国内外を問わず、マーケティングとAIを掛け合わせるケースは増えています。AI導入によって目覚ましい結果を得ている事例も今や珍しくはありません。
しかし、AIも決して万能ではありません。AIが得意とする領域をきちんと把握していなければ、導入しても期待通りの結果を得ることは困難です。では、どの領域にAIを取り入れて活用すれば成果が現れやすいのでしょうか?AIとマーケティングの関係性や、AIの効果的な活用法について解説します。
AIの普及とマーケティングとの関係
そもそもAIとは何なのか、そしてマーケティングの現場にどのように貢献するのかを考えてみましょう。
AIとは何か
AIは「人工的に人間の知能を再現したもの」を指し、現時点では特定の領域において高度に人間の手助けをするシステムを指すケースが大半です。
スマートフォンや自動運転技術、マーケティングに活用されるシステムなど、AIはすでに生活のあらゆるシーンに活かされており、私たちは気づかないうちにその技術の恩恵を受けています。そして、その流れは様々な業界、業種のビジネスにも広がり、浸透しつつあります。
AIがマーケティングで活躍する
費用対効果の高いマーケティング施策を安定的に講じるためには、顧客のニーズを大量のデータから洗い出す必要があります。インターネットの普及にともなって参照すべきデータが爆発的に増えましたが、データを分析するマーケティング担当者のリソースには限りがあります。
この問題に対するソリューションとなるのが、高速でデータ処理を行えるAIです。人間の力では到底処理できないスピードと精度で顧客のデータを分析し、効果的なマーケティングへと結びつけます。
AIをマーケティングに活用する方法とは
AIは大量のデータを分析し、それぞれのデータから規則性や関連性を見出すことに長けています。それはまさにマーケティング施策において欠かせない力です。では、どのようにしてAIをマーケティングへ活用できるのか、具体的な活用方法の一例を見ていきましょう。
分析業務の効率化
人的リソースを用いた分析業務は、処理速度に限度があるうえにヒューマンエラーが避けられず、場合によっては分析結果に強い主観が加わることもあります。しかしAIが行う分析業務は人間より処理速度が早く、その結果はデータにもとづいた客観的なものです。分析の精度も飛躍的に向上しつつあります。
ビッグデータを活用した新提案
AIによる客観的な分析が得られれば、これまで人間が見落としていた領域や発想からヒントを獲得し、これまで考えつくことができなかった提案ができるようになります。そこに新たなビジネスのヒントを見出すこともできるでしょうし、新しいソリューションのイノベーションやビジネスパートナーとの新規ビジネスの可能性などに発展することもあるかもしれません。
国内におけるビッグデータ分析の事例としては、株式会社あきんどスシローの施策が好例として挙げられます。
同社はすし皿にICタグを取り付け、いつどのような商品がレーンに流されて食べられたのか、あるいは廃棄されたのかというデータを1年間に10億件以上収集し、ネタや量のコントロールに活用していました。しかし、詳細な分析手段はExcelに限定されていたため、利用できるのは直近のデータのみで過去に収集したデータは利用できず、膨大なデータの一部しか活用できていませんでした。
有効活用できていなかった情報を利用するため、同社はビッグデータを分析するためのシステムを導入。その結果、顧客の「食べ方」の傾向が明らかとなり、商品開発の効率改善や売上予測などが可能になりました。本事例のように大きな成果をもたらす「ビッグデータ分析」とAIを掛け合わせることで、新提案の発見が期待できます。
ディープラーニングによる高精度化
マーケティング担当者の実力はあくまでこれまでのキャリア・経験にもとづいたものであり、すべての担当者が最高レベルのスキルを持つわけではありません。その結果、マーケティング施策の精度にムラが生じます。
一方、AIはディープラーニングにより短時間のうちに高次元な分析を繰り返し、マーケティング施策の判断材料となる要素を高い精度でアウトプットします。そのため、施策のレベルを底上げする効果が期待できるのです。
画像認識技術による人流分析
たとえば、ザイオネックス株式会社が提供する「T3SmartSCM」は、需要予測(BF)モジュールの実装により、過去の販売実績や気象情報、製品の価格やライフサイクルといったデータから製品の需要予測が可能です。需要予測(BF)モジュールにはディープラーニングが活用されており、過去実績として食品メーカーの製品の売上数量を平均80%以上の精度で予想しています。
実店舗を構えるビジネスであれば、店に訪れた人の流れを把握、分析する人流分析がマーケティングにおいて重要な意味合いを持ちます。
これまで実店舗に訪れる顧客のデータ収集は容易でなかったものの、AIの画像認識技術を利用することで人の流れの方向や流量が分かるようになりました。さらに、顔から年齢・性別を割り出せるようになったり、不審行動を察知したりといった高度な分析も可能です。
これらの情報は、新製品の設計や商品配置の考案を始めとするマーチャンダイジングに役立てられます。
AIの活用シーンを職種別に紹介
ここでは、AIが企業にどのような効果をもたらすのかを説明します。AIと名の付くツールは製品・サービスによって対応範囲が異なるため、これらの活用シーンはあらゆるケースのうちのごく一部です。
マーケティング
顧客理解はマーケティングの成否を決める重要な要素であると同時に、手作業では定量的な判断が難しい部分です。この問題を解決するためにインターネット上から顧客のインサイトを探るデータを収集し、顧客理解を深めるような場合に、AIは効果を発揮します。
営業
成約の見込みが高い商談を洗い出し、営業活動の成果を最大化するサポート役としても機能します。営業活動にまつわる雑務をAIに任せることで、ユーザーは営業活動そのものに多くの時間を投入でき、より付加価値の高い業務に専念できます。
経理
単純作業でありつつも正確性が求められる経理業務はAIの得意分野です。
従来からあった、画像認識による帳簿の自動補完に加えて、会計処理の精度を高めるソリューションが開発されています。たとえば、機械学習を行ったAIにより仕訳の間違いを発見し、一般的な勘定科目の内から合致すると思われる修正候補を提案し、確認作業の効率化を図るサービスが登場しているのです。
AIを活用し経理業務を効率化することで、経理担当者はこれまで煩雑な作業にかけていた時間を別の業務に充てることができます。
生産管理
過去のデータ・パターンをもとに生産管理業務を自動化する技術が登場しており、作業内容や進捗状況といった要素から生産計画を最適化するシステムが活用されています。経験や勘に頼った生産計画に比べて無理や無駄のないスケジュール管理が行えるため、作業効率の向上にともなう残業時間の軽減を実現します。
AIが活躍しにくい分野とは
AIは大量のデータを解析したり単純作業を正確に行ったりなど、ある一面では人間以上の働きを見せています。しかし、クリエイティブ思考が求められる仕事や、人間の心境を汲み取りコミュニケーションを図る能力はありません。
AIの技術向上は「人間の仕事をAIが奪う」というよりは、「AIと人間との間で分業が進む」という方向性をもたらすのではないでしょうか。そのため、AIに任せられる仕事をAIに一任し、人間にしかできない仕事は人間が担うというように、それぞれの得手不得手をもとに分業する意識が重要となります。
AIを活用して「自分がやらなくても良い仕事」は自動化し、自動化できない仕事を人間が担当して事業を伸ばすスタイルが広がっていくかもしれません。
まとめ
AIは万能ではありませんが、特性を理解して事業に組み入れることで、生産性の向上が見込めます。マーケティングの分野で高精度な需要予測を行ったり、正確さを求められる経理の分野で担当者の確認漏れをカバーしたりといった、今回紹介した事例はその代表的なケースです。
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