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【専門家解説】慢性的課題、労働生産性低下の主因を真っ向分析(中編)

日本の労働生産性が低迷している主因と対策をインダストリーアドバイザーで地域DXを専門とする國村太亮ディレクターが3回にわたって解説する連載の第2回。今回は4つの主因のうち「産業間の生産性格差」と「研究開発や能力開発費の投資不足」について解説します。

前編のサマリー

リクルートワークス研究所が2023年3月に発表した「未来予測2040」は、2040年に日本全体で1100万人の働き手が不足すると予測。首都圏以外の道府県はより深刻で企業による労働生産性向上は喫緊の課題だと警鐘を鳴らしています。

出典:リクルートワークス研究所

公益財団法人日本生産性本部が2023年12月発表の「労働生産性の国際比較 2023」は、2022年、日本はOECD諸国の中で31位と厳しい結果を報告。働き手不足が深刻な日本において、なぜ日本の労働生産性は上がらないのか。

厚労省の「平成28年版 労働経済の分析」は、労働生産性向上を阻む主な課題を以下のように挙げています。

  1. 付加価値の低成長
  2. 無形資産投資の不足
  3. 産業間の生産性格差
  4. 研究開発や能力開発費の投資不足

前回は、労働生産性の向上のために、上記の1と2の課題とその解決策にを、アマダ社MIpox社の事例を交えて解説しました。

今回は、上記の「産業間の生産性格差」と「研究開発や能力開発費の投資不足」について、主に働き手不足が深刻な地方企業の経営者や幹部に向けてお届けします。

前編はこちら

顧客管理(CRM)で生産性を最大化する方法

顧客ニーズの多様化とビジネススピードの加速に伴い、多くの企業がCRMシステムを導入し、顧客関係と業務生産性の向上を目指しています。
このガイドでは、CRMを活用して生産性を向上させる「4つの効果」に焦点を当てて紹介します。

「産業間の生産性格差」の課題

22年版中小企業白書では、企業規模別と業種別で労働生産性の調査結果を報告しています。調査によると、企業規模が大きくなるにつれて、労働生産性が高くなっていることがわかります。また、業種別ではサービス業を中心とする労働集約的な業界は労働生産性が低い傾向がわかりました。

また、公益財団法人の日本生産性本部発行の2020年5月生産性レポートでは、国別の生産性ランキング上位の米国との比較について調査・報告しています。このレポートでも、サービス産業がとくに日本は生産性が低いという結果になりました。

ヒューマンパワーに依存するサービス業は、人の生産性が業績に大きく左右します。日本のサービス業の生産性を上げる方法はないのでしょうか。

セントラル警備保障の挑戦

労働集約的な警備業界の大手であるセントラル警備保障のDXは、多様化する顧客のニーズに応えながら、警備現場の業務負荷軽減に取り組んでいるサービス業DXの好例です。

さまざまな業務情報を1つのプラットフォームに集約して業務の全てを可視化。紙ベースの報告書作成やFAX対応などに多くの時間を割いていた警備スタッフやその管理者の業務時間削減だけでなく、全社で紙54万枚の削減も実現しました。その結果、1拠点あたり月150時間の削減にもつながりました。

加えて、必要な情報へのアクセスが容易になりました。その結果、すべての担当者・管理者は人海戦術に頼らず迅速に資料を整えられるようになり、経営の意思決定も大幅にスピードアップしました。

こうした事例を参考に、自社の生産性向上に取り組んで頂き、生産性の高くない業界が一体となって生産性向上に務めることが日本全体の労働力不足克服に繋がると考えます。

セントラル警備保障の事例は、こちらをご覧ください。

営業・警備・技術の三位一体のデジタル化で重複入力作業と紙報告書を大幅に削減

生産性向上のためのデジタル人材育成の実情

生産性向上のためにDXを推進するためには、推進者が必要です。多くの企業はデジタル人材の育成に力を入れていますが、実態はどうなのでしょうか。

ITアドバイザリー企業のガートナーは、2024年4月に行ったデジタル人材育成の実情に関する調査で厳しい結果を示しています。

調査によると、全社的なデジタル人材育成に3年以上取り組んでいる企業でも、「業務効率の向上・事業戦略の推進に貢献している」、「実業務でスキルを発揮している」などの具体的な成果を実現している割合は24%にとどまることが明らかになりました。

同社アナリストの林 宏典氏は「3年以上取り組んでいる企業の回答に絞った場合でも、具体的な成果を得ている企業の割合は4分の1にとどまっています。一方で、過半数は成果を得られていないことも判明しました。これはデジタル人材育成にかけた大きなコストと時間が、成果として表れていない企業が多いのでは」と述べています。

アクティブラーニングで学習成果を上げる

デジタル人材育成で成果が出ていない実態から、DXに関するオンライン講義を聞く、書籍を読むなど座学的な育成手法に偏っているのではと推測します。アクティブラーニング型学習にシフトするのも1つの解決策だと考えます。

詰め込み型の座学のよる教育ではなく、主体性を持って能動的に講義へ参加する教育手法がアクティブラーニングです。

例えば、名古屋商科大学はこのアクティブラーニングに力を入れている大学の1つです。同大学のHPでは、アクティブラーニングについてアメリカ国立訓練研究所という機関が発表した「ラーニングピラミッド」を用いながら、「講義」「読書」のような座学形式よりも、「グループ討議」、「他の人に教える」といった取り組みのほうが学習定着率が高いことを示しています。

Trailblazer Communityで業界横断で学び合う

Trailblazer Communityは、Salesforceユーザーが業界横断で学び合うコミュニティです。世界中にいる2000万人近い「仲間」とSalesforceについて学び、助け合いながら自社のDX成功を目指すグローバルなネットワークです。ユーザー同士がアクティブに学び合う場には、「グループ討議」や「自ら体験する」さまざまなイベントが用意されています。また、上級者には「他の人に教える」立場で、コミュニティをリードいただくこともあります。ご興味のある方は参加を検討してください。

「研究開発や能力開発費の投資不足」の課題

日本の労働生産性向上を阻む4つ目の課題は、「研究開発や能力開発費の投資不足」です。ただ、近年は国や自治体が能力開発に投資できない企業を対象に、さまざまな補助金を用意して企業の能力促進を応援しています。

たとえば、厚生労働省のHPにある人材開発支援助成金のページには「人材育成支援」、「教育訓練休暇等の付与」、「人への投資促進」、「事業展開等リスキリング支援」の4つのコースで企業に助成金を提供しています。これらの中にはDXをテーマにした内容も入っています。

申請への手間や厳しい審査などがあるかもしれませんが、経営者や事業をリードする皆さまはこうした制度を賢く利用することをおすすめします。

「栄養豊富な土」を作る

ただし、制度の利用前に、経営者や事業をリードする皆さまには必要なアクションがあります。それは、互いに学び合い創造的に仕事を進めるムードの醸成です。

デジタル人材育成の実情に関する調査で前述したとおり、企業の育成は思った通りの成果が出ていません。どうして育成や能力開発は進まないのでしょうか?栄養も水分も無い土に水を与えても作物は育ちません。企業風土やカルチャーがその土に当たると思います。

経済産業省のHPには創造性人材の育成支援に関するページで、人材育成に関する多様なコンテンツを提供しています。この中に、2024年2月に発行された事例集「みんなで○○創造性 ~個人と組織の創造性を育むための20の事例と12のヒント集~」は創造性の高い人材について示唆ある解説をしています。

栄養豊富な土=風通しの良い会社

創造的な企業に共通しているのは、新たなアイデアは意図的に力が加えられた結果ではなく

環境の変化に適応して「内部から生み出されている」と示しています。

職場環境において、「何かを変える小さなチャレンジが奨励されているか」、「タテヨコの垣根を越えて語り合える機会」、「探求し合えるコミュニティが社内にあるか」といった20の項目が創造性のある企業の特徴だとレポートは述べています。いわゆる”風通しの良い会社”が創造的な組織であり、投資するに値する対象だと言えるでしょう。

カクイチの風通しの良い職場環境作りとは

長野県のメーカーのカクイチは、風雨に強い鉄骨ガレージやホースなどの農業用資材から、太陽光発電やアクアソリューションなどの環境事業まで多角的に手がける企業で100年を越える歴史を持つ老舗企業です。企業を率いるのは田中離有社長です。

田中社長が目指したのは、自分たちで考えて能動的に行動できる組織です。従業員が上からの命令で動くような組織は今の時代に合わないという危機感があり、その解決のためにはまずコミュニケーション方法を変えることが大事だと考え、コミュニケーションおよびプロダクティビティツールの「Slack」を導入。オープンで双方向なやり取りが生まれたのです。

カジュアルなスタンプなどで上下関係なくリアクションするコミュニケーションが増え、まさに風通しの良い職場へと変革したのです。これによって学びやすく連携もしやすくなり、創造的で労働生産性を高めることでしょう。

カクイチ社のDXの詳細はこちらをご覧ください。

創業 130 年超・老舗企業カクイチの意思決定スピードが Slack 導入で 4 倍に

筆者から最後に

企業のDX事例を交えながら労働生産性を向上させる取り組みを多角的にご紹介しました。

独立行政法人の情報処理推進機構(IPA)は、DXの究極の形は、企業文化や組織マインドの根本的な変革と定義しています。過去2回にわたってご紹介してきた企業のDX事例はまさに企業文化や組織マインドを変革したものでした。そして、それらに共通しているのはリーダーによる覚悟やコミットメントです。次回は、組織のリーダーシップを中心に労働生産性向上の取り組みについて解説します。

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