Trailblazerの表彰制度である「Salesforce MVP」は現在、全世界で約250名、日本で14名が受賞しています。その存在に関心があっても「どうやってなったの?」「選出されると、どう変わるの?」といった疑問を持つ人もいるでしょう。
そこで、2024年度のSalesforce MVPであるJSOLの飯田博記さんとキットアライブの栄木菜緒子さん、そして5年間のSalesforce MVP選出で殿堂入りしたクラレの衛藤奈々さんに集まっていただき、座談会を開催。話を伺いました。
Salesforce MVPとは? 殿堂入りとは?
Salesforce MVPは、製品の「専門知識」、「リーダーシップ」、そして他のユーザーがSalesforceを学習しTrailblazerコミュニティにつながるために支援する「寛大さ」を審査基準にしたTrailblazerの表彰制度です。自己またはコミュニティの推薦をもとに審査し、選出します。
13年目を迎えた2024年度の新メンバーは世界で24人、うち日本では2人でした。その2人とは、Salesforceパートナー企業のJSOLの飯田博記さんとキットアライブの栄木菜緒子さん。飯田さんはアーキテクトとしてユーザー企業の導入プロジェクトに参画しており、栄木さんは導入企業へのサポートや「AppExchange」向け開発に携わっています。
また、Salesforce MVPを5年間連続更新するとSalesforce MVP Hall of Fame(殿堂入り)となります。その一人が、ユーザー企業のアドミン(Salesforce管理者)としてキャリアを重ねてきたクラレの衛藤奈々さんです。
ロールや勤め先が異なる3人のSalesforce MVP経験者に、セールスフォース・ジャパンCommunity Programs Specialistの近藤麻子が話を伺い、その実態に迫りました。
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なぜSalesforce MVPに選出されたのか
──この度はSalesforce MVPの選出と殿堂入り、おめでとうございます。まずはご自身で受賞した理由をどのように感じていますか。パートナー企業としてSalesforce導入や活用支援を手がけている2人からお聞かせください。
飯田:2019年よりコミュニティグループ「Salesforce Architect Group 大阪」を運営してきました。
ほぼ毎月開催した勉強会では、自身も登壇することで「専門知識」を身に着けることができ、自身の認定テクニカルアーキテクト(CTA)の合格につながりました。
コミュニティに参加したことで成功体験を得たと感じています。この成功体験を広めたいと思い、Salesforce管理者のみなさんと交流したり、自身の専門知識を共有したりと活動の幅を広げてきました。
こうした活動がMVPの選考基準である「専門知識」、「リーダーシップ」、「寛大さ」が体現できていると好感をもっていただいたのかなと感じています。
──栄木さんはいかがですか。
栄木:私もコミュニティ活動が少なからず評価されたのかなと思っています。コミュニティ活動の中で、最初は「Salesforce女子部」、次に「Woman In Tech」の共同リーダーとなり、それをステップに、コミュニティカンファレンス「Japan Dreamin’」の運営チームに参画しました。
内心やってみたいと思っていたところ、「栄木さんにも関わってほしい」と推薦していただいたことがとてもうれしかったですね。そうしていただいたチャンスを少なからず生かせたことがMVPにつながったのかもしれません。
栄木:コミュニティに参加したのは、「Salesforceをもっと知りたい」とか、「Salesforceに関わっている人たちと仲良くなりたい」とか、「何か吸収したい」という動機からでした。
いわゆる下流工程で開発だけに関わっていると、なかなかお客さまと接する機会がありませんが、コミュニティという自分の会社とは異なる場でアドミンやユーザーの方々が普段どんなことを思っているのかを知れた結果、視野が広がりました。
──続いて、衛藤さんにお聞きします。殿堂入りを果たしましたが、その要因の自己分析をお聞かせください。
衛藤:初めて選出された2018年当時、ほとんどのMVP受賞者が開発者でアドミンの私は極めて珍しい存在でした。なので、とても驚きましたね。
その当時、「MVPを獲得したい」とか「MVPになりたい」って思ったことは全くなくて。選ばれた理由も実は当時知らされていません(笑)。
強いて言うなら、2017年に「Admin女子部」というコミュニティを立ち上げ、活動を開始したことを評価いただいたのかもしれません。コミュニティ活動は誰かに褒めてもらいたいからではなく、みんなと一緒に自分も成長したいと思って立ち上げたものなので、一生懸命やっていたら、後からついてきたという感覚ですね。
衛藤:その後の更新では、自分の行動が MVP の行動規範を体現出来ているかどうかを振り返りながら、実直に活動を続けてきました。
この期間は、期待している人物像を理解し、行動規範に沿った自分でいる責任を感じるようになり、もっと成長しようと思えるきっかけになりました。
MVP選出を周りはどう見ているのか
──みなさん、コミュニティでの活動がMVPにつながっているわけですが、それには所属企業の理解が欠かせないと思います。社内のみなさんはこうしたコミュニティ活動をどのように見ているのでしょうか?
衛藤:2018年に初受賞した時に籍を置いていた大阪の製造業の会社では、活動に対してとても理解していただけました。だからこそ活動の幅を広げられたと思います。
私にとってのコミュニティは、自分の技術や知識、社会人としてのマインドセットまでも鍛える大切な場所です。コミュニティ活動を通じて個人が成長することで、企業の成長への貢献に繋がると信じています。だからこそ、転職する際は、コミュニティ活動に対する理解を得られるかを重要視してきました。
──ありがたい話です。コミュニティ運営側からすると、みなさんの転職はステップアップでありうれしいのですが、それと同時に、今後のコミュニティ活動に影響はあるかなと頭をよぎります。栄木さんの会社では、MVP受賞にどのような反応がありましたか?
栄木:私の所属する会社ではお知らせを出してくれて、私が参画していないお客さまの打ち合わせで「キットアライブの栄木さん、表彰されたんでしょう?」と話題に上ったことを人づてに聞くことが結構あって、とてもうれしかったです。
もちろん私が関わっているプロジェクトでも、「すごく心強いです。これからもよろしくお願いします」と言ってくださるパートナーさんがいて、やはりうれしかったですね。
社内には「MVPって何?」と感じの人もいるし、「Salesforce World Tour Tokyo(SWTT)」になかなか行けない人もいます。今回の受賞で表彰制度について説明する機会が増えますし、若いエンジニアがスキルアップ、キャリアアップしていく手段の一つとしてコミュニティ活動に注目が集まるのではないかなと思っています。
──飯田さんも会社でもホームページにお知らせを出していましたね。
飯田:Salesforceに関連する事業のチームだけでなく経営層をはじめ全社で喜んでくれましたし、JSOLが属しているNTTデータグループでも好意的に受け止めていただいているようです。選ばれることの意義と今年選ばれたのが「日本では2人だけ」という事実のインパクトが大きかったみたいです。
JSOLではSalesforce事業は成長を続けている領域です。昨年(2023年)のCTA合格では専門知識を示すことができました。今回、Salesforce MVPに選出されたことで、Salesforce のエコシステムに貢献しているメンバーがいることを示すことができました。JSOLのなかでもSalesforce 事業をさらに推進していく勢いが高まったように感じています。
NTTデータグループには1300人が参加する社内Salesforceコミュニティがあり、CTAやMVPになったとき、みなさんがすごく反応してくれました。
ただ、コミュニティに対してまだシャイな人が多いんです。会社の枠を超えて活躍したいと思っている人も多いはず。私のMVP選出が、一歩を踏み出すための後押しになればいいと感じています。
Salesforce MVPはゴールではなく通過点
──Salesforce MVPになって周りからの期待が高まっているようですが、気持ちに変化はありましたか?
衛藤:MVPはゴールではなく通過点であり、「いま頑張っていることは間違っていない」「認められた」と、自分の背中を押してくれるものだと考えています。
もっと仕事を頑張ろう、もっと人間的に成長していこうという気持ちがすごく大きいですね。だからこそ、コミュニティでもみなさんと一緒に頑張りたいし、私もその中から吸収したい。ただMVPだけを目標にすると、コミュニティ活動は続かないと思います。
飯田:私も同じ感覚です。Salesforceや会社のお知らせには「受賞」ではなく「選出」と書いてあるように、実績を見て選んでいただいた、新しい役割を任命されたような気持ちです。「受賞おめでとう」で終わってはいけないのだと思っています。
──では、Salesforce MVPになるメリットはありましたか?グローバルカンファレンスの招待などのベネフィットもあると思いますが、それ以外で感じることがあれば教えてください。
飯田:MVPとなった24人のSlackグループに参加できるので、同級生みたいな感覚でつながることができます。これからいろんな場面で「同期だから」というきっかけができそうです。
また、昨年、米国で開催された「Dreamforce」に参加したときは、英語は得意でなくグローバルとのコミュニケーションにためらいがちな私でも、「CTAの飯田です」と自己紹介がしやすかったです。MVPになるとさらに一歩踏み出しやすくなるので、自分の世界を広げる、すごく大きな看板をいただいたと思います。
──苦手でも一歩踏み出せるポジティブな世界観がとてもいいですね。栄木さんは、メリットを感じていることはありますか?
栄木:私はコミュニティ活動の「後ろ盾」ができたことが大きいですね。パートナー企業によっては、通常業務の決まった工数分は稼働しなければいけなくて、日中はコミュニティに参加しづらい人もいます。
上司と折り合いをつけるためには、日ごろの成果が問われることになります。これまで後ろめたさは全くありませんでしたが、MVPで「行かせてください」と言いやすくなりました。
それから、MVPという肩書はプレッシャーになる一方で、前に進む原動力にもなっています。MVPとしてSalesforceを盛り上げていく活動に力を入れるのだから、それに見合うだけ本業にも力を入れなければという良い意味でのプレッシャーを自分にかけられます。
──プレッシャーって重い言葉ですけど、Salesforce MVPの場合はいいことでもあるんですね。
衛藤:転職時には必ず、MVPであることは伝えるので、プレッシャーというか周りからの期待は感じますね。
コミュニティへの参加が難しいのは、ユーザー企業も同じだと思っています。参加してどう変わるのかを、自分の姿で見せていくしかない。コミュニティで一生懸命に頑張っているユーザー企業の参加者もたくさんいて、その方々がコミュニティリーダーやMVPになることは、いろいろなユーザー企業を大きくバックアップすることにもなると思います。
「MVP」に恥じないように成長したい
──では最後に、今後の展望をお聞かせください。
衛藤:私はもともとプロドラマーとして生きていきたくて、さらに全く関係のない営業職からSalesforceのキャリアが始まっています。Salesforceの仕事をするなんて思ってもみなかった。
頑張れたのは紛れもなくコミュニティがあったからですし、これからもコミュニティでみなさんと活動を続けながら、さらにステップアップしてMVPに恥じないように成長していければいいなと思っています。
飯田:一つは、次のMVP候補を大阪のコミュニティからも輩出できるように後押ししたい。そしてもう一つ、データ+AIに拡大していくSalesforceと、Salesforceに限らず幅広くある製品を把握して、アーキテクトとして自分も成長したいと思っています。
MVPになると製品責任者とのミーティングに参加できるのですが、先日は生成AIのリスクに対してSalesforceはどう対応しているのか知る機会をいただけました。こうしてMVPとして受け取って公開できる情報を発信していくことで、コミュニティに貢献できるし、アーキテクトとしての成長にもつながるはずです。
栄木:コミュニティで推薦してもらってステップアップできたので、今度は私がふさわしい人を見つけて声をかけたいし、次のMVPになってもらいたいです。
私は新卒で北海道の会社に勤めていたこともあって、地方の人がもっと前に出てきてほしいという思いがあります。東京にいなくても仕事がしやすい社会になってきましたし、そういう人の後押しをして次の世代を育ててみたいと思っています。
最後に。
Salesforce MVPとは日本だけでなく、世界中のTrailblazerが対象のSalesforceの中でも規模の大きいプログラムです。
Salesforce MVPには、限定グッズだけでなく認定資格試験やトレーニングを受ける機会を提供したり、イベントへの招待や講演の機会などの特典を贈呈したりしています。それはSalesforce MVPとなられた方々が知識、時間、情熱をTrailblazer Communityを通して惜しみなく提供してくれることに対する感謝の気持ちでもあります。
Trailblazer Communityでは、職業や役職に関係なくSalesforceという共通点で集まり、お互いの成長を支援し合うだけでなく、そこから新しいネットワークやキャリアアップの機会も生まれています。
一人でも多くの方にTrailblazer Communityを知ってもらい、参加することで得られる成功体験を増やせるよう、Trailblazer Communityの活動をこれからもご紹介していきます。詳しくは、こちらをご覧になってください。ご不明なことやお聞きなりたいことがあればお気軽にお近くのコミュニティマネージャーまでお問い合わせください。
Community Programs Specialist
近藤麻子
取材:近藤麻子、執筆:加藤学宏、撮影:竹井 俊晴、編集:木村剛士
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