目次
データ収集の壁を越えるためのTableau推進術
住友ゴム工業株式会社の成功事例:「知らない」「出来ない」「続かない」を克服した取り組み
「データドリブン」「データ×AI」といった言葉がビジネスの現場で頻繁に耳にするようになり、データ活用の重要性はほとんどの企業が理解されるようになりました。ただ、それを全社的に浸透させるのは至難の技です。
そんなどの企業も悩んでいる課題に、住友ゴム工業株式会社は挑戦。BIツール「Tableau(タブロー)」を全社的に根付かせようと特別プロジェクトチームがきめ細かいサポートで成功に導きました。SFUG CUP 2024のファイナリストでプレゼンテーターを務めたデジタル企画部データ&アナリティクス推進グループ 金子 秀一さんからその秘訣を伺いました。
金子 秀一氏
住友ゴム工業株式会社
デジタル企画部データ&アナリティクス推進グループ
新卒で電機メーカーに入社し、生産管理や事業開発を経験した後、住友ゴム工業株式会社に入社。 IEとして生産性改善活動に従事し、2017年からはTableauの導入推進およびAI活用の検討をリード。 現在は、デジタル企画部データ&アナリティクス推進グループ、経営企画部デジタルイノベーション推進グループ、そして製造IoT推進室と社内3つのDX推進グループに所属。社内のデータドリブン文化醸成に尽力。 SFUG CUP2024のファイナリスト、Tableau Data Saber。
3つの組織を兼務して全社の活動を推進
──Tableauを導入した当時の課題や背景を教えてください。
金子:私が所属する製造IoT推進室のミッションとしてデータ活用を進めることは必要不可欠だったのですが、具体的な進め方は決まっておらず、ボトムアップで広げようとしていました。
私はデータを扱うスピード感や活用の意識を大きく改善する必要があると感じて、解決策としてセルフBIツールを導入し、現場で分析してもらえるようにしようと考えたのです。
この頃、現場の人から言われて印象的だったのが、「3クリック以上させられるとわからないよ」。だから、シンプルでわかりやすい操作感と見やすさを重視してTableauを選びました。それから、推進役である私自身がTableau初心者だったのですが、ユーザーコミュニティやオンラインで情報を得やすかったことも採用を後押ししました。
──5年ほどデータドリブン文化を醸成してきて、どんな変化がありましたか。
わかりやすい例としては、いろいろな情報を集めてレポートを作る手間が減って、業務の効率化につながりました。また、Tableauの画面を現場の人が見れば、会議でそれを報告する必要がない。何をしなければいけないかを議論する時間が多く取れるようになり、会議のあり方が変わりました。現場の思考をシフトできたのはすごく良い影響だったと思います。
──ありがとうございます。ここからはその間の取り組み内容や苦労についてうかがっていきます。プレゼンでは3つの壁を越える前提として、「推進体制」と「目標設定」が重要という話がありました。金子さんの自己紹介で、3つの部門を兼務していることに驚いたのですが、その理由とも関係しているのですか。
もともと製造IoT推進室でデータドリブンの取り組みを始めましたが、全社のデータ活用を推進するために2022年からは経営と密接に進めるために経営企画部 デジタルイノベーション推進グループに所属することになりました。さらに全社データ分析基盤構築を進めていくために、弊社の情報システム部門であるデジタル企画部にてデータ&アナリティクス推進グループを作り、さらに兼務するようになりました。
製造IoT推進室に所属していた時に、生産の事業部門内にある組織ですので、サプライチェーンとの関わりも視野に入りますし、もっと別の領域でもTableauを使えるようになればいいなと思ってあちこちに紹介していたのですが、当時は縦割りな雰囲気もあり踏み込んだ活動がしづらい状況でした。
それなら全社で推進できるポジションに、と声をかけてもらって兼務するように。併せて同時期に、組織体質改善に向けて取り組む「Be The Changeプロジェクト」が社長のトップダウンで始動。全社でのデータドリブンの活動が進めやすくなっていきました。
──IT活用を伴う取り組みでは、IT部門など推進役が現場をうまく巻き込めなかったという話をよく聞きます。金子さんはどんな工夫をしていたのですか。
特に初期段階は社内にユースケースがなく、何ができるのかやそもそも誰が興味を持ってくれるのかもわからない状態でした。そのためはじめはとにかくいろんな拠点に行っては「こんなこと、やってみない?」と声をかけて回りました。すると少し興味があるとか、ちょっとやってみたいという人がちらほら手を挙げてくれるので、その人を起点に進めていきましたね。
──プレゼンを見ていると、フレームワークなどもうまく活用しながら社内推進された印象を受けました。そのあたり意識されたことはありますか。
一番意識しているのはストーリーテリングです。しっかりと人に伝えていくためには、フレームワークのような何かしらの枠にはめて説明しないと、聞く側からすると理解しづらくなってしまいます。本や動画でフレームワークを自分なりに勉強したり、それを当てはめてストーリーとして伝えたりすることを練習することを意識して取り組みました。
──プレゼンではまた、課題の抽出と整理がとてもわかりやすく感じました。
実際には抽出したという意識はなくて、課題しかなかったので優先順位付けを意識しました。
完璧にはできませんが、やることとやらないことを決める取捨選択、優先順位付けをしないと、あるべき方向になかなか進んでいけません。OKRという手法を用いて、Tableauの推進役としてどの課題に向き合うかを決め、チーム全員が同じ方向を見ながら進める。そして半年、1年後にはその結果を振り返って、また翌年の計画につなげていく。例えばアクティブ率などをOKRのKey Resultに設定し、Tableauで可視化してしています。
5分で学ぶシリーズ
〜What is Tableau編〜
今企業のデータドリブンを進めるうえで重要なのは、誰もが容易にデータを活用して、示唆を得れる環境を構築することです。この動画では、Tableauがなぜ市場から愛されているかを5分で解説します。
やろうと思ってくれる人にフォーカスして進めていく
──続いて3つの壁について詳しく伺います。まず、ユーザーの”知らない”壁ですが、社内向けのイベント、コミュニティ、ポータルサイトと多くのことに取り組みましたね。
そうですね。例えばポータルサイトは定期的なアップデートが重要ですが、定期的にこまめに更新するのが苦手で。とりあえず勉強会の資料やコミュニティ活動の動画を共有したぐらいでした。
最近になってチームのメンバーが増えたことで、定期的にTableauのTipsや事例を投稿したり、世の中のニュースを自動的に掲載する仕組みを作ったりしながら、ある程度の頻度では更新できています。
──そうした活動をしても、全員が興味を持ってくれるわけではないと思いますが、どう対応してきましたか。
外堀を埋めるというか、周りはみんなやっていて、本人の興味とは関係なくやらなければならない状況を作ることも必要です。少しでもやろうと思ってくれる人にフォーカスして進めていくことで、結果として社内全体で利用していく形を作れると思っています。
──金子さんは、まずボトムアップで自身が結果を出し、他の部門に紹介、さらにTableau Day(Digital Innovation Day)といった社内イベントを開催して全社的に認知を広げていきました。この流れは、これからデータドリブン文化を目指して取り組む企業にもおすすめできる内容だと思いますか。
データドリブンやDXの実現にはトップの後押しが欠かせませんが、いきなりトップに「Tableauを入れてデータドリブン文化にしましょう!」なんて、なかなか言えないと思います。でも、自分がやろうと思えば、第一歩は踏み出せる。そこから先、どういうサイクルを回していくかは、各企業の文化や推進者の立場によって違ってくると思います。
──最初は自分の成功体験を周囲に広げていったわけですが、他の人が価値を感じてもらえるように意識したことはありましたか。
現場の課題感や、どういうことが求められているのかを踏まえつつ進めていきました。こんなものを作ったら嬉しいかな、自分自身も楽になるかなという視点です。それには、私自身がもともとIT畑ではなくて事業部門の出身だったのもよかったと思います。
あとはそれをいかにストーリーとして伝えられるか。簡単にはいきませんでしたが、地道に丁寧に進めていったことがよかったのかなと振り返っています。
現場での実務経験を踏まえユーザーの「安心」を重要視
──“出来ない壁”を越えるために、データを準備し公開するまでがIT部門、そのデータをTableauで分析・利用するのはユーザー部門という役割分担をされましたが、どのような経緯でこの形に行き着いたのですか。
本当に初期の初期は、全くそんなことは気にしていなくて、とにかくスピード感を持って成功体験を作って見せるという一点だけにフォーカスしていました。そのうちデータ活用が広がって、成功体験や理想的な形が見えてきてから、それをプロセスに落とし込んでいくとこの役割分担になりました。これはガチっとはまりましたね。
データ準備にはデータベースやシステムを知っている必要がありますが、事業とIT両方がわかる人は、日本の事業会社にあまり多くないと思います。
そこでIT部門の協力が不可欠です。私たちの場合は幸いにもIT部門が協力的だったのでうまくいきました。事業部門の中でパッションがある人と、それをサポートできるようなIT側のメンバーとのコンビネーションをどう作っていくかを最初に考えながら進めておくといいのではないでしょうか。
──次は “続かない壁”について。「安心して続けられるように」というメッセージが出てきて、プレゼンの締めくくりでも、「安心して使える”環境”を作る」と赤文字で書かれていました。この背景となった経験は何でしょうか。
もともと私が生産の現場で働いていたので、システムがわかりにくいと不安になってしまうことを理解していました。不安なものは使うことを避けますし、使えないと思ってしまいます。
現場の自分たちで使おうと思って自立的に取り組んでもらうにはどうすればいいのか。いろいろ考えていくうちに共通項として浮かび上がったのが「安心して使える環境」だったんです。それはシステムだけでなく、何かあったらすぐ助けてくれる、教えてくれる仕組みも含めてです。
Tableau Blueprint(*)を参考に、勉強会やその後のフォロー、問い合わせフォームの設置など、安心してもらえるための施策を考えて実行していきました。
*Tableau Blueprint:Tableauの公式で提供されるデータドリブン組織の構築を支援するフレームワーク。
データドリブンを前進させた公式プログラムと社内イベント
──全体を振り返って、最初に大きくつまずいたことは何でしたか。
私自身も全然Tableauについてよくわかっていない中で、何をしたらいいのかがわからなかったことです。集合研修を受けたりしたものの、現場からの細かい質問に答えられる状態にはなっていませんでした。
そこで、1年ぐらい経ったときにDATA Saber(*)のプログラムをご紹介いただいて参加しました。一通りの知識や推進に対する意識を勉強させてもらえたのは大きかったですね。先進的な会社の方から話を聞いたり、Tableauイベントに足を運んだりしたのも勉強になりました。
*DATA Saber:Tableauの公式コミュニティ内で提供される人材育成と認定のプログラム
その後は、先ほどお話しをしたTableau Blueprintも役に立ちました。全部同じにする必要はないと思いますが、たくさんのやるべきことと自分たちの状況を照らし合わせて、どこに力を入れるのかを考えられる。今でも参考にさせていただく“道しるべ”です。
──プレゼンでは、Tableau Blueprintが社内コミュニティ活動にも役立ったと言及していましたね。その活動の一つ「Tableau Day」についても詳しく教えてください。
まだ社内でTableauがあまり知られていない2020年に、初めて全社向けイベントとして開催。それまで社内事例を全社に発信する機会はほとんどなかったのですが、100人ぐらいが集まって事例を発表したりしました。
これがTableauの認知を広め、「興味がある」「使い方を教えてほしい」といった声がいろいろな事業部から寄せられるように。1事業部の中での活動が全社の活動に変わっていくきっかけになりました。
Tableauはビジュアライズで人を惹きつける力があって、そこに効率化や業務の変化といったストーリーを乗せたことで、データの中身を一切知らなくても、自分たちも使ってみようと思えたのでしょう。
私が経営企画に籍を置いたことでDXも進めるようになったため、Tableau Dayは現在はDigital Innovation Dayというイベントに進化。DXはトップダウンもすごく大事なので経営層にも参加してもらっています。
また、アジアの一部拠点では推進メンバーが増えてきていて、日本と同じように全社的イベントを企画して実施しようと動いてくれています。今後は国を超えた事例の共有も増えるとうれしいです。
──DXの中でTableauはどのように位置付けられているのでしょうか。
表面的に言葉だけを捉えるなら、DXは「デジタルを使った変革」ですが、具体的に会社の中で何ができればいいのか。自分なりの定義では、データを使って素早く意思決定し行動できるか。そしてそのサイクルをどれだけ高速化・高度化できるかです。
そのためには基幹システムパッケージを入れただけでなく、そこから得られるデータをいかに自分たちが必要な形に、素早く変えられるかが問われます。やはりTableauが強力な武器になると思っています。
Tableauでデータ可視化してみよう
本動画では、ハンズオン形式でTableauの製品と機能、操作感をご体感いただけます。ぜひご視聴いただき、貴社のデータ分析業務の一助としてください。
ユーザーコミュニティは初心者でも臆することはない
──金子さんは社外のユーザーコミュニティでも精力的に活動されているそうですね。金子さんにとってコミュニティ活動にはどんな価値があるのでしょうか。
シンプルに楽しいなと思っていますし、視野が広がることが社外に出て行く価値です。いろいろなやり方や考え方を見ることで比較軸ができ、自社の課題も見えてくる。社内の推進だけでは、良くも悪くも中の視点だけになってしまいます。
──会社によってはコミュニティ参加の価値をあまり認めてもらえなくて、有給休暇を取って参加する人もいるようです。
私の場合は幸い上司の理解もあり、比較的参加できているので恵まれていますね。
推進者は孤独なので、同じような悩みを抱える人同士が喋るだけでも、社内では得られないつながりを感じられるし、リフレッシュもできる。自分自身をモチベートすることもできます。
──コミュニティに初心者が参加してもいいのか不安で、最初の一歩がなかなか踏み出せない人も少なくないと思います。躊躇している人に一言いただけますか。
私自身も実はかなり人見知りなので、新しい場に行くのはすごく緊張します。けれど、ユーザーコミュニティには優しい人が多いですし、新しい参加者もウェルカムに迎え入れてもらえる雰囲気があります。
また、コミュニティは基本的にギブアンドテイクの場だと認識されていますが、いきなりギブできるわけがなくて、最初はテイクでもいいと思ってます。とりあえず興味があれば1回は参加してみる。隅っこで座って聞いて雰囲気を体感する。私もはじめのころはよく後ろの隅っこに座って参加していました。
──金子さんが日々試行錯誤しながら、地道に丁寧に取り組みを積み重ねてきたことがよくわかりました。ありがとうございました。
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