スキマバイトサービスを展開するタイミー。2024年7月26日には東証グロース市場に上場し、時価総額(公開価格ベース)は約1380億円をつけた。2018年に当時大学在学中だった小川嶺社長が「タイミー」を立ち上げてからわずか6年。そのスピードと時価総額に、世間は注目し大きな話題を集めました。
スキマバイトというマーケットや概念を新たに生み出し、業界をリードする存在になるまでにどのような戦略があったのか。2020年3月に入社し、2021年11月からタイミーのCMOを務める中川祥一氏に、タイミーのマーケティング戦略や事業成長の秘訣を伺いました。
BtoBマーケティングの成果向上に繋がる資料3点セット
BtoBマーケティングの成果向上に繋がるおすすめの資料3つをセットにしました。3点まとめてダウンロード頂けますので、ぜひご活用ください。
目次
タイミーは「社会に広めるべき」だと思った
──中川さんは大手広告代理店のADKを経て、その後はJapanTaxi(現GO株式会社)、メルカリ/メルペイと事業会社でマーケティングに携わってこられました。新天地にタイミーを選ばれた理由をお聞かせください。
中川:メルペイで働いていた時に、紹介されたのがきっかけでした。最初に話を聞いたのが2019年後半で、その時に「今度、関東圏でテレビCMを流す」と聞いて。その当時、タイミーの登録者数はまだ30万人ほど。その規模でテレビを使ったマスマーケティングをやるのは、かなり大胆な意志決定だなと、まず興味を持ったんですね。
私は一貫してマーケティングの仕事に携わっていますが、扱うプロダクトやサービス、籍を置く企業の選定基準は「そのプロダクトやサービスを社会に広めたいと自分が思えるか」。なので、面接が進む過程でタイミーのサービスを使ってみることにしたんですね。
──スキマバイト、したんですか?
はい、物流拠点でダンボールを300個くらい組み立てる仕事をしました(笑)。
タイミーの仕組みに触れて感じたのは、想像を堪える良質な顧客体験だったこと。とにかく面倒なことが一切ありませんでした。始める時は履歴書の提出も面接もなし。応募したらすぐに翌日行く現場が決まる。仕事が終われば、すぐにお給料がもらえる。手前味噌ですが、これはすごいと感じたんですね。
当時のタイミーは、マーケティング戦略の立案と実行はこれからのフェーズ。マーケターとしてやりがいがあると感じ、入社を決めました。
2020年3月に入社したのですが、当時はコロナ禍。4月に緊急事態宣言が出て多くの飲食店が営業を制限され、タイミーを使う使わない以前に店がやっていない状況で、日に日に売上が落ちていき、いきなりピンチでしたけどね(苦笑)。
商圏を限定し密度を濃く。ゼロからマーケットを立ち上げた方法
──スキマバイトという新たなマーケットの創出に成功しましたが、なぜ、大手ではなく創業間もないタイミーができたのでしょうか。
一番の要因は、プロダクトの着眼点にあると思います。
代表の小川がタイミーを創業したのは、それ以前に事業がうまくいかなくて借金を返すために日雇い派遣をしていた自身の経験がもとになっています。そこで感じた日雇い派遣の「負」を取り除く仕組みをつくろうと考えた。従来の日雇い派遣ビジネスの固定観念にとらわれないプロダクトをゼロからつくったことで、ゲームチェンジを起こせたんだと思います。
具体的な戦略で言えば、立ち上げ期にリソースを投じる地域を限定したことが効果的でした。タイミーはアプリでいつでもどこからでも気軽に応募できますが、オンラインだけで完結するわけではなく、働き手の自宅から派遣される現場へのアクセスを含めたオフラインまでを考えなければなりません。
特定のエリアで事業者と働き手の密度をどうやって濃くするかが、大事なモデルなのです。「登録しても仕事がない、募集を出しても人が集まらない」では話になりませんから。
人もお金もない中でどこにリソースを投じるか。全国で分散的にやってしまうと“密度の濃い”マッチングは生まれませんから、「エリアを限定して集中投下しませんか」と社内で提案し議論しました。
こうした地道な活動をしていると、ある時、大手物流会社の担当者さんがタイミーを気に入ってくださって。飲食店だと1日1人程度の稼働が多いですが、物流倉庫では1日100人くらいの人手を必要とします。ビジネスとして非常にありがたい。我々のプラットフォームを大きくすることに目を向けてくれるお客様の要望に100%全力投球したいと、この物流会社の拠点がある地域を注力エリアとし、その企業の募集にいかに働き手をマッチングさせるかに注力しました。
──地域限定をさらに絞って1社のために集中投下したんですね。
限られたエリアで働き手となる人を増やすためにはデジタルマーケティングだけでは不十分。チラシのポスティングをしたり、地域の路線バスにラッピング広告を出したりなどもしましたね。注力している物流会社の倉庫で働くとボーナスをプレゼントする施策も実施しました。今では全国津々浦々最適なマッチングができるようになってきましたが、もうその時代は個別対応でしたね(笑)。
そんな対応を時にはしながら、地道な施策を続け地域の中でタイミーが少しずつ認知されるようになり、マッチング率アップにつながっていきました。マッチング率が上がって成果が出てくるとほかのエリアにも拡大し、各地でマーケットが立ち上がっていきました。
ある程度の規模にタイミーが成長してからはテレビCMを出すなどして広範囲の人に情報を届けられるように。2023年頃からは募集に対する成約率が一定水準以上になり、日本のどの地域でもマッチングができるという状態になったんです。
プロダクトマーケティングを強化。「打率」を高める
──CMOとして2021年からの3年間、立ち上げ期、黎明期、成長期を経験し、ご自身の戦略も組織も変わってきたと思いますが、タイミーのマーケティング体制はどのように変わってきたのですか。
私が入社した2020年はマーケティングチームの立ち上げフェーズでしたが、今は30人ほどの組織になりました。
入社直後はコロナ禍だったので飲食業界での拡大はあきらめ、物流業界に全力で注力するなど、言葉を選ばずに言えば、戦略や組織づくりよりも目先の仕事で精一杯でした(苦笑)。
中長期の戦略や組織のあり方を考えるようになったのは、直近3年くらい。採用活動をする中で私たちのようなスタートアップに入社するメリットを伝えるのはなかなか難しく、苦戦していました。ただ、大規模な資金調達をすると興味を持ってくれる人が増え、徐々に優秀な人材を獲得できるようになりました。
──2024年7月に上場を果たし、競合企業の参入も加速しています。タイミーが存在感を発揮するために、マーケティングにおいてどんな点に注力していますか。
大手企業も参入してきていますが、タイミーはトップランカーであるという自負があります。「『はたらく』を通じて人生の可能性を広げるインフラをつくる」というミッションをど真ん中においてやっている以上、顧客理解度で他社に遅れを取るわけにはいきません。その点はこだわりを持って取り組んでいます。
企業としての競争力を高め、マーケティング施策の打率を可能な限り高めるために何が必要か。その取り組みの1つとして、2022年8月にプロダクトマーケティングの組織をつくりました。当時は、プロダクトマネジャーという役割に期待される仕事が膨大で、人数も少なかったので対応ができる範囲に限界があったのが課題でした。
そこで、マーケットやお客様について解像度高く理解したうえで、プロダクトの開発やコミュニケーションマーケティングに取り組めるプロダクトマーケティングマネジャーの採用を強化し、彼らをハブにしてCMなどの施策を進める体制をつくりました。
その結果、15秒、30秒というCMの尺でタイミーが提供する価値をどのように伝えていくかという議論の精度が上がりました。CMの反響も大きくなり、直近ではプラットフォームの登録者が900万人を突破しました。
半年先、1年先を見ながら、マーケティング施策の打率を高めるための仕掛けをどうやってつくるか。現在はこうした点を意識しながら、組織づくりを進めています。
マーケティングオペレーションとAIを連動させる
また、マーケティングのチームのメンバーが増え、良く悪くも一人ひとりの得意領域にばらつきが出てきたので、今後はそれらのスキルやナレッジを有機的に結びつけられるよう、マーケティングオペレーション(MOps)領域への投資を進めています。
*MOps:業務プロセス、テクノロジーなどのデータを統括し、マーケティング職の生産性向上に寄与する組織です。
──MOpsの領域はテクノロジーの活用が欠かせないと思いますが、中川さんはテクノロジー戦略をどう描いていますか。
ベースの部分とアドバンスの部分と両方の戦略が必要だと思います。ベースにあたる顧客管理やCRMは、業務効率化を進めるためにもSalesforceをはじめとしたパートナーと連携していきたいと考えています。
一方、アドバンス領域の中で特にホットトピックと言えるのがAIの活用です。当社でもデジタルのクリエイティブをAIで最適化する取り組みがスタートしています。それに加えて今考えているのは、MOpsを軸にした、マーケティング活動全体でのAI活用。その構想づくりに取り組んでいます。
Salesforceと統合できるマーケティングツールもたくさんありますが、まずはどう設計するかというグランドデザインを構築するために社内で整理を進めているところです。
伸びる企業が持つ仕組み
マーケティングオペレーション(MOps)
『マーケティングオペレーション (MOps) の教科書』の著者、丸井達郎氏が登壇し、成長する企業が共通して持つ仕組みや、それを実現するノウハウについて、グローバルの潮流や成功事例をもとに明らかにしていきます。
働き方の制約を取りのぞき、人生の可能性を広げるプロダクトを
──最後に、タイミーの中長期の戦略や中川さんがタイミーでやり遂げたいことを教えてください。
人手不足を解消するオプションの1つとして、スキマバイトを生み出し、世の中に少しずつ浸透させるところまではこれたと思います。しかし、タイミーというプロダクトの成長を登山にたとえるなら、まだ五合目くらいの感覚です。
労働に関する制約はまだたくさんあり、それらを取り除いて働き手の方や企業の利便性を高めていくことがまだまだ必要です。
また、タイミーを通して働き手の方がスキルアップできる仕組みも充実させていきたいです。タイミーにはこれまでどんな業務で期待以上の働きをしてきたかを示す「バッジ機能」があります。たくさんのバッジを持つ方はそれだけ経験が豊富ということ。今後はバッジを持つ方の賃金を高くしたり、企業とマッチした方には正社員になるお手伝いをしたりといった仕組みをさらに広げていきたいと考えています。
そして、ミッションにあるように、タイミーを通して人生の可能性を広げられるような価値を提供していきたいですね。
個人的にはマーケターとして、日本全国で「スキマバイトといえばタイミーだよね」と言ってもらえるように、タイミーの提供価値をもっと伝えていき、プロダクトの発展に貢献していきたいです。
マーケティング
最新事情レポート第9版
世界各国約5,000人のマーケターから得たインサイトから、AI、データ、パーソナライズのトレンドを探ります。今日のマーケターは、様々な課題にどのように取り組んでいるのでしょうか。