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ユーザベース急成長の裏に「自由主義で行こう」 メンバーの才能が花開くDXの形とは

「DXの羅針盤 」では、DXを進める経営者を直接取材し、DX推進の背景にあるビジョンや想いなど、リーダーの生の声をお届けします。今回はユーザベース 代表取締役 Co-CEO/CTOの稲垣裕介さんにお話を伺いました。

DX(Digital Transformation : デジタルトランスフォーメーション)とは、デジタルテクノロジーを用いて、ビジネスの変化と市場の要求を満たす新しいビジネスプロセスや文化、顧客体験を生み出すことを指します。「DXの羅針盤 〜エグゼクティブに聞く変革の舵取り〜」インタビューシリーズでは、各企業でDXを進めるエグゼクティブリーダーたちを直接取材し、背景にあるビジョンや想いなど、生の声をお届けします。

第五回は、株式会社ユーザベース 代表取締役 Co-CEO/CTO 稲垣裕介さんです。

2023年4月に創業15周年を迎えたユーザベースは、M&Aや新規事業の創出を重ね、急成長を続けています。目下の課題は、プロダクト開発やビジネスの意思決定、ユーザーへのレスポンスなど、経営にかかわる全ての局面で最速を更新できるよう、社内インフラを整えること。そこには、エンジニアからCEOになった稲垣さんならではの視点がありました。

経済情報の力で、誰もがビジネスを楽しめる世界をつくる

酒井 ユーザベースでは、どのようなDXを進めていらっしゃるのでしょうか?

稲垣 私たちは創業当初から「経済情報の力で、誰もがビジネスを楽しめる世界をつくる」をパーパスに、すべてのビジネスパーソンが有益な経済情報を自然と受け取れるような情報インフラになることを目指してきました。蛇口をひねれば水が出るように、ほしいときにすぐ経済情報が手に入るイメージです。

ここで重要なのが、日本のビジネスパーソンがグローバルの経済情報を簡単に入手できるようにすること。さらに、きちんと多言語に対応し、グローバルのビジネスパーソンに対しても経済情報を提供することです。ですから、最初から世界展開を見据えてプロダクトを作っています。これが僕たちにとってのDXです。

課題は、ユーザー重視のプロダクト開発の裏側で、自分たちが労働集約的になってしまっていることです。社員が10人から50人になり、100人になり、今では1100人を超えています。社内の効率化を怠れば、プロダクトの改善やデリバリーを遅らせてしまうことになりかねません。僕たちは、お客さま以上にDXが進んだ世界で生産性・効率性を高めていかなければならないと強く意識しています。

株式会社ユーザベース 代表取締役 Co-CEO/CTO 稲垣裕介 氏

酒井 労働集約的な部分を平準化していきたいということでしょうか?

稲垣 そうですね。定常作業はできる限り平準化して負荷を減らし、皆がストレスなく働けるようにしたいです。ただ、すべてを平準化しようとは思っていません。例えば、システムによってコードが強制されるようなことを望んではいません。メンバーの個性を伸ばし、才能が花開くようにしないと、僕らの良さが失われてしまいますし、ユーザーの期待にも応えられなくなってしまいます。

酒井 ユーザベースの「The 7 Values」にも「自由主義で行こう」「異能は才能」という言葉がありますね。

稲垣 まさにそうです。会社に強制されている、あるいは制限されていると感じながら仕事をするのは苦しいものです。それで何かスキルが身についたとしても、本当の意味でその人の個性が生かされているとは言い難いのではないでしょうか。当然、自由には責任がともないます。自分自身が意志を持って行動する。それこそがその人の才能を開花させることにつながるのだと思っています。

生成AIが、ユーザベースのDXに与えるインパクト

酒井 今、ChatGPTをはじめ生成AIが目覚ましい進化を遂げていますね。これらはユーザベースのDXにどのような影響を与えると思いますか?

稲垣 現時点ではいろいろな可能性があると思っていますが、AIの真骨頂は、やはりデータです。僕たちの場合は、経済領域の潤沢なデータがそろわない限り、次のステップには行けないと思っています。

酒井 つまり、経済情報に特化した生成AIのようなものを目指しているということですか?

稲垣 僕たちが挑戦するとしたら、そうなりますね。ChatGPTが汎用的な情報を扱うのに対し、今後は特定の業界やニーズに合わせたバーティカルな使い方が増えてくるでしょう。

ただ、ChatGPTの要領で、経済領域のあらゆるデータを文章化して届けるには、情報そのものやコンテクストの正確性、そして著作権、この二点が大きな課題になってきます。AIにコンテンツを”食わせる”にあたっては、執筆者や情報を提供してくれる企業の方々と信頼関係を結び、合意形成できるかが非常に重要なポイントになってきます。

酒井 そもそも生成AIの登場有無にかかわらず、メディア全般に言えることですが、いかに正しい情報を届けるかって、ものすごく本質的な問題ですよね。

稲垣 自分が作ったコンテンツが勝手に切り取られ、全く違うコンテクストで使われてしまったとしたら……そんなことがあってはならないですよね。このあたりをどうクリアしていくのかは、僕らのビジネスに直結する大きなテーマだと思っています。

仕組み化によって「自分たちらしさ」を失わないために

酒井 DXを進める上で大切にしていることは何ですか?

稲垣 二つあります。一つは文化です。組織をスケールさせていくには、いろんなシステムや仕組みを導入する必要がありますが、それによって「自分たちらしさ」が失われていくのはいやなんです。何より大事なのは、自分たちの文化に合わせてインフラを整えていくこと。それが、「自由主義で行こう」というバリューを捨てずに組織をスケールさせる唯一の道だと思っています。

もう一つは、エンジニアとそうでないメンバーとが垣根なく協働できることです。自戒を込めてお話しするのですが、僕自身、CTOとしてユーザベースに参画した当初は、経営会議や取締役会に参加しても自分からは発言しなかったんです。そもそも話すことがないというか。「お金とかビジネスとか難しい話をしているな」と思いながら、下を向いてプログラミングをしていました。めちゃくちゃ受け身ですよね。

今ではあの頃の自分が嘘のように責任感も発言量も増しています。技術的優位性は事業優位性と同義です。ビジネスとエンジニアリングは切っても切り離せません。「よく分からないからエンジニアに任せよう」では成り立ちませんし、社内受発注の関係に陥るだけです。

でも、経営者として人前に立つと、エンジニアリングの質問ってほとんどされないんです。要は、僕がビジネスの話に興味が持てなかったのと同じように、対岸の景色があるということです。会社としてもう一段階成長していくには、エンジニアリングの前に立ちはだかる壁を壊す必要があると思いました。

そこで、僕らは2022年4月、「誰もがエンジニアリングを楽しめる世界」を目指すプロジェクト「Play Engineering」を始動しました。エンジニアか否かにかかわらず、特定の技術を身につけたメンバーに報酬を付与する「プラスエンジニアリング手当」や、全メンバーを対象としたエンジニアリング研修などを実施しています。現在60人以上が認定を受け、実際に給与が上がっていますし、メイン業務に加えてエンジニアリングの仕事ができるようになっています。

ノンフィクションライター 酒井真弓 氏

まだ何者でもなかった創業期、Salesforceが武器だった

酒井 DXを進める上で「やってはいけないこと」とは?

稲垣 使われないシステムは導入しない。これに尽きます。

酒井 実際、使われなかったシステムもあるんですか?

稲垣 たくさんあります。オーナーシップがないままシステムを導入すると、そうなりがちです。実際に使っていく中で、「これってなぜこうなんですか?」「期待通りに動かないのですが」などと意見されたときに、耐え切れなくなってしまいます。魂がこもっていないものは、どうしようもありません。トップダウンで他の製品に切り替えるということは何度かありました。

酒井 なるほど。では、ちょっと怖い質問をしますが、Salesforceは導入してよかったですか?

稲垣 もちろんです。僕らはSalesforceをグループの経営基盤として活用しています。何度かM&Aをして新しい仲間が加わっていますが、多様性のある組織を、多様性のあるまま統合していこうとしたときに、Salesforceの柔軟性と拡張性が役に立ちました。要は、各社のデータベースを物理的には統合せず、連携して集約する論理統合の形を採ったんです。これにより、成長のスピードを緩めることなく、変化に対応することができました。

また、Salesforceによって各事業のセールスの動きが可視化されたことで、経営の意思決定の強度も上がったと実感しています。最近は、お客さまから「SPEEDAとNewsPicksを組み合わせた提案がほしい」などと要望いただくことも増えていますが、こうした事業部間の協力もスムーズになりました。

酒井 そもそも、なぜSalesforceを導入したのでしょうか?

稲垣 Salesforceを導入したのは、明確に事業と言えるものがまだSPEEDAしかない頃でした。SPEEDAはプロファームや、事業会社の経営企画や事業開発の方々に販売しているプロダクトです。機能の説明やお客さまの課題に照らして提案する難易度が高い商品で、意思決定者の方々とのリレーション形成も重要です。なので、どうしてもトップ営業が役員メンバーとなってしまっていました。

でも、いつまでも役員メンバーがトップ商談で営業し続けることがベスト、というような根性論みたいな状態ではスケールできない。「THE MODEL」の営業の型化を参考に、マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスとチームを分け、仕組みで勝てる体制を作り上げようとなりました。そのシステム基盤としてSalesforceの導入が必要だ、と投資の意思決定をしました。

Salesforceを導入して約一年後、トップ商談の月間売上を超えるメンバークラスのセールスが現れ始めたんです。それも一人じゃなくて何人も。同時に、SPEEDAの成長曲線も右肩上がりになっていきました。

酒井 今ではSalesforceとSlackを連携したりして、Salesforceが社内インフラとしてより定着してきていると聞いています。

稲垣 Salesforce上で申請があると、Slackで通知される仕組みになっているのですが、Slackだけ見ていればキャッチアップできるので、一気にコミュニケーションが楽になりました。今後は、SlackとChatGPTを連携し、社内のことは何でもSlackで完結できる世界を作りたいと思っています。

迷ったら挑戦する道を選ぶ

酒井 最後に、稲垣さんがリーダーとして最も大切にしていることは何ですか?

稲垣 迷ったら挑戦する道を選ぶ。僕が一番好きな言葉です。それはリーダーに限らず、皆が迷ったら挑戦する道を選べるように支援したいと思っています。

正直、失敗することもたくさんあります。ただ挑戦する以上は失敗があることも当たり前で、その経験が成長につながり、次の挑戦に活かされていきます。営業も同じですよね。失注した商談の情報も、例えばSalesforceにしっかり蓄積して分析していけば、次の成約のための重要な資産になっていく。

行動しなければ何も起きないわけで、行動することは最終的にはトータルでポジティブなんですよね。時には責任を取らなきゃいけない場面に出くわすこともありますが、語弊を恐れずに言えば、たかが知れています。責任は積極的に取りにいったほうが、理想の楽しい世界にできるんじゃないかと思っています。

本インタビューを動画でも公開中!ぜひあわせてご覧ください。▶ こちらをClick

SalesforceとSlackを連携するとどうなる?

ほしい情報やデータをすぐに入手。そして、誰とでも、どこからでもつながる世界。稲垣さんがブログ内でお話していた世界観を知りたい方は、このページもチェック!

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