MA(マーケティングオートメーション)は、企業とその先のお客様を結びつけるためのエンゲージメントツールです。顧客の購買行動の変化を受け、導入企業数は近年右肩上がりに伸びています。toBeマーケティング株式会社 代表取締役 CEOを務める私が、数多くのMA導入に関わってきた経験をもと監修した eBook「いまから始める マーケティングオートメーション定番シナリオ20選」も大きな反響がありました。そこで今回は、はじめてMAを実施する上でハードルが高いと言われる「シナリオ立案」について解説していきます。
SalesforceユーザのためのMAといえば、そう!Marketing Cloud Account Engagement(旧Pardot)ですね。Marketing Cloud Account Engagement(旧Pardot)は2018年11月時点でのDatanyze社の調査結果で日本での導入件数1位を誇るMAです。*1
MAの導入を進める多くの企業は、顧客に最適なタイミングでより良い情報を届け、自社のサービスや価値の関心を高めていただき、サービス・製品を購入いただくことを目的としています。
顧客へのアプローチの手段として、常に有益な情報を掲載している場がWebサイトであり、それをより能動的に届けるチャネルの一つがメール配信であり、顧客の反応や関心事によっても、その次に行う対応を変えるなどを検討し、実装する必要があります。こうした一連の活動を、より効率的に効果的に実現するためにMAのシナリオ作成が重要になってきます。
シナリオの肝になるのは、誰に、いつ、何を届け、どのような反応、アクションを期待するかです。マーケターにとっては基本中の基本ですし、皆様の日頃のコミュニケーションと同様にはなりますが、特に重要なのが “誰に” “何を届けるのか” です。そのためには各顧客の情報や直近の動向についても把握していなければ適切なアプローチはできません。MAの仕組み単体で得られる情報には限りがあるので、CRM/SFAの顧客情報を連携してより充実した情報をベースにマーケティング活動を行う必要があります。その後のアクションや成果の把握においても、CRMとの連携は欠かせません。
ここからは、「いまから始める マーケティングオートメーション定番シナリオ20選」の中から、顧客との関係性のステージと利用シーンからピックアップし紹介していきます。
参考:マーケティングオートメーション(MA)とは?機能・事例を紹介
1.見込み客の見極め
展示会などでの名刺交換やブース来場者の方々とは、まだ深い関係性もなく、自社サービスへの関心度合いや検討状況などもあまり見えていません。また、仮にその顧客が自社サービスに関心を持っていただき、Webサイトに来訪されたとしても、MAの内部にはCookieと個人の紐づけが出来ていないため“誰”なのかの個人が特定出来ない状態です。
それを踏まえ、早い段階でメールを配信し、メール内のリンククリックによってCookieと個人の紐づきを行うべきです。それにより顧客のWebサイトでの閲覧ページや来訪を把握出来るようになることで、より顧客の関心事やタイミングを理解し、最適な情報提供やアプローチが可能になります。
当然ながら、顧客にとってもまだ関係性が薄く、関心や検討タイミングも高まっていない状態でのアプローチになりますので、メールのクリックやWeb来訪などもあまりされないかもしれません。興味関心を明らかにするためにも、継続的に様々なジャンルの情報提供を実施することや、わかり得る顧客の属性(企業規模・業種・ABMターゲットなど)によって、インサイドセールスの個別フォローに切り替えることも必要になってくるでしょう。
このシナリオを作成する際の重要なポイントは、必ず「展示会の事前に作成する」ということです。
展示会の準備タスクにおいて、優先度の高い必須項目として「MAシナリオ作成・設定」を必ず入れてください。シナリオの作成が重要というよりも、そもそも展示会に出展する目的は、展示会出展そのものでも、来場者に自社の看板を掲げて目に焼き付けていただくことでもなく・・・。展示会終了後のフォローアップで見込み客との関係を築き商談に繋げることですから、フォローアップの施策が一番重要な業務であるはずです。そのフォローアップ業務を、MAのシナリオがあることで、効果的に実施することができるわけです。
また展示会現地で獲得した見込み客へ、見込み度合いを元にランクづけを行うことも、効果的なフォローアップを行う上では重要です。これにより優先的にフォローアップすべき対象が明確になり、その対象の見込み客に適切なアプローチを行うことができます。例えば以下図の様にランク分けを行いますが、どの条件をもって“A”と判断するかの認識合わせも必要です。
展示会開催前のシナリオ準備と、ランクづけによって、展示会のフォローと成果は劇的に変わります。
フォローを自動化する、ということよりも、見込み客のメールクリックやWeb来訪などで興味度合いを表すスコアを把握し、関心事やタイミングを掴むことができ、それがより良い情報提供やコミュニケーションにつながっていきます。また、反応が無い顧客の把握によっても、優先度を付けることや電話や郵送などのアクションを加えることも出来ます。逆に、MAの無い展示会フォローは、単なるサンキューメールの一斉配信や営業任せのフォローとなり、そもそもの出展目的を果たすことが難しくなります。
2.見込み客の育成
Webサイトの充実や広告施策によって、Webからのコンバージョン率が向上し、見込み客の獲得件数がある程度増えてきたとします。
ただ、一件獲得あたりの単価が高く、商談率もなかなか上がらない中では、継続してWebサイト拡充の予算や広告の費用を確保し続けることは厳しくなるでしょう。
そこで継続的に成果をあげるため、商談率を向上させるシナリオを作成していきます。
例えば、SaaS製品などの無料トライアルからの商談化を促進するシナリオです。
この場合、無料トライアルのお申込後のシナリオとして、2つのシナリオを作成します。
1つは、以下図3右側の無料トライアルの期間(30日間など)に合わせて、「トライアル開始の案内」「活用事例」「本申込のメリット」など、トライアル申込者に訴求したいコンテンツを一定の期間でメール配信するステップメールのようなシナリオです。ただ、MAではもちろんそのステップごとに誰がクリックしたかをレポートで確認できますし、シナリオの途中で見込み客属性によって分岐をし、見込み客の属性ごとにの次のアクションを変えることも可能です。
そしてもう1つが、以下図3左側の無料トライアルした方がその後にWebサイトへ来訪したことを起点に開始するシナリオです。
無料トライアルの申込フォーム通過で、既にCookieとの紐づけがされていますので、仮にもう1つのシナリオのメールをクリックをしない方でもWebサイトの来訪を把握することができます。
顧客事例に関心があるのか、どんな事例をご覧になっているのか、製品ラインナップや価格などの具体的な詳細情報のページを見ているのか、会社概要や経営のメッセージなど会社の資質が気になっているのか、など見込み客の関心事がわかるようになります。
さらに、Webサイトに来訪されたタイミングで、閲覧されているコンテンツに応じてメールを配信するシナリオを組むことも可能ですし、インサイドセールスがいる場合は、見込み客の関心事に応じて、より見込み客に寄り添ったフォローをすることができるでしょう。
また、このシナリオの図の中には無いですが、重要なターゲットではあるが、メールをあまり見ていただけない方向けには、無料トライアル期間内に郵送DM等でセミナー案内などを送付することも有効です。
こうして、Webからのコンバージョンに対してメールを送るだけではなく、見込み客の反応や属性に応じて、電話や郵送DMなどのオフラインのコミュニケーションをシナリオに加えていくことで、見込み客との深い関係性構築や情報提供が可能になります。
(これらのシナリオは、電話や郵送DM送付自体を自動化するのではなく、その対象リストの作成やタスクのToDo発行を行います)
3.営業活動
この営業活動のシナリオは、商談進行中の顧客へのフォローアップを対象にしたものです。
MAは、見込み客を営業にパスするだけのものでは決してありません。
自社Webサイトへの来訪者は、営業との接点や取引関係の無い純粋な見込み客だけではなく、むしろ営業との接点があってから、その企業のWebサイトに訪れ情報収集する方も多いでしょう。
そのため、営業が商談中の顧客が自社Webサイトに来訪されたタイミングで、営業と連携したシナリオを作成することは非常に有効です。この営業活動のシナリオは、Marketing Cloud Account Engagement(MA)とSales Cloud(SFA)の2つを合わせて活用することによって可能になります。
このシナリオでは、商談フェーズや活動日数などで基準を設定した商談の担当者に対して、情報提供の促進と検討状況をはかるためのメール配信を起点にしています。
また、誘導したいWebサイトのページやコンテンツは、顧客の検討状況をより把握できるような、「導入までの流れ」や「ハンズオン動画」や「料金プラン」などがあると有効でしょう。
また、このシナリオ作成と同じタイミングで、商談状況と顧客のWeb来訪を組み合わせたレポートを作成することも必須です。
例えば、“商談フェーズがBで、かつWebサイトに7日以内に来訪している人”など、商談のフェーズと顧客のWeb来訪を組み合わせたレポートによって、顧客の検討タイミングと関心事の把握に応じた営業アプローチが可能になります。
MAは、企業とその先のお客様を結びつけるためのエンゲージメントツールです。
見込み客にとって役に立つ情報を提供し、関心事やタイミングを把握し、そして最適だと思われるアクションでコミュニケーションをしていくものがシナリオです。
Marketing Cloud Account Engagement(旧Pardot)でこれらのシナリオを作成するときは「Engagement Studio」を使います。Engagement Studioを使えば、皆さんのニーズに合わせて柔軟にシナリオを作成することができます。
これからMarketing Cloud Account Engagement(旧Pardot)を使い始める方も、すでにEngagement Studioを使ってシナリオを組んでいる方も、営業・マーケティング活動を一歩先に進めるために、以下よりeBook「いまから始める マーケティングオートメーション定番シナリオ20選」をダウンロードし、皆様の業務にお役立てください。
今回は、<1.見込み客の見極め><2.見込み客の育成><3.営業活動>を紹介しました。次回は、<4.既存顧客からのリピート><5.休眠顧客/失注顧客の掘り起こし><6.ABM>の3つのシナリオを紹介いたします。Vol.2はこちら。
*1 マーケティングオートメーション導入状況 米国では「HubSpot」、日本では「Salesforce Pardot」が強い (ITmedia 2018年12月25日)
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