【活用事例7選】スタートアップや中小企業に、なぜSalesforceは選ばれるのか?
私たちなら、こう生かす。ITスタートアップから製造業まで、ビジネスを加速させる企業のSalesforce活用事例「7選」を紹介します。
一度は失敗したSalesforceに再挑戦した理由
──人材育成事業の会社だったGLナビゲーションが、DXコンサルティングサービス事業に参入して急成長、今では二本柱で経営されています。異色の形態ですが、どのような経緯か、まずはお聞かせください。
神田 創業事業の人材育成サービスでは、日本で働きたい外国人向けキャリア支援サービス「JapanWing」と、日本人学生がアジアのスタートアップのインターンを経験できるようにサポートする海外プロフェッショナルインターンサービス「GlobalWing」を展開しています。
5年ほど前、今後の成長を見据えて新事業を模索している中、グローバル企業で働く人材育成事業の卒業生から「DXはこれからすごく伸びます」と勧められました。
自分なりにその可能性を調べてみると、DXの本質は新しいテクノロジーやシステムを導入したり業務プロセスを変更したりすることではなく「人を変えること」という答えに辿り着きました。それなら、人の成長を支えるビジネスを手がける当社の強みが生きそうだなと感じ参入したんです。
──DXコンサルティングサービスは、2019年の開始直後から好調とお聞きしています。
神田 大手コンサルティングファーム出身者も在籍するなど優秀な人材に恵まれ、好スタートを切りました。
ところが、コロナ禍の影響を受けて売上が激減。それまで、営業はほぼ私が一人で担っているという状況で、これではさすがに厳しい、すぐに手を打たなければならないという強い危機感がありました。
個人の経験や人脈、スキルに依存することない組織力で売上を伸ばすセールスチームをつくらなければならない。そう思い、2020年にSalesforceを活用した営業改革に着手しました。その成果もあって、DXコンサルティング事業は再び成長路線にのり、会社全体の営業力も強くなりました。
──営業改革のインフラがSalesforceを前提としたのは、なぜですか。
神田 「GlobalWing」の卒業生から、海外の成功企業はほぼすべて、Salesforceで営業を進化させていることを教わっていました。
実は、DXコンサルティングを立ち上げる前の2018年に一度、Salesforceを導入していたんです。ところが、失敗しました(苦笑)。既存の業務プロセスを変えずに、業務にSalesforceを合わせようとしたので、使いづらくて……。半年で使わなくなりました。
でも、今度はベストプラクティスのシステムに業務を合わせることの重要性を認識していたし、グローバル企業の営業プロセスや考え方に適合させたほうが絶対いいと戒め、「Fit to Standard」の考え方で進めました。
セールスDXの本質とは、顧客状況の可視化だと思います。利用する前の段階で、的確なデータの整備に力を尽くしました。
具体的には、お客様の基本的な情報や該当する業種・業界、業務範囲と商談情報や実績などをもとに顧客情報を1担当者あたり700項目で管理しています。100項目ほどは手動で入力、必要に応じて更新し、そのほかの600項目は手動入力情報に紐づくかたちで、自動で追記・更新しています。
その情報をもとにお客様をスコアリングし、アプローチの優先順位やアプローチするタイミング、アプローチの仕方をSalesforceが導いてくれるようにしています。
その結果、新卒1年目の社員が他業種でトップセールスの実績があるような先輩社員を上回る成果を上げ流ようになりました。劇的に営業スタイルも組織も、そして営業力も変わりました。
──Salesforceの構築と推進は、未経験者の鈴木さんが担当して内製化したエピソードが印象に残っています。
鈴木 前職では証券会社の営業職でした。会社として営業DXに取り組む話は入社前に聞いていましたが、まさかSalesforceを私が担当するとは思っていませんでした(笑)。新しい挑戦をしに転職してきたので、とにかくやってみることに。実際には難しいことも多かったですが、新しい経験の面白さもありました。
ある程度までは全部のプロジェクトを見ていましたが、今年からは業務側のメンバーが中心にプロジェクトを進めていて、私が所属するDX推進室は必要に応じてサポートする体制になっています。
業務側も経験者がいるわけではなくて、現在、販売管理と教育サービスでSalesforceを導入中ですが、それぞれのプロジェクトマネージャーは新卒1年目です。
メール配信からAI活用を開始
──SalesforceのAIの活用も進めています。AIに着目したのはいつ頃ですか。
神田 2023年に入って、世の中が「ChatGPT」の話題で盛り上がっていたタイミングです。実際に使ってみて、これはすごいと実感しました。
「何の努力も準備せずに成果が出るものではない。生成AI活用のカギは、AIそのものではなくて使えるデータの整備」という前提で、徹底的にデータ整備から始めました。
具体的にどのAIを採用するかは決めないままデータを蓄積して準備を進めていた時に SalesforceのAIが本格化しました。すでに営業基盤として欠かせない存在となっている Salesforceとの相性は抜群なので、迷わず活用し始めました。
──最初に利用したのは、セールスメールの生成AI機能だそうですね。
神田 各営業のプロセスでどこにどういうAIが使えるのか、みんなで洗い出しました。データをリアルタイムで蓄積する文化ができていたので、商談で頻繁に使うメールでの効果があるのではと推測しました。
コンサルティングサービスはDXを進める企業から直接提供する以外に、他のコンサルティング会社などから人材の要件を聞き、マッチするコンサルタントを提案、派遣するケースもあります。
こうしたビジネスの提案・商談の際には、どんなコンサルタントがいるのかをメールで紹介し、電話での会話を経て、またメールでコミュニケーションをとってニーズを的確に把握して、商談を進めていくんですね。
このメール作成に SalesforceのAIを活用しました。Salesforceに集約された顧客情報・営業情報をもとに、お客様の関心領域から過去の会話まで踏み込んだメールをAIが生成。その後、営業担当者はメールの内容を慎重に確認する過程で、従来よりも幅広く調べたり多面的に思考したりするようになりました。
この結果、商談数は2倍になりました。
お客様への理解が深まるとともにアプローチの質が改善し、商談件数の増大につながったのです。お客様のインサイトを探る習慣が身についたことは、数字に表れないと言いますが、数字以上の成果です。
Salesforceのセールス向けAI
セールスメールはワンクリックで、CRMデータをもとにパーソナライズされたメールが自動的に作成されます。営業担当者の自己紹介や打ち合わせの日程決め、フォローアップのための連絡などが、数秒で完了します。
──営業の大河内さんは、ユーザーとしてどのように受け止めていますか。
大河内 セールスメールには、過去に誰がどんな話をしたのかに加えて、700項目の一部の情報を活用しているので、内容を確認しないままだと電話をしたとき急に知らない話になった場合ついていけません。
加えて、AIが生成したメールをそのまま送ることに怖さがありました。内容に問題がないのかを確認する過程で、それまで以上にクライアントについての理解を深められるようになりました。
AIが持つ揺らぎはネガティブに思えますが、従来の営業活動の範疇にはなかったことまで考えたり調べたりするきっかけになり、結果として電話で話す内容の的確さと解像度が格段に上がりました。
神田 AIによって人が賢くなったのが面白いところですよね。AIは業務効率化だけでなく、人の視座を高める、人の思考力を支援することにも使えるものだと実感しています。
──生成AIの導入プロジェクトをリードしてきた小川さんは、その過程と結果をどのように評価していますか。
小川 私は外資系コンサルティングファーム出身で、Salesforceのこともよく知っていましたが、あくまで裏方に徹しました。どう使うかは営業側に主体的に考えてもらい、それをクイックに効率よく入れるためのサポートにあたりました。
導入前に立てた仮説では、メール発信数という母数が減る一方でコンバージョンが上がり、商談件数はトントンか少しプラスかなと想定していたので、驚きはありましたね。
──AIのような新しいテクノロジーは、興味を持って使う人、反発する人、面倒くさがって使わない人などがいて、成果に濃淡が出てくるのではないでしょうか。
小川 個人別で見ると、確かに差はありました。それこそ大河内はかなりいい数字を出しましたが、他のメンバーはそこまで伸びなくて。そこを平準化してレベルを底上げできたのは、実際に使ってみてわかった注意点や感想を共有するGL ナビゲーションの文化が影響していると思います。
失注でもそのデータは次に生きる
──セールスメール以外でのAI活用には、どのようなものがありますか。
神田 セールスメールで商談率は高まりましたが、当然失注もあるわけです。失注はしたものその商談情報はニーズをかなり細かく把握できているので、とても貴重な財産です。
この失注データと受注した商談の情報を組み合わせて、別でデータ化しているコンサルタントのスキル情報を SalesforceのAIでマッチングさせています。
失注したお客様へのより的確なコンサルタントの再提案や、受注したお客様の満足度が高かったコンサルタントと、同じスキルを持っているコンサルタントをAIで探して追加提案を行っています。
──受注も失注も、濃密な情報収集やコミュニケーションの結果だから、それを分析すれば受注確度や顧客満足度を向上できるはずだという着眼点ですね。
神田 そうですね。いろいろ試していますよ。そのほかにも業務効率化の観点では、営業日報もAIで作っています。
Salesforceに蓄積された営業データをもとに営業日報を生成。その内容をAIが分析しています。そのうえで、AIが日報に入力された活動内容を参照し、お客様にコールする時間帯は適切か、コール数は目標に達しているか、お客様のポテンシャルはどうか、コンバージョン率はどうかといったコメントを生成してその営業担当者やマネージャーにフィードバックする仕組みです。
Salesforceには営業担当者全員の数か月分の日報データが蓄積されていますので、より具体的かつ客観的なアドバイスが可能です。
営業チームのマネジメント工数が低減されると、マネージャーはチーム全体のパフォーマンス向上にいっそう注力できるようになります。トップセールスと成果を出せない営業の差はどこにあるのか、すべての行動がSalesforceに蓄積されナレッジとしてチーム全体で共有されますので、マネージャーはこの仕組みを使って営業チームの変革をリードしていきます。
生成AI・予測AIが変える新しい営業活動のカタチ
予測AI・生成AIを搭載したSalesforceがどのように営業担当者をパワフルに支援し、生産性の高い組織へと変革していくのかをご紹介します。
──大河内さんはプレイヤーであり、マネージャーとしてフィードバックする立場でもありますが、どのように評価していますか。
大河内 自分自身の数字を追うために時間を使いたいけれど、他の人の日報も見たいのであまり時間を割けません。AIにフィードバックを任せられるようになれば、自分の時間が増えますし、その分AIにはできないコミュニケーションを手厚くできます。
──Salesforce導入と同様に、AI導入も経験の有無を問わず若手が中心なのですね。
鈴木 そうですね。それから利用に関しては、日報に限らず、スキルを平準化するためにも全員参加でAIを浸透させています。ワークフローを設計してSalesforce Flowで記述するのはDX推進室ですが、その構文は公開していて、営業は自分が欲しいデータがどこから流れてくるのかを把握し、自分でプロンプトを打ってAIを動かしています。
データを貯めているから広がる可能性。採用や教育での活用も視野
──今後、さらにAIを活用したいと思っている用途を教えてください。
神田 営業以外の領域では、採用プロセスでもAIの浸透を進めています。
例えばスカウティングでは、どのような人にどんなスカウトをすればいいのか、データを集めていきたいですね。履歴書や職務経歴書を分析して、その人に響く口説き文句を、AIが考えてくれるといったこともできるかもしれません。
また、その人を採用すべきかどうかをレジュメから判断するのにもAIを活用できそうです。活躍している人のものと、期待通りに活躍できていない人のものを学習させることで、評価できるようにする。
一方で、外国人向けの日本語教育サービスでは、講師が最適なレッスンを実施できているかどうかを生成AIで分析して質を高めたい。習熟しているレッスンと習熟してないレッスンのデータを蓄積していけば、レッスンに対するフィードバックができるはずです。
──そのためにはやはりデータの蓄積が必須ですが、どのような方針で取り組んでいくつもりですか。
神田 採用活動のデータも全てSalesforceで管理しています。一般的に利用されているATS(採用管理システム)では、思い描いているような分析をするためにはエンジニアが必要になりますが、Salesforceであれば開発不要でクイックに分析できますし、さらにだめだAI[1] もある。
面接のデータをもとに生成AIによる分析とマッチングを行い、応募者ごとに最適な面接官が担当して、偏った判断や辞退を減らすようなことも可能だと思います。
小川 今の SalesforceのAIはインプットとなるデータを渡して分析するのが基本で、利用者が意識して渡したデータだけでは、どうしても弱いアウトプットになる部分があります。
ただ、今後は「Data Cloud」ベクトルデータベースを利用できるようになり、かなり自由度が増すと聞いています。将来的にはインプットを渡さなくても、データを全般的に学習したAIが、GLナビゲーションらしい回答を返してくれる状態を目指したいです。
神田 そのためにもデータを正しく格納する。そしてデータを定義付けて、インサイトやナレッジにする。ここまでがセットになって初めてAIは動くので、一足飛びに考えないことを大事にしています。
とにかくたくさんのデータを集めてAIに投げれば、何かいいものが返ってくるのではないかと考えているかもしれませんが、これはAIへの大きな誤解です。そんなに簡単なものではありません。人が頑張って作り上げたデータ基盤をAIが使うから、意味がある結果が出てくる。私はそう思っています。
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──お話をうかがう中で驚いたのは、トップの神田さんがDXやAIのことをよく理解はしていらっしゃること。号令はかけるけれど、あとはわからないから任せてしまう経営者も多いので。
神田 DX事業は5年前に参入したばかりで遅れている自覚があったのと、もともとバリバリの文系営業なので勉強はしました(笑)。
そんなことを言える立場ではありませんが、経営者はもっとAIを学ぶべきだと思います。
技術的なことを深く学べという意味ではなく、AIを経営に活かすために何が必要か、何が壁になるのか、成果を得るためにはどの程度の時間がかかるのかなど、経営視点での見通しが立てられるレベルには自ら学ぶべきだと思っています。
実際、自分のため、自分の会社のためになるし、何よりとても大きなインパクトを与えるテクノロジーですから、勉強していると未来が変わる可能性をひしひしと感じて、とても楽しいですしね。
──AI活用の詳しいお話を聞かせていただき、ありがとうございました。