医療DXとは、提供する医療サービスを向上させるために、情報基盤の活用によるデータの共有・可視化をはじめ、デジタルテクノロジーを活用して業務やサービスを改善することです。
医療機関そのものの改革だけでなく、国全体の医療を改善するうえでも注目されています。
医療DXを実践する場合は、デジタルテクノロジーの導入が目的にならないよう、課題を整理したうえで自社に合ったツールや機器を選択することが大切です。
本記事では、医療DXの知識を深めるために、概要と注目されている背景にある課題、メリットを解説します。推進のポイントと事例も紹介するので、自社で医療DXを実践する際の参考にしてください。
地域を支える医療機関の医療DXを実現する
医療機関においては、地域医療に貢献するため、電子カルテシステムや医事会計システムと連携して、業務効率化やデータの利活用を実現する患者中心のDXが求められています。
地域を支える医療機関の医療DXを実現する取り組みについて紹介します。
目次
医療DXとは
医療DXとは、医療現場で発生するさまざまな情報やデータを情報基盤に蓄積し、活用することによって業務や運営を改革し、効果的かつ効率的な医療サービスを提供するためのアプローチです。
DX(Digital Transformation:デジタルトランスフォーメーション)は、変化の激しい社会で市場優位性を獲得・維持するために、デジタルテクノロジーを用いて業務やサービスを改善することを指し、各業界から注目されています。
医療分野でも同様に、DXによる業務の効率化やサービスの向上が求められているのです。
医療DXが求められる背景にある医療業界の課題
医療DXは、医療業界が抱える3つの課題を解決する手段として注目を集めています。総務省が発表した「令和3年 情報通信白書」では、次の3つの課題があげられています。
- 医師不足・地域的な偏在
- 長時間労働
- 医療機関全体の効率化
医療DXによってどのように課題を解決できるのかイメージを深めるために、それぞれの課題を紐解きます。
以下の記事でも、医療業界の課題に触れているので、詳しく知りたい方はあわせてご覧ください。
▶ デジタルトランスフォーメーション(DX)は医療が抱える課題を解決する?
医師不足・地域的な偏在
日本の医療業界では、医師不足と医師の地域的な偏在が課題です。
「OECD Health Statistics 2023」をもとにOECD雇用局医療課が発表した「図表でみる医療 2023:日本」によると、2021年の日本における人口1,000人あたりの現役医師の数は2.6人で、OECD(※)に加盟している先進国38ヶ国のなかで5番目に低くなっています。OECDの平均は3.7人であり、日本はOECDと比較して医師が不足しているといえるでしょう。
※OECDとは、経済協力開発機構の略で、38ヶ国の先進国が加盟する国際機関のこと。
厚生労働省が発表した「医師確保対策の概要及び今後の課題・スケジュール等について」では、医師数が平成22年から令和2年までの10年間で約4万5千人増加していると記載があります。しかし、増加ペースを維持しても需給が均衡するのは令和11年ごろと推計されており、今後数年間は医師不足が続く見込みです。
同調査では、医師不足のほかに、医師の地域的な偏在も指摘されています。人口が多い東京都や福岡県などの都府県に医師が多く、青森県や岩手県といった地域で医師が少ない状況です。
こうした課題を解決するため、医療DXによる遠隔医療サービスの提供が期待されているわけです。遠隔医療サービスが普及すると、医師が少ない道県でも適切な医療を受けられるようになるでしょう。
以下の記事では、ITツールで在宅医療を支える取り組みを紹介しているので、あわせてご覧ください。
長時間労働
厚生労働省が発表した「令和元年 医師の勤務実態調査」によると、過労死リスクが高まる週80時間(年960時間)以上の残業を行う医師の割合は約40%にものぼり、長時間労働が課題となっています。
この課題を解決するために、政府は2024年4月より医師の働き方改革として、医師の残業時間を一般労働者と同程度である週80時間(年960時間)を上限とする規制を設けました。ただし、医師不足のなかで上限を超えてしまうケースを考慮して、別途3つの水準ごとに上限が設けられたため、労使協定の締結と各水準に応じた義務・努力義務を果たすことで、最大月155時間(年1860時間)まで延長可能です。
条件を満たせば週80時間以上働けてしまうことから、医師の長時間労働は制度だけで解決できる問題ではないと考えられます。そのため、医療DXで医師の業務効率を図り負担を軽減する必要があります。
医療機関全体の効率化
医療業界では、医師不足・地域的な偏在、長時間労働の課題を解決するために、医療機関全体の効率化が求められています。ところが、他業種と比較してDXが遅れており、効率化が進んでいません。
総務省が実施した調査「デジタル・トランスフォーメーションによる経済へのインパクトに関する調査研究の請負」によると、医療、福祉業界のDX取り組み状況において、「実施していない、今後も予定なし」と答えた企業は78.7%で、全24業種のなかでもっとも高い割合です。DXに着手している医療、福祉業界の企業はわずか9.3%であり、DXの遅れが顕著です。
医療DXの遅れによる課題は、新型コロナウィルスの流行によって明らかにされました。当初、コロナ患者さんの行動把握がツールがなかったのです。また、自治体や保健所、医療機関で患者さんの情報を共有、連携するシステムが確立されておらず、さまざまな手続きの遅延を招きました。
こうした経験から、医療機関内部だけでなく、国全体で医療DXを推進する必要性に迫られているのです。
医療DXを推進する厚生労働省の取り組み
厚生労働省は、以下のように医療DXを定義づけ、国民の健康寿命の延伸と社会保障制度を持続を図るため、さまざまな施策を打ち出しています。
医療DXとは、保健・医療・介護の各段階(疾病の発症予防、受診、診察・治療・薬剤処方、診断書等の作成、診療報酬の請求、医療介護の連携によるケア、地域医療連携、研究開発など)において発生する情報やデータを、全体最適された基盤(クラウドなど)を通して、保健・医療や介護関係者の業務やシステム、データ保存の外部化・共通化・標準化を図り、国民自身の予防を促進し、より良質な医療やケアを受けられるように、社会や生活の形を変えることです。
引用:医療DXについて|厚生労働省公式サイト
2022年5月に発表された「医療DX令和ビジョン2030」では、以下のような具体的な施策案に触れられており、医療機関における業務効率化の促進が期待されます。
- 全国医療情報プラットフォーム
- 電子カルテ情報の標準化
- 診療報酬改定DX
国をあげた医療DXによって、医療業界の課題を解決するとともに、患者さんが適切な医療サービスを受けられるよう環境の改善が行われる予定です。
医療DXの主な取り組みとメリット
医療DXの主な取り組みとメリットは、次の4つです。
- オンライン診療による利便性の向上
- 電子カルテ・処方箋による業務の効率化
- ロボットによる人件費の最適化
- ビッグデータの活用による医療サービスの質向上
実際の取り組み例から医療DXのメリットを紹介するので、自社で医療DXを推進する際の参考にしてください。
オンライン診療による利便性の向上
インターネットで医療機関と患者さんをつなぎ、医師の診断を受けられるオンライン診療は、遠隔地でも専門的な診断を受けられるため、患者さんの利便性を向上させるメリットがあります。
【取り組み例の紹介】
東京都杉並区にある天沼きたがわ内科は、主に脳神経内科の診断・治療を行う診療所です。同診療所が投稿するパーキンソン病のブログを見た遠方の患者さんから問い合わせを受けることが多く、ビデオ通話システムによるオンライン診療を導入しました。処方箋の送付やFAXにも対応しており、患者さんは自宅近くの薬局で処方された薬を受け取れます。
オンライン診療の導入によって、遠方の患者さんが専門医の診断を受けられるようになりました。診療所側にもメリットがあり、診療時間の上限を設定しているおかげで、対面診療よりも時間を意識したメリハリのある診療ができるようになったのです。
引用:オンライン診療その他の遠隔医療に関する事例集|厚生労働省医政局総務課
オンライン診療が難しくても、予約や問診をオンラインで行える環境を整えると、患者さんの利便性が向上するとともに現場の業務負担を軽減できるでしょう。
電子カルテ・処方箋による業務の効率化
電子カルテ・処方箋を活用すると、クラウド上に患者さんのデータを蓄積できるため、紙のように紛失するリスクが低く、管理を簡略化できるメリットがあります。患者さんのデータを探す時間を削減し、患者さんや薬局とスピーディーなやり取りの実現が、医療機関の業務効率化をもたらします。
【取り組み例の紹介】
愛媛県四国中央市にある社会医療法人石川記念会 HITO病院は、常勤換算で医師42.2名を抱える大きな病院です。地域性から医療従事者の人材確保が難しく、それに伴うサービス提供体制の維持も課題でした。
そこで、人材確保にもつながる施策として、医療従事者の業務負担を軽減するため、医療DXの推進に着手しました。リハビリテーション科の医師全員にスマートフォンを配布し、電子カルテの閲覧・記録をできるように整備したのです。音声入力ソフトもあわせて導入したことで、電子カルテの入力時間の短縮とリハビリ提供時間が増加を実現しました。また、院外でもスマートフォンから電子カルテを確認できるようになり、時間外の緊急呼び出しへの対応件数が削減されました。
引用:令和2年度 医師等医療従事者の勤務環境改善の推進にかかるICT機器等の有効活用に関する調査・研究 事例集|いきいき働く医療機関サポートWeb|厚生労働省
ロボットによる人件費の最適化
医療業界では、ロボットの導入によって業務を自動化・効率化することも可能です。ロボットが業務を行ってくれると、スタッフの業務負担が軽減され、労働時間も削減できます。その結果残業時間が減り、人件費の最適化を実現できるでしょう。
【取り組み例の紹介】
中国の武漢市武昌医院や臨時病院では、新型コロナウィルスの流行直後にロボットを活用し、非接触診療を行っています。患者さんの検温や薬の運搬、感染場所の掃除などを自動で行ってくれるのです。
中国医科大学付属第一医院では、リハビリロボットが医療従事者の代わりに感染症患者さんのリハビリをサポートすることで、医療従事者の感染リスクを抑えられています。ロボットの活用によって、業務負担の軽減と作業効率の向上効果を得られました。
引用:令和3年版 情報通信白書|総務省
ビッグデータの活用による医療サービスの質向上
医療機関や薬局、自治体が個別に扱う患者さんのデータや情報を統一したデータベース上でビッグデータとして一元管理できると、医療サービスにおける質の向上につながります。
【取り組み例の紹介】
海外では、国が主導して大規模なデータベースを構築しており、関連機関が相互にデータや情報を共有できる仕組みが整っています。
たとえばアメリカでは「CMS data」というデータベースがあり、65歳以上の高齢者と65歳未満の障がい者を対象とした医療保険であるメディケア受給者のレセプト情報の二次利用が可能となっています。
データベースに蓄積された情報を研究に役立てることで医療が進歩し、医療サービスの質を向上させるでしょう。
引用:医療データに関する海外事例調査|首相官邸
医療DX推進の注意点
医療DXを推進する際は、次の3つに注意しなければなりません。
- セキュリティ
- 医療従事者のリテラシー
- コスト
患者さんの個人情報を含むデータを電子データとして管理し、インターネットを通じて活用する場合、情報漏洩を防止するためにセキュリティ対策が必要です。
医療DXでは、さまざまなデジタルツールを導入しますが、現場の医療従事者のITリテラシーが低いと十分に活用できません。したがって、リテラシーの向上が求められます。システムや機器の導入では、医療DXに詳しいITベンダーや外部人材の協力も必要となるでしょう。
また、デジタルツールの導入にかかるコストについても検討します。条件を満たせば活用できる補助金・助成金があるため、導入前の調査が大切です。
医療DX推進のポイント
医療DXの推進にあたって、以下の3つのポイントを押さえておくとよいでしょう。
- 課題と目的を整理する
- 補助金を活用する
- 医療DX推進体制整備加算を活用する
医療DXは少なからずコストがかかるため、失敗しないようポイントを押さえて準備を進めることが大切です。
課題と目的を整理する
まずは、自社の課題と目的を整理し、適切な医療DXのビジョンを構築します。
現場の長時間労働を解消したい場合は、業務の効率化が不可欠です。業務の効率化のために、電子カルテ・処方箋の導入やデータベースの整備を行うというように、手段を選択します。
このとき、デジタルツールの導入が目的とならないよう注意します。導入後、どのように運用するか、医療従事者への研修はどうするかなどを含め、全体的な運用計画を立てましょう。
補助金を活用する
医療DXの推進では、IoTやIT機器の導入が必要となるケースが多いため、導入コストがかかります。条件を満たせば、国や自治体の補助金・助成金を活用できるため、調査しておくとよいでしょう。
たとえば「IT導入補助金」は、対象ITツールとして認定された製品の購入費用の最大1/2を補助してくれる制度です。対象ITツールのなかには、電子カルテシステムや遠隔医療システムが含まれているため、活用できるものがないか探してみてください。
医療DX推進体制整備加算を活用する
医療DX推進体制整備加算とは、質の高い医療サービスを提供するために医療DXに対応する環境・体制を整備しているかどうかを評価する制度です。医療DXを推進し条件を満たすと、診療報酬を算出する点数に加算できるため、医療機関の増収につながります。
増収分を医療DXの推進に充てることで、さらにDXを加速させられるでしょう。
医療DXの成功事例
医療DXの成功事例として、次の3つを紹介します。
- 事例1.データの共有で診療予約を確認
- 事例2.BIツールによるデータ活用の促進で業務時間を削減
- 事例3.利用者データの一元化で業務を効率化
医療DXで、データの活用を促進させたい場合は、ぜひ参考にしてください。
以下のデモ動画では、医療DXに活用できる患者管理ソフトウェア「Health Cloud」の機能を紹介しているので、ぜひご覧ください。
デジタルを活用した新しいヘルスケア体験
本動画では、Health Cloudを活用して患者と医療従事者が双方向でコミュニケーションを行う新しいヘルスケア体験のイメージをご紹介します。
事例1.データの共有で診療予約を確認
アメリカのカリフォルニア州で非営利の医療保険サービスを提供するBlue Shield of Californiaは、「Sales Cloud」「Salesforce Platform」を活用して医療機関の業務効率化に貢献しています。
保険加入者の既往歴は、保険担当者や病院から寄せられた情報をもとに管理・共有されます。医師もアクセスできる体制を整え、患者さんの健康管理計画や次回の診療予約をシステム上で確認できるようになりました。
事例2.BIツールによるデータ活用の促進で業務時間を削減
旭川赤十字病院は、28診療科、520床を擁する北海道旭川市の急性期病院です。救急救命センターとドクターヘリの基地病院としても機能し、道北の救急医療の中核を担っています。
同病院では、データ分析に役立つBIツール「Tableau」を導入し、データ活用を促進しています。たとえば、20を超える診療科ごとに実施していた診療実績の資料作成業務が「Tableau」のダッシュボードの置き換えられるようになり、年間30時間の業務削減につながっています。
また、医療事務課が担当するレセプトチェックと帳票作成業務は、膨大なエクセルデータから解放され、データを差し替えるだけとなり、月20時間から3時間に以下に削減できました。
このように「Tableau」でデータ活用を推進することで、業務削減効果が認められています。
参考:BIによる即時分析と可視化でデータドリブンな病院経営を実現
事例3.利用者データの一元化で業務を効率化
株式会社グッドライフケアホールディングスは、訪問介護・看護やデイサービスなど、高齢者向けサービスを幅広く展開しています。
同社の強みは、医師以外のすべての主要な専門職を抱えており、利用者が必要としたタイミングで必要なリソースを提供できることです。
これを実現するために欠かせないのが、独自に展開する情報共有システム「G-force」による、利用者データの一元管理体制です。プラットフォームとして、Salesforceが活用されています。
「G-force」には、利用者の基本情報だけではなく、介護保険情報や訪問介護手順、看護記録などあらゆるデータをまとめて管理し、質の高いサービスの提供に活かしています。また、一元化した情報をスマートフォンから共有したり、サービススケジュールの確認やキャンセルを行ったりと、スタッフの業務効率化も実現。
情報基盤を整備し、データの管理・活用体制を整えることで、さまざまなメリットを得ています。
参考:Salesforceによる介護サービス変革多職種が連携しチームで在宅介護を支える
まとめ:情報基盤を整えて医療DXを進めよう
医療DXは、デジタルテクノロジーを活用して医療機関内の業務を効率化し、医療サービスの質を向上させるために必要なアプローチです。医療業界が抱える次の課題を解決できる手段として注目されています。
- 医師不足・地域的な偏在
- 長時間労働
- 医療機関全体の効率化
医療DXには、情報基盤を活用し患者さんのデータを蓄積・活用することで、業務の効率化を図る方法があります。
医療DXの推進で情報基盤をお探しの場合は「Health Cloud」の導入をご検討ください。医療業界向けのCRM「Health Cloud」を活用することで、患者中心の医療を実現します。無料トライアルをご用意していますので、お気軽にお試しください。
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