原油や原料の価格高騰、小売業界のM&A加速、消費者ニーズの変化などにより、従来のマーケティング手法では商品が売れにくい傾向にあります。店頭で自社商品を手にしてもらうには、バイヤーとショッパーの両者に焦点を当てたトレードマーケティングが欠かせません。
トレードマーケティングとは、小売業界においてバイヤーやショッパーのインサイトを分析し、マーケティングの視点も取り入れながら行う営業手法です。
本記事では、トレードマーケティングの実践方法を詳しく解説します。
成功する営業活動の新しいカタチ:トレードマーケティング戦略
小売業や卸売業で仕入れを担当するバイヤーや、買い物客を対象にしたマーケティング手法「トレードマーケティング」をご紹介します。

目次
トレードマーケティングとは?

トレードマーケティングとは、小売業や卸売業にて仕入れを担当する「バイヤー」と買い物客である「ショッパー」を理解して、つなぐ仕事のことです。メーカーは小売店をひとつの流通チャネルとして位置づけ、関係の強化と販売促進を図ります。
トレードマーケティングの特徴は、ショッパー向けのプロモーションだけではなく、バイヤーに自社商品を取り扱ってもらうための施策が中心である点です。バイヤーの課題解決をサポートし、ショッパーの買い物体験を向上させることによって、自社商品やブランドの育成、さらにはカテゴリーの拡大を目指します。
書籍「トレードマーケティング」で提唱されたマーケティングの概念・手法
「トレードマーケティング」という言葉は、外資系メーカーで使用されることが多い用語です。国内にトレードマーケティングが入ってきたのは1990年代で歴史は浅く、メーカー業務に携わっている人々には十分に浸透していないのが現状でした。
しかし、トレードマーケターである井本悠樹氏が書籍「トレードマーケティング」を出版したことで、その概念や手法が浸透しつつあります。トレードマーケティングは、多様化する小売業界の需要に対応するための重要な戦略となるでしょう。
トレードマーケティングを活用した営業手法については以下の記事でも解説しているので、あわせて確認してみてください。
トレードマーケティングの目的
トレードマーケティングを実施する目的は、主に商品の売上拡大や認知度の向上です。
トレードマーケティングは、従来の流通向け営業活動をロジカルに捉え直しブラッシュアップすることで、小売業者や流通業者との取り組みを通じて、店頭での販売機会を最大化し、自社の流通チャネルにおけるパフォーマンスを向上させることを目的としています。
そのために、以下のような施策が重要となります。
- バイヤーとの協力関係の強化(データ活用による提案型営業の実践)
- ショッパーインサイトを活かした販売戦略の策定・提案
- 売上と利益の最大化につながる棚割や商品配置の最適化
- 共同販促やプロモーション施策の立案・実施
また、これらの施策を実施するだけでなく、自社の流入チャネルにおける課題と解決策を洗い出し、優先度を付与した上で実施する戦略的なアプローチが求められます。
競争の激しい市場環境においては、自社商品が選ばれやすい状況を作り出し、小売業者とWin-Winの関係を構築することが必要です。結果として、持続的な売上向上や流通内でのシェア拡大につながることが期待されます。
トレードマーケティングとブランドマーケティングの違い
メーカーが取り入れているマーケティング手法のひとつに、「ブランドマーケティング」があります。
トレードマーケティングとブランドマーケティングの違いは、以下の通りです。
トレードマーケティング | ブランドマーケティング | |
---|---|---|
ターゲット | バイヤーとショッパー | 最終消費者 |
目的 | ・バイヤーとの関係強化 ・ショッパーの購入される仕組み作り | ブランドの価値創造と認知度向上 |
活動内容 | ・店頭プロモーション企画・実施 ・商品陳列の工夫 ・販売員教育 など | ・広告キャンペーンの展開 ・ブランドイメージ構築 ・SNSでの情報発信 など |
時間軸 | 短期的 | 長期的 |
成功指標 | ・店頭での売上高 ・取引量 | ・ブランド認知度 ・顧客ロイヤリティ |
トレードマーケティングは、バイヤーやショッパーとの関係強化を目的とするのに対し、ブランドマーケティングは消費者との感情的なつながりを重視します。どちらも異なるターゲットに向けた戦略であるものの、両者が連携することで一貫した価値の提供が可能になるでしょう。
トレードマーケティングが重要視される背景

トレードマーケティングの需要が高まりつつある背景には、以下の要因が影響していると考えられます。
- 小売業界の競争激化
- 消費者の購買行動の変化
- DtoCブランドの実店舗進出
- 流通チャネルの多様化
原料の価格高騰や円安の影響で、メーカーは広告費や販売費を削減せざるを得なくなり、商品を売るための新たな工夫が求められています。
一方、小売業界ではM&Aが加速し、企業規模が拡大傾向です。メーカー間の競争が激化し、商品を店頭に置いてもらうことが難しくなっています。
さらに、消費者の高品質志向と節約志向の二極化や、オンラインとオフラインを組み合わせたオムニチャネル戦略の拡大など、多様な要因が商品販売の難易度を引き上げているのが現状です。
このような状況下では、メーカーは商品の購入機会を増やすために、店頭において自社の商品が置かれ、認知される機会をより増やす必要があります。そのためには、バイヤーのインサントを捉えるためのコミュニケーション頻度や提案の質の向上を前提としたトレードマーケティングの実施がますます重要となるでしょう。
トレードマーケティングの手順・仕事内容

トレードマーケティングをおこなう主な手順は、以下の通りです。
- バイヤーインサイトの理解を深める
- 企画をおこなう
- セリングストーリーを構築する
- 振り返りをおこなう
それぞれ詳しく解説します。
バイヤーインサイトの理解を深める
バイヤーインサイトとは、小売店や流通業者(バイヤー)が商品採用を判断する際の基準や優先事項に関する体系的な洞察を指します。トレードマーケティングでは、従来の経験則に頼った営業活動ではなく、バイヤーインサイトをロジカルに分析し、それをもとに戦略的な提案を行うことが重要です。
バイヤーは、メーカーから提案された商品について、「売りたいか(利益が得られるか)」「売れるか(消費者ニーズに合致するか)」の2軸で採用を判断します。従来の営業ではこの判断基準を感覚的に捉えることが多いですが、トレードマーケティングでは、定量・定性データを活用し、バイヤーの意思決定プロセスを体系的に理解しながらアプローチします。
バイヤーインサイトの分析では、以下の手法を活用します。
- 売上・消費者データの分析(販売動向やカテゴリの成長トレンドを把握)
- 競合分析(競合商品の売れ行きや販促施策の比較)
- 市場調査(消費者のニーズや購買行動の把握)
- バイヤーへのヒアリング・フィードバックの収集
たとえば、小売店の売上データを詳細に分析することで、特定の商品の売れる要因や売れ筋カテゴリーが明確になります。これにより、単なる「売れています」という主張ではなく、「この商品は市場の伸びているカテゴリーに属し、競合商品と比べて○○の優位性があるため、今後の売上向上に貢献できる」といったロジカルな提案が可能になります。
さらに、市場調査を通じて消費者が求める商品の特性や購入動機を特定すれば、バイヤーに対して「なぜこの商品が売れるのか」「なぜ今取り扱うべきなのか」を客観的なデータとともに示すことができます。
トレードマーケティングの視点では、単なる商品説明ではなく、データを活用して売れる理由とバイヤーにとってのメリットを論理的に構築することが求められます。これにより、バイヤーに「売りたい」「売れる」と確信してもらい、採用につなげることができます。
成功する営業活動の新しいカタチ:トレードマーケティング戦略
小売業や卸売業で仕入れを担当するバイヤーや、買い物客を対象にしたマーケティング手法「トレードマーケティング」をご紹介します。

企画をおこなう
企画はトレードマーケティングを成功させるための基盤となるステップであり、単なる手順ではなく、深い洞察とデータに基づいた思考が求められます。トレードマーケティングにおいては、消費者ニーズやバイヤーとの連携を深く理解し、精緻化した戦略を策定することが重要です。
企画は以下のステップを経て実施されますが、その過程でデータ分析やマーケットインサイトを活用し、精度高く戦略を組み立てることがポイントです。
- ビジネスレビューの実践
- まず、過去のデータや市場動向を基に、現在の状況を振り返ります。どの市場が成長しているのか、どの施策が効果的だったのかを深掘りし、今後の方向性を明確にします。
- 戦略の構築
- 競合分析や消費者のインサイト分析の結果を踏まえ、ターゲット市場での販売強化に向けた具体的なアプローチを策定します。この段階では「どの市場で」「どのように」「どのような方法で」強化を図るのかを決定します。
- KPIの設計
- 企画を仕上げるためには、達成すべき目標を定め、それを計測できるKPIを設計します。たとえば、各ショップにおける自社商品の展開率やエンドへの陳列率といった結果指標や、バイヤーへのヒアリング数や提案数といった行動指標をKPIとして定義します。
- 戦術の構築
- 販促活動や店頭での実施方法、商品配置やプロモーションなど、具体的なアクションプランを策定し、各施策が連動して効果を発揮するように設計します。
このように、トレードマーケティングでは、単なる企画立案の手順にとどまらず、市場の動向やバイヤーのニーズに基づいた深い分析とロジカルなアプローチが求められます。
セリングストーリーを構築する
企画をバイヤーに正しく伝えるためには、セリングストーリーの構築が重要です。セリングストーリーとは、商品の魅力を効果的に伝え、販売を促進するための戦略的なストーリー展開をさします。
以下のポイントを重視してセリングストーリーを構築すると、バイヤーに「自分ごと」として受け止めてもらいやすくなります。
- 客観的な視点から、長期的な課題に対する戦略を共有する
- 自社商品が売れることで、課題解決につながることを伝える
- ショッパーの行動パターンにもとづいた販売計画を示す
セリングストーリーは自社目線ではなく、バイヤーの視点に立った伝達が大切です。効果的なセリングストーリーの構築によってバイヤーに戦略価値が伝わり、無理なく購入につなげられます。
振り返りをおこなう
一般的なケースとして、戦略実行後の振り返りはKPIと実際の成果の差異を比較することにとどまり、目標にどれだけ近づけたかを確認するのみです。その後、差異があれば簡単に原因を分析し、即座に新たな対策を打つことが多いですが、このアプローチでは表面的な対策に終わり、根本的な問題の解決にはつながりません。
トレードマーケティングの考え方のもとでは、振り返りのプロセスにおいて深い分析を行います。まず、KGIが適切に設定され、実際に機能しているかを確認します。多くの企業では、KGIが達成できていない場合、その理由を掘り下げずに対策を講じがちですが、トレードマーケティングでは、KGIの設定自体が市場の変化に即しているかどうかを再評価することが重要です。
次に、KPIのレビューを行います。KPIが期待通りに達成されない場合、新たな解決策の検討に走ることがありますが、まずはKPIの達成に達する戦略やアクションが正しく実行されたのか、達成されていないのであればKPIや戦略、アクションのどちらに問題があったのかを深く掘り下げて検討しましょう。
また、バイヤーインサイトの再評価は非常に重要です。トレードマーケティングでは、KPIが達成できなかった理由を単に数字で終わらせるのではなく、バイヤーの視点や市場動向、消費者の変化などを踏まえ、深く掘り下げて分析します。
この過程では、単なる表面的な原因だけでなく、背景にある潜在的な要因を明らかにすることが重要です。その上で得られたインサイトは貴重な指針となり、より精度の高い、ターゲットに適した施策の策定に活用できます。
トレードマーケティングの今後・将来性

デジタル技術や消費者行動の変化に伴い、トレードマーケティングは今後さらに重要性を増すと考えられています。
小売業においては、景気の悪化による販売促進費の減少や、人口の中長期的な減少、あるいは消費者の行動変化変化によって、商品の販促が難しくなっていくことが明らかとなっています。
そのような状況下では、過去の手法を繰り返すだけではなく、バイヤーやショッパーのインサイトを捉え直した新たな視点からの営業手法が成功のカギを握るでしょう。
今後、小売業界の競争がさらに激化し、良い商品を作るだけではショッパーに届きにくくなります。トレードマーケティングの重要な役割は、優れた商品をショッパーに確実に届けることです。多くの素晴らしい商品が、適切なトレードマーケティングが行われないことで小売業者に取り扱われず、結果的に売上を逃したり、ショッパーが自分に合った商品に気づかずに損をしたりしています。
トレードマーケティングは、ブランドとショッパーを繋げ、優れた商品が必要としている人々に届く環境を作り出します。
トレードマーケティングへの理解を深め、営業活動に取り入れよう

トレードマーケティングは、消費財メーカーが売上・利益を拡大するための戦略的アプローチです。
メーカー同士の競争が激化する中で、バイヤーは多くの商品を取り扱うようになり、メーカーからも提案を受ける機会が増えていきます。そのような環境下では、メーカー視点での売り込みではなく、バイヤーやショッパーのインサイトを理解し、それらの視点での提案が結果として大きな効果を発揮します。
今後、厳しい競争を勝ち抜いていくためには、小売や消費者に選ばれるメーカーになるべく、商品開発のみならず営業活動においてもブラッシュアップを図らなければなりません。
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成功する営業活動の新しいカタチ:トレードマーケティング戦略
小売業や卸売業で仕入れを担当するバイヤーや、買い物客を対象にしたマーケティング手法「トレードマーケティング」をご紹介します。
