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調達DXとは。現場で起きている「3つの論点」と「4つの課題対応」

調達DXとは。現場で起きている「3つの論点」と「4つの課題対応」

企業経営にとって欠かせない調達業務。変化の激しいビジネス環境では、調達部門にもその対応が迫られています。Salesforceでは、経営層や調達・購買部門の管理職層を対象とした調達DXセミナーを実施。調達部門で起きている変化への対応について解き明かしました。

調達業界の課題と最新の戦略とは

最新の調達業界の課題にフォーカスし、解決策を見出すためのポイントとして、サプライヤとの効果的な接し方、コスト削減と見積査定における最新戦略を、専門家の知見、最新の課題解決事例から考察します。

「買い負け」に陥る日系製造業

セールスフォース・ジャパンは2024年3月下旬、調達関連業務に従事するビジネスパーソンに向けたイベント「調達から切り拓く未来 最新業界課題から考察する、『革新的サプライヤマネジメント』と『効果的なコスト削減の手法』」を都内で開催し、調達DXのノウハウを提供。経営層や調達・購買部門の管理職層が中心の聴講者が耳を傾けました。

最初に壇上に立ったのは、未来調達研究所の経営コンサルタントで、製造業を中心とした調達やサプライチェーンに造詣が深い坂口孝則氏。「最新の課題から考える2024年の調達業務~「サプライヤマネジメント」「コスト削減」~」と題した講演は、坂口氏がかつてメーカーの社員として調達業務に従事していた経験を織り込んだものでした。

坂口氏は、最初に結論を提示しました。

「1.サプライヤとのコミュニケーションの重要性が逆説的に高まっている。2.そのために効率的なITや生成AIなどの採用を積極果敢に検討しなければいけない。3.調達部門のみにとどまるのではなく、社内展開が必要。今日は3つの論点でお話しさせてください」

そして、その前提となる現状認識を示しました。日本の物価が上昇せず日系企業の商品売価が落ち、競争力は相対的に低下し、調達部門が買いたくても海外勢に買われてしまう「買い負け」の状態に陥っているとの指摘です。

「世界シェア60%以上を占める企業数は、日系企業が220社と圧倒的に多く、米国系、欧州系と続きます。つまり、日系企業なしでは世界の経済が成り立たない。一方で、買う力は低下して、競争力を失いつつあるのです」

調達DXとは。現場で起きている「3つの論点」と「4つの課題対応」|未来調達研究所株式会社 坂口孝則氏
未来調達研究所株式会社 坂口孝則氏

例えば、半導体を中心とする電子機器類の輸入についてコロナ禍前後の2019年と2021年を比べると、米、独、中、台湾などが伸びている中、日本は横ばいで「買い負け」に近い状態だったのではないかと坂口氏は推測しています。

調達・サプライチェーンの現代的な課題

続いて坂口氏は、調達・サプライチェーンを取り巻く現代的な課題には、環境・人権対応、地政学、BCP・納期対応、ガバナンスの4つがあると指摘します。

昨今の調達・サプライチェーンについての問題意識
出典:未来調達研究所

まず環境や人権対応では、GHG(Green House Gas=温室効果ガス)排出量の算定において、事業者に関連する他社の排出(Scope3)に関する環境省のガイドラインが改定されると、サプライヤの燃料燃焼と電気使用の2つを売上比率で按分することになるだろうと坂口氏は説明します。

「サプライヤの電気や燃料の使用量、そしてサプライヤに対する売上依存度を徹底的に管理するための仕組みが2025年以降に求められます。その観点で、効率的なサプライヤとのコミュニケーション手段が必要となります」

また、人権蹂躙(じゅうりん)地域と関係する製品の輸入を停止する動きがあり、アメリカが先行していますが、今後はフランスとドイツも取り組みを強めるものと坂口氏は予想します。

これまでの『人権』は建前に過ぎなかった日本企業も存在していたと思いますが、いよいよ実利につながってくる時代がやってきました。どのような地域や企業が停止対象なのか、アメリカ政府がリストを公開していますが、サプライチェーンに対象企業が紛れ込んでいないかを、ティア2やティア3まで管理できているでしょうか」

現代的課題の2つ目。地政学では、特に強制労働が見受けられる地域や紛争の恐れがある地域など、特定地域からの調達のリスクヘッジです。見える化、マルチソース化やマルチファブ化、そしてデカップリング・サプライチェーン(経済分断)やデリスキング(リスク低減)への対応など、リスクを分けておくことが重要だと坂口氏は言います。

また、地政学と深い関係のあるサイバーセキュリティーリスクについても言及しました。中小企業の中には、自社に対する不正な通信があったことに気づいてすらいない企業も存在するのが実態です。

サプライヤのサイバーセキュリティ対策の状況までは、なかなか見えてないのではないでしょうか。対策はネットワーク上だけでは不十分です。中小企業の工場見学に行って、その気になればPLC(制御装置)にUSBメモリを挿すぐらいのことはできてしまうのが実態で、物理的なサイバーアタックをいかにかわしていくかも新しいテーマになるのではないかと考えています」

課題の3つ目であるBCP・納期対応では、災害リスクを挙げます。全国どこでも地震が起きうると予測される日本では、地震を前提としたサプライチェーンを構築する必要があります。

坂口氏は、これからの調達BCPを考えるにあたって、「災害をリアルタイムにモニターし、アナウンスする機能」「ティア2、ティア3などがリアルタイムに情報を更新し続けることができる機能」の2つが極めて重要だと訴えました。

「GHGの話も、人権蹂躙地域企業の話も、そしてBCPの話も、別々の話のようですが全部つながっています。一気通貫でシステム化、あるいは管理をしなければなりません」

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中小企業支援という日本特有の動向

ここまでの課題は、世界的な潮流として調達部門が強く求められていることです。加えて日本特有の課題にも目を向けなければならず、それが4つめに挙げたガバナンスで、具体的には中小企業支援の動きです。

岸田政権は、2021年12月に「パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化施策パッケージ」が取りまとめられて以降、優越的地位の濫用に関する緊急調査を実施しました。

坂口氏は公正取引委員会の価格転嫁方針を整理した上で、調達側に期待される行動の中で特に「定期的な取引先との協議の実施」「取引先が希望すればいつでも協議」「公表資料の使用」の3点を強調します。

「協議をしないだけで据え置きにする行為は、それだけでも優越的地位の乱用になりうるわけです。また、これまでなら『生産性の向上で対応しろ』『本当に内部コストが上がっているのか示せ』と求めていたのが、世の中の統計など公表資料でコスト上昇が示されているのであれば、それ以上を求めることも優越的地位の濫用になりうるのです」

さらに、環境省のカーボンフットプリント ガイドラインでは、下請事業者のCO2排出量算出に要する費用についても言及しています。何らかの行為を要求し、それによって生じる対価を支払わない場合には、優越的地位の濫用にあたる可能性があるのです。

課題解決の肝はコミュニケーション

では、このような課題にはどのような対策を講じればよいのでしょうか。そのことを考える上で重要な2つの大きな問題が、発注企業の関係者との対話を通じて見えてきたと坂口氏は語ります。

「一つは、金額の問題だけでなくコミュニケーションの問題でもあるということです。もう一つは、取引先から見ればどの部門も『御社』であり、調達部門だけの問題ではなく、生産管理や設計なども含む問題として捉えなければならないことです。

調達部門であれば下請法の講習を受けているでしょうが、独禁法の講習は受けているでしょうか。生産管理や設計、現場で設備を手配している方は、法令知識の教育が行き届くように調達部門が取り組んでいるでしょうか。そして、日ごろから調達と現場がつながれるようなツールがあるでしょうか」

「特にサプライヤとのコミュニケーションを図ることで、法令・ガバナンス的にも適正な価格査定を実現することが、建前ではなく実利として重要なのです。そして社内啓蒙も忘れてはなりません」

その上で坂口氏は、部材のアロケーション改善を例に施策を示します。部材不足対策・納期遅延対策は権威、量/額、人の3つの側面で行うことが有効とされますが、最終的に行き着かざるを得ないのは人であり、人的関係によるフォローアップ、日ごろのコミュニケーションによる優先順位アップ、(相手との関係を維持・向上していくリテンションマネジメントの結果として)多層レイヤーでの納品合意が期待できるのだと言います。

昨今の調達・サプライチェーンについての問題意識 現代的課題と実態、その施策
出典:未来調達研究所

ここで話題は、調達業務の各プロセスでの注意事項に移ります。坂口氏は、このガバナンス時代においてはモノを納めるだけではなく、見積書(RFI、RFP、RFQ)入手から折衝まで、「適正な」プロセスを経ることでコストを査定し、コスト削減を実現することが必要だと指摘し、3つの基本方針を示しました。

  • 適切な見積書を取得、最適サプライヤを決定。支出分析と戦略立案を実施
  • 調達品目特性により、コストドライバー分析・コスト構造分析を実施
  • 市況把握により、その後の価格査定等に活用。適切な価格交渉を実施

「これから重要なのは、コミュニケーションと同時に理論性、そして論理性を明確にすることです。そして、それらはITツールを使いながら効率的に行います」

コストドライバー分析によって、何らかの調達品を買おうとする場合に、価格の妥当性をしっかり見極めた上で価格交渉に臨むことができます。ただし、一度コストドライバー分析をしただけで終わりではなく、原材料価格、賃金統計、物流や電気・エネルギー価格といった価格要素について市況の移り変わりを反映して、適切な査定に努めなければなりません。

「これからの調達業務は、課題を起点として付加価値創造につなげていく必要があります。冒頭でお話ししたように、本当はすごい技術力を持っている日本が儲かっていないのは、おかしなことです。日本の経済が盛り上がっているこのタイミングで、調達・購買をテコにした企業改革が重要ではないでしょうか。課題を起点として、付加価値を創造する調達部門へとつなげていかなければなりません」

これからの調達業務
出典:未来調達研究所

対談を通して考える調達部門の課題解決

坂口氏の講演のほか、「このセミナーから調達部門の課題を解決できるか?」と題した最後のセッションでは、坂口氏とセールスフォース・ジャパン ソリューション統括本部 製造ソリューション部 Lead, Account SEの藤田純が講演を振り返りながら意見を交えました。その一部をご紹介します。

調達から切り拓く未来 〜最新業界課題から考察する、 『革新的サプライヤマネジメント』と『効果的なコスト削減の手法』

まず坂口氏が、調達部門の現場目線でSalesforceの機能について尋ねます。

「デモでは、Customer 360のチャット機能を使ってサプライヤとコミュニケーションをとり、そこで提案された代替品で問題がないかどうか、調達が生産管理と技術に確認していました。すでにSlackやLINEでのやりとりを公式としている会社では、決裁などの場面で反発される可能性も考えられますが、代替品の情報をリンクで共有することは可能でしょうか」(坂口氏)

「もちろん可能ですし、Slackはそのようなコミュニケーションが得意なツールです。Slackの会話の中で既存システムと連携するワークフローを回している会社では、同様に運用できます」(藤田)

調達DXとは。現場で起きている「3つの論点」と「4つの課題対応」|株式会社セールスフォース・ジャパン 藤田純
株式会社セールスフォース・ジャパン
ソリューション統括本部 製造ソリューション部 Lead, Account SE 藤田純

また、話題はAI活用の可能性にも及びました。

「AIを活用したコスト査定のデモもありました。直線回帰分析の最小二乗誤差を計算しているのだと思いますが、コストドライバー情報を図面から自動的に取り出すことはできないでしょうか」(坂口氏)

「技術的にできなくはないと思いますが、図面にはパラメータが無数にあるため、どのパラメータがコストに影響しているのか分からないブラックボックス状態になってしまい、バイヤーが困るのではないでしょうか。ある程度パラメータを絞ったデータを使用した方が、AIの計算結果を人が見て理解しやすいと思います」(藤田)

「6年ほど前にAIブームが起こった時に、課長さんや部長さんたちは、ブラックボックスだと合っているかどうかがわからないので承認がしがたいと話していました」(坂口氏)

Salesforceの場合はホワイトボックス化していて、どのパラメータがどれだけ価格に寄与しているのかがわかり、あまり影響していないパラメータであれば外したほうが精度を上げられるかもしれないというような判断もできます」(藤田)

「6年の時を経て現在、厳密に査定するよりも、適正かつ市況を織り込んだ価格を効率的に決めたいというニーズが高まっているように感じます。適正性を確保できるシステムになっていると理解していいのでしょうか」(坂口氏)

「承認に関わる方々は、おそらく経験知でおおよその価格をお持ちのはずです。データによって導き出された適正価格は、それを裏付けるのに役立ちます」(藤田)

製造業における生成AIの活用と課題

世の中を席巻している生成AI。製造業ではどのような使われ方が期待されているのでしょうか。現場への意識調査を行い、そのリアルな期待と課題をまとめました。

さらに生成AIについて議論を展開する中では、藤田が次のように指摘しました。

「チャットはコミュニケーションをよくするツールではありますが、今後、生成AIが業務に使われるようになれば、チャットの記録は会社の知財になるでしょう。今から会話も含めたデータを残しおくことが望ましいと思います」(藤田)

最後に両氏は、次のように語りかけセミナーを締めくくりました。

「調達部門で働くみなまさにはさまざまな変化があると思いますが、冒頭に申し上げたように世界の経済は日本企業がいなければ成り立ちません。日本の実力をこれからさらに発揮するために、調達DXを進めていけるよう、応援しています」(坂口氏)

「坂口さんが示した今後求められる変化を、システムがないから実現できないという話ではなくなっています。その先の、システムを使って課題にどう対応していくのかを検討するところで、Salesforceは調達DXの観点でみなさまに貢献したいと思っています」(藤田)

執筆:加藤学宏、取材・編集:木村剛士

調達業界の課題と最新の戦略とは

本記事のセミナー内容を動画でご覧いただけます。

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