかったコンシェルジュのようなサービスが、AIでできるようになりました。AIで、個人の要望にフィットした求人を提案できるようになると、 情報の非対称性を埋めて、幸せなマッチングが山ほどできるようになります。

ディップは基本的に企業へ求人広告を直販する営業主体の組織なので、実際に現地から得た情報、つまり自社でコントロール可能な正確なデータをダイレクトにバンバン集めて、AIの精度を上げることができる。すると、マッチングしたときにあった違和感がなくなっていく。このプロセスを回し続けることで、僕たちはこの世界で圧倒的な存在になる。そう考えています。

──AIエージェント事業でこれまでとは違うステージに人材サービスが進化しそうです。

はい。ただ、今言ったことを実際にやるのは、実はすごく 難易度が高い。そのため、開発に際しては、ボトルネックを見極めること、コンピューターでの物作りの限界を知っていることが重要なので、そういう意味では僕の経験は生かせます。

社内のエンジニアと、外部のAIベンダーやパートナーと連携しながら、また僕自身がヤフー時代に全社の機械学習部署を立ち上げたこともあり、そうした業界ネットワークも活用して、開発を推進していきます。期待していてください!

信頼できる生成AIを実現するために準備すべき6つの戦略

このガイドでは以下の内容を詳しく解説します。
・生成 AI がもたらす機会と影響
・生成 AI に関する懸念
・生成 AI に備えたデータのセキュリティ戦略

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取材・執筆: 池上雄太、撮影: 遥南 碧、編集:木村剛士

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