教育現場にチーム力を
校務DXのあるべき姿
デジタルの力を活用した「次世代校務DX」のニーズが急速に高まっています。 本ebookではSalesforceを活用した「次世代校務DX」で、教育現場の業務改革をどのように統合的に実現できるかご紹介します。
困難だった自治体の共同調達
現在、文部科学省が推進する「Next GIGA」構想がスタートしている。文部科学省の令和5年度補正予算では、「1人1台端末の着実な更新」が盛り込まれ、「都道府県を中心とした共同調達等など、計画的・効率的な端末整備を推進」するための予算が計上された。
こうした中で都道府県や市町村の教育委員会には、どのような対応が求められるのか。文部科学省や経済産業省、デジタル庁などで各種委員会の委員を務めたほか、現在は全国の自治体の教育DXを支援している教育ICT政策支援機構(JEIPO)の代表理事、谷正友氏は次のように語る。
「数年前に『GIGAスクール構想』が打ち出された時、広域での共同調達が推奨されていました。しかし、共同調達を実施した自治体は一部にとどまり、全国で各自治体が個別に調達して混乱を招きました。1人1台端末の更新(以下、NextGIGA)が迫っていますが、今回は都道府県単位での共同調達を原則としています。一方で、自治体では定期的に人事異動がありますから、数年で担当者が代わっていきます。さらに都道府県にとっては初めての義務教育段階での1人1台端末の取組といった状況で、GIGAスクール構想第1期の教訓やノウハウを活かして、端末の更新に取り組むのは容易ではないと思います」
文部科学省によれば、2019年に始まったGIGAスクール構想の第1期では、24の都道府県が共同調達を実施したが、半数以上の市区町村が参加した共同調達は11都道府県にとどまった。当時、コロナ禍による整備前倒しが求められ、多様な自治体の要望を集約・調整することが困難な事例も見られた。
奈良県にみる共同調達成功の秘訣
こうした中で、谷氏がGIGAスクール構想の推進に携わった奈良県では、2020年に共同調達を実現した。県内の39市町村1組合のうち95%の自治体が共同調達に参加し、児童生徒数の割合で見ると、97.2%の台数を共同調達で購入した。
「共同調達でICT教育環境の基盤を整えたことは、大きな意義があると感じています。Next GIGAでも、奈良県が実施したような共同調達が他の自治体でも求められると考えています」(谷氏)
奈良県が共同調達を実現した背景の一つに、2020年に発足した「奈良県域GIGAスクール構想推進協議会」の存在がある。
同協議会には県や市町村の教育長や行政担当者、有識者などが理事会を構成し、全市町村参加の体制を整え、谷氏が調達使用等を各自治体と協議する調整部会の会長を務めた。そこでは教育内容を充実させるためには何が必要かなど、教育の情報化の整備や教職員の資質向上ための研修のあり方などを議論し、関係者間で意識や理解の共有を図った。この議論の中で、奈良県内のすべての市町村が、何のために環境を整備するのかという目的として、「住んでいる地域、学校の規模、家庭の環境、に関係なく学校に通うすべての子どもたち最新の質の高い学習環境を整える」を共有しました。この目的はNextGIGAでも踏襲されます。また、大切にすることとして、以下の3点を大切なこととして合意します。
- 子どもが自分で学べるようにする
- 環境を何のために創るのか。すべきことを可視化=共有する
- 特別なことはしない。あたりまえのことをあたりまえにする
そして、県域GIGAスクール構想のコンセプトを次の5つに定めた。
- クラウド活用を前提。端末に依存しない=インストールしない
- 子どもに自由に学ばせるために、セキュリティを担保した安全な環境を用意する
- 本人が管理する。家庭でも学習できるように持ち帰ることを前提とする
- 次のスタンダードはBYOD
- 1人1アカウントマルチデバイス。学びを教育段階を超えて繋いでいく
奈良県ではこうしたコンセプトを定めて共有し、各自治体が大きな枠組みで合意することで、共同調達の実施へと至っている。NextGIGAに向けても同様の議論を行っているところです。
「あるべきき理想のカタチを共有し、そのためには何が必要かを議論したうえで、共同調達に踏み込んでいくことが大切だと思います」(谷氏)
文部科学省は令和5年度予算において、都道府県単位で共同調達を推進するためのスキームを発表している。具体的には、各都道府県が「共同調達に関する会議体」を設置・運営し、ここに全ての市区町村が参加する。
そして都道府県において域内の市区町村の端末調達の需要などの調査し、端末やオプション内容などを統一した共通仕様(スペック、標準アプリ等)を策定する。
共通仕様書に関しては、国が示した最低スペックとガイドラインのほか、OS・メーカー・通信会社などの事業者が参加するピッチイベント(デジタル庁・文部科学省が共催)で示されたパッケージを参照しつつ、それぞれの地域の実情に応じて作成し、それに基づき公告を実施する。こうしたスキームにより文部科学省は端末購入を補助し、共同調達を強力に後押ししていく計画だ。
また、奈良県ではGIGAスクール構想第1期で端末を調達後、教育委員会の情報システム部門の役割自体をアウトソースし、集約した。県域の「IT部門」を設置し、これをGIGAスクール運営支援センターと位置づけ、組織的なICT運用支援体制を構築した。
県域の「IT部門」が国の補助金を適切に運用し、クラウドサービスの運用管理などを担うことで、教員委員会の運用負担を軽減し、あるべき教育を目指すための基盤を整えた。
近年、全国の学校現場ではカリキュラムの複雑化に加え、地域や保護者との連携など各種施策にも対応しなければならず、教職員は多忙な毎日を送っている。ICTの活用についても、学校現場では「バラバラのクラウドサービスで煩雑」「運用ルールが曖昧で不安を感じる」「セキュリティポリシーがなく基準が曖昧」など等の様々な課題を抱えており、教育委員会はこうした課題に対応しなければならない。
「Next GIGAへ向けて文部科学省は、校務系・学習系システムのパブリッククラウドへの移行や、セキュリティの高度化の必要性を示し、具体的なガイドラインも策定しています。ICT基盤の構築やセキュリティの高度化などの環境整備は、教育委員会にしか実現できません。教育委員会は学校現場に任せるのではなく、自分たちができることにしっかりと向き合う必要があります」(谷氏)
ICTの積極的な活用は、教職員の働き方改革につながる。
「ICTの活用で、教職員が仕事しやすい環境や、子どもたちと教職員が密に会話し合う環境の実現、さらには社会に開かれ、誰一人取り残すことのない学びの基盤づくりが可能になります。そうしたICTの役割は、教育委員会の役割とも重なります。新しい学校のカタチを目指して、教育委員会はICT基盤の構築を牽引することが求められます」(谷氏)
Salesforceが教育DXに貢献できること
新しい学校のカタチを実現するためには、データの活用が欠かせない。収集したデータは、児童生徒の学力向上や教職員の働き方改革、保護者とのコミュニケーションの円滑化など、様々な活用が考えられる。Salesforceでは、こうしたデータ活用の促進に向けて様々なサポートを提供している。
米Salesforceは1999年にサンフランシスコで創業し、日本では2000年から事業を展開。世界のCRM(顧客関係管理)市場でシェアトップを誇るとともに、多様な製品を通して、デジタルを活用して人と人との関わり方をより良くする取組みを支援している。
また、社会貢献にも力を入れ、グローバルコミュニティと連携して世界の課題解決に取り組む「Salesforce.org」を組織している。社会貢献活動の一環として初等中等教育の課題解決にも貢献し、全世界で5000以上の教育機関を支援してきた。
近年は日本においても教育分野での取組みを強化している。文部科学省のWeb調査システムを構築し、業務調査の迅速化と実施する側・される側の作業負荷を削減することに成功した実績を持つ。
教育分野での展開について、セールスフォース・ジャパンの山本和弥は次のように語る。「私たちはグローバルにおいて、学習者と教育機関とのエンゲージメントを一時的なものではなく、生涯にわたる形へと変化させるCRMプラットフォーム『Education Cloud』を提供しています。それは『データ+AI+CRM』の力で、児童生徒の入学前・在学中・卒業後と、それぞれのタイミングで適切な体験を生み出すとともに、一貫性のある生涯教育をサポートします。日本でも教育機関への支援に力を注ぎ、Next GIGAへの対応を後押ししています」
教育DXとクラウドは相性がいい
続けて山本は、教育におけるデータ活用の課題について次のように語る。
「現状では、教育データを収集するだけで終わってしまい、その先にある教育改善や学校業務の効率化には、つながっていないケースも多いと感じます。データを活用して業務を可視化すれば、一部の業務をアウトソースしたり、分業化しやすくなるなど、変革が加速します。SalesforceはSaaS型クラウドを提供し、教職員の負担を軽減して、創造的な学びの環境の実現に貢献します」
JEIPOの谷氏は、「学校現場におけるSaaSの有効性は、私も実感しています」と語る。
「教育委員会がICTの専門スタッフを潤沢に抱えるのは難しいでしょう。人的リソースが限られる中で、一部の業務を民間事業者に委託したり、SaaSを上手に活用することで、ICT基盤を整備できます。Next GIGAに対応するためには、様々なサービスの利活用が欠かせません。コーディネートを担うパートナー事業者とともに、教育DXを進めていくのがよいと思います」(谷氏)
Salesforceは、いつでも、どこでも、誰でも、同じ環境で安心して使えるICT基盤の構築を支援している。新しい学校のカタチを目指して、これからもSalesforceは教育機関への貢献に力を入れていく考えだ。
AIで教育機関を 変革するための 4つの実践ステップ
学生のエクスペリエンス向上やキャンパス全体の効率性向上にむけてどのように生成AIは亜活用できるのか、本プレイブックではAIから有意義な価値を引き出すための実践ステップについてご紹介します。
記事監修
谷 正友 氏
一般社団法人 教育ICT政策支援機構
代表理事
プロフィール:
大手SIerを経て、2013年より奈良市役所、奈良市教育委員会事務局にて勤務。奈良県域GIGAスクール構想推進協議会調整部会会長として奈良県域のFirstGIGAを牽引。2023年一般社団法人教育ICT政策支援機構を設立、代表理事。
現在、文部科学省学校dx戦略アドバイザー、「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」の改訂等に係る検討会委員、7自治体の教育DX推進コーディネータはじめその他デジタル庁、文部科学省の複数の委員も務める。
山本 和弥
株式会社セールスフォース・ジャパン
ビジネスオペレーション統括本部
Japan Salesforce.org Product Manager
プロフィール:
2018年、Salesforceに入社。2019年からSalesforce.orgへ参画し、日本における教育機関向けビジネスの立ち上げを1から行う。以後、教育機関および非営利団体向け製品の日本法人責任者として、製品の日本展開と事業開発に従事。日本では数少ないSalesforce.orgのメンバーとして、ビジネスと社会貢献の両面から教育機関と非営利団体と支援。