組織のレベニュー(収益)を上げるためには、部門ごとの施策にとどまらず、全社横断でデータと組織の連携を推進することが求められています。容易なことではありませんが、すでに米国では「レベニューオペレーション(RevOps)」と呼ぶ概念や組織体制を実践・設置することで壁を乗り越えている企業が多く存在します。
Salesforceではこのほど、『レベニューオペレーション(RevOps)の教科書の著者で、エンハンプの川上エリカ氏を招いたウェビナー「部門間連携が収益最大化のカギ レベニューオペレーション(RevOps)〜部門間のデータ連携により、顧客体験と経営判断の質向上へ」を開催。その概要を紹介しました。本記事ではその中から要点をお伝えします。
ウェビナーの録画はこちらから視聴可能ですので、併せてご覧ください。
部門間連携が収益最大化のカギ
レベニューオペレーション(RevOps)
部門間のデータ連携により、顧客体験と経営判断の質向上へ
本ウェビナーでは、RevOpsの解説や、グローバルでの成功事例、導入におけるノウハウ等についてご紹介いたします。
目次
レベニューオペレーション(RevOps)とは
ウェビナーでは始めに、Salesforceの山口芽衣が「RevOps」の概要を説明しました。
山口 国内企業を対象にした調査結果によると、顧客データを部門横断で業績の分析や予測に活用できている企業は多くありません。その一方で、顧客データの活用レベルが上がるのに合わせて、売上や営業利益も大きく上がることがわかっています。
しかし、DXに伴い様々なシステムが導入されてきた結果、平均的な企業におけるアプリケーションは1000種類を超え、71%の企業アプリケーションは分断されている状況です。
組織内のデータやアプリケーションが分断されていると、組織やKPIもサイロ化されたままとなり、これを放置するとさまざまな弊害が出てしまいます。例えば、組織間での基本KPIの共通認識がないためうまく協力できない。データが散在しているため経営判断に自信が持てない。お客様に対して一気通貫した体験を提供できないなどです。
これらを解決していくのがRevOpsです。これは、持続的な収益成長を実現する生産性高い組織構築のために、レベニュー組織の協業プロセスを強化し、戦略や戦術面で生産性向上を支援する方法論であり役割です。
RevOpsの現在地
続いてエンハンプ代表取締役の川上エリカ氏が、どのように組織やデータのサイロ化を防ぎ、横串を通してデータを活用し、横断的なレベニュー組織をつくるかについて解説しました。
川上 書籍のインタビューにもご協力いただいた、RevOpsを支えるテクノロジー(RevTech)企業のオープンプライズ社が、米国で今年実施した調査によると、すでにRevOps組織があると回答した企業は67.5%でした。
RevOpsという概念は、欧米で2018年頃にIT企業を中心に広がり始め、数年遅れて製造、金融、ヘルスケア、コンサルティングといった業界に広がりました。それからさらに数年経った現在は、ハイプ・サイクルの「イノベーター」や「アーリーアダプター」の時期を過ぎて、「アーリーマジョリティー」の段階に入ってきているといえます。
ボストンコンサルティンググループの報告によると、RevOpsがあることによって得られる恩恵として、デジタルマーケティングのROI向上や営業の生産性向上、リードの受注率向上、GTM(Go-To-Market)費用削減などがあります。
また、社内の顧客満足度向上にも効果があるとしています。RevOpsでの社内顧客とはレベニュー組織(マーケティング、インサイドセールス、営業、カスタマーサクセス、それらを支えるオペレーション部門で構成される組織)のフィールド部門のみなさんです。
サイロ化が引き起こす4つの課題
RevOpsが必要となった背景には、山口さんからの説明内容に加えて、デジタルテクノロジーの進化による顧客の購買プロセスの複雑化もあります。顧客と営業が電話で気軽につながるような直線的な営業プロセスではなくなった現在、購買行動を促すためには、より多くのデータが必要になりました。
その中で競争優位性を持つには、タッチポイント一つひとつのミクロな視点ではなく、レベニュープロセスの循環全体を踏まえて意思決定していくことが必要です。
しかしながら、必要に応じてさまざまなオペレーションチーム(MarketingOps、SalesOps、CSOps(カスタマーサクセス))が生まれ、それらを支える個別最適のツールの利用によってデータが散在した結果、全体を把握できない状態となりました。
レベニュー組織のサイロ化が引き起こす課題は、具体的には4つあると考えています。
・組織文化への影響
部門ごとに目標設定すると、どうしても部門間の対立が起きてしまいがちです。とくに多いのがマーケティングとセールスが違うKPIを追うこと。これによってスムーズな連携が難しくなります。
・データドリブンな意思決定の阻害
部門間でデータが共有されないことで、全体像が見えずに誤った判断をしてしまう可能性があります。オープンプライズ社のエド・キングCEOにインタビューしたときに印象的だったのが、「各部門から出てくるデータをもとにした意見を聞いても、意思決定の参考には全然できなかった」という話です。データは事実でも、それをどう語るか、どう活用するかによって、判断に資するかどうかが変わってきてしまうためです。
・顧客体験の質の低下
サイロ化していると、部門を超えた瞬間から一貫性のない顧客対応が発生してしまうリスクがあります。
・業務効率の低下
プロセスが分断されると当然、業務は非効率になってしまいます。重複した業務が発生するのでリソースを無駄に消費します。
レベニュー組織内でアプリケーションとデータが分散してそれぞれが個別最適化されると、合理的な意思決定も難しくなり、セキュリティやガバナンスの問題も発生。同時に重複の投資が増えることでコストも膨らんで、全体的にROIに悪影響を及ぼすケースも増えてきています。
もちろん個別最適化が有効なケースもありますが、重複状況を可視化してビジネス間のコラボレーションを加速することが重要で、そのためセントラル部門の役割と責任、RevOpsの重要性が増加してきています。
また、AI時代は、AIモデル学習のために質の高いデータを用意する必要性があることから、データの収集プロセスや品質の管理は、レベニュー組織が持続的に成長していくためのカギだといえます。
RevOpsの構成要素とレベニュー組織における位置づけ
RevOpsの構成要素は、まず基盤としてGTM戦略があり、それを実現する4つの要素があります。
・オペレーションマネジメント
レベニュープロセスの最適化と効率化を実現します。プロセスの設計・標準化によって、レベニュー組織の業務効率を向上させ、人材・時間・コストを効率的に配分し、最大の効果を発揮できるように支援します。
・レベニューイネーブルメント
収益向上のために、フィールド組織の能力を最大限に引き出します。GTM戦略やレベニュープロセスを踏まえて、レベニュー組織の各フィールド部門がシームレスに連携し顧客に価値提供できるように、トレーニングプログラムの開発、コーチング、コンテンツの整備、テクノロジーの導入や利活用促進、インセンティブの設計などのトレーニングや育成全般を担います。
・RevTechマネジメント
フィールド組織が効果的に連携し、データを活用するためのテクノロジーの導入や統合、維持管理を担います。GTM戦略の実行に向けて効果的なテクノロジーを選定し、そのテクノロジーの能力を最大限発揮できるように、システムの構築やワークフローの自動化、他システムとの統合を行います。自動化に適した領域や、新技術の活用領域を特定し、より効率的で合理的なオペレーションに進化させます。
・データマネジメント・インサイト
チーフレベニューオフィサー(CRO)やフィールド組織にビジネス判断をサポートする情報を収集し提供します。各部門や顧客から収集したデータを整理して一元的に管理し、トレンドやパターンを見つけ出します。分析結果をレポートとしてまとめ、各関係者に戦略や施策を提案し、データに基づく意思決定も促します。
次に、組織についてです。
RevOpsは目標の達成に向けて、CROの戦略策定をサポートします。重要なことは、フィールド組織(マーケティング、インサイドセールス、カスタマーサクセス)の配下に設置してその組織のヘッドにレポートするのではなく、フィールド組織とは独立して存在させる点です。
レベニュー組織の各部門から個別に報告されるデータだと、何が真実なのかがわからない状態に陥りがちで、断片的なデータはリソースの浪費にもつながってしまいます。一元化された適切なデータがあれば、CROは最適なタイミングで最適な判断を行えるのです。
CROに求められる能力
マッキンゼー・アンド・カンパニーの調査報告によると、CROの役割を持っているFortune100の企業は同業他社と比較して収益成長率が1.8倍高かったそうです。本質的にCROが機能することにより、事業の成長を格段に上げることができるわけです。
ただ、マーケットが複雑化しテクノロジーの進化も加速している中で、マーケティング、営業、カスタマーサクセスの全領域を網羅的にマネジメントするCROは、非常に多くのものが求められます。
・戦略的思考と高いビジネス感覚
・リーダーシップとコミュニケーション力
・変化への対応と革新性
・テクノロジーやデジタルのリテラシー
・顧客視点
そう聞くと、そんなビジネスパーソンいませんよね?と感じるかもしれません。だからこそCROが得意領域ではない領域を補完するRevOpsが、経営のパートナーとして注目されているのです。
RevOpsの取り組みは組織図から着手してはならない
RevOpsの取り組み方で起こりがちなのが、最初にRevOpsの組織図づくりから着手するケースで、私たちもその支援を依頼されることが少なくありません。
しかし、まず着手するべきなのは組織図ではありません。利害関係者の賛同を得る前に、リーダーシップや組織階層を決定しようと急いでしまっても、うまくいかないんです。
RevOpsの実践手順は、まず「スコープ」から始まり、自社のRevOpsを推進するにあたっての現状把握と、範囲の決定を行います。戦略・プロセス・テクノロジー・データマネジメント・分析・イネーブルメントといったRevOpsの要素について自社の現状を整理するのです。
次に「デザイン」です。ここではRevOpsチャーターを作ります。これは、RevOpsの取り組みが収益成長に貢献するようにゴール・目的を明確化、予算やスケジュールの概要などを文書としてまとめたもの。憲法のような存在であり、成長する組織の新しいニーズに合わせて進化していくものです。
その上で「アクティベート」に移り、組織図を作成して実行するのです。
RevTechのテクノロジースタック
RevOpsにおいて重要なデータ統合では、テクノロジーデザインが必要不可欠です。RevTechのテクノロジースタックは大きく3つに分類できます。
・新規獲得を支えるグロースアセット
・意思決定を支えるインサイト
・レベニュー成長やコスト効率の改善を支えるバリュードライバー
重要なのは、それらが全部網羅的に使える状態にすることではなく、それぞれがつながっていて高い生産性で価値を発揮できることです。データの蓄積、そのガバナンスの管理、複数部署から収集されるデータプロセスの自動化、そしてその分析やアクセスを一元的に管理する仕組みが整った状態が理想的なのはたしかですが、難しいのが現実。
これまで利用してきたシステムは縦割りの組織にデザインされているので、顧客の全体像をそれだけで推し量ることが難しくなってきています。
そこで欧米では数年前から、部署を横断したシングルソース・オブ・トゥルース(唯一の情報源)となる、クラウドデータウェアハウスやカスタマーデータプラットフォームを構築しようという動きがレベニュー組織で起きています。
テクノロジースタックの構築において今、重要なキーワードとなっているのが「コンポーザビリティ」で、交換や組み合わせが可能な独立した要素でシステムを構築し、必要に応じて簡単に追加・削除・交換ができる状態のことです。アプリケーションが相互に影響されずに簡単に入れ替えられるコンポーザビリティが高ければ、柔軟性やカスタマイズ性、機敏性が高まります。
その代表的なものが、複数のシステムから収集された顧客データを統合し一元管理する、カスタマーデータプラットフォーム(CDP)です。
コンポーザブルCDPの導入は、これまでIT部門主導で行われてきたデータウェアハウスの取り組みと目的はほとんど同じです。唯一の違いは、プロジェクトにおいてレベニュー組織が主導権を持ったことであり、よりビジネスに直結した形でシステムを構築できるところに注目が集まっています。
これまでのアプローチではデータの活用を念頭に置いていなかったために、蓄積したものの使い物にならないということも起きていました。
最後にお伝えしたいのが、データやプロセスの話をしてきたのでRevOpsを無機質なものだと捉えられたかもしれませんが、あくまで目的は顧客体験を向上させて、その結果として売上・利益を最大化すること。マーケティングや営業、カスタマーサクセスが一貫性を持って顧客に価値提供できるようにしていくためにRevOpsは存在していているのです。
Salesforceのデータ活用ノウハウ
Salesforceのマーケティング、営業、カスタマーサポートの各部門が、散在するデータをどのように整理・活用して効果を出しているか、データ統合方法とユースケースを動画でご紹介します。
【Q&A】RevOpsを始める業績の基準はない
本ウェビナーでは、Q&Aセッションの時間も設けられました。その内容の一部を紹介します。
Q:どれぐらいの規模からRevOpsを始めるのがよいでしょうか。
A:社員が何人になったら、売上が何円になったらといった基準が明確にあるわけではありません。
GTMフェーズであれば、どの企業でも取り組むことによって価値が出てくるものです。欧米の方々と会話すると、小さなスタートアップ企業でもRevOpsの人材を配置している企業があります。GTM戦略を考えるにあたり、RevOpsの標準的なモデルを意識した上で、テクノロジースタックのデザイン、組織の設計、プロセスの構築を進めるとよいでしょう。
大企業であれば組織のサイロ化が顕在化しているはずなので、一番売上に近いところから着手していく、または最もボトルネックになっているところから着手していくという動きになるでしょう。
Q:日本の大手企業では、このようなレベルの組織を事業部門ごとに整えてしまうケースが多いように感じますが、事業部最適化ではなく全社目線で考えるべきなのでしょうか。
A:事業部ごとに考えていくほうが、機動力があってよいケースももちろんあると思います。リクルート社のように事業部長の判断で速く動くようなケースだと、中小企業の集合体として捉えるのが適切なこともあります。
ただ、何もかも事業部側でマネジメントすることがベストだとは限らないので、企業によってセントラライズする部分とそうではない部分を切り分けることも、スコープやデザインのフェーズで行います。基本的にはセントラライズできるものはしていくべきだという考え方がRevOps誕生の背景にはあります。
Q:昨今、日本でもCROを置く企業が増えている認識ですが、営業本部長=CROが実態だと思っています。日本より先行している米国では、どのようなポジションの人がCROになっている傾向がありますか。
A:欧米でも営業本部長がCROになっているケースが一定あるのは同じです。最近の傾向としてはCMOがCROになるケースや、RevOpsの責任者がCROになるケースも増えてきています。
いろいろな会社や部門を経験している方が理想的ですが、一つの領域の専門性に特化している方が多いのが実際でしょう。その中で、レベニュープロセス全体を俯瞰して捉えて合理的な判断ができる方、かつ顧客理解の解像度が高い方が適任であり、実際に選ばれている傾向にあると思います。
本記事はウェビナーをもとに制作しております。ウェビナーの内容を全て収録した映像を用意しています。映像では、RevOpsの詳細な解説や実践に向けた戦略、CROに求められる要件などを紹介しています。ぜひともご覧ください。
部門間連携が収益最大化のカギ
レベニューオペレーション(RevOps)
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本ウェビナーでは、RevOpsの解説や、グローバルでの成功事例、導入におけるノウハウ等についてご紹介いたします。