「HANNOVER MESSE 2022」が6月2日に終わり、週末に日本へ戻ってきました。4日間のイベントの前半は、セッション中心にスケジュールを組み、後半は主にブースを回ってきました。各媒体や出展企業様が展示内容の速報を出されていたり、デジタル展示会がオンデマンド配信されていることから、当レポートは筆者がハノーバーメッセ2022で感じたことを中心にまとめます。最後までお付き合い頂けたら幸いです。
産業全体に必要な仕組みを提案する欧州、の路線を継続
今年のハノーバーメッセに参加して最初に感じたのは、「産業全体に必要な仕組みを提案する欧州と、尖ったモノづくりを提案する日中韓」という構図は、大枠で変わっていないことです。欧州企業は古くから、自社の強みが活きる産業分野に対して必要な仕組みの全体像を提示し、必要な機能群を紹介します。今回の展示では、それが洗練された印象です。メーカーなのにソフトウェア企業のようなデモンストレーションをしたり、ソフトウェア企業なのに産業用ロボットを使った展示をします。
例えばフランスのシュナイダーエレクトリックは、元は電源装置のメーカーですが、いまは予防保全やデジタルツイン、エネルギー管理ソリューションなど、幅広い分野を装置とソフトウェアでカバーしています。
ビジネスにおいて特徴的なのは、ソフトウェアプラットフォームを開放していることです。自社のソリューションで不足する部分を他社のソフトウェアをプラグインして埋めることにより、エコシステムを形成しています。デジタルならApple StoreやGoogle Play、Salesforceに詳しい人はAppExchangeを思い浮かべてもらうとわかりやすいです。たとえば、デジタルツインでプラントを再現するために、IoTデータを集約したいなどのニーズがあれば、他社装置との連携がスムーズになります。
また同社は、展示会を「新しい顧客を獲得する場」であること以上に、「既存顧客に新製品を紹介する場」として活用しようとしています。自社製品を購入してくれる可能性のある企業や設備をリストアップし尽くしているB2Bメーカーは少なくありません。同社もどちらかというと、市場が限られているソリューションを提供しているためか、とにかく親切なのです。
ミニシアターでセッションを聞くと、QRコードを読み取られます。この段階で、私がセールスフォース・ジャパンの社員であり、顧客になる可能性はほぼないということはわかるでしょう。それでも、1日の終わりにサンキューレターがメールで届きます。実は、同社の展示で興味を持ったソリューションがありました。電源装置のメンテナンスにあたって、作業者が装着するゴーグルに手順が表示されるAR製品があったのです。資料が欲しいと返信すると、すぐに送ってくれました。日本法人に繋ぐこともできるよ、という話もしてくれましたが、すでに私が顧客になりそうもないことはわかっているので、ソフトなお誘い程度です。
顧客にならない人であっても、良い印象を持ってもらうことができれば、その人の周囲に顧客が居るかもしれません。このような親切さは、ブランド価値を高めてくれます。QRコードの読み取りから、属性別の営業スタイルの仕分け、サンキューレターの送付、その後の対応など、フォローアップは迅速で的確、デジタルを活用した展示会ジャーニーを事前に準備していたことは明らかでした。
尖った製品機能を前面に押し出す出展、だけが日本企業ではない
個々の日本企業が展示した最先端のソリューションは刺激的でした。エルメス賞を授与された住友重機械工業のブースは初日から盛況でしたし、出展していた各社は、それぞれユニークな取り組みで注目を集めていました。ここでは、印象に残った日本企業4社の取り組みを紹介します。
・日東精工とイノフィス~展示会出展のお手本
私が訪問したときに、最も人だかりができていたブースは日東精工とイノフィスでした。
日東精工は、建屋の中央ドアから入ってすぐという場所の良さ、日本から持ち込んだ大型のねじ締め機など、複数の最新機器を展示しており、参加者の興味を引いたようです。日本から営業担当者だけでなく、マーケティング担当者も現地入りする力の入れようです。ブースもきれいに造作していて、その場で商談に落とし込むために手を尽くしている印象を受けました。
大学発ベンチャー表彰2020 経済産業大臣賞にも選定されたマッスルスーツメーカーのイノフィスは、腰補助モデルのマッスルスーツ”Every”、また腕上げ作業用のマッスルスーツ “GS-ARM”を出展しました。困っている人をロボットの力で支えるというシンプルなメッセージ、物流・農業・製造・介護などの作業現場で活用できる点で訴求先が明快であり、欧州向けのプレゼンテーションという点でも洗練されていました。
・高石工業~いつもの“道着”で勝負!
展示会では、インパクトでも勝負したいところです。その点で、高石工業は見事でした。社長が自ら、ずっと合気道の道着を着て、展示会場に居るのです。もちろん、プレゼンテーションも道着でやっていました。毎年やっていることもあり、すでに現地ではおなじみ。前回に会った人と再開を喜び合うこともできるそうです。自らブースに立って商品の説明をしてくれますから、「ハノーバーメッセで、道着を着た日本の社長に説明してもらったよ」とイベント後に話題にもなりそうです。現地では、高石工業の社長=道着というブランドが出来上がっていますから、気軽に話しかけてもらって、すぐに商談に入れることは大きなメリットでしょう。トップが積極的な姿勢を見せている会社に好感を持つのは万国共通ではないでしょうか。
・日本ゼオン~ロビー活動の場として
軽くて強く、電気や熱の伝導率が高いことで知られるカーボンナノチューブは、近年注目を集めている材料です。しかしながら、欧州では盛り上がりに欠ける現状があるといいます。日本ゼオンはカーボンナノチューブのメーカーとして、“ロビー活動”をすることが出展の最大の狙いだと言います。欧州では「アスベストのように廃棄時に問題が起こる」などのネガティブキャンペーンがあり、規制をかけようという動きも出てきているようです。日本ゼオンは、この日本発の材料の反対派に対して、彼らの主張が科学的な根拠に欠けるものであることをきちんと伝え、材料としての価値を改めてアピールすることを目指しています。同時に、自社の環境への取り組みも積極的に発信しています。直接的に案件を作ろうとすること以上に難しい取り組みになるでしょうが、世界にアピールすることができる展示会の生かし方として、目から鱗が落ちる着眼点でした。
日本企業の出展を後押しできるバックアップが欲しい
依然として、欧州でも飛行機や電車などの公共交通機関ではマスク着用が求められますが、コロナウイルスを気にする人はだいぶ少なくなりました。一方、日本では海外渡航にあたってワクチン接種やPCR検査などのハードルがあり、簡単に出張できなくなっています。また今回のハノーバーメッセは開催期間が1ヶ月延期された影響もあるのでしょう、日本からの参加者はコロナ前と比べても少ない印象を受けました。出展社数についても同様です。
対して、韓国は、大韓貿易投資振興公社(KOTRA、日本のJETROにあたる機関)が韓国パビリオンを設置し、多数の大手・ベンチャー企業が出展していました。中国も出展は減ると予想されたものの、ロックダウンは上海の話。浙江省や深センにゆかりのある企業は参加しました。国を挙げて世界にアピールしていくという意味で、日本も国としてのバックアップ体制がもう少しあると良いなと感じました。
Salesforce出展も大成功!やはりリアル展示会の収穫は大きい
Salesforceは、ハノーバーメッセに合わせた新ソリューションやコンセプトの発表はしませんでした。それでも、ミニシアターで68セッションを4日間で行い、毎回20名前後の来場者にソリューションを紹介し、ブース来場者数は1,000名を超えました。18時から閉門までの1時間程度の時間、ナイトパーティーとしてブースでお酒も出し、こちらは200名近くの方に参加いただきました。同様の簡易的なパーティーはほかにもあり、日本メーカー様の展示会でも今後やれると新規商談だけでなく、自社製品・ソリューションに対するざっくばらんな意見をもらうなど実りが多いかもしれません。
さて、第1回の速報版で、「セッション中心ならオンラインの方が楽かも」と書きました。ただ、やはりリアルは別物でした。Salesforceのミニシアターでは、事例講演が盛況だったのですが、あるセッション後のQ&Aで、コト売りの話になりました。参加者が、「コト売りという言葉は流行っているけれど、実際のところお客さんの反応はそうでもないよね」という質問が出て、「確かにそうかも。でも、これからは現実になるよ。実際にそれを目指してわれわれもやっているし」という答えがありました。そこから、サービスを松竹梅のようにラインアップすればどうなるか、それぞれのプランの線引きをどこに置くべきかなど、苦労話やオフレコ話も多く展開されました。
このように、大規模セッションで興味を持った企業のミニシアターでフランクに質問し、さらに詳細な話は担当者と個別にやるという流れをライブに体験できるのが、リアルの良さでしょう。世界の最先端ソリューションを体験し、さまざまな人と話をできるだけでなく、直接的にビジネスに結びつく場として、リアルに開催されるイベントの価値を感じられる4日間でした。
併せて読みたい!
速報:ハノーファーメッセ2022、3年ぶりにリアル会場で開幕しました!
日独経済フォーラムから見えてきた、両国の脱炭素への向き合い方