12月に日本で初めて生成AI機能をリリースして約3か月が経ち、効果を出してくださっているお客様が増えています。
そんな中、AIはさらに進化。対話型AIアシスタント「Copilot」と称する数多くのAIプロダクトがリリースされており、Salesforceも2月29日に米国で「Einstein Copilot」をβリリースしました。
急速に進化するSalesforceのAI「Einstein」の最新内容と戦略は何か。日本ではどこまでできるのか。それを実現するためには何をすればいいのか。
これらの問いに対して、明確な回答をお持ちではない方々もまだ多いのではないでしょうか。そこで、日本でのロードマップと「Einstein 1 Platform」を有効活用するための具体的なステップを明示し、“AI Transformation”を実現する方法を日本のEinstein製品担当者が解説します。
今回の解説者
深田 紘平
セールスフォース・ジャパン プロダクトマネージャー
AI製品のプロダクトマネージャーとして、Einsteinの日本市場における立ち上げと成長を推進。京都大学大学院で機械学習を専攻し、2020年新卒入社以来、プリセールスエンジニアからプラットフォーム製品のプロダクトマネージャーとして得た経験を活かし、顧客の声とAI特有の言語特性を製品開発に直接反映させることで、AI製品とビジネスの成長を目指す。
SalesforceのAI、Einstein をどう使える?
営業担当者がアシスタントとしてEinsteinを活用することで、顧客情報の要約とおすすめ提案商品を得ることができ、お客様に案内を送るためのメールを作成してくれるシーンを紹介します。
目次
Salesforceが分析するAIのトレンド
私たちは現在、生成AI時代の真っ只中にいます。AIの影響力は日々増しており、メール作成から画像生成、情報収集、コーディングまでをサポートしています。このAIの進化について、SalesforceのCEOであるMarc Benioffは「4つの波」と表現し、このトレンドを説明しています。
一つひとつご説明します。
最初に予測型AIが登場し、データ分析と将来の出来事予測を可能にしました。
次に、生成AIが私たちの能力を一新し、テキストや画像、音声といったコンテンツを自動生成することで、創造力を拡張させました。
そして、自律型AIが登場し、自らの判断でタスクを実行することができるようになりました。
最終的に、我々は汎用人工知能(AGI)に到達しようとしています。これは、人間と同等の知能レベルを持ち、あらゆる知的タスクをこなせるAIの実現を意味しています。
「4つの波」を紹介してきましたが、特に注目すべきは「生成AIからエージェントAIへのシフト」です。
生成AIがコンテンツ作成の自動化を可能にしたのに対し、エージェントAIはさらに一歩進み、具体的なタスクの実行、問題解決、そして目標達成を目指す自律的な行動を展開します。このシフトは、AIを使った作業の本質を根本的に変えています。
エージェントAIの台頭により、AIはもはや単に命令に従うだけの存在から、主体的に作業を進め、状況に応じて適応し、時には予測不可能な問題に対処するパートナーへと進化しています。
この進化は、ビジネスプロセスの自動化だけでなく、顧客サービスや製品開発、さらには戦略計画に至るまで、あらゆるレベルでの作業効率と創造性の向上を可能にします。
このトレンドシフトは非常に興味深く、私たちの製品開発における重要な指標となっています。
SalesforceのエージェントAIとは?
エージェントAIの波はすでにきています。Salesforceは、対話型AIアシスタント「Einstein Copilot」を2月に米国でβリリースしました。
Einstein Copilotを提供開始
米国セールスフォースは、カスタマイズ可能で対話型の新しいCRM向け生成AIアシスタントであるEinstein Copilotの正式ベータ版を提供開始すると発表
日本で12月にリリースした、テキストや様々なメディアの生成を自動化できる「Einstein (旧 Einstein GPT)」よりも柔軟性があり、ユーザーの意図、文脈を理解し、幅広いタスクに対して様々なアクションが実行できます。
これは、CRMとやりとりを行う方法を大きく変えます。Salesforce AIのCEOであるClara Shirの動画でその可能性を感じていただければと思います。
営業アプローチの自動化例
Einstein Copilotのメリットは多種多様ですが、ここでは、営業現場における生成AIとの違いを紐解いていきます。
生成AIが営業メールを自動で生成することに注目が集まっていますが、実際にはアプローチすべき商談や担当者の発見からメールの展開まで、手動での作業が多く必要とされます。現状の最先端の生成AIでさえ、「メールを生成する」というプロセスの一部しか自動化できていないのです。
しかし、Einstein Copilotなら、よりダイナミックなアプローチで成果を出せます。例えば次のようなリクエストを考えてみましょう。
「現在の私のTOP5商談を教えてください。その中で取り組むべきものがありますか。フォローすべき商談があれば、担当者に送るメールのドラフトを作成してください。」
これを実現するためには、LLM単体では難しいでしょう。しかしEinstein Copilotなら、担当者の商談データやLLMを組み合わせて、以下のように要件を整理し実行できます。
- 担当者の商談を解析 (上位の商談5件)
- 商談情報を確認 (商談金額、ネクストステップ、最新の見積)
- ガイド文書を生成 (商談に取り組むべきか、その理由)
- 個別のパーソナライズ (お客様に合わせたメッセージ)
これらのステップを完了するには複数回のやりとりが必要になるかもしれませんが、Einstein Copilotは質問への回答、コンテンツの要約、新しいコンテンツの作成、複雑な会話の解釈、ユーザーに代わりタスクを自動化することができます。
この結果、Einsteinは2016年にリリースした予測型AIに加え、セールスメールや会話返信などユースケースに応じてすぐに活用できる埋め込み型の生成AI機能と、質問への回答、コンテンツの要約、アクションまで実行する対話型AIアシスタントをこの一年で搭載。大幅に進化しました。
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SalesforceのAIを最大限活用するために
ここまでSalesforceのAI、Einsteinの進化を説明してきました。では、Einsteinの力を最大限発揮するために何が重要なのか。そして、どこから始めるべきなのでしょうか。
Einsteinのパワーを享受するためには、Salesforceのメタデータモデルが搭載されたEinstein 1 Platformを最大限活用する必要があります。
メタデータ搭載のEinstein Platoformこそが重要で、Einstein が「ビジネスに最良のAI」と呼ばれている由縁です。この技術の基盤となるメタデータモデルとEinstein Platformについて知るために、まずこのブログをご覧になっていただき、そのうえで読み進めていただければ幸いです。
Einstein 1 Platformを最大限活用するための4つのステップは以下です。
- CRMに組み込まれたすぐに使える生成AIを有効化する
- プロンプトビルダーでCRMおよびData Cloudデータをグラウンディングしてアウトプットを業務に最適化する
- Data CloudでEinsteinのナレッジを拡張。非構造化データやBYOLでData Cloudを強化
- Einstein 1 Copilotでアクションを備えた対話型CRMアシスタント
これらのステップを具体的に解説します。
1. CRMに組み込まれたすぐに使える生成AIを有効化する
Einsteinは、Salesforceのビジネスアプリケーションにシームレスに統合され、複雑な設定不要で即座に予測と生成AIの恩恵を受けられるように設計されています。
これにより、多岐にわたる業務支援が可能になります。
しかし、実際にビジネス成果を上げるためには、具体的なユースケースとそこで創出するべきビジネス価値の明確化が必要不可欠です。
特に、営業やカスタマーサービスなどの領域では、どの業務タスクにAIを適用すべきかを慎重に検討することが求められます。
この記事では、それらのユースケースを動画を交えて紹介しており、どの機能をどのようにビジネス成果に結びつけるかを考える上での良いスタートポイントとなります。
サービス、セールス業務の両面で日本で活用できる機能はすでに複数存在します。効果的なマッピングにより、最大のインパクトをもたらす機能やユースケースを見極め、戦略的な実装計画を立ててみてください。
2. プロンプトビルダーでCRMおよびData Cloudデータをグラウンディングしてアウトプットを業務に最適化する
次に、プロンプトビルダーを使用して、CRMとData Cloudのデータに基づき、業務に合わせたカスタマイズされたアウトプットを得る方法を探ってみましょう。
このツールを活用すれば、即座に利用可能な生成AIの出力を、自社の業務プロセスや社内データに沿って微調整することができます。プロンプトビルダーを用いて、AIが顧客データに基づいた具体的な結果を提供するためのプロンプトを開発し、カスタマイズすることが可能です。
CRMに既に存在するデータ資産を活用し、プロンプトビルダーでこれらを解放してみましょう。標準オブジェクトやカスタムオブジェクト、さらにはData Cloudやフローから取得したデータを参照し、出力結果を実際のCRMデータで置き換えることで、最適な顧客データを反映させることができます。
これにより、生成された各プロンプトの出力をテストし、組織全体で一貫性のある成果を実現することが可能になります。優れたAIのアウトプットには、優れたプロンプト、優れたデータが欠かせません。すでにプロンプトビルダーは2/29から日本で活用でき、Data Cloudとの連携含めてすでに実現できる機能は多いです。
3. Data CloudでEinsteinのナレッジを拡張。非構造化データやBYOLでData Cloudを強化
CRMやData Cloudの構造化データを用いたアウトプットの最適化に成功した後、次に考えるべきは、ナレッジ記事のPDFや商談の音声データなど、非構造化データの活用です。
非構造化データは企業データの約80%を占め、その活用は顧客体験の向上に直結します。Salesforceでは、この非構造化データをData Cloudに統合し、簡単にアクセス可能なインデックスを生成することを目指しています。
このアプローチにより、データはネイティブなベクトルデータベースとして保存され、CRMアプリケーションやプロンプトビルダー内で、セマンティック検索を利用することが可能になります。
これによって、以前には得られなかった高い関連性を持つAIによる回答や推薦が可能になり、既存のユースケースを拡張し、データ活用のレベルを一層高めることができます。ベクトルデータベースの日本でのパイロットは4月中旬以降なので、ぜひData Cloudを有効化して準備を進めてください。
4. Einstein 1 Copilotでアクションを備えた対話型CRMアシスタント
信頼できる構造化および非構造化データを基に埋め込み型の生成AI機能が強化された後、次のステップは、質問に答え、コンテンツを要約し、アクションを自動実行するような対話型インターフェースを通じて、これらのデータをさらに活用することです。
Einstein Copilotを使用することで、容易にこれまでのデータにアクセスし、単にデータを生成するだけではなく、実際のアクションにまで及ぶ活用が可能になります。
重要なのは、「アクション」の実行能力です。これには、レコードの検索や更新などの基本的な操作から、管理者が設計したフローやApexを用いたカスタムアクションの実行まで、自然言語で指示できる範囲が含まれます。
このようなプラットフォーム上でのオートメーションは、Salesforceのアプリ全体で機能するだけでなく、SlackやMuleSoftといった他のツールへのアクションをも容易にし、Salesforceエコシステム全体の利便性と機能性を大幅に拡張します。
これは、Salesforceが提供する大きなメリットの一つです。Einstein Copilotの日本での展開は今後になりますが、このステップを見越して前半の三つのステップでAIの実装スケジュールや戦略を検討してみてください。
さいごに
この記事を通じて、SalesforceのAIが持つ幅広い可能性をお伝えしましたが、それによってAIの活用が難しそうに感じられたかもしれません。
しかし、重要なのは、Salesforceが既にこれらの技術をロードマップに組み込み、AIの未来を慎重に計画していることです。私たちが提案する対話型AIインターフェースや非構造化データの利活用といった点は、ただのビジョンではなく、AIのトレンドをリードするものであり、実際に今、私たちがお客様と進めているロードマップです。
そこで皆さんにお伝えしたかったのは、これらのロードマップが実現した際にスタートできるように、まずはEinsteinの「すぐに使える生成AI」など、簡単に始められる機能から手を付けてみることです。
社内で実際に使ってみたいユースケースを話し合い、AIを利用した変革の第一歩を踏み出してください。SalesforceのAIを活用する旅は、そこから始まります。私たちは皆様がこれらの技術を利用してビジネスを前進させ、変革を実現する過程を全力でサポートします。
今すぐ、AIをビジネスに活用しましょう
セールスフォースのAI、Einsteinがビジネスにどのように貢献できるかをより詳しく知りたい方は、お気軽にお問い合わせください。