働きやすい環境を整えようと努力しているものの、長時間労働が改善されず従業員のモチベーションが低いなど、効果が出ていない企業もあるのではないでしょうか。
現代の多様化するライフスタイルにおいて、従業員の満足度や生産性を高めるためには、ワークライフバランスを重視した制度や労働環境が必要です。
本記事では、ワークライフバランスの概要や具体的な取り組み、実現によるメリットを詳しく解説します。従業員の働きやすさと企業の成長を両立させるためのヒントとして、ぜひ参考にしてみてください。
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ワークライフバランスとは?意味・定義
ワークライフバランスとは、仕事や生活(家事・育児・介護など)の調和を図り、どちらも充実させる働き方や生き方のことです。政府の男女共同参画会議においては、以下のように言葉を定義しています。
「ワーク・ライフ・バランス」とは、老若男女誰もが、仕事、家庭生活、地域生活、個人の自己啓発など、様々な活動について、自ら希望するバランスで展開できる状態である。
ワークライフバランスの定義はさまざまですが、どの文献でも個人のライフスタイルに合わせて「希望する働き方を選択できる」という点は共通しています。
ワークライフバランスで実現する社会と現状
内閣府の「仕事と生活の調和憲章」では、ワークライフバランスが実現した社会を以下のように表現しています。
国民一人ひとりがやりがいや充実感を感じながら働き、仕事上の責任を果たすとともに、家庭や地域生活などにおいても、子育て期、中高年期といった人生の各段階に応じて多様な生き方が選択・実現できる社会
2007年12月に憲章や行動指針が策定され、そのなかでワークライフバランスを構成する柱として、以下3つの社会の実現を目指しています。
- 健康で豊かな生活のための時間が確保できる社会
- 多様な働き方・生き方が選択できる社会
- 就労による経済的自立が可能な社会
2020年には数値目標に対する達成状況を公表しており、主な評価項目は以下のとおりです。
主な数値目標 | 目標 | 達成状況 |
---|---|---|
週労働時間60時間以上の雇用者の割合 | 5% | 5.1% |
年次有給休暇取得率 | 70% | 56.3% |
第1子出産前後の女性の継続就業率 | 55% | 53.1% |
男性の育児休業取得率 | 13% | 7.48% |
就業率(20〜64歳) | 80% | 82.2% |
長時間労働や就業率は目標に達していますが、休暇取得関連の項目は未達成であり、まだワークライフバランスが実現したとはいえない状況です。
ワークライフバランスはもう古い?2つの新しい考え方
ワークライフバランスは「もう古い考え方だ」という意見があるのも事実です。仕事と生活の充実を目指す一方で、バランスばかりを重視するあまり、両者ともに充実する手前の状態になってしまう場合もあります。
ワークライフバランスに替わる新しい考え方として、以下の2つがあります。
- ワークライフインテグレーション(仕事と生活を統合する)
- ワークインライフ(人生のなかに仕事がある)
それぞれの概念を詳しく見ていきましょう。
ワークライフインテグレーション(仕事と生活を統合する)
ワークライフインテグレーションとは、仕事と生活を切り分けるのではなく、両者を統合し人生を構成する一部として捉える考え方です。
仕事と生活のシームレスなつながりをつくり、両者の相乗効果によって公私ともに高め合うことを目的としています。
一方ワークライフバランスは、仕事と生活を明確に切り離したうえで、お互いのバランスを取って人生を充実させようとする概念です。
ワークインライフ(人生のなかに仕事がある)
ワークインライフもワークライフインテグレーションと同様に、仕事と生活を区別しない考え方で、自分らしい生き方のなかに仕事が存在すると捉えます。
人生に重きを置いているため、家庭・趣味と仕事が同じ価値観でつながっており「仕事=自分のやりたいこと」という考え方です。
仕事は人生そのものという点で、仕事と生活を切り離して考えるワークライフバランスとは明確な違いがあります。
ワークライフバランスの実現に向けた5つの取り組み
ワークライフバランスを実現するための、5つの具体的な取り組みを紹介します。
- 仕事をサポートし合う組織文化の醸成
- フレックスタイム制や短時間勤務制度の導入
- 自由な時間・場所で仕事ができるテレワークなどの導入
- 多様な働き方に対応した人事評価制度の整備
- AI活用によるワークフロー改善などの業務効率化
上記の取り組みは、働き方改革の一環としても重要な役割を担っています。以下の記事では、働き方改革の概要や具体例を詳しく解説していますので、本記事とあわせて確認してみてください。
仕事をサポートし合う組織文化の醸成
ワークライフバランスの実現に向けて、労働時間の削減や休暇取得の促進に取り組むには、従業員同士でお互いに仕事をサポートし合う意識や職場環境が必要です。
一部の従業員だけが充実した仕事や生活を送ったとしても、他の人は休暇を取れず疲労が蓄積するといった問題が起こる可能性もあります。
従業員一人ひとりが「仕事はチーム一丸となって取り組むもの」という意識を持ち、個々の事情に合わせて業務量を調整するなど、会社側としての対応も求められます。
仕事をサポートし合う組織文化を根付かせるためには、従業員同士でお互いの仕事状況を確認できるシステムの導入も有効な手段です。
以下の記事では、企業の成長につながる組織づくりの基礎を詳しく解説しています。組織文化の浸透に取り組んでいる方は、ぜひ参考にしてみてください。
フレックスタイム制や短時間勤務制度の導入
フレックスタイム制や短時間勤務制度は、従業員が自分の状況に応じた働き方を選択できる制度です。制度の詳細は以下のとおりです。
フレックスタイム制 | 一定期間の総労働時間をあらかじめ定めておき、1日の始業・終業時刻、労働時間を従業員自らが決められる制度 |
短時間勤務制度 | 3歳未満の子どもを養育する従業員に対して、1日の所定労働時間を原則6時間(5時間45分から6時間まで)とする制度 |
フレックスタイム制では、通勤ラッシュを避けて早朝に出社し、終業時刻を早めて退社するなど、従業員の都合に応じて労働時間を調整できます。
【参考】
自由な時間・場所で仕事ができるテレワークなどの導入
テレワークなどの自由な時間・場所で仕事ができる環境を整えることで、通勤時間を家事や育児の時間に充てられ、ワークライフバランスの実現に一歩近づきます。
新型コロナの影響によって多くの企業がテレワークを導入し、会社から離れた場所でも仕事ができるという考え方が広く認知されるようになりました。
近年では、自宅以外のコワーキングスペースやサテライトオフィスといった、複数の働く場所を組み合わせたハイブリッドワークも注目されています。
その一方で、組織内のつながりや連携の面から、オフィス勤務を義務づける企業も出てきているため、テレワークによる効果とリスクの両面で導入可否の判断が必要です。
多様な働き方に対応した人事評価制度の整備
長時間労働で成果を上げた人だけを評価するのではなく、短い時間でいかに大きな成果を残したかという視点で評価することが重要です。
働き方が多様化するなかで、労働時間の多さや休暇取得の少なさを評価してしまうと、生産性の高い従業員に対して不公平感を与えかねません。
公平な人事評価をする方法としては、仕事の進め方や協力的な姿勢によるプロセス評価や、上司以外の同僚・部下から評価を受ける360度評価などが挙げられます。
従業員それぞれの働き方に対応した人事評価制度を整備し、必要以上に長時間労働を容認するような環境を変えていくことが重要です。
以下の記事では、人事評価制度を含めたさまざまな人材育成の方法について解説しています。企業の成功事例も紹介していますので、ぜひ参考にしてみてください。
AI活用によるワークフロー改善などの業務効率化
ワークフローの「申請〜承認〜決裁」の流れを改善するなど、業務効率化の取り組みによって労働時間が削減され、ワークライフバランスの実現につながります。ワークフローの改善では、ボトルネックや無駄な手順を特定し、以下のような見直しを行いましょう。
- 書式の統一
- 提出先や承認者の明確化
- ワークフローシステムの導入
ワークフローシステムでAIを活用すれば、社内のあらゆるデータをもとに関連性や傾向の予測ができるため、意思決定のスピードアップが図れます。
SalesforceのAI「Einstein」は、精度の高い予測と生成AIの活用によって、作業時間を削減しながら生産性を高められるツールです。ワークライフバランスの実現に向けて、ワークフローの自動化を検討している方は、ぜひ活用してみてください。
Salesforce Flowで単純作業から解放、新しい働き方へ
業務効率化にはワークフローの自動化が欠かせません。Salesforce Flowでは単純な作業も複雑な作業も自動化をする事ができます。DXのはじめの一歩をSalesforceとはじめませんか?
ワークライフバランスに取り組むメリット
ワークライフバランスは、従業員の働きやすさを実現するだけでなく、企業にとっても多くのメリットがあります。
- 労働生産性の向上
- 企業イメージ・評価の向上
- 優秀な人材の確保
- 従業員の離職率低下
- 従業員の心身の健康維持・増進
ワークライフバランスの実現で従業員の長期的な定着につながり、人材育成や技術継承の面でも計画的な戦略を立てやすくなります。
労働生産性の向上
従業員が仕事とプライベートのバランスを取り、心身ともに健康な生活を送ることで、仕事に対する集中力が高まり、組織全体の生産性が向上します。
厚生労働省の資料によると、ワークライフバランスの取り組みのひとつ「業務効率化」によって、労働生産性の向上に効果があったと報告されています。
以下の図は、業務プロセスの見直し・効率化に取り組んだ企業で、効果があった企業の割合から、効果がなかった企業の割合を差し引いたギャップを示したものです。
「労働生産性の向上」においては製造業で84.0%となっており、多くの企業で業務効率化による効果があったことがわかります。業務効率化によって労働時間も短縮されれば、適切な休息が取れてストレスが軽減し、業務の質も向上するのです。
生産性の意味や種類について詳しく知りたい方は、以下の記事を確認してみてください。生産性を高める方法や企業事例も解説しています。
企業イメージ・評価の向上
企業がワークライフバランスに取り組むことで、社会的責任を果たす会社としてのイメージが定着し、社内外からの評価が高まります。
従業員の健康やワークライフバランスへの取り組みが国に認められれば、健康経営を推進する優良法人の認定も受けられ、さらに企業イメージが向上するのです。
経済産業省の「健康経営優良法人認定制度」では、認定時の評価項目として「ワークライフバランスに必要な社内ルールの整備」を挙げています。
従業員の働きやすさを支援する取り組みを通じて、企業の評価が高まれば、ステークホルダーとの関係強化にもつながります。健康経営のメリットや具体的な取り組みについては、以下の記事で詳しく解説していますので、本記事とあわせて確認してみてください。
優秀な人材の確保
政府による働き方改革の推進によって、企業はワークライフバランスを重視するようになり、求職者や従業員においても仕事と生活の充実を求める傾向があります。
そのため、フレックスタイム制度やテレワークの導入によって、個々の状況に応じた柔軟な働き方が実現できれば、優秀な人材をひきつける要素となるのです。
従業員が会社に定着すれば、長期的な目線で人材育成の計画を立てられ、従業員も自分のキャリア形成をイメージしやすくなります。
従業員の離職率低下
ワークライフバランスをとれる環境が整うと、長時間労働やストレスによる疲労が軽減され、仕事への活力を見いだし「働き続けたい」という意思が生まれます。
厚生労働省の資料によると、ワークライフバランスの推進が離職率低下につながるとしたうえで、企業においては以下の実施率が高いと報告しています。
- 休暇や早退などを申請しやすい職場の雰囲気づくり
- 時間・半日単位など柔軟に休暇取得ができる制度の導入
- 長時間勤務の従業員やその上司に対する指導・助言
「時間外労働が少ない」「休暇が取りやすい」といった職場環境をつくり出せれば、プライベートの時間も確保でき、従業員満足度の向上も期待できます。
以下の記事では、コールセンターでの離職率改善の方法を詳しく解説しています。オペレーターの離職を食い止めたいと考えている方は、ぜひ参考にしてみてください。
従業員の心身の健康維持・増進
適切な休息や労働時間を確保することによって、仕事での疲労やストレスが軽減され、従業員の心身の健康状態を維持・増進できます。長時間労働や休日が少ない状況では、心身をリフレッシュできず、体調不良による休業や退職につながりかねません。
そのため、従業員同士でお互いに仕事をサポートし合う意識を持ち、休暇を取得しても支障が出ないような環境・仕組みを構築することが重要です。
社内での健康イベントなど、従業員への健康意識を根付かせる取り組みと併用することで、より健康増進につながります。
ワークライフバランスを進める際のポイント
ワークライフバランスを進める際は、以下の3つのポイントを押さえておきましょう。
- 経営陣からの発信でワークライフバランスの浸透を図る
- 従業員の意見・ニーズを制度に反映する
- 取り組みを定期的に見直す
経営的な視点で取り組むことも重要ですが、現場で働いている従業員の声を聞き入れることで、より満足度の高い施策が検討できます。
経営陣からの発信でワークライフバランスの浸透を図る
ワークライフバランス重視の組織文化への変革は、経営層の意識と行動が基盤となるため、トップからの強いメッセージが従業員に対しても影響を与えます。
経営陣がリーダーシップを発揮してワークライフバランスの重要性を語り続け、従業員からの理解を得たうえで実行に移すことが重要です。
具体的には、会社のビジョンに「従業員の健康とワークライフバランスを最優先する」という宣言を盛り込み、全社的な浸透を図るといった方法があります。経営陣自らが実践する姿勢を示すことで従業員の模範となり、組織全体の意識改革につながるのです。
従業員の意見・ニーズを制度に反映する
ワークライフバランス実現に向けた制度は、従業員の意見やニーズを反映することで、現場の状況に合った実用的なものとなります。
定期的なアンケートやフィードバックの機会を設けて、従業員が感じている制度への不満や不便さを把握し、経営上の制約を考慮しながら制度を見直しましょう。
新しい制度や施策を行う際は、少人数のグループで試験的に運用し、その結果を踏まえて全社展開することで、より実用的な制度を整備できます。
取り組みを定期的に見直す
世の中の流れや会社の環境、従業員のニーズは常に変化し続けるため、ワークライフバランスの取り組みも定期的に調整していく必要があります。
たとえば、ワークライフバランスに関する調査で従業員の新たなニーズを聞き出したり、労働時間と業績の関係性をデータ分析したりする方法があります。
施策を計画・実行するためにはPDCAサイクルを回す必要がありますが、より迅速な意思決定や行動をしたい場合は、OODA(ウーダ)ループを実践してみましょう。
以下の記事では、OODAループの概要や活用方法を詳しく解説しています。実践的なフレームワークの最新情報をまとめた資料も用意していますので、ぜひご活用ください。
ワークライフバランスを実践する企業事例
ワークライフバランスを実践している企業事例について、3社の取り組みを紹介します。
- 日本航空株式会社(JAL)
- 森永製菓株式会社
- 株式会社セールスフォース・ジャパン
各企業の取り組みをもとに、自社に最適なワークライフバランスの施策を検討してみてください。
日本航空株式会社(JAL)
会社名:日本航空株式会社(JAL)
事業内容:航空旅客・貨物郵便など
JALグループでは、多様な人財の力を最大限に引き出すために、社員一人ひとりが「やりがい」「働きがい」を感じる職場環境の構築に注力しています。時間や場所にとらわれない働き方を実現するため、以下の取り組みを実施しています。
- 休暇期間中にテレワークでの業務を認める「ワーケーション」の導入
- 出張先で休暇を取れる「ブリージャー」の導入
- 外出先のすき間時間を有効活用できるサテライトオフィスの設置
本社ビルには、イベントスペースやカフェを備えた「SKY TERRACE(スカイテラス)」を開設し、休憩や打ち合わせなどコミュニケーションスペースとして活用しています。
森永製菓株式会社
会社名:森永製菓株式会社
事業内容:菓子・食品・冷菓の製造など
森永製菓グループでは「一人ひとりの個を活かす」という考え方のもと、多様な人材が活躍して、働きがいのある組織・職場づくりを推進しています。従業員が健康を維持し、働きやすい労働環境を実現するため、以下の取り組みを実施しています。
- フレックスタイム、時差出勤、短日・短時間勤務の制度
- 転居を伴う異動を行わない働き方ができる制度
総労働時間の短縮に向けて労働組合との対策会議や、職場単位での業務の見直しなど、積極的にワークライフバランスの推進に取り組んでいます。
株式会社セールスフォース・ジャパン
会社名:株式会社セールスフォース・ジャパン
事業内容:CRMなどクラウドプラットフォームの提供
セールスフォース・ジャパンでは「Equality for All(すべての人に平等を)」の実現を目指し、誰もが自分らしく生き生きと働ける環境の構築に取り組んでいます。従業員一人ひとりのワークライフバランスを支援するため、以下のような制度を設けています。
- 収入を保証する独自の育児休暇制度
- 養子縁組や不妊治療に関するプログラム
- ウェルビーイング(心身の健康・幸福)費用の補助プログラム
従業員が快適に働ける環境として、日本独特の静かで風情のある文化をオフィスに反映するなど、世界各国でその土地の特色を取り入れています。
参考:Gender Equality at Salesforce(誰もが自分らしく働く) | セールスフォース・ジャパン
ワークライフバランスの実現には業務効率化も効果的な施策
ワークライフバランスの実現は、政府の働き方改革によって重要性が高まり、企業も積極的に制度見直しや環境改善に取り組む必要があります。
しかし、会社側からの一方的な取り組みでは、従業員の多様なライフスタイルに対応した制度や環境は整えられません。時代の変化とともにワークライフバランスの考え方も変わっていくため、従業員の声を聞きながら柔軟に見直しを実施していきましょう。
ワークライフバランスの実現には、テクノロジーを駆使した業務効率化も有効な手段です。以下の資料に具体的な取り組みをまとめていますので、ぜひご活用ください。
テクノロジーで変わる
日常業務と働き方11選
~ITとの融合で、企業はこう進化する~
ITと人の役割分担や、テクノロジーを駆使することで人はどれだけのメリットを享受できるのかなど、具体的な事例と共にご紹介します。