産業別DX事例が共有されたSalesforceイベント「SALESFORCE Industries Summit 顧客とつながる業界の新しいカタチ 〜デジタルで創る変革と企業価値〜」。Day2金融のクロージングセッションでは、Forbes JAPAN 編集部 編集長 藤吉 雅春氏をモデレーターに、渋谷区 副区長CIO 澤田 伸氏、株式会社ジェーシービー 代表取締役の三宮 維光氏、セールスフォース・ジャパン 執行役員の井口 統律子が、CRMやキャッシュレスなど、デジタル技術を活用した地域の経済成長をテーマに意見交換が展開されました。
持続可能な社会に向けて商取引の改革を
議論の最初のテーマは「地域の持続可能な仕組み作りに向けて今何をするべきなのか」。藤吉氏は、地域をどのように盛り上げていくか、地域事業者をどのように支援していくか、選ばれる地域になるためにはどのような仕組みが必要なのかを澤田氏に問いかけました。
澤田氏は、地域のプレイヤーは、自治体、金融機関、企業、商店街、NPO、大学などの研究機関、そして生活者であるとし「セクターを超えて、課題がどう共有されて、それに対する課題解決の議論がどう進んでいるのかが重要です」と、地域経営におけるコンセプトの必要性を説きました。そして、課題を解決するには、非効率な状態を解消するモダナイゼーションが、地域の可能性を高めるとの仮説を説明しました。
モダナイゼーションには、クラウドコンピューティング技術や分析ツールなどのSaaSを用いて、KPIを追いかけられるような社会にしていく必要があり、「そのためには商取引のデジタル化は絶対に避けて通れません」と唱えました。
さらに澤田氏は、地域の既存産業の成長と産業構造の変化には、地域に根ざしたスタートアップによる新たなエコシステムの構築や、ペーパレス化、移動手続きの簡略化など地域社会のコストを下げるDX、関係人口と新しい産業を創出するWEB3.0、人々の交流によってイノベーションを創発する機能や拠点、官民ファンドによる資金提供が重要になるとし、地域のプレイヤーみんながフラットに議論し、空論だけに終わらずしっかり実行していくべきであると説きました。
続いて藤吉氏は、地域金融機関の支援をおこなってきたジェーシービーの取り組みについて三宮氏に問いかけました。三宮氏は、WEB3.0のコンセプトであるDecentralized(分散化・分権)を挙げ、これまでの決済手段は汎用性を追求していることが多く、中央集権的な仕組みを想起するかもしれないが、それだけでは地域性と相容れない部分が出てくるので、汎用性と地域性の調和が重要だと唱えます。
加えて三宮氏は、人口が減少する社会において地域活性化のためには一過性の施策でなく持続可能な仕組みを作ることが大事であり、その一つとしてフィジカルな住民だけでなく関連住民を増やすために、リアル空間とバーチャル空間の融合がとても重要になってくると言います。そして「地域マネー的なものによってリアルとバーチャルで人、物、資金の流れを活性化し、そのデータを活かすことがとても重要になります」と説明しました。
Salesforceによって自治体などを支援し、地域によって濃淡のあるデータ活用を見てきたという井口は、エリアマネジメントの目的を問う必要があるとし「リーダーが何を言うかが非常に重要になります。また、行政に限らず、地域の金融機関などが連携して、経営コミュニティを作っていくことも重要です」と語りました。
地域コミュニティにおけるデジタル通貨の可能性
次のテーマは、「地域コミュニティにおけるデジタル通貨/キャッシュレスの可能性」です。藤吉氏に意見を求められた澤田氏は、渋谷区の今年度の目玉事業として、デジタル地域通貨を予定しているとし、現金には多大な社会的コストがかかっていて、非効率であると指摘しました。また、デジタル化することでデータ活用のメリットが生じるため、そこが地方を盛り上げる宝の山であるとの意見を示しました。
「いままではフィーリングだけで打ち手を決めていました。データによって、成功の確率が高まったり、みんなの協力体制が強固になったり、まさに持続可能性が生まれると思います」(澤田氏)
三宮氏も、「安全で安心、そしてトータルコストが下がること」を前提としたうえで、現金は区別をつけられないが、デジタル通貨であれば色を付けられるとし、「例えば子育て給付であれば、それに即したものを買うときにしか使えないなど、区別することができます。また、データをトレースできるのも価値だと思います。そして、地域通貨同士がリンクしていく際に認証やデータの引き渡しの仕組みが必要で、自治体様・事業者様・金融機関様等の協力をいただきながら、私たちの価値が発揮できる分野であると思っています」と述べました。
そして、ジェーシービーではいくつかの自治体と連携した実証実験の準備をしていることも共有し、スマートフォンという通信と認証機能をもったデバイスを通じて、地域別のデジタル通貨を連携していく構想を示しました。さらに三宮氏は、20年前の分析との前置きをした上で、人は100kmの移動を境に財布のヒモが緩み、支出金額が倍になるという分析結果を例に「データがあれば、誰にどんな販促をしたらいいという打ち手を分析できると思います」と、デジタル通貨の可能性を語りました。井口も、地域の商習慣のデータ化によってビジネスチャンスを見つける可能性があると述べました。
デジタル技術での連携で、地域のエコシステムを創出する
続いての話題は「地域経営の未来への取り組み」です。藤吉氏は、持続可能な仕組みの構築に、地域、都市全体の変革や、決済システムの進化がポイントとなるとし、将来展望についての意見を求めました。
井口は、分断していた縦割りの仕組みを横につなげる仕組みが登場していると言い、それを地域経営にどう活かし、連携していくかが重要だとし、「従来の勘定系や基幹系のデータも必要なものだけモダンな仕組みに引き渡すような技術ができています。今までの仕組みをあまり変更せずに、どんどん新しいものを作れます。そういったマインドチェンジが必要だと思います」とコメントしました。
従来のリソースを活かすという点について澤田氏は、地域のエコシステムの大切さを唱えました。民間から行政の仕事に携わって7年間、行政、企業、教育、市民と、地域を構成するプレイヤーが互いに対立する様子から、「(現在の地域社会は)『エゴイズム』で回っているのです。エコシステムというのは、4者のエゴイズムから濁点を取ることです。お互いのリソースを出し合って、地域社会の課題を解決する……私はこれを『新しい公共』と言っています」と語り、日本人にはもともと近隣で助け合うような習慣があるため、この考え方が向いているとの考えを示しました。
そして三宮氏は、地域における成長の鍵である中小企業の成長のためには、米国で先行しているような「商流と金流のデジタルデータ化と、そのデータに紐づけられた商流と金流の一体化」が重要になってくるとした上で、「我々がこれまで作ってきたインフラは、WEB3.0の世界でも活用できると考えていますが、我々だけでは成すことができません。地域の金融機関や行政のみなさんにご協力いただきながら、我々の仕組みをうまく使って一緒に持続可能な地域振興を実現していきたいと強く思いました」と語りました。
最後に井口は、「Salesforceとして何ができるかを考えると、地域でデータを活用するためのプラットフォームを提供できるのではないかと考えております。企業や住民、関係人口の方々のデータベース、そこに決済やマイクロサービスがつながる仕組みづくりでご支援ができたらと思います」とコメントしました。
本稿では、Day2 クロージングセッション、持続可能な地域経営について紹介しました。
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