日本の公共機関を取り巻く環境は、政治的、経済的、社会的変化に大きく影響を受けています。
特に人口減少と少子高齢化は、国内経済にマイナスの影響を及ぼし、需要・供給の両面でさらなる経済縮小をもたらしかねません。
2014年5月に発表された日本創成会議のレポートによれば、地方から大都市圏への人口集中や、若年女性人口の減少が消滅自治体を生む可能性を高めるという記述があり、10年経過した今もその流れに歯止めがかかっていないという分析もあります(*1、*2)。
これらの構造的な課題に対処するべく、国は地方創生に取り組んでいますが、一方で国民や住民のライフスタイルや価値観は多様化しニーズも多様になったため、行政サービスにも柔軟な対応、つまり個々に応じたサービスの提供が求められています。
今後、このような課題やニーズの変化があるなかで、公共機関が持続可能かつ利用者に寄り添った行政サービスを提供するために、どんな対応をすれば良いでしょうか。
公共機関を取り巻く課題を整理するとともに、海外の事例などを交えた解決策、そしてSalesforceが貢献できることをまとめました。
目次
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少子高齢化や労働人口の減少。慢性的課題への打ち手とは
本題に入る前に、公共機関が抱えている課題を整理したいと思います。
どの公共機関も変革を進めることに異論はありません。新型コロナウイルスの蔓延で急速にデジタル化が進んだ結果、その期待が行政サービスにも求められていることを実感していますし、利用者の利便性向上を図るための手段として、デジタル技術が不可欠なことも理解されています。
しかしながら、変革を阻む要因はたくさんあります。紙や押印を是とした慣習、紙と電子を組み合わせた複雑な業務プロセス、適切なスキルを持った人材の不足、部門を超えた連携を妨げる縦割り組織。そして、法制度や規制により身動きが取れないなど、抱える課題は枚挙にいとまがありません。また、昨今はデータセキュリティやプライバシー保護への取り組みは、公共機関だからこそ他業種・業界と比較して求められる水準も高まる一方です。
これらを解消しようと、デジタル庁が行政のデジタル化を統括し、政府全体のデジタルサービスの改善を目指しています。
加えて、内閣総理大臣を議長とする「デジタル行財政改革会議」でも、急激な人口減少への対応として、利用者起点で行財政のあり方を見直し、デジタルを最大限に活用して公共サービスなどの維持・強化と地域経済活性化を図り、社会変革を実現することが必要だと謳っています。
とはいえ、人口減少の中、行政側の人材や予算などのリソースが豊富にあるわけではありません。また、生成AIのように世界レベルで社会的インパクトを与えるテクノロジーも登場しており、こういった技術的変化、それによる社会変容は今後も避けられません。つまり、そのような変化にも対応できる仕組みを整えておくことが公共機関に求められているのです。
その打ち手としてデジタル技術の活用が良い理由は、行政サービスの品質を確保しながら効率とスピードを上げられることにあります。その結果、利便性が向上して国民や住民の暮らしやすさ、働きやすさに繋がり、新たなイノベーションを創出できるという訳です。
国民や住民はきちんと行政を見て、評価しています。ふるさと納税で多くの税外収入を確保した自治体や政府の半導体戦略/企業誘致により、経済波及が見込める自治体が打ち出す充実した住民サービス、支援を目当てに、人口流入が増えているのはその一例です。
住民が自治体を選ぶ時代。だからこそ、行政サービスの利便性を打ち出して住民に近いところで繋がり、声を拾って活かしていくことが重要なのです。
デジタル化に向けてSalesforceができること
では具体的にどうしたら良いか。その答えはデジタル庁が示しています。
「多様な利用者のニーズを効果的かつ効率的に達成できるよう利用者中心(人間中心)を原則とする行政サービスデザイン体制に取り組むことにより、誰もが、いつでも、どこでも、デジタル化の恩恵を享受できるようにする(*3)」のが肝要である。
そしてそのために制度、業務、システムの3つを一体的に構想して改善していく必要があるとも述べています(*4)。
一例としてアメリカのある州では、急遽新しい規制が設けられ、ある事業者を管理するために許認可を行う必要に迫られました。しかしながら、現状のシステムの改修では半年後の施行までに間に合わないと判明し、解決策としてSalesforceを採用して新しく許認可システムを構築することになりました。
その際重要視したのは、申請を実施する事業者を中心に設計したことにより、ユーザビリティを向上するとともに、セルフサービスを充実させて申請から支払いまでを自己解決できる仕組みを作りました。
これにより事業者が自分で検索して該当する許認可の申請を行い、その後も自分の状況がいつでも確認できるようになっただけでなく、更新のタイミンングや何か是正措置があった場合にもシステムから通知がいくようになったので遅滞なく対処ができます。
また、システムに業務を合わせ、1つのプラットフォーム上で複数部門がアクセスし業務を遂行できるようにしたことで、許認可をする部門、監査を実施する部門等、ライセンス管理を行う部門等、部局をまたがるコラボレーションがスムーズになり、可視化が進み、サービス提供までの時間が大幅に短縮できます。
また、法令など絶えず変化する要件にも柔軟に対応できる基盤を整えられたことで、拡張性も担保できるようになりました。制度をトリガーに業務、システムを一体となって仕組みを整える重要性を表した事例といえます。制度の改善は政府の取り組みに期待するとして、業務およびシステム部分では、Salesforceが改善に寄与する公共機関向けのソリューション「Public Sector Solutions(PSS)」を提供しています。
公共機関向けソリューション(PSS)
公共サービス向けに設計された、すぐに利用できるアプリケーションで業務を実施しましょう。
・公共機関のサービスをデジタル化
・自動化とAIで行政サービスを向上
・政策や制度の変更や大規模要件に柔軟に対応
PSSは公共機関向けCRMで、公共機関が行うサービスのワークフローである、利用者からの申請の受付、内容の審査、行政サービスの提供、そしてモニタリングの一連の流れをカバーしています。
さらに、これらを1つのプラットフォームで実行しているので、複数システムを立ち上げて確認するような非効率がありません。利用者を中心に考えたデータ管理をしながら、職員の効率化も加味したソリューションとなっており、まさに誰もがデジタル化の恩恵を享受できるのです。
従来の「Lightning Platform」や「Service Cloud」の製品の場合、どの業種・業界にも適合する汎化型であるがゆえに、お客様の要件に合わせてカスタマイズを実施していました。
一方、PSSをはじめとする業種特化型の「Industry Cloud」は、業界ごとの特性に応じたユーザーインターフェース(UI)やロジック、データモデルを標準機能として備えています。これまでのようにフルスクラッチを前提として要件や業務を整理したり、データ構造を考える必要はありません。
提供されているデータモデルを利用しコンポーネントを組み合わせれば、カスタマイズを施す部分を少なくしてローコード、ノーコードで素早く構築できるのです。この基盤があれば、新たなニーズによる要件変更や法令や規制に伴う変更にも柔軟に対応が出来るようになり、内製化の促進にも繋がります。加えて、年3回のバージョンアップ対象として実装しているので、継続的に機能拡張し、最新テクノロジーをいつも享受できます。
PSSにより、公共機関は利用者それぞれに応じたきめ細やかなサービスの提供に多くの時間やリソースを割けるようになります。もはや単なるツールではなく、”変革の伴走者”であると言えるでしょう。
▶ 公共機関向けSalesforce(PSS)で実現できることを動画で確認
海外の公共機関でもデジタル変革、続々
公共機関の悩みや課題は海外でも同様に抱えていました。アメリカの行政サービスのデジタル化は、広大な国土で多様な住民のニーズに対応するために効率化が必要となったことから始まったと言われています。
従来の対面や紙を前提としたアナログな手続きは住民にとっても公共機関にとってもコストや時間がかかるものだったからです。更に9.11の出来事をきっかけとして、安全保障の観点からも効率的で迅速な情報共有が求められるようになりました。
イギリスでは、財政難から行政サービスの効率化とコスト削減を図ることが動機となったと言われています。
具体的なアメリカの事例としてカリフォルニア州陸運局(California Department of Motor Vehicle)をご紹介します。同局は、1901年に車輪付きの乗り物の免許発行機関として設立され、現在は2,700万人のドライバーに免許を発行し、3,600万台以上の車両登録管理を行いながら3,400万のIDを発行・管理する全米最大の機関です。
どの州においても陸運局は、常に手続きに訪れた人が大行列で、長時間待たされるのが当たり前。ようやく順番が回ってきても不備があれば出直さなければならないなど悪名高い場所でもありました。この事態を打破しようと変革に取り組み始めていた矢先、新型コロナウイルスが大流行しました。
陸運局は急遽閉鎖を余儀なくされ、利用者だけでなく9,000名の職員も出社が不可能になりました。獅子奮迅の対処に迫られ、デジタルサービスを大きく拡大することになったのです。
この時「デジタルファースト」戦略を掲げ、よりシンプルで素早く顧客のニーズを満たすことができるようにシステムを再構築しました。古いレガシーシステムを刷新し、アナログだったサービスをデジタルチャネルに拡大し、バックオフィスの効率化と顧客管理ができる基盤としてPSSを採用しました。
カリフォルニア州民が24時間どこにいてもサービスを利用できるようになっただけでなく、オムニチャネル環境を提供して顧客が望むコミュニケーションチャネルで、直感的な操作で申請できるようにしました。
テクノロジーの進化に伴い、お客様の期待や嗜好も変化し、瞬時のサービスや情報の入手を求めるようになったからです。また、単なるデジタル化ではなく、セルフサービスで自己解決できるよう図ったことで、利用者体験を向上しただけでなく、問い合わせ件数を減らせたことで職員はより複雑なタスクに集中し本来業務に専念できるようになりました。
データが蓄積されたことにより、より良いサービスの提供や業務の効率化に取り組むことが出来るようになったのです。
このように利用者を中心にプロセスを設計し、将来の拡張性や柔軟性を見据えてデジタル技術を活用することが、優れた行政サービスを提供することに繋がり、利用者にも職員の両者に優れた効果をもたらすのです。
サービスの拡大とイノベーション推進に成功したカリフォルニア州陸運局
ワークフローの自動化とインフラのプラットフォーム再生により、サービスの効率とスピードが大きく向上した事例をご紹介します。
公共機関に最適化したPSSの8つのソリューション
- 給付管理(Benefit Management):
給付制度における受給資格の検索、申請、管理を1つのプラットフォームで行うことができます。住民や事業者などの利用者と適切な給付制度をマッチングし、利便性の高い申請プロセスを提供します。職員は受給資格の判断、給付金の計算や割り当て、支払計画を立てることができます。 - コンタクトセンター(Contact Center Management):
住民や事業者などの相談者に寄り添った問い合わせへの対応や情報を一元管理することで、状況を素早く把握して適切な回答を実現できます。 - 職員エクスペリエンス(Employee Experience=職員ポータル):
業務上必要な情報を検索・閲覧し、各種申請のワークフローや備品などの調達に利用できる機能を備えた、いわゆる職員向けポータルです。職員が容易に操作できる環境を提供し、人事採用や調達管理、ITプロセスなどの業務を効率化します。社内の問い合わせを一元管理すると同時に、デジタルワークフローにより、時間と場所を問わず社員が課題を自ら解決できる環境を提供します。 - 助成金管理(Grant Management):
住民や事業者等の助成対象者に適切な資金を適切なタイミングで提供することができるほか、透明性を持って助成金制度を追跡、管理、提供できます。 - 検査管理(Inspection Management):
法令などに基づいて適正な管理が行われているかをチェックリストに従って検査を実施しながら確認し、必要に応じて是正措置、違反の追跡、モニタリングを実施できます。 - 許認可管理(License & Permit Management):
個人の免許や事業者の許認可などにかかわる申請を受付、審査し、承認して交付するまでを一元管理できます。 - 事業者管理(Provider Management):
事業者を管理し、相談者に適切な事業者を紹介・マッチングします。職員は進捗状況を見ながら相談者に必要なサービスを確実に提供することが可能です。 - ソーシャルプログラム(Social Program Management):
様々な問題を抱え生活に支障をきたしている人の相談、評価および支援を行うケースワーカーの生産性を高めることができます。
Salesforceの公共機関向けソリューション(PSS)で実現すること
実績のあるPSSで信頼を構築。迅速で効率的に、幅広い行政サービスを提供します。ぜひこの動画で、Salesforceで実現することをご確認ください。
まるでシネマコンプレックスのようなものです。公共機関では定番のユースケースに合わせてテンプレートを提供しているので、付随したデータモデルを利用しコンポーネントを組み合わせれば構築できてしまいます。しかもローコード・ノーコードで画面や複雑な処理ロジックを作れるので、生産性の向上と素早い行政サービスの提供に繋がります。
グローバルでは、PSSが提供可能になった5年前から連邦政府、州政府、官公庁、自治体で数多く採用され、その結果多くのフィードバックをもとに年3回のバージョンアップに反映させて機能拡張や新機能を提供しています。ベストプラクティスが詰まった状態のPSSからお客様の要件に必要なものを選んで組み合わせることは、いいとこ取りのソリューションと言えます。
課題解決に必要なこと
現代において、行政サービスを真の利用者起点で提供するには、政府が掲げているようにデジタル技術を活用することは不可欠です。
今後もVUCAの時代は続き、人口減少時代において人材や予算等のリソースに頼るにも限界があります。法令や規制対応などは今後も行われ、素早い対処が必要になります。
あらゆる変化やニーズに対応出来る持続力をシステム側で備えておくこと、システムに合わせて業務を変革しておくこと、それから情報の中心を国民や住民に置き換えるだけで、行政サービスの質と効率は大きく変わってくるはずです。自身のことを正確に把握し、必要なサービスを適切なタイミングで提供してくれる、そんな行政サービスを皆さんも求めていませんか?
<参考文献>
- 消滅自治体(日本創成会議「ストップ少子化・地方元気戦略」)
- 人口戦略会議(地方自治体「持続可能性」分析レポート)
- デジタル庁「サービスデザイン」
- iJAMP Times「ワンガバメントに挑む」
執筆:佐野 真樹子、編集:木村 剛士