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【新常識】米国企業の8割以上が導入。「マーケティングオペレーション(MOps)」とは何か

マーケティング業界で注目を集める「マーケティングオペレーション(MOps)」。本記事ではその第一人者といえるゼロワングロース株式会社の丸井達郎代表取締役を招いたウェビナーから、その内容を紐解きます。

日本企業は、米国企業に比べてマーケティングに関する経営層の意識が低く、多く企業は決して潤沢ではない予算と人材でマーケティング業務をこなしていると言われています。

Marketing Cloud」を中心としたプロダクトでマーケターを支援するSalesforceではこのほど、「マーケティングオペレーション(MOps) の教科書」の著者で、ゼロワングロース株式会社の丸井達郎代表取締役を招き、ウェビナー「伸びる企業が持つ仕組み マーケティングオペレーション(MOps) 〜ベストプラクティスから見る 組織モデルとデータのあるべき姿」を開催し、グローバルの潮流や成功事例を紹介しました。本記事ではその概要を紹介します。

ウェビナーの録画はこちらから視聴可能ですので、併せてご覧ください。

伸びる企業が持つ仕組み マーケティングオペレーション(MOps)

マーケティングオペレーション (MOps) の教科書の著者、丸井達郎氏が登壇し、成長する企業が共通して持つ仕組みや、それを実現するノウハウについて、グローバルの潮流や成功事例をもとに明らかにしていきます。

マーケティングをめぐる課題は山積

ウェビナーでは冒頭、 Salesforceマーケティング統括本部ディレクター秋津望歩が「MOps」の概要を紹介しました。

秋津 営業とマーケティングの間には大きな隔たりが生まれがちですが、営業が生産性高く商談を前に進めて成約に結びつけるためには、戦略に基づいたマーケティング施策の実行が必須です。ポイントは、組織ごとに責任のあるKPIを持ち、前後の部門と共有することです。

また、多くのマーケターは「データの活用方法がわからない」「施策の効果測定の仕組みが整っていない」「属人化していたので担当者の退職でわからなくなった」「関係部署からマーケティングチームが何をしているかわからないと言われる」といった課題を抱えています。マーケティングツール数の飛躍的な増加や、マーケティングチームが取り扱わなければいけないデータ量の急増など、悩みは増えるばかりです。

そこで関心が高まっているのがMOpsです。MOpsチームは、マーケティングと IT部門の架け橋となり、データマネジメントやマーケティングテクノロジーツールの管理、キャンペーンマネジメント、マーケティングチームの教育などを担当します。米国では8割以上の企業がMOpsの専任チームを置いているという調査結果があります。

マーケティング先進国には標準化されたモデル

メインセッションではゼロワングロース代表取締役 丸井達郎氏が、MOpsの歴史や先行する米国の事情などを解説しました。

ゼロワングロース株式会社
代表取締役 丸井 達郎 氏

マーケティングアプリケーションのグローバル企業でセールスおよびマーケティングの戦略コンサルタントとして、実現性の高い戦術設計に重点を置いたフレームワークを活用して、多くの顧客企業のDXを担当。また、グローバルでわずか6名しかいない戦略コンサルティングチームにも所属し、グローバル規模の大型プロジェクトもリードした。オンライン広告やウェブサイト最適化、マーケティングオートメーションおよびSFAをはじめとしたセールステックまで幅広い知識を保有。自身もマーケターとして企業の成長に貢献した経験を持つ。テクノロジースタートアップ企業の海外進出などにも従事している。仏INSEADにてCGM(Certificate in Global Management)プログラム修了。著書に「マーケティングオペレーション(MOps)の教科書 専門チームでマーケターの生産性を上げる米国発の新常識」(翔泳社)など。

丸井 私はかつて日本の事業会社で、メールマーケティングの戦略立案やWebサイトリニューアル、マーケティングオートメーションのシステム導入など、幅広くマーケティング業務に携わりましたが、いつも手探り状態の感覚がありました。

その後、マーケティングアプリケーションのグローバル企業に移り、コンサルティングチームのトレーニングに参加。そこで知ったマーケティングは、それまで私が知っていたものとは大きく違っていて驚きました。

マーケティング施策の実行ではなく、その前の戦術設計から実行に至るプロセスの設計にものすごく力を割いていたことが印象的でした。設定したゴールを達成するためには、どのような組織、ワークフロー、データインプットで、誰がどういう責任を持って、いつまでに何をするのかがしっかり考えられていました。

そうすることで、実行に移るときのオペレーションはすごくスムーズに回るので、最終的なアウトプット、つまりマーケティングの成果が非常にわかりやすく評価できます。

また、さまざまな企業のマーケティングや営業チームを間近で見る中で、戦術は企業によってもちろん違いますが、戦術設計のフレームワークは非常に似ていることにも気づきました。

標準的なオペレーションモデルが確立されていて、それをベースに非常にスムーズにマーケティング施策を実行している。先ほど秋津さんが挙げたマーケターの悩みが、標準的なフレームワークに当てはめることで短期間に解決できることが多いこともわかりました。

標準的なオペレーションモデルを知ることは、マーケティング施策で使用するシステムの機能が、なぜそのように実装されているのかを理解するのにも役立ちました。Salesforceは戦術設計の標準的なフレームワークであり、マーケティングマネジメントの中核となるシステムです。これは Salesforceのウェビナーだから言うのではありません(笑)。

マーケティングオペレーションの歴史

以前は、「ビッグデータ」という言葉が盛んに取り上げられましたが、多くの企業はこのアプローチがうまくいったとは言えないでしょう。辛辣な表現をすれば、「Garbage In, Garbage Out」、ゴミを入れてもゴミしか出てこないという状態に陥ったのです。

とりあえずデータを集めてみたところで、それを分析できる人、さらにインサイトを導き出せる人は限られているので、なかなか改善のプロセスが回りません。そうではなくデータの利用シーンをまず明確にしてから、データを正しく格納するオペレーションを確立し、効率よく集計したり効果測定したりできる仕組みを作るべきだったのです。

ところが、イベントやセミナーを運営しながら片手間でそんなことはできません。そこでBig Opsというコンセプトのもと、正しくデータを入れてクオリティの高いアウトプットにつなげる専門家チームを置く動きが広がっていきました。

このBigOpsという言葉は、もともとITシステムの開発で使われていたDevOpsが広がったものです。現在ではさまざまな職種分野にも影響し、マーケティング(MOps)の他、セールス(SalesOps)、カスタマーサクセス(CSOps)、人事・採用(HROps)、財務(FinanceOps)、法務(LegalOps)といった幅広い分野において、チームの活動をデータとテクノロジーで支援する専門チームを指しています。

マーケティングテクノロジーは現在、1万4106個存在していると言われており、さらに増えています。そのため、システムの連携やデータの集約も含めた管理が重要で、片手間でできることではありません。

このこともMOpsの組成に拍車をかけており、MOpsの専門的な団体のアンケート調査では、米国の80%以上の企業が専任のMOpsがいると答えているほど浸透。これは私の体感にも近い数字です。

マーケティングオペレーションの代表的なフレームワーク

マーケティングオペレーションの標準的なフレームワークは、私は12のテーマで存在していると考えていますが、今日はそのうちのいくつかを紹介します。

  • レベニュープロセスマネジメント

リードを獲得して営業に引き渡し、そこから商談を作って受注。アップセル/クロスセルでさらに収益を拡大してLTVを伸ばしていく。こうした一連のプロセスを構築し、それらを可視化してマーケティングのボトルネックを発見して、よりよいマーケティングプロセスにしていきます。

  • キャンペーンマネジメント

データドリブンマーケティングに非常に近いもので、誰にどういう価値を、どんなクリエイティブで提案すれば最も効果的にマーケティングキャンペーンが実行できたのか。これをデータで判断して即座に改善するマネジメントの方法論です。

  • マーケティング生産性マネジメント

マーケティングの各チームや各担当が、生産性高く働けているのかを可視化するものです。

これらのフレームワークを使ってマーケティングチーム全体のマネジメントプロセスを構築して高い収益プロセスを作り、より改善速度の速いキャンペーン、つまりマーケティング施策の管理を行い、マーケティングチームの生産性を高めていくことで収益に貢献していくのです。

キャンペーンマネジメントについては多くの質問をいただくので、さらに説明を続けます。キャンペーンリクエストが行われると、マーケティングのクリエイティブやシステムの設定、そしてローンチに向けた開発フェーズに移動します。

続く効果測定では、クリエイティブ効果、キャンペーン効果、作業効率を評価して最適化に生かしていく一連の動きがとられます。また、それらの生産性を管理するためのタスクマネジメントの仕組みと進捗を管理するマーケティングカレンダーが連動しています。

この中で特に大切な役割を果たしているのが、キャンペーンリクエストの仕組みです。よくマーケティング施策の分析が難しいと言われますが、その多くは、施策がデータベース化されていないことに起因しています。

そこでワードやエクセルではなく、データベースを構築して、施策の実施結果にフィルターをかけるだけで分析できるようにしておくのです。欧米のマーケティング組織ではキャンペーンリクエストというフォームを用意して、キャンペーンの情報や予算、目的、ターゲットといった情報を主に選択形式で入力。そのデータはSalesforceのキャンペーンオブジェクトに格納される仕組みにしています。Salesforceには営業が売上のデータを入力しているので、それにマーケティングがどう貢献したのかを簡単に分析できます。

また、マーケティング施策において、誰がどういうメッセージに反応したか、どんなタッチポイントで効率的だったのかといったことを調べたいとき、データサイエンスはほとんど必要がなく、日々の効果分析が容易に行えます。

ところが日本では残念なことに、キャンペーンマネジメントでプロセス全体の連動を実現しているケースを見ることはあまりありません。既にフレームワークとしては確立されており、Salesforceで実装できる状態なので、その実現は難しくないはずです。あとは、これまでの業務を変えることができるか、データの入力の定着できるか、マーケティング組織の体制を変えるか、といったことが重要になってきます。

ただし、日本の、特に大企業では、専門組織を立ち上げて成果が出ているケースも増えてきてはいます。旭化成エレクトロニクスでは、標準のオペレーションモデルをSalesforceで実装してデータの可視化が進み、データドリブンのアプローチができるようになった結果、商談数が20%増加。分断していた営業とマーケティングの連携も効率化されました。

Salesforce製品デモ動画

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米国では部門横断のRevOpsも広がっている

マーケティングオペレーションの歴史は長く、また新しい課題も出てきています。MOpsのチームは、基本的にマーケティング組織のチームに対して最適化の提案し、SalesOpsのチームはセールスのチームに対して最適化をオファーし、CSOpsチームは、カスタマーサクセスのチームの最適化を支援します。

しかし、部分最適が進みすぎると別の問題が発生するため、レベニューチームを統合的にマネジメントするCRO(チーフ・レベニュー・オフィサー)という役割が生まれ、同時にレベニューに関わるオペレーションチームのRevOpsも注目されています。AIへの取り組みの強化も、この流れを加速させている要因です。米国での調査ではRevOpsのチーム、もしくは部門があると答えた企業は67.5%に上っており、RevOpsの重要性が語られています。

【Q&A】MOpsへの第一歩でつまずかないために

本ウェビナーでは、視聴者から質問を受け付けるQ&Aセッションの時間も設けられました。その内容の一部を紹介します。

Q:MOpsチームの組成は、ツール、リソースともにそれなりの投資が必要だと思いますが、どれくらいの売上規模の商材を扱っている場合に検討するのが現実的でしょうか。

A:クラウドサービスならコストは抑えられるため、米国ではとても小さなスモールスタートアップでも、将来の成長を視野に入れてMOpsのチームが組成されているケースがかなりあります。一つのシステムで完結するのは現実的でないので、エコシステムが充実していて連携して拡張できるもの、あるいは切り離せるものを選ぶことが重要です。

Q:これからMOpsのキャリアを目指す人を育成する上で重要なことを教えてください。

A:米国では、IT部門から転身するか、マーケティングの中でテクノロジーが好きな人がMOpsの専門性を磨くか、2つが主流となっています。日本でも同じような形になっています。MOpsの専門的な学びの機会があまりにもなかったのですが、最近ではコミュニティができるなど、状況は変わりつつあります。英語の文献にあたってみたり、Salesforceのトレーニングを受講したりすると勉強になることも多いと思います。ゼロワングロースでも専門人材の育成に力を注いでいます。

Q:MOpsチームに特有のKPIはどのように設定すべきでしょうか。

A:マーケティングの成果とマーケティングの活動量は、ある程度比例するので、コツコツ施策を積み重ねていくことが重要で、今いる人員で施策の活動量を増やすことが求められています。そのためよくKPIにされるのが、マーケティングチームの生産性の指標です。例えば、マーケティングキャンペーンのためにEメールを作ってランディングページを作って、広告をセットして、といった一連の作業。これまで平均的に7日かかっていたものを3日に短縮できたとすれば、マーケティングカレンダー上の施策は2倍以上に増やせるので、ゴール達成の確率も大きく上昇します。

Q:マーケティングチームとMOpsチームの最適な連携を図るために、どのようなコミュニケーション手法が有効でしょうか。

A: TeamsやSlackなど、いろんなタッチポイントあります。Wikiのようなハブページで社内のマーケティング情報を一元管理するのも、生産性を上げるのに効果があります。

一方で、MOpsチームはマーケティングテクノロジーについて詳しいので、すごく頼りにされるがゆえに、全ての要望に対応していると時間がなくなってしまう。そこで水曜日の4時から5時までの時間を気軽に相談できる時間にしたり、定例会を設定したり、コミュニケーションを戦略的に設計することが大切です。

Q:MOpsを導入する際、最初につまずきやすい点や難所はどのようなことが想定されますか。

A:これは本当にケースバイケースです。我々の経験上、MOpsの活動について営業に理解してもらってからスタートしたチームは、うまくいくケースが多いのは間違いありません。

Q:MOpsチームを組成するために、最初は何から始めるといいのでしょうか。

A:まず自分たちがどんな課題で困っているのか、そしてどうできればうれしいのかを整理してみてください。その上で専門的な知識を持つセールスフォースや取引のあるコンサルティングファームなどに相談して、解決方法であるMOpsやシステムの導入につなげます。

伸びる企業が持つ仕組み マーケティングオペレーション(MOps)

マーケティングオペレーション (MOps) の教科書の著者、丸井達郎氏が登壇し、成長する企業が共通して持つ仕組みや、それを実現するノウハウについて、グローバルの潮流や成功事例をもとに明らかにしていきます。

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