AIエージェントの登場で多くの業務が自動化され、アウトプットのスピード改善と質の標準化が簡単にできるようにになりつつあります。そのなかで、私たちはどのように個性を発揮し、「人間にしかできない領域」を磨いていくべきなのでしょうか? ビジネスの最前線で活躍する4人の有識者に、これからの時代に求められる「ヒューマンスキル(対人関係能力)」を伺いました。
目次
AIエージェントとは。
この記事では、AIエージェントとは何か、なぜ注目を集めることになったのかについてわかりやすく解説しています。
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深津貴之さんに聞く ー AI時代に必要な「適応能力と思考を言語化する力」
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深津貴之(@fladdict)
インタラクションデザイナー/AI活用戦略アドバイザー
株式会社THE GUILD代表取締役、note株式会社CXO、一般社団法人UXインテリジェンス協会理事、横須賀市AI戦略アドバイザー、Stability AI Japanアドバイザー。2009年に独立し、以降は株式会社Art&Mobileや株式会社THE GUILDを設立し、さまざまなサービスの設計やグロースに携わる。
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● AIエージェント時代に必要なヒューマンスキルとは?
こう問われると「AIを使いこなす能力」が大事だと思う人が多いかもしれませんが、それ以上に重要なのが「変化する環境への適応能力」です。
生成AIや人の業務を自律的にサポートしてくれるAIエージェントの登場で、さまざまなルールや制度が急速に変化していて、従来ならば考えられないようなスピードで、商習慣やビジネス戦略が変わっていきます。ルールがコロコロと変わる環境下でいかに素早く適応し生き残るか、という能力が求められます。
そのためには、新しい情報をキャッチアップすること、前提のないフィールドで仮説を立てて検証すること、ルールが変わったときに足場を失わないようにリスク管理や“体重のかけ方”を調整するスキルが求められると思います。技術そのものを知ることより、それによって何が起きるかのメタ認知能力が重要ですね。
生成AIは「平均的なこと」を得意とするため、一般的な質問をして一般的な答えが返ってくるものです。もしユニークな回答が欲しいのであれば、指示者が頑張らなくてはなりません。
たとえば、最初に平均的な回答を得た後に「そうでないシナリオにはどのようなものがありますか?」などと質問を繰り返してみる。対話によってAIが答える空間をどんどん平均から外れたものにしていけば、一般的ではない答えを得ることができます。
結局、どのような問いを立てるかがすべての結果を左右するため、やりたいことを明確に言語化することが非常に重要ですね。
● そのスキルを鍛えるには?
言語化能力を向上させるには、言葉をたくさん使うのが一番の近道だと思います。普段あまり走らない人がいきなり走るのは大変ですけれど、走る回数を増やしたり、走る距離を伸ばしたりすることで徐々に走れるようになります。
同じように、言語化する力も数をこなすことで身につけられるもの。まずは言語化する習慣をつけることが大切です。
言語化が苦手なら、生成AIに「私は言語化能力が弱いので、向上できるようにアドバイスしてください」と指示を出してみるのもいいかもしれません。言語化の力を高め、適切な問いを立てる力を養うことは、AI時代に求められるスキルの核となるのです
田村正資さんに聞く ー「AIに負けない」という考えは、今すぐ捨てたほうがいい
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田村正資(@kaiseitamura)
哲学研究者
東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。開成高校時代にともに高校生クイズに参加して優勝した伊沢拓司氏が立ち上げたQuizKnockに参画。QuizKnockの運営元・株式会社batonにて新規事業開発を手掛ける一方で、哲学の研究を続けている。著書に『問いが世界をつくりだす』(青土社)がある。
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● AIエージェント時代に必要なヒューマンスキルとは?
「AIに仕事を奪われる」という表現をよく耳にするようになりましたが、人の仕事を奪うのはいつだって人だと僕は考えています。
これまでも、便利な機械や業務を効率化するツールが発明されて普及すると、それを使う側の人がその他の人たちの仕事を機械に代替させていきました。AIによって立場を奪われたり、仕事の領域が変わったりする事態は、これまでの歴史で繰り返し起きてきたことと、大きな違いはないでしょう。
AIの発展が、それまでの技術革新と異なるとすれば、それは一度限りの大きな変化というよりも、子どもが大人になっていくように、私たちの生活と同じスピードで大きな変化を何度も引き起こしていく点にあると思います。
だから、いまこの瞬間に社会で必要とされている能力・価値が数年後も必要とされているかどうかもわからない。社会軸・他人軸で物事を考えていくことが大変難しい時代になっていくと思います。
そんなAI時代に必要なヒューマンスキルとは何か? 僕は、自分自身がそれをやっていると楽しい、満足できる、没頭して時間を忘れるといった感触や感覚にもう一度注目したほうがいいと思います。
もうひとつ、意志を持ち、価値判断をしている人間の頭を通過していない情報が世の中に増えているという認識を持つことも大切ですね。
ハルシネーション(AIが事実に基づかない情報を生成すること)や嘘、デマといった問題以上に、気持ちも意図も意志もない情報が世の中にあふれ返ることの問題は大きいものです。そうした情報に踊らされないためには、自分本位にものを考え、価値を見出していくヒューマンスキルが必要です。
● そのスキルを鍛えるには?
僕はAIに日々、助けてもらっています。僕は0→1が苦手で、どちらかというと1からスタートして手を加えていくほうが得意。0→1の作業をAIに先にやってもらって、そこで出てきたものにツッコミを入れるところから仕事を始める。そんな活用をしています。
では、どんなスキルを鍛えれば、AIとの掛け算でもっとパフォーマンスを上げられるのか。それには「AI時代を勝ち抜く」「AIに負けない」という土俵から降りなければいけません。なぜなら、AIは人間よりも早く成長するからです。一方で、AIに助けてもらうことで自分が満足を得られるならば、どんどん活用すればいいと思います。
自動車が発明されても100m走が廃れないように、AIが人間より強くなっても人々が将棋を楽しむことをやめないように、AIのほうが優れているかどうかとは関係なく、自分がそれに打ち込めるか、自分がそれを楽しめるかどうかが重要だと思います。
「AIがあなたの能力を完全に凌駕する時代が来たとして、あなたは何をやることに喜びを見出しますか?」――この問いがますます大事になってくるというのが、僕が今、強く感じていることですね。
堀元見さんに聞く ー 「かわいげ」と「相手視点」こそが「人間らしさ」
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●堀元見(@kenhori2)
作家/YouTuber/Podcaster
1992年生まれ。チャンネル登録者32万人のYouTubeチャンネル「ゆる言語学ラジオ」等の出演・制作を担当。著書に『教養悪口本』(光文社)、『ビジネス書ベストセラーを100冊読んで分かった成功の黄金律』(徳間書店)、『言語オタクが友だちに700日間語り続けて引きずり込んだ言語沼』(バリューブックス・パブリッシング)がある。
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● AIエージェント時代に必要なヒューマンスキルとは?
AIは、いつか人間の仕事を奪うと思います。実際にYouTuberの業界では、「ちょっとしたイラストならイラストレーターに発注せずに、AI生成のものですませる」のがかなり一般的になっています。
ただ、AIは「イラストを作る」といった細分化されたタスクは予想以上にうまくなっていますが、「このプロジェクトをすべて滞りなくいい感じに進めてくれ」みたいな依頼は、まだまだ全然できませんよね。
つまり、現状のAIは「細切れになったタスクの外注先」としての仕事はうまいのですが、社内での調整業務は不得意。これはAIが奪えない仕事で、必要なヒューマンスキルなのではないでしょうか。まあ、僕は調整が嫌いなので、これこそを奪ってほしいんですけど(笑)。
また、「かわいげ」も必要なスキルではないでしょうか。「仲が良い」という価値だけはAIには代替できないと思うので。
● そのスキルを鍛えるには?
「かわいげ」に関して言えば、とにかく相手をよく見て楽しませることが大切だと思います。コミュニケーションがうまい人は、「自分が話したい話」はしません。「相手が楽しんでくれそうな話」をします。
常に相手の立場に立って嬉しいことを探すのが最大のコツかなと。月次で申し訳ないですけど、「常に相手視点で嬉しいことをしてあげる」はコミュニケーションに限らずあらゆる仕事で生きるコツだし、これがあればAIとの競争にも勝てそうな気がします。
そのほか「気楽にやりましょう」ということも重要です。人間は「結果を出さないと! 成長しないと!」となればなるほど視野狭窄に陥り、AIみたいなスキルばかり身につけてしまうと思うんですよね。
それよりも「別に、そんなにすぐ成長しないでいいや」と、気まぐれに雑多に読書したりしていると、結果としてAIができないような気づきが生まれそうです。「勝たないと!」と思えば思うほど、特定のタスクに集中してしまって勝てなくなりそうです。だから、AIに勝つためのマインドセットは「AIに勝とうとしないこと」だといえるかもしれない。
身体を持たないAIは、冬の太陽のあたたかさも、夏の夜風の気持ちよさも知りません。そういうものをちゃんとのんびり感じることが、人間としての価値を出すことなのではないでしょうか。
戸塚俊介さんに聞く ー 「AIの活用」よりも「その先」が大事
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戸塚俊介(@moto_recruit)
起業家/著述家
1987年長野県生まれ。2007年に新卒で地方ホームセンターへ入社後、マイナビやリクルート、ベンチャー企業など8社へ転職し、営業部長や事業責任者などを務める。2021年4月にmoto株式会社を上場企業のログリー株式会社へ売却。現在はHIRED株式会社の代表取締役を務める。著書に『転職と副業のかけ算』(扶桑社)、『WORK』(日経BP)などがある。
● AIエージェントI時代に必要なヒューマンスキルとは?
AIは膨大な情報を分析でき、正確かつ迅速なアウトプットを得られますが、人が介在する価値は必ずあります。
たとえば、営業の現場でAIを用いて顧客データを分析し、結果をもとに新しいアイデアや新規施策を考案する。製造業でいえば設計やイノベーションの部分などは、人が介在・主導することでより高付加価値な仕事に注力できるようになります。
AIにできることと人間が担う領域をうまく組み合わせることで、より高い価値を生み出すことができるようになるはずです。これからは、「AIの特徴」と「AIを活用してどのような価値を生み出すか」を考える必要があり、その視点こそがAI時代を生き抜くカギになると思います。
また、顧客との商談の場で求められるのは、顧客の感情や意図を汲み取って柔軟に対応できるコミュニケーションや、相手の立場に立って考える能力。職場での対話や組織だからこそ生まれる「気づき」や「共感」によって、新しいアイデアが生まれることもあります。
AIが定型業務やデータ分析を大幅に効率化していったとしても、人間ならではの発想力や関係性の構築、現場での即興性などの代替は難しいのが現状です。むしろAIが発展するほど、人間の感性やコミュニケーションが生み出す付加価値のほうが重要性を増すのではないでしょうか。
● そのスキルを鍛えるには?
土台として求められるのは、従来のITリテラシーに加えて「AIリテラシー」だと思います。データの扱い方やAIの基本的な仕組み、初歩的な部分だけでもプログラミング言語の知識を持っておく。それに加え、これまで以上に課題解決に向けた「価値創出」を行うことが不可欠です。AIが提示した分析結果や選択肢をもとに、どのように新しい価値を生み出すかは、スキルやこれまでの経験値次第となるからです。
これらのスキルを伸ばすには、実務でAIツールを使ってトライ&エラーを繰り返していくことが近道でしょう。ChatGPTやGeminiを用いて日常の業務データを分析してみたり、簡単なチャットボットを導入して顧客対応の効率化に取り組んでみたり。
ビジネス現場での実践を通して「何ができるのか」「どう使えばさらに良い結果が得られるのか」を自分なりに検証してみることです。それには、単にテクノロジーを使いこなすスキルだけでなく「どのようなスタンスで学び、どう行動するか」がポイントになってきます。
テクノロジーの変化を積極的に取り入れて、自ら成長のきっかけにする「変化を前向きに受け止める姿勢」と、定期的に新しい情報や事例に触れる「学び続ける習慣」、そして「失敗を恐れずに試行錯誤する」マインドが不可欠です。
これらのマインドセットを意識することで、AIを自分の強みを強化するパートナーとして活用し、AI時代を主体的に生きていく力に変えることができるのではないかと思います。
まとめ
AIの発展は、私たちの仕事や働き方に大きな変化をもたらしています。この変化の波に対応するには、AIを使いこなすスキルだけでなく、AIが苦手とする領域を理解し、磨いていくことも大切です。
特に、柔軟な思考やコミュニケーション能力などのスキルは、今後ますます価値を持つでしょう。AIなどのテクノロジーを活用しながら、人間ならではの強みをどう発揮していくのかが問われる時代です。そのために、多様な能力の習得と継続的なスキルアップに取り組むことが不可欠です。
【5分で解説】Salesforceの自律型AIエージェント “Agentforce”とは?
SaleforceのAgentforce(エージェントフォース)は、自律型AIエージェントを作成して展開するための新しいプラットフォームです。自律型AIエージェントは、ユーザーに代わって業務を実行し、複雑なタスクを自動で処理できます。その様子を、デモでわかりやすく紹介します。
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