Skip to Content

【専門家解説】製造業のサービタイゼーション、その現在地と未来形(後編)

製造業の「サービタイゼーション」の現在地と未来の進化系について、製造業を熟知する専門家、インダストリーアドバイザーの岩永龍法が解説する連載の第3回(最終回)。今回は、実際にサービス主導型ビジネスの変革を成功させている企業の事例に焦点を当てます。

中編では、サービス主導型企業が直面する課題や、長期的に成功するために欠かせない「設計」「実行」「収益化」の3つの視点について詳しく解説しました。

これらの要素が、サービスの持続的な進化と改善を支え、企業が顧客の期待に応え続ける基盤となります。

後編では、実際にサービス主導型ビジネスの変革を成功させている企業の事例に焦点を当てます。Ecolab、Siemens、ミスミグループ(meviy)といった企業が、どのようにサービスの改善やエコシステムを活用して収益を拡大しているのかを具体的に見ていきます。

前編はこちら
中編はこちら

製造メーカー向けサービス体験DXガイド

他社との差別化に「サービス」を活用するには?顧客とビジネスパートナーが製造メーカーと付き合う中で得る「体験」を変革する方法について、製造業界のリーダー向けにご紹介いたします。

サービス事業化の成功例(Salesforce顧客)

1. Ecolab

まず、EcoLab社の事例からご紹介します。EcoLab(エコラボ)は、米国ミネソタ州に本社を置く水処理や衛生管理、感染予防ソリューションを提供するグローバル企業です。

1923年に設立し、業務用石鹸の製造販売で創業。現在では食品・飲料、ヘルスケア、ホスピタリティなどの多岐にわたる業界向けに、持続可能な衛生管理や水処理技術とサービスを提供しています。

EcoLabは、業務用石鹸販売から始まりましたが、顧客課題に対するアプローチを転換することで、サービス主導型企業へと段階的に進化してきました。

例えば、レストラン業界においては単なる石鹸販売にとどまらず、顧客の重要課題である店舗の回転率向上に着目。清掃や衛生管理を包括的にサポートするサービスを提供することで、顧客の業務効率を大幅に改善しました。

さらに2000年代以降、M&Aによって複雑化した事業を「One EcoLab」のコンセプトの元で統合。Salesforceを活用し、事業間の連携を強化しつつ、サービスメニューを強化して顧客価値の最大化に取り組んでいます。統一された顧客体験と効率的で一貫性のあるサービス提供が可能となり、企業の成長を支える大きな要因となりました。

2. Siemens

Siemensは、1847年にヴェルナー・フォン・ジーメンス氏によって設立され、電報技術の開発から事業をスタートしました。次第に事業を拡大し、鉄道や発電機などの電気機器にも進出。現在では産業オートメーション、デジタルファクトリー、ヘルスケア、エネルギー、インフラといった分野で世界をリードする企業です。特に産業デジタル化とスマートインフラ技術で革新を続け、持続可能なソリューションを提供することを目指しています。

Siemensは1847年の創業以来、常に技術革新の最前線に立ち続け、製造業からサービス提供企業への変革を遂げてきました。

特に欧州における「Industry 4.0」の旗手として、産業デジタル化を推進し、製造業のデジタルトランスフォーメーションに貢献しています。時代の変化に柔軟に対応できた理由は、ハードウェアのみならず、ソフトウェアやサービスの重要性を早期に認識し、事業戦略に取り入れた点にあります。

最近では、Siemens Xcelerator(XMP)を活用し、ソフトウェアとハードウェア、サービスを統合した包括的なソリューションの提供体制を構築。これにより、顧客企業に対し製造プロセスの効率化や顧客の生産性向上を実現し、業界全体で一貫した体験を提供しています。

Siemensの成功要因は、技術力だけでなく、ソリューションを通じて顧客のビジネスニーズに応える柔軟な対応力にあります。デジタルツインやIoT技術を駆使し、顧客の課題解決を支えることで、サステナビリティと競争力を高めているのです。

Siemens Launches AI and Ecommerce with Einstein 1(英語)

3. ミスミグループ(meviy)

ミスミグループは、1963年に設立された日本の企業で、精密機械部品や産業機器の標準部品の製造・販売を行っています。ミスミグループは、部品のカスタマイズオーダーや短納期の配送サービスで高い評価を得ており、自動化やロボット化が進む製造業界に不可欠なパートナーとしての地位を確立しています。また、「meviy」などのデジタル製造サービスを通じて、製品の設計から生産までを効率化するソリューションも提供しています。

meviyは、ミスミが提供する革新的なデジタル製造プラットフォームで、設計から製造までのプロセスを効率化するサービスです。ユーザーは3D CADデータをアップロードするだけで、リアルタイムで部品の価格と納期が確認でき、そのままオンラインで発注可能です。

これにより、従来必要だった見積もりや設計確認の手間を大幅に削減し、部品調達のスピードを飛躍的に向上させます。また、自動化された生産プロセスによって、短納期と高品質な製品提供を実現しています。

meviyは特にカスタマイズ部品の製造に強みを持っており、製造業者に対して迅速かつ柔軟な対応が可能です。これにより、設計者やエンジニアは設計変更やプロトタイピングの工程を素早く進めることができ、開発スピードを向上させるメリットがあります。さらに、クラウドベースのプラットフォームを採用しているため、設計データの共有やプロジェクト管理が容易で、複数の関係者間でのコラボレーションが円滑に行えます。

このように、meviyはデジタル化された製造プロセスによって、コスト削減、迅速な納品、柔軟なカスタマイズに対応する新しい時代の部品調達サービスを提供しており、ものづくりの現場における生産性向上に大きく貢献しています。

事例で読み解く製造業のDX

ミスミグループの営業組織改革を支えた3つの柱とは
製造業の企業文化とデジタルを掛け合わせて画期的な新事業「meviy」を立ち上げたミスミグループ本社。このeBookでは同社のDX成功の条件を再現性の高いデジタル活用を軸に探ります。

3社からみるサービス主導型企業になるためのポイント

1. 顧客の課題解決を最優先にしたアプローチ

各社に共通して言えることは、単に製品を提供するのではなく、顧客が直面する本質的な課題に対応し、自社が提供できる価値を最大化することを追求している点です。

EcoLabは、単なる石鹸販売から顧客の業務効率を高める包括的な衛生管理サービスへ進化し、Siemensは製造業のデジタル化を支えるソリューションを提供。ミスミも部品調達の効率化を通じて、顧客企業の課題である設計・製造プロセスの最適化に貢献しています。

2. デジタル技術によるコミュニケーション改善とプロセス効率化

デジタル技術の活用は、顧客ニーズに迅速かつ柔軟に対応するための手段として重要性を増しています。デジタル技術は、リアルタイムでのデータ収集・分析を可能にし、顧客のフィードバックを即座に反映できるため、サービスの精度やスピードを大幅に向上させます。

これはサービス志向型組織には必要不可欠です。また、顧客情報とサプライチェーンの可視化により、継続的な改善が促進され、サービスのパーソナライズも実現しやすくなります。

前述した例で言えば、Siemensの顧客ポータル(XMP)は顧客企業の統一的な対応窓口として機能しており、パートナーを含めた企業が提供するサービスがどのように顧客い価値をもたらすのか、最適な提案と効率的なオーダーフルフィルメントを可能にしています。このように、デジタルはより精緻な問題解決や新しい付加価値を生み出すためのエンジンとして機能するのです。

3. 柔軟な事業戦略・組織と継続する進化

これらの企業は、変化する市場や技術に柔軟に対応し、顧客のニーズに合わせたソリューションを提供しています。Siemensは産業デジタル化の波に乗り、製造業からサービス主導のビジネスモデルに転換することで、持続的な成長を実現しました。

Ecolabも同様に、多角化した事業を統合しつつ、サービスメニューを進化させてきました。これらの成功要因は、単なる製品販売に依存せず、顧客との長期的な関係構築を基盤とした柔軟な事業展開にあります。

またこのような柔軟な戦略を実行するための組織には、あらゆる変化を許容できる企業文化が根付いていることが不可欠です。従業員が革新を促すよう奨励され、新しいアイデアや改善提案を気軽に共有できる組織風土がまさに進化の基盤となるのです。

筆者から最後に

今回は「サービス主導型」という観点でみなさまに情報をシェアしましたが、このサービタイゼーションに限らず、企業進化という観点で通底する概念は、やはり「組織の中でイノベーションをどう起こすか」ということです。生成AIを初めとしたテクノロジーの進化のスピードはさらに早まっており、新たなサービスが生まれるサイクルも早くなり続けています。


ただ、テクノロジーが進化しても、企業組織に所属する人の意識と行動が変わらなければ、実際には何も変わらないでしょう。


顧客に向き合い、新たなサービスを生み出すためにはイノベーションは欠かせません。特に生成AIを使うことで、組織は知の探索と要約、それの解釈も格段に早く出来るようになっています。

学習し、試し、失敗しながら成長していくという文化を醸成し、日本企業におられる皆さんが、これからも生き生きと活躍できるよう、微力ながらこれからも支援を続けてまいります。

製造業における生成AIの活用と課題

世の中を席巻している生成AI。製造業ではどのような使われ方が期待されているのでしょうか。現場への意識調査を行い、そのリアルな期待と課題をまとめました。

製造業のサービタイゼーションの現在地と未来形

今、知るべきビジネスのヒントをわかりやすく。厳選情報を配信します