Skip to Content

【専門家解説】新薬開発の今。臨床治験における被験者リクルート課題で生まれる「ドラッグラグ・ドラッグロス」

臨床治験における被験者リクルートは、新薬開発における重要な課題です。本記事では、ドラッグラグやドラッグロスに焦点を当て、デジタル技術やAIを活用した効率的な解決策を、 Salesforceでヘルスケア・ライフサイエンス業界を担当するインダストリーアドバイザー、早田 和哲シニアマネージャーが提案します。

製薬業界最新レポート

臨床開発のペインポイント解消に向けたAI・デジタルの利活用や顧客エンゲージメントにおける革新的エンゲージメントモデルを学び、製薬企業がどのようにデジタル化やデータ活用を進めることができるのかを知ることができます。

深刻なドラッグラグとドラッグロス問題

日本の臨床治験は、新薬開発において重要なステップですが、被験者リクルートが難航し、しばしばドラッグラグやドラッグロスが発生しています。

ドラッグラグとは、新薬の承認が海外に比べて遅れる現象を指し、ドラッグロスは、治験途中で開発が中止される現象です。これらの要因にはさまざまなものがありますが、特に被験者リクルートの課題が大きく影響しています。

ボストン コンサルティング グループ(BCG)とSalesforceの共著White Paperでは、被験者リクルートが臨床治験の遅延にどのように関与しているか、そしてそれを改善するためのデジタル技術やAIの活用について詳しく分析しています。

被験者リクルートの課題

1. 臨床治験における参加者不足

日本では、臨床治験の被験者リクルートが他国と比べて難しい現状があります。これは、一般市民や患者が治験に対する理解が低いためであり、その結果、治験の進行が遅れる要因となっています。特に、新薬開発の臨床治験において、治験の参加者を効率よくリクルートできないと、治験の開始が遅延し、ドラッグラグが発生する可能性があります。

BCGとSalesforceのレポートでは、欧米諸国では臨床治験が広く認知されているのに対し、日本では治験に対する不安や誤解が根強く残っている点が指摘されています。リクルートに時間がかかることで、治験全体の進行が遅くなり、最終的な新薬の市場投入が遅れることが多くあります。

2. 地方での被験者リクルートの課題

日本の臨床治験は主に都市部で行われているため、地方に住む患者が治験に参加するためには、都市部への移動が必要なことが多いです。これが、地方での被験者リクルートをさらに困難にしています。特に、希少疾患の臨床治験では、患者数が限られているため、被験者を確保できない場合には治験が中止されることがあり、これがドラッグロスの一因となっています。

ドラッグラグ・ドラッグロスとリクルートの関係

1. リクルート遅延による治験進行の影響

臨床治験における被験者リクルートの遅れは、治験全体のスケジュールに大きな影響を与えます。特にオンコロジー(がん疾患、もしくはがん関連疾患)や希少疾患の臨床治験では、被験者が集まらなければ、治験データが十分に集まらず、最終的に新薬の承認が遅れるという結果になります。このような状況は、製薬企業にとっては大きなコストと時間の損失をもたらします。

BCGとSalesforceのWhite Paperでも指摘されているように、ドラッグラグは、新薬の市場投入が他国に比べて遅れることで、患者が最新の治療法にアクセスできなくなり、大きな課題です。これは、被験者リクルートの遅延が治験全体に波及することに起因しています。

2. ドラッグロスのリスク

被験者リクルートが成功しない場合、製薬企業は治験を中止せざるを得ません。特に、希少疾患や特定の疾患に対する治験では、被験者の数が限られているため、リクルートが難航する場合があります。これにより、製薬企業が治験を途中で中止するという「ドラッグロス」のリスクが高まります。

BCGとSalesforceのレポートでも指摘されているように、治験の失敗は企業にとって大きな損失であり、結果的に市場に出るべき新薬が出ないという状況を引き起こします。

解決策と展望

1. デジタル技術とAIの活用による効率化

デジタル技術やAIを活用することで、被験者リクルートの効率化が進んでいます。リアルワールドデータ(RWD)を使用し、臨床治験に適した施設や患者を迅速に特定することで、リクルートプロセスを加速できます。また、分散型臨床治験(DCT)の活用により、遠隔地の患者も参加しやすくなり、治験のスピードが向上する可能性があります。

これにより、ドラッグラグやドラッグロスのリスクを軽減することが期待されます。また、治験の書類手続きやデータの標準化を進めることで、治験の全体的な効率がさらに向上し、新薬開発が加速することが予想されます。

2. 医療機関との連携強化

医療機関との連携を強化することも、被験者リクルートの効率化に寄与します。治験コーディネーターやモニターの役割を拡充し、より迅速な治験実施が可能となるように体制を整えることが重要です。さらに、患者が自ら治験情報にアクセスできる仕組みを整えることで、リクルートの効率がさらに向上します。

特に、米国では製薬企業が患者に直接治験情報を提供し、患者自身が治験に応募できる体制が整っており、日本でもこのようなシステムを導入することで、被験者リクルートの成功率を高めることができるでしょう。

課題解決に欠かせないデジタル技術とAI

被験者リクルートの課題は、ドラッグラグやドラッグロスを引き起こす主要な要因の一つです。特に、日本では臨床治験に対する理解が低く、被験者のリクルートがスムーズに進まないことが新薬開発の遅延に直結しています。

BCGとSalesforceのWhite Paperが示すように、デジタル技術やAIを活用し、医療機関との連携を強化することで、治験の効率化が図られることが期待されます。これにより、日本市場におけるドラッグラグやドラッグロスのリスクが軽減され、より迅速に新薬が患者に提供される未来が見えてくるでしょう。

製薬業界最新レポート

臨床開発のペインポイント解消に向けたAI・デジタルの利活用や顧客エンゲージメントにおける革新的エンゲージメントモデルを学び、製薬企業がどのようにデジタル化やデータ活用を進めることができるのかを知ることができます。

今、知るべきビジネスのヒントをわかりやすく。厳選情報を配信します