「働き方改革を進めるためには、どのような取り組みをすべきか」と悩みを抱え、具体的な改革の概要がよくわからない方もいるのではないでしょうか。
働き方改革は、2019年4月から順次施行されている国が推進する取り組みで、労働時間の見直しや柔軟な働き方の導入など、さまざまな施策があります。
本記事では、働き方改革の概要や具体的な取り組み、企業事例を解説していますので、施策検討時の参考にしてみてください。
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ITと人の役割分担や、テクノロジーを駆使することで人はどれだけのメリットを享受できるのかなど、具体的な事例と共にご紹介します。
働き方改革とは?
働き方改革とは、働く人それぞれの状況に合わせた働きやすい環境を整え、人材確保や生産性向上を目指す取り組みのことです。厚生労働省が公開している「働き方改革特設サイト」では、以下のように定義しています。
「働き方改革」は、働く方々が個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を自分で「選択」できるようにするための改革です。
働き方改革による「魅力ある職場づくり」で社内外からの評価が高まり、人材確保がしやすくなることで、生産性や業績の向上といった好循環が生まれます。
働き方改革の目的
企業における働き方改革の目的は、多様な働き方に対応する施策を実施し、長時間労働の是正やワークライフバランスの改善を図ることです。首相官邸のWebサイトには、政府が働き方改革の推進で目指している姿として、以下のような記載があります。
働き方改革は、一億総活躍社会実現に向けた最大のチャレンジ。多様な働き方を可能とするとともに、中間層の厚みを増しつつ、格差の固定化を回避し、成長と分配の好循環を実現するため、働く人の立場・視点で取り組んでいきます。
2017年の実行計画では、働く人の視点に立って労働制度の抜本的な改革を行うことが、日本経済再生に向けた重要な取り組みとしています。
日本における働き方改革の現状
日本の働き方改革は、政府主導による働きかけや新型コロナの影響で進展しているものの、取り組み内容によって差があります。
総務省の調査によると、2020年度にテレワークを導入した企業は67.2%となっており、2019年度の35.5%からほぼ倍増しています。その他の取り組み状況は以下のとおりです。
取り組み | 2019年度 | 2020年度 |
---|---|---|
フレキシブルタイム制の導入 | 37.4% | 39.9% |
強制的に退社させる仕組みの導入 | 25.3% | 21.8% |
業務フローの見直し・業務改善の実施 | 28.0% | 30.7% |
従業員の意識改革・マネジメント研修の実施 | 22.7% | 21.9% |
他国の状況と比べてみると、テレワークの導入においてはアメリカが36.7%、ドイツでは44.2%と、日本(67.2%)は大きく進展していることがわかります。
一方で、退社を促す仕組みやフリーアドレス制(社内で自由に席を選んで働くスタイル)の導入は、他国よりも遅れています。
働き方改革の背景
働き方改革の推進が求められる背景には、以下の3つの要因が考えられます。
- 少子高齢化による生産年齢人口の減少
- 長時間労働の常態化
- ライフスタイルや働き方の多様化
この状況を働き方改革によって打破し、働く人それぞれが将来への展望を持って、心豊かな生活を送ることを目指しています。
少子高齢化による生産年齢人口の減少
少子高齢化が進む日本では、生産年齢人口(生産活動の中心となる15〜64歳の人口)が減少しており、働き方改革による生産力向上が求められています。
厚生労働省の資料によると、生産年齢人口は2020年の7,509万人から、2040年には6,213万人まで減少し、2070年には4,535万人になると推測されています。
企業においては、中核となる人材の確保がますます困難になると予想できるため、高齢者や女性の積極的な労働への参加が必要とされているのです。その人材を受け入れる体制や働きやすい環境を整えるために、企業には働き方改革の推進が求められています。
長時間労働の常態化
労働基準法の改正で「時間外労働の上限規制」が設けられたものの、長時間労働をよしとする風潮が根強く残っており、その是正が求められています。
長時間労働の明確な定義はありませんが、労働基準法第36条では時間外労働の限度時間を定めており、原則として月45時間以内、年360時間以内としています。
2020年の厚生労働省の資料によると、適用労働者の8.4%は1週間の実労働時間が60時間を超えており、1週間40時間を基準とすると、20時間の時間外労働をしている計算です。
つまり、1ヵ月の時間外労働が80時間(20時間×4週間)に達しており、労働基準法の限度時間を大幅に超えていることがわかります。長時間労働によって健康被害のリスクも高まることから、働き方改革による是正が必要なのです。
以下の記事では、長時間労働が常態化していた「霞が関」の働き方改革について解説しています。本記事とあわせて確認してみてください。
ライフスタイルや働き方の多様化
「魅力ある職場」を目指すためには、多様化するライフスタイルに対応した働き方や労働環境を整えなければなりません。
とくにコロナ禍以降は、テレワークなどの会社から離れた場所で仕事をすることが社会的にも浸透し、家族やプライベートの時間を重視する傾向になってきました。
厚生労働省の報告書によると、ウェルビーイング(心身の健康・幸福)を向上させるには、ワークライフバランスの実現に向けた働き方改革が重要だとしています。
従業員一人ひとりが、自分の状況に応じた働き方を自由に選択し、心身の健康状態を維持できるような労働環境が必要とされているのです。
ワークライフバランスについて詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。言葉の定義や企業が実践している取り組みをわかりやすく解説しています。
働き方改革関連法による11個の取り組み
働き方改革関連法(働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律)には、11個の取り組みが盛り込まれています。
以下より各法改正のポイントを解説していきますので、法律の理解を深めて柔軟に働ける環境を整えていきましょう。
1.時間外労働の上限規制を導入
長時間労働を是正する取り組みとして、2019年4月に労働基準法による時間外労働の上限が設けられました。
具体的には、原則として月45時間、年360時間を超える時間外労働が禁止されています。特別な事情があり労使合意のうえであれば上限を超えられますが、以下の条件は厳守しなければなりません。
- 年720時間が上限
- 時間外労働・休日労働の合計が月100時間未満
- 2〜6ヵ月の各平均すべて月80時間以内
- 月45時間を超えられるのは年6回まで
また、建設業・ドライバー・医師は対象外でしたが、2024年4月より適用されています。
【参考】
2.勤務間インターバル制度の導入を促進
勤務間インターバル制度は、働く人の生活時間や睡眠時間を確保するために設けられた制度です。1日の勤務終了から翌日の勤務開始までの間に、一定の休息時間(インターバル)を設けることを義務づけています。
法改正によって勤務間インターバル制度の導入が努力義務となっており、厚生労働省では最低11時間のインターバルの設定を推奨しています。
3.年5日間の有給休暇の取得を義務づけ
働く人の心身のリフレッシュを目的として、2019年4月より年5日間の年次有給休暇の取得を義務づけています。
10日以上の年次有給休暇が付与される人を対象としており、休暇付与日(基準日)から1年以内に5日取得しなければなりません。なお、労働者ごとに年次休暇管理簿を作成し、3年間の保存が必要です。
企業は労働者が気兼ねなく休暇が取れるように、休日を橋渡しするブリッジ休暇や、誕生日などのアニバーサリー休暇といった、休暇取得促進の働きかけが求められます。
4.月60時間超の時間外労働の割増賃金率を引き上げ
労働者の働きすぎ防止を目的として、月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が50%に引き上げられました。これまで中小企業の割増賃金率は25%でしたが、2023年4月からは大企業と同様に50%に変更されています。
労働者の健康維持を優先したい場合は、割増賃金を支給する代わりに、有給休暇(代替休暇)を付与することも可能です。
参考:月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます|厚生労働省
5.労働時間の客観的な把握を義務づけ
企業に対して正確かつ透明性のある労働時間管理を求めるため、タイムカードやデジタルツールを使用した労働時間の客観的な把握を義務づけました。
これまでは、ガイドラインや通達による規定でしたが、2019年4月より裁量労働制(※)の適用者や管理監督者を含めて、法律上の規定に格上げされています。労働時間を正確に把握し、長時間労働者に対する医師の面接指導など、適切な健康管理を目的とします。
(※)あらかじめ企業と労働者の間で規定した時間を労働とみなし、その分の賃金を支払う制度
【参考】
6.フレックスタイム制の清算期間を3ヵ月に延長
フレックスタイム制の清算期間が、従来の1ヵ月から3ヵ月に延長され、労働者はより長い期間で労働時間の調整が可能となりました。ただし、以下の条件を満たさない場合は、時間外労働として扱われます。
- 清算期間全体の労働時間が、週平均40時間を超えないこと
- 1ヵ月ごとの労働時間が、週平均50時間を超えないこと
清算期間を3ヵ月とする場合、企業は所定労働時間を超えた分の賃金を1ヵ月単位では支給せず、3ヵ月単位で清算する必要があります。
参考:フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き|厚生労働省
7.高度プロフェッショナル制度の導入
⾼度プロフェッショナル制度は、高度かつ専門的な知識を持ち、⼀定の年収要件を満たす労働者に対して、労働基準法に定められた規定が適用されない制度です。対象となる労働者は以下のとおりです。
- 職務が明確に定められていること
- 年収が1,075万円以上であること
- 対象業務に常に従事していること
ただし、労使委員会の決議や労働者本⼈の同意を前提とした制度であり、年間104⽇以上の休⽇を確保するなどの措置が必要です。
参考:高度プロフェッショナル制度わかりやすい解説|厚生労働省
8.産業医・産業保健機能を強化
働き方改革関連法により、2019年4月から「産業医・産業保健機能」が強化されています。主な取り組みは以下のとおりです。
- 産業医への情報提供(長時間労働者の状況など)の充実・強化
- 産業医からの勧告内容を報告するなど、衛生委員会との関係強化
- 産業医による健康相談などの体制整備
長時間労働やメンタルヘルス不調による「健康リスクが高い労働者」を見逃さないために、産業医の専門的な意見を取り入れようとする施策です。
参考:「産業医・産業保健機能」と「長時間労働者に対する面接指導等」が強化されます|厚生労働省
9.不合理な待遇差の禁止
パートタイム・有期雇用労働法の改正によって、正社員と非正規社員の間で基本給や賞与などの待遇について、不合理な待遇差を設けることが禁止されました。具体的な改正内容は以下のとおりです。
- 均衡待遇規定(バランスのとれた待遇の規定)の明確化
- 均等待遇規定(同じ条件で同じ待遇にする規定)に有期雇用労働者を追加対象
厚生労働省では「同一労働同一賃金ガイドライン」を公開しており、職務内容が同じであれば同等の待遇が必要なことを示しています。
参考:不合理な待遇差の禁止(同一労働同一賃金)について|厚生労働省
10.労働者に対する待遇の説明義務を強化
これまで有期雇用労働者には、待遇内容や待遇決定の考慮事項などの説明義務はありませんでしたが、働き方改革関連法により義務化されました。
不合理な待遇差を防止するため、パートタイム労働者・有期雇用労働者・派遣労働者への「待遇差の内容・理由」の説明義務も追加されています。また、労働者から説明を求められた際の不利益な取り扱いも禁止となりました。
正規雇用者と同様にすべて労働者の権利を保護し、公正かつ透明性のある待遇にすることを目的としています。
11.行政による助言・指導などの規定を整備
企業に対する行政の助言・指導は、パートタイム労働者と派遣労働者を対象とした規定でしたが、新たに有期雇用労働者も規定対象となりました。
また、事業主と労働者の間に起きた紛争を円滑に解決するため、行政ADR(裁判外紛争解決手続)の規定も整備されています。関連法の改正によって、待遇差の内容や理由に関する説明についても、行政ADRの対象になりました。
働き方改革を推進するメリット
働き方改革の推進によって、主に以下のようなメリットが得られます。
- 長時間労働の是正で生産性が向上する
- 働きやすい環境が整い人材を確保しやすくなる
働きやすさを重視した取り組みによって「魅力のある職場」となり、社内外からの評価が高まることで、ステークホルダーとの関係も強化されます。
テクノロジーで変わる
日常業務と働き方11選
~ITとの融合で、企業はこう進化する~
ITと人の役割分担や、テクノロジーを駆使することで人はどれだけのメリットを享受できるのかなど、具体的な事例と共にご紹介します。
長時間労働の是正で生産性が向上する
フレックスタイム制の導入や時間外労働の規制強化によって、長時間労働が是正されることで、疲労やストレスが緩和され生産性の向上につながります。
内閣府の資料によると、国際的にみても労働時間が短い国ほど、一人当たりの生産性が高い傾向があり、労働時間が10%減ると生産性が25%向上する計算となります。
デジタル技術などの活用によって定型業務を効率化できれば、労働時間を削減しつつ従業員の健康維持にもつながり、より重要度の高い業務に集中できるのです。
生産性の意味や種類について詳しく知りたい方は、以下の記事を確認してみてください。生産性を高める方法や企業事例も解説しています。
働きやすい環境が整い人材を確保しやすくなる
個々の状況に合わせて柔軟に働ける環境が整備されれば、社内外から魅力的な会社と認知され、従業員の定着と新たな人材の確保につながります。
フレックスタイム制度やテレワークの導入によって、ライフスタイルに合わせて働き方を自由に選択でき、家庭との両立を希望する人にとっての「理想の職場」となります。
また、会社の「働きやすさ」を社外にアピールすることで、社会的な評価も高まり、自社が必要とする人材を集めやすくなるのです。
働き方改革への取り組みの具体例
働き方改革に向けた取り組みについて、3つの具体例を紹介します。
- AIやIoTを活用した業務効率化
- ハイブリッドワークの導入
- 短時間勤務制度の導入
関連法にもとづく施策を行うのはもちろんですが、会社の状況や従業員のニーズも考慮することで、より働きやすい職場環境が整います。
AIやIoTを活用した業務効率化
AIやIoTを活用することで、請求書作成などの定型業務やデータ分析を自動化でき、ルーティン業務に割いていた時間をより付加価値の高い業務に充てられます。
総務省の資料によると、国内の働き方改革関連のDXとして、持ち運び専用パソコンの支給や、Zoomなどの会議システムの導入に取り組んでいることがわかります。
参考:令和3年版 情報通信白書(働き方改革とデジタル化)|総務省
デジタル技術の活用は業務効率化だけではなく、既存の業務フローを見直したり、新しいビジネスモデルを創出したりするDX推進にも有効な手段です。
AIによる予測と生成AIが活用できるSalesforceの「Einstein」も、作業時間を節約しつつ業務効率を高められる便利なツールです。働き方改革の一環として活用してみたい方は、お気軽にお問い合わせください。
また、DXのはじめかたや事例については別の記事にまとめています。すぐにでも実践したいと考えている方は、ぜひご活用ください。
ハイブリッドワークの導入
ハイブリッドワークは、オフィス勤務と複数の働く場所を組み合わせた働き方で、従業員個々の状況に応じて働く場所を自由に選択できます。会社以外の働く場所としては、以下のような環境があります。
- 自宅
- コワーキングスペース
- レンタルオフィス
- サテライトオフィス
- 社内の会議室
働く場所に制限がないため、通勤する時間を仕事の時間に充てたり、環境を変えて気分転換したりして、仕事へのモチベーションも高められます。
なお、円滑なコミュニケーションと業務遂行を行うためには、オンライン会議ツールやプロジェクト管理ソフトなどの準備が必要です。
短時間勤務制度の導入
短時間勤務制度は、3歳未満の子どもを養育する従業員に対して、1日の所定労働時間を原則6時間(5時間45分から6時間まで)とする制度です。
この制度は、育児・介護休業法によって定められているものですが、対象となる子どもの年齢を小学生まで広げて独自に取り組んでいる企業もあります。
短時間勤務制度は、家庭での時間を確保するため労働時間を短縮しながらも、退職せず会社でのキャリアを継続できる点がメリットです。
働き方改革を推進する企業の成功事例
働き方改革を推進する企業事例について、2社の取り組みを紹介します。
- データ分析の効率化によって資料作成の時間を削減
- ワークフローの自動化で社員のモチベーションを維持
どのような取り組みによって成果が出たのかを確認し、自社での働き方改革のヒントを見つけてみてください。
データ分析の効率化によって資料作成の時間を削減|旭川赤十字病院
旭川赤十字病院では、病院全体の業務負担を軽減するため、早くからRPA(ロボティックプロセスオートメーション)を導入し、電子カルテの音声入力などを進めています。
しかし、医療の現場でさまざまなデータを抽出できるようになったものの、Excelでのデータ活用や分析には限界があったため、SalesforceのTableauを導入しました。
以前は、診療科ごとに診療実績の資料を繰り返し作成していましたが、Tableau導入後は、異なるデータベースの情報を効率よく閲覧・分析できるようになりました。データ分析の効率化によって、年間30時間の作業がほぼゼロになり、ほかの業務に時間を割り当てています。
会議のムダを減らすには、情報伝達のプロセスを見直すのも効果的です。以下の資料では具体的な方法や事例を紹介していますので、ぜひご活用ください。
▶ムダな会議は9割減らせる!~伝達コストの削減が働き方改革の成功ポイント~のeBookを無料でダウンロードする
ワークフローの自動化で社員のモチベーションを維持|Clannote
株式会社Clannoteでは、注文内容・製造工程・納品の管理をExcelで行っており、取引量が増えてくると、手作業でのステータス管理に限界を感じていました。
そこで、Salesforceを導入して顧客管理と商談管理から使いはじめ、Experience Cloudでメーカーや外注先をシームレスに管理できる仕組みを稼働させています。
トラブル対応など精神的な疲労が発生するリスクがあれば、ワークフローの見直しや自動化を行って、社員のモチベーション維持につなげています。
働き方改革を進めて、組織全体の生産性を高めよう
働き方改革は、ただ単に労働時間を減らすための取り組みではなく、ワークライフバランスの実現によって生産性向上や満足度向上につながる重要な施策です。
働き方改革関連法の施行で、時間外労働の上限規制や、年5日間の有給休暇取得の義務化など、多くの法律改正が進められています。
まずは、自社の現状と課題にもとづいて、どのような取り組みが必要なのかを検討しましょう。働く人のニーズに寄り添った改革を行うことで、持続可能な成長と従業員の幸福度向上につながります。
テクノロジーで変わる
日常業務と働き方11選
~ITとの融合で、企業はこう進化する~
ITと人の役割分担や、テクノロジーを駆使することで人はどれだけのメリットを享受できるのかなど、具体的な事例と共にご紹介します。