登壇者プロフィール
深津貴之(@fladdict)
インタラクションデザイナー/AI活用戦略アドバイザー
株式会社THE GUILD代表取締役、note株式会社CXO、一般社団法人UXインテリジェンス協会理事、横須賀市AI戦略アドバイザー、Stability AI Japanアドバイザー。
けんすうさん(@kensuu)
起業家
アル株式会社代表取締役、nanapiの運営会社元社長/共同創業者。nanapi事業を継承したSupership元取締役。掲示板したらば運営会社の元社長。着せ替えできるNFT「sloth」など様々なサービスを立ち上げている。
深田 紘平
Salesforce Japan プロダクトマネージャー
お客様の声を本社開発チームに届け、新製品ローンチと長期的な成功を支援する。
前編に続き、深津 貴之さん、けんすうさん、そして Salesforce Japanの深田 紘平による放談をお届けします。
後編では、生成AIが業界の競争、特にB2Bビジネスにどのような影響を与えるかを探ります。未来におけるSalesforceの役割、生成AIのセキュリティリスク、そして経営者がこの技術をビジネスにどう取り入れるべきかについて、多角的な視点から「生成AIとの向き合い方」と「ビジネス成長のための活用方法」を掘り下げます。
※この放談は2023年11月9日に実施されました。
目次
AIは企業の競争力をどう変えていくか
深田 AIが進化、普及していくとあらゆる企業・業界の変化が起きそうですが、例えば、B2B企業ではどのような影響がありそうでしょうか。
深津 セールスやカスタマーサポートは、Salesforceのような仕組みを入れることで、業務の標準化が一気に進むと思います。そうなれば、業務効率化はすごく進むはずです。
一方で、そこで競争力が出せなくなるかもしれないですね。業務プロセスはどこも同じになると、そのほかで自社の競争力を磨かなければならない。例えば製造業では、製造装置やロジスティクスなどの変えにくいところを変えられる企業が勝つというようなことが起きるでしょうね。
深田 私もセールスやコールセンターは一番早く変化すると思っています。ある程度プロセスが決まっていてデータが溜まっていれば、すぐに標準的なアウトプットが出せるようになりますね。
けんすう 私もカスタマーサポートの水準がグッと上がっていくと感じています。深津さんのご指摘は私も感じていて、AIで業務プロセスが効率化、標準化されることで、新たな差別化ポイントを作る必要性も私も感じています。
深津 Salesforceにとってポジティブな話をすると、Salesforceのようなプラットフォームを導入していないと、そもそもスタート地点に立てないので、あらゆる企業が採用する未来があるかもしれないですね。
深田 そうなると、少し話は脱線しますが、“アナログなお付き合い”の価値もが高まり、競争力になることもありえるのでしょうか。
けんすう 仲が良い人とか、付き合いやすい人に仕事が集まるっていうのは、今でもあるでしょうし、今後もなくならないでしょうね。
深津 ウエットの話とドライの話って交互に来ると思っていて、足で稼ぐとかコネで稼ぐっていう時代に、新しい技術が入ってきて1社だけ技術でズバ抜けると、その1社が一人勝ちする。でも、みんながそれを真似すると、全員その基準になって区別がつかなくなるんで、そうするとウエットな付き合いとかテクニックを持ってる人の価値がまた高まるんですね。それが交互に入れ替わる。
World Tour Tokyo アーカイブを無料公開
日本では6年ぶりに創業者マーク・ベニオフが登壇した基調講演をアーカイブ配信しています。
AI活用をリードするビジネスリーダーの講演と先進事例を通じて、生成AIの力をビジネスの力へと変革する未来をぜひご体感ください。
Salesforceが“飲み会奉行”もやってくれる?
深津 将来、Salesforceが進化して、飲み会のセッティングや仕切り、“飲み会奉行”もやってくれるかもしれないですよ。最高の宴会をセッティングして、最高の手土産を持たせてくれるところまでプロデュースしてくれる。
深田 実はお客さまからそうした要望はいただくんです。宴会を仕切って欲しい、と。
けんすう それ面白いですね。どんな感じでお客さんから要望がくるんですか?
深田 Salesforceで営業管理をしていると、「こういうお客さまでこのような商品やサービスに興味がある」というビジネスの情報はわかるんですが、パーソナルな情報はありません。
Facebookの投稿で、あのゴルフ場に行っていたとか、ここのレストランの食事が好きみたいな情報まで連携したうえで、このお客さまとのディールをクロージングさせるためには、このようなお店でこのタイミングでこういうふうに接しましょうというところまで提案して欲しいという要望です。
けんすう 「この人は焼肉が好きだったから、会食は焼肉がいいよね」とか、「この人のお子さんはそろそろ中学校入学だから、お祝いの品を持って行ったほうがいいよ」とかまで言ってくれるということですね。
深田 そうですね。そこまでデータを集約してお客さんを理解するということです。
深津 最初の方で、AIはいけている秘書とか執事のような存在になっていくと言いましたが、AIをとことん駆使する人はそこまで求めると思いますね。
けんすう そうですね。優秀な秘書の方は、相手の好きなものとか食べられないものとかきちんと把握していますよね。「あのお客様は、お子さんが生まれたからプレゼントを送っておきましょうか」って聞いてくれて、送っておいてくれる。そういうのをAIがやってくれるようになると良いですね。
深田 Salesforceの製品の中に、Data Cloudというものがあります。Salesforceに含まれているものは、お客さんの属性情報や取引履歴の情報ですけれど、それ以外のFacebookの情報や、他のツールのデータベースからデータを集約して、Salesforceのメタデータに持ってくるんです。そうすることで、Salesforceの中のデータと組み合わせてアウトプットを出してくれるということもできるようになっているんです。
ブランドごとに差別化された新しいカスタマーサポートの可能性
けんすう メールとかチャットの発言を適度に柔らかくしてくれる機能はすぐ実装される気がします。
深田 コールセンターの例では、発言のトーンとかがすごい重要になってくるんです。
GUCCIの事例なんですが、コールセンターで、カスタマーサポートスタッフが、ブランドに相応しくない対応をしてはいけないじゃないですか。そこでAIを使って、どのように答えたら良いか自然な文章を表示するんですが、その文章を、よりGUCCI化する。これを「GUCCIFY」といっているんですけど、GUCCIのようなラグジュアリーブランドの対応の仕方を標準化することもできるようになっています。
深津 それは需要がありそうですね。今までそのブランドらしいカスタマーサポートをやりたいって思っても、マニュアルに落とし込んだり、トーンをきちんと定めて運用したりするのは難しかったじゃないですか。でも、AIがトーンをちゃんと管理してくれるようになると、導入できるんですよね。
今までのカスタマーサポートって、間違いのないど真ん中の普通っぽい対応をするばっかりだったと思うのですが、GUCCIのように、うちはこういう会社だからこういうトーンでサポートすべきだ、みたいなことを各社ごとに考えて差別化することできるようになりますね。
深田 面白い事例ですね。オペレーションでなくて、そのような差別化は。サービスの問い合わせに、自社のキャラクターが対応するとかはありですね。
深津 ど真ん中が当たり前すぎて価値がなくなるので、みんなど真ん中じゃないことをブランドのすべてのコンタクトポイントでやり始めるような未来になってくれると面白いですよね。楽しみですね。
深津 キャラクターを相手に問い合わせするんだったら、暴言もだいぶ減るでしょうね。
けんすう 実際にチャットのアイコンを猫にしたら、暴言がめっちゃ減ったみたいな事例ありますもんね。サポート担当が人であるっていうのがそもそも人権的に良くないとかの話まで行くと思っています。
生成AIで生み出される新たな脅威
深田 セキュリティの観点では今後どのようになっていきそうでしょうか。
深津 オレオレ詐欺のように、“AIAI詐欺”みたいなものが出てくるんじゃないかと思っています。
「オレ、すごく便利なAIだよ、何でも手伝うよ、だから権限ちょうだい」ってアプローチをしてきて、騙されて権限を渡した瞬間に、銀行からお金を引き出したり、個人情報を抜いたり。便利なふりをしているけれど実は悪いことをするエージェントみたいなAIがこれから増えていく気がしますね。
けんすう web3業界だと、詐欺の手法がどんどん高度化しているという話もあります。セキュリティに強いエンジニアでも騙されてしまったり、何回も打ち合わせして、信頼できると思って取引をしたら詐欺だった、ということも起きています。
このあたりの危険性が増す可能性はありますね。
深津 結局、AIは配列の集合体、ウェイトの集合体なんで、出来上がったAIのモデルを見ても、そういう怪しげなバックドアがあるかどうかって観測できないし、テストできないんですよ。だから「誰が作ってこのように配ったAIです」というAIの由来のような情報はすごく重要になってくる気がしますね。
深田 SalesforceのAIとかOpenAIのストアで認証されたものに需要が強まるのでしょうか。
深津 そうかもしれません。信頼性に課金するようになる人はいるでしょうね。あるいはAI-Aの挙動をAI-Bが見張るみたいな体制も増えてくるかもしれません。
深田 AIに対する信頼性というところで、AIによる個人情報の収集がプライバシー侵害にあたるという問題もありますし、返ってくるアウトプットのハルシネーションと言われているもの、つまりAIが嘘をついてしまう問題もあるので、SalesforceではAIの信頼性を担保するためのアプローチとして、トラストレイヤーというものを開発したんです。
お客さんが持っているデータと、生成AIのモデルの間に信頼性を担保するレイヤーを挟むことによって、信頼できるデータを自社のデータベースから引っ張ってきてプロンプトに加えてあげる。
且つ、そのデータをマスキングしたり、サーバーに送られたデータは処理後にすべて消去されるようにしたり、AIのトレーニングに使われないようにするということをしっかり担保する仕組みです。Salesforceでは、そこを最初に開発していたというところが大きなポイントかなと思います。
けんすう 深津さんの話にあったように、よくわからないAIサービスは怖いとなりかねないですね。Salesforceの中のものでないと使っちゃダメという会社って結構多くなりそうだなと思いました。
経営者はChatGPTを許可すべきか
深田 日本企業では業務にChatGPT使ったらダメみたいなルールもあるじゃないですか。
深津 ChatGPTを遮断したりするのは、緩やかな自殺という気はするのでおすすめはしないんですけども、そういう会社も多いと思います。
けんすう 難しい問題だと思います。社員がChatGPTに業務データをアップしまくっていたらどうしようと思うのも分かるし、使わないとどんどん競争力を失いそうで怖いと言う気持ちも分かる。
深津 真面目にやるんだったら、Chat GPTにアクセスするブラウザを決めてしまって、ブラウザのエクステンションとして入力内容を見張って変なものをアップロードしないようにする仕様を作ることが大事でしょうね。
けんすう クラウドの「利用禁止」みたいな話と同じになってきそうな気もします。
深田 Salesforceが日本でクラウドを一般化させるまでのプロセスも同じでしたね。やっぱり信頼をいかに担保するかが大事でした。ローカルにあるデータをクラウドに乗っけるとか、クラウドで作業することに対して、不信感を持つお客さんがいたのですが、生成AIも一緒なんですよね。
データを生成AIに投げることとか、アウトプットに対する不信感とか、そこをまず除いてあげようというのがSalesforceのアプローチになっています。
深津 AIはもう知的活動の要になってそれがクラウドの上に乗っかるから、これから先は、クラウドが不調になってAIが使えませんってなったら全員の知能が下がるみたいなことが起きますよね。
深田 何もできないですよね。Slackが使えないだけでそうなりますね。
けんすう 本当にSlackが落ちたら仕事しないですもん、いろいろと困るので。この対談もAIによって文字起こしとまとめができちゃうわけですよね。すごい時代になりましたよね、本当に。
AIがもたらす未来
深津 これから人類の仕事がどんどんなくなっていって暇になるかもしれないですね。
けんすう 本当についていけなくなりつつあるんですが、全人類がついていけていないだろうなと思って、最近逆に爽やかな気持ちになっていますね。
深津 今、葉山でカフェをやるほうが強い。
けんすう 本当にその通りで、物理的な場所がある飲食店などのほうが圧倒的に強い感じはしています。
深津 葉山の海の前で波がザザーンというところはAIで置き換えるのが難しいですもんね。
けんすう 置き換えられないし、独占できるんですよね不動産って。そこを持っていると誰も入ってくることができないので。AIの進化について考えているとそういうところまで話が広がっていきますよね。
AIの最新の話題から今後の可能性にまで話が進んだ今回の放談。これらは一部の例であり、AIの可能性はこれからの技術進歩によって、さらに広がっていくでしょう。
最後に深津さんは、「このAIブームは100年に1度の大きなお祭り。乗らないのは損。すぐやった方がいい」とメッセージを残してくれました。けんすうさんも、「AIを悲観的に捉えている人も多くいると思いますが、仕事で使おうとするより、遊び感覚でいろいろ試してみると良いかも」とアドバイスをくれました。
無料でAIスキルを高める方法 Trailheadのおすすめ活用法6選
生成AIの進化は企業のビジネスにおける新たなチャンスを生み出しています。しかし、AIスキルの不足はまだまだ課題です。無料の学習プラットフォームTrailheadでAIスキルを強化しませんか?
【合わせて読みたい関連記事】