Salesforceで保険業界向けのビジネス推進を担当する東山です。2022年末にOpen AIのChatGPTが一般公開されてから2年半、生成AI (Generative AI)は目覚ましい発展を続けています。押し寄せるAI革命に飲み込まれることなく、乗りこなすために保険業界にはどのような取り組みが求められるのでしょうか?保険と生成AIの現在地と未来を考察します。
目次
おさらい ー 生成AIとは?
生成AI(Generative Artificial Intelligence)は、機械学習の手法を用いて新たなコンテンツを自動生成する技術です。アルゴリズムを使ってパターンとデータから学習し、その知識を使って新しいものを作り出すもので、ビジネス、アート、音楽、ファッションといった様々な分野でゲームチェンジを起こす可能性を秘めています。
保険業界の生成AI活用状況は?
早速、国内保険会社での生成AI活用について、2024年4月末時点公開されている情報を振り返ってみましょう。権利の関係上ニュースリリースとそれに準じる情報のみですが、生命保険と損害保険に分けて時系列でリスト化しています。
生命保険
社名 | 内容 | 日付 | ソース |
---|---|---|---|
明治安田 | 「ChatGPT」を活用した実証実験の開始 | 2023年4月24日 | ニュースリリース |
朝日生命 | 「ChatGPT」をベースとしたAIチャットボットの社内利用開始 | 2023年6月29日 | ニュースリリース |
楽天生命 | 生成AIを活用して対話形式の代理店アシスト機能を実現 | 2023年7月3日 | ニュースリリース |
日本生命 | 生成系AI技術の社内業務での実証実験 | 2023年7月4日 | 第76回定時総代会議事要旨 |
住友生命 | 生成系AIを活用した新たな顧客価値創造や生産性向上の取組み | 2023年7月13日 | ニュースリリース |
オリックス生命 | AIを活用し引受範囲を拡げる「新引受査定ルール」構築に着手 | 2023年7月20日 | ニュースリリース |
かんぽ生命 | 企画業務の生産性向上・高度化を目的とした生成AIの導入 | 2023年10月16日 | ニュースリリース |
フコク生命 | ファンコミュニティへ全⾃動ファシリテーター機能搭載の⽣成 AI を導⼊ | 2023年10月17日 | ニュースリリース |
第一生命 | 生成AIの安全かつ効率的な活用の実現に向けたAI活用プラットフォームの導入 | 2023年11月1日 | ニュースリリース |
明治安田 | 生命保険業務に特化した生成AIの活用開始 | 2023年11月27日 | ニュースリリース |
アフラック生命 | 生成AIを活用した社員向け業務支援システムの本格運用開始 | 2023年12月19日 | ニュースリリース |
SBI生命 | 社内サービスデスク業務の AI オペレーター対応を開始 | 2024年1月18日 | ニュースリリース |
明治安田 | 生成AIを活用した社内業務の効率化・高度化の取組開始 | 2024年1月22日 | ニュースリリース |
太陽生命 | 生成 AIを活用したアバターによる生命保険募集の共同実証実験を実施 | 2024年4月30日 | ニュースリリース |
損害保険
社名 | 内容 | 日付 | ソース |
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東京海上日動 | 保険領域に特化した対話型 AI の開発および活用の開始 | 2023年4月19日 | ニュースリリース |
三井住友海上 | 対話型AIを活用した事故対応サービスの品質向上取組を開始 | 2023年5月16日 | ニュースリリース |
三井住友海上 | 生成AIチャットツールの全社員活用を開始 | 2023年7月14日 | ニュースリリース |
東京海上日動 | 全社員向け生成AIの活用開始 ChatGPT による業務効率化を実現 | 2023年10月12日 | ニュースリリース |
損保ジャパン | AIの信頼性確保に向けた大規模言語モデルのリスク評価と全社的なガバナンス体制の構築 | 2023年10月25日 | ニュースリリース |
三井住友海上 | 社員向け生成AIチャットツールに損害保険業務の専門的な照会応答機能を追加 | 2023年12月14日 | ニュースリリース |
現時点では、生命保険会社での公開情報が多い状況となっています。詳細はここでは割愛しますが、内容を大まかに整理すると、社内業務の効率化・生産性向上・高度化といった目的での実証実験に関する情報が多いことがわかります。デジタルトランスフォーメーションでいう「守りのDX」の領域です。
しかし中には「新たな顧客価値創造」を目指す取り組みもあり、「攻めのDX」文脈での生成AIの活用、例えばこれまでにない新しいタイプの保険商品や付帯サービスの登場も、早晩実現されるのではないのでしょうか。
生成AI活用 最新トレンド 〜営業編〜
営業関係者1000人を対象に行なった調査をもとに、「生成AIは営業関係者の生産性と売上の向上にどのように貢献するのか」「営業関係者はなぜ信頼性とスキルや準備の不足を感じるのか」についてご紹介します。
保険業界の仕事はAIに奪われてしまうのか?
このようにAIの活用が進む中でしばしば問われるのが、「AIに仕事を奪われてしまうのか?」というもの。様々な考え方があると思いますが、良い意味で人間に不向きな業務はAIが“奪ってくれる”と表現できると考えています。
人間に不向きな業務があるように、AIにも不向きな業務があります。例えば、保険商品の販売や顧客サービスなど、人と人とのコミュニケーションを必要とする業務であったり、複雑な背景を勘案し、時には非合理とも考えられる判断が必要になったりする業務です。
「本当はネットで買ったほうが安いけど、店員さんがすごく親身に相談に乗ってくれてアドバイスしてくれたので、このお店で買おう」。そんな経験はありませんか?経済的に非合理な判断というのは、顧客の立場でもあるものです。
仕事を奪われてしまうという意味では、ネット型保険が解禁された当時にも同じような懸念があったように思います。
その後、現在に至るまでのネット型保険のシェアはどのように推移しているかはご存知の通りです。くれぐれも誤解しないでいただきたいのですが、ネット型保険の成長余地は大いにあると考えています。
この記事の主題とは逸れるので具体的な言及は避けますが、既存の保険がネット型に置き換わるのではなく、これからの環境変化によって生まれる新たなリスクやニーズに対する新たな保険商品は、ネット型と相性が良い可能性が高いという意味で、ネット型保険の成長余地は大きいと考えている次第です。
話を戻します。改めて、保険業界の仕事はAIに奪われてしまうのでしょうか?いえ、そうはなりません。
それは、保険の募集という観点ひとつをとっても、顧客が人との対話を求めているからです。人は、自分の話を聞いてほしい、理解してほしい、そして「誰かが自分のことを気にかけてくれている」のだと、感じたいのです。そこに「人間同士の信頼関係」が築かれます。
そしてこの、「人間同士の信頼関係」をAIが完全に代替することはできません。人間の根源的な欲求が完全に失われることがない限り、保険業界の仕事の全てがAIに取って代わることはないでしょう。*
【金融業界レポート】
顧客が求めているのはパーソナライズされた包括的な体験
利用する金融機関を変更した理由、デジタルと対面のそれぞれのサービス体験に求めるもの、人工知能などのテクノロジーについてなど、全世界6,000人以上の顧客の意見をまとめました。
求められるのは、「AIと共に働くスキル」
仕事の全てがAIに取って代わることはないにせよ、人間に求められるスキルや仕事内容には変化が起こることが予想されます。一言で言うならば、AIと共に働くスキルです。
保険募集人を例に考えてみましょう。保険募集人が顧客と直接話す前に、AIを使用して顧客のデータを分析できるようになると、より一人ひとりの顧客に個別化されたサービスを提供することが可能になります。また、保険募集人が保険商品の提案をする際に、AIが提供する分析結果を活用することで、顧客に適切な保険商品を提供できます。
このような付加価値を提供できるようにするために、短期的には保険募集人にはAIの活用法に関する知識や技術が求められることが考えられます。
例えば、プロンプトエンジニアリングと呼ばれる技術。プロンプトとは、AIに回答を生成させるために入力するテキストを指します。従ってプロンプトエンジニアリングとは、より望ましい回答をAIに生成させるための、テキスト入力技術ということになります。
自分が担当する地域のお客様にキャンペーンを打つならどのようなアプローチが良いか。特定のお客様に新商品をご紹介する際、複数あるメリットの中からどれにフォーカスしたご紹介が最も響くか。プロンプトエンジニアリング技術の差によって、AIから得られるサポートの品質が変わってしまうでしょう。
難しく考える必要はありません。例えばスプレッドシートは今でこそ「一般的に利用されている」と言えるでしょうが、20年前は違っていたはずです。AIの利活用もきっと、同じ道を歩むことになるのではないでしょうか。
少し宣伝になってしまいますが、Salesforceの生成AIソリューションであるEinstein(アインシュタイン)には、プロンプトビルダーという機能があります。この機能を使用することで、ユーザー一人ひとりがプロンプトエンジニアリングに精通せずとも、組織全体で生成AIの価値を効果的に享受できる環境を整えることも可能になっています。
【解説動画付き】
モデルビルダーと
プロンプトビルダー
Salesforce のビジネスのためのAI「Einstein」 で、「モデルビルダー」と「プロンプトビルダー」が日本でも利用可能になりました。どのような機能か、動画も交えて解説します。
まとめ – AI革命の波に乗れ!With AIの未来へ
保険 x 生成AIの未来、それは保険業界の仕事がAIに奪われる未来ではなく、AIと一緒に働くことが求められるWith AIの未来だと、我々は考えます。その未来に求められるスキルを個々人が身につけること、並行して保険会社は、個々人のスキルに依存せずとも効果的に生成AIの価値を享受する環境構築に投資することが求められるのではないでしょうか。
* 保険商品の購入において顧客が人との対話を求めず、「保険加入もAIエージェントに任せる」未来になると、話はまた変わるのですが本稿では割愛しています。
** 本稿執筆後、掲載プロセス手続き中にOpen AIからはGPT-4oが、GoogleからもGeminiのアップデートが発表されました。生成AIの進化のスピード、よもやよもやです。(鬼滅の刃のアニメ、新シーズンも始まりましたね)
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