生成AIが営業活動にもたらすメリットとは?
生成AIが営業活動にもたらすメリット、セキュリティ懸念とスキル不足を感じる理由、生成AIをうまく活用する方法について読み解きます。
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営業現場でいよいよ顕在化した「人が足りない」
──須藤さんは多くの企業のセールスやマーケティングのデジタル変革を支援していますが、最近どんな変化を感じていますか。
須藤:前提として、デジタルを活用した経営改革、いわゆるDXは「攻め」と「守り」の2種類に大別できます。
「守り」をわかりやすくいえば、定型化された法務や人事、経理などのバックオフィス系業務を対象としたもの。日本のDX予算の87%は、この領域に投じられているという驚異的なデータが物語っている通り、日本のDXはこの守りが主流でした。
一方、「攻め」とはセールスやマーケティングといった、ユーザー目線に立って使いやすさなどを追求する、顧客をターゲットとしたデジタル変革で、私たちKaizen Platformが得意とする領域です。
この攻めの領域は、先ほどの投資状況からもわかりますが、人が担う仕事がなくなることへの懸念などにより、進んでいるように見えて実はほとんど進んでいなかったんです。
それが、3〜4年前から変わってきました。
──どのように変わってきたのでしょうか。
日本は今後、人手不足が深刻になると言われて久しいですが、現実になってきたと感じさせる要望が増えてきたんです。「とにかく人が足りない」と。
たとえば金融機関では「法人営業を増やしたいが採用が進まない。少ない人員でもテクノロジーで効率的に営業して売り上げを上げたい」といった要望。物流会社からは「車はあってもドライバーがいない。倉庫の間接業務をデジタル化して、浮いた人員をドライバーに回したい」という声があります。
地方の小売業では「お客さんは減っていないがバイトが雇えないので休業する」というような話もあります。
実際、人口動態調査を見ると、2020年から2025年の間で生産年齢人口は加速度的に減少しています。少子化で若者の採用は今後、当然厳しくなります。2025年から2030年には大量の定年退職者も出て、シニア人材の再活用が有効と言われていますが、第一線に配置するのは難しいでしょう。人手不足を解消する大きな力にはなりにくい。
「攻め」がなかなか進まなかったのは、なんだかんだ言っても人員に余裕があったから。それが今では顧客接点に関わる業務、人、組織のDXを”Must Have”として捉えている。切羽詰まった状況を強く感じています。
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AIと人の役割分担のカギは「形式知or暗黙知」
──そうすると、生成AIの活用もかなり進んでいく、と?
人手不足が進むことを考えれば、1人の営業担当者ができることを増やすしかない。そのためにAIを使わない選択肢はありません。
「AIは人の仕事を奪う」と反発している現場の営業担当者がいますが、この先の人手不足をわかっているマネジメント層はそんなことを全然思っていません。むしろ「生成AIがリソース不足を補う役割を果たしてくれる。ここまで進化してくれて良かった」と思っています。
AIは人を減らすためのテクノロジーではなく、人を支援し企業が成長するための強力なツール。ですので、営業におけるAI活用は急速に進んでいくでしょう。
──具体的にどのように生成AIは使われるのでしょうか。
「形式知」で進められるタスクはAIと相性がいいので、どんどん任せるべきでしょう。当社もお客様への提案資料の作成時に、「営業AIアシスタント」という独自ツールを用いて、過去の膨大な提案資料から参考になるコンテンツをAIに見つけ出してもらい、提案内容のクオリティとスピードを上げています。
一方、「暗黙知」は現時点ではAIには任せにくいので、人が担うべき役割でしょう。例えば、あるベテランの営業スタッフは、長年のお付き合いにより、クライアント社内のパワーバランスやキャラクター、どんなコミュニケーションを好むか、嫌うかなどを熟知しており、それを考慮して適切にアプローチすることができるとします。現時点でこうした暗黙知をAIに学習させることは困難ですので、人の判断が優っているでしょう。
暗黙知と形式知に区別して説明しましたが、ポイントは、人にしかできないコンサルティングのような部分に人間が集中できるということです。私たちのお客様でも、トップクラスのセールスパーソンはAIを存分に使いこなしていて、人が担う領域に集中しています。
──そうなれば、「デキる営業」と「デキない営業」は、AIでさらに差がつくのでしょうか。
そう思います。先ほど話したように、トップクラスはすでにAIで自身の生産性を上げています。そして、意外かもしれませんが、実は経験の浅いジュニア層は外的な影響を受けやすく、素直にテクノロジーを活用する傾向がありますから、この世代もAIをうまく取り入れています。先輩が成功したプレゼン資料やデモ動画などをAIに見つけてもらい、上手くパクって自分のモノにしている。
当社もコロナ禍の時にオンライン営業を余儀なくされましたが、悪いことだけではなくて、先輩のオンライン動画を参考にしてぐんぐん提案力を上げた若手がたくさんいました。
一方、危ないのは中間層。この層は中途半端に経験があり、ITのリテラシーやスキル、関心度合いも中途半端。それゆえに抵抗勢力になりがちで、反発している間に遅れをとる可能性はあると思います。
トップ人材がAIをフル活用すると、人間だけでは数%、数十%の成長が限界だった業績を、数倍、数十倍にスケールさせる可能性が出てくる。そういう意味で言えば、営業という業務は、もはや「人的資本」ではなく「知的資本」として捉えるべきだと思います。
信頼できる生成AIを実現するために準備すべき6つの戦略
・生成AIがもたらす機会と影響
・生成AIに関する懸念
・生成AIに備えたデータのセキュリティ戦略 など
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マネージャーの役割も変わる
──マネージャーの役割も変化していくのでしょうか。
そうですね。例えば教育の現場でいうと、カリキュラムに基づく講義は動画で、問題集はAIでというように「教える」という役割をデジタルツールが担うようになっています。
するとこれまで「伝える、教えることのプロ」だった先生の役割が、徐々に「コーチ」や「モチベーター」の方向にシフトしている。これと同様のことが、営業の現場でも起きると私は考えています。
営業を必要としない企業が生まれる可能性も
──AIによって現場の営業担当者、マネージャー問わず大きな変化を余儀なくされるわけですね。
AIの活用が進むと、1人の営業担当者ができることが飛躍的に増え、これまで分業でやっていた営業プロセスを1人でできるような世界が生まれるかもしれません。
OpenAIの最高経営責任者であるサム・アルトマンは以前、「1人でビリオンダラーカンパニー(時価総額1500億円企業)を作れる時代が来る」という主旨の発言をしていました。
これは、AIを駆使して可能な限り自動化し1人で経営ができるようになるということ。そうなれば、同じクオリティとサービスレベルで競合他社の10分の1、場合によっては100分の1の価格で顧客にアプローチすることだってできるようになるかもしれません。
ここまで進んだ場合は、「もう営業なんて不要」という視点も生まれ、今の議論とはさらに別次元で考え方と行動を見直さなければならないでしょう。
──ビジネスパーソンに必要な具体的AIスキルとは何になるのでしょうか。
生成AIは言語で動くものなので、これまでよく言われてきた理系人材だけではなく文系への揺り戻しといいますか、国語力が問われる時代が来たと思います。
「生成AIはこう質問するとこう答えてくる」ということを常に予測しながらAIを使うには、言語能力が重要です。ある意味で良い回答を引き出すためにAIの空気を読むとでも言うような能力が現状は問われています。
ただ、今のように生成AIを使いこなすために頑張らないといけないというのはあくまでも現時点の話で、やがて遠くない将来、AIはもっと誰でも簡単に使えるテクノロジーになるでしょう。
もちろん現在ではAIリテラシーとスキルが高いことには付加価値があるので、当然このまま使うべきですが、「生成AIを使いこなせる人=優秀」というボーナスタイムは、あと5年くらいで終わって、付加価値も薄くなるのかなと思い描いています。
あとは人間力。昔、営業は「IQより愛嬌」と表現されることがありましたが、半ば冗談ではないと思っています。
顧客接点以外の仕事をAIが可能な限り手がけられるようになれば、そこでは差別化はできない。そうなれば、「あの営業担当に最初から最後まで任せたい」と思われるきめ細かい気遣いやコミュニケーション力がより一層、ものを言うようになるでしょう。
AIについて気軽に学ぼう!6つの学習コースをご紹介
生成AIの登場は、たちまち人々の関心を集め、さまざまな用途が取りざたされています。
Salesforceの無料オンライン学習プラットフォームであるTrailheadでAIについて学び、必要なスキルを習得するためのコンテンツを紹介します!
──AIが確実に浸透する中で、今後営業パーソンはどのように変化するべきでしょうか。
AIとは少し離れますが、「非連続な経験」を自身のキャリアに埋め込んでいくことは重要だと思います。うちの会社では、副業で関わってくれる業務委託の方も多いのですが、副業だからこそ新しいことにチャレンジできることもあります。今まで経験したことのない領域の仕事もできるし、キャリアの幅も広がります。
学ばざるを得ない環境に飛び込むことが成長のきっかけになると考えています。当社でも、社会の変化に伴って、インフルエンサーやイラストレーター、あるいは弁護士など、多様な人材とコラボレーションする機会が増えています。異業種のメンバーで1つの課題解決に当たるのは、なかなか面白い経験です。
ただ、こういう多様性を受け入れるのは従来型の組織だと難しい。そのため当社の取り組みとしては、100人くらいの会社に対して1000人以上の業務委託の方に関わってもらい、プロジェクトごとにチームを柔軟に編成できる体制を作っています。
当社の社内のメンバーもどんどん環境変化に適応し、学び続ける必要があります。AIを活用すれば、従来なら何日もかかった情報収集や分析が数十分で終わります。自分の専門領域に応じてAIをトレーニングしていく能力も、今後は求められていくことでしょう。
取材・執筆: 木村剛士、撮影: 遥南 碧