第2回:成果に結びつくビジネスKPIの考え方と正しい設定方法
多くの企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)を志向するなかで、カスタマーサクセス(クライアントの成功)の実現にはどのような取り組みが必要なのでしょうか。「見込み顧客を見つけ出し」、優良顧客へと導く「最短ルートを具体的に示し」、カスタマーサクセスを最大化する、その取り組みにはマーケティングソリューションの活用が必須です。
そこで、マーケティングソリューションの導入前に踏まえておきたいポイントについて、「組織的課題」「ビジネスKPIの考え方と設定方法」「有効なデータ収集と処理」をテーマに全3回シリーズでお届けします。
第2回は、カスタマーサクセス統括本部 デジタルマーケティング部 MCアドバイザリーの綱木 大典が、CRMにおけるビジネスKPIの考え方と正しい設定方法について解説します。
KPI設定に必要なゴールと戦略とは
新しいプロジェクトを始めるとき、KPIを設定しその達成度を測ることは大切です。しかし、KPIを達成したからといって、必ずしもビジネスとしての目標を達成できるとは限りません。
例えば、ある部門で「年間1,000件の新規契約獲得」というKPIを掲げたとします。しかし、そこで欠けているのは「1,000件をクリアすることが会社にとってどのようなメリットにつながるか」という視点です。大切なことは、設定したKPIを達成することで「何を実現しようとしているのか」。つまり、ゴールが見えているかどうかということです。ゴールを共有しないままにKPIを設定し、それを達成することだけに注力するのはよくある失敗事例ですが、それではKPIを正しく理解しているとも、正しく設定できているとも言えません。
重要なのは、最初に自社のビジネス全体を俯瞰して「ゴール」を定め、それを実現する「戦略」を立案することです。KPIとは、この戦略の達成度を測るための「中間的な管理指標」です。ゴールにたどり着くためのもっとも効果的なアクション(戦略)は何で、それがどれだけ達成されているのかを把握する指標なのです。KPIを正しく理解することは、デジタルマーケティングを成功させるための重要なポイントとなります。
ゴールにもっとも近づけるのはどの山か
では具体的に、どのような流れでKPIを設定すればいいのでしょうか。交通機関で利用できる電子マネーサービスを例に、CRMの観点から考えてみましょう。
現在、いろいろな会社から多くのクレジットカードや電子マネーなどのキャッシュレスサービスが提供されています。各社の激しい競争の中で、利用者に自社のサービスを選んでもらいリピーターから優良顧客になってもらうには、LTV(顧客生涯価値)を向上させ、何度も繰り返し使ってもらえるような仕掛けが必要です。
そこで、例えば、利用頻度を増やそうと考え「利用回数100万件」をKPIとして設定し、その実現のために「1ヶ月間ポイントアップ」といったキャンペーンを行ったとします。確かに期間中は利用が増えることが想定できますが、終わった途端に元に戻ることも容易に想像できます。このような一過性でどの顧客にも画一的なメリットしかもたらさないキャンペーンでは、利用者一人ひとりに「今後もこのサービスを使い続けたい」と思ってもらうには効果が小さく、LTV向上に結びつかない施策といえます。
なぜこのような施策となってしまうのでしょうか。それは、最初に「LTVを最大化する山(ゴール)はどれか」を明確にしていないからです。どの山に登れば、つまり「どんな施策を打てば」LTV最大化という目標に最も近づけるのか。それを決めないままにいくつもの山々を登ろうとするのは、「あれもこれもと闇雲に施策を打ってみる」のと同じこととなり、生産性が低下し限られた人材が疲弊してしまいます。
参考:LTV(ライフタイムバリュー)とは?重要な理由や向上させる方法
こうした事態にならないために、正しくKPIを設定するにはまずゴールを決めることが重要です。クレジットカードや電子マネーサービスの場合、ゴールの1つが「メイン決済化」です。利用者はさまざまな決済手段で貯まったポイントを集約するため、複数のサービスに登録していても、そのうちの1つをメイン決済にする傾向がみられます。そこでまず、「ビジネスのゴール」を「メイン決済化」と定めます。
山の頂上にもっとも効率的にたどり着ける「勝ち筋」
ゴールの次に考えるのは戦略です。つまりゴールにもっとも効率的にたどり着ける道筋=「勝ち筋」を明確にするのが戦略です。たとえばクレジットカードや電子マネーサービスの場合、メイン決済化してもらうには「オートチャージ」「公共料金の支払い」「複数業種での利用」など、様々な「勝ち筋」が考えられます。これらを成功するためのKFS(Key Factor of Success)と呼んでいます。
サービスを頻繁に使えばチャージが手間に感じるようになりますが、自動的にクレジットカードや銀行口座からチャージしてくれる「オートチャージ」を設定すれば、利用回数が増えてもチャージが苦になりません。また、毎月発生する「公共料金」の支払いが設定されれば、継続的な利用が期待できます。さらに電車の運賃だけでなく、バスなどの他の交通機関、店舗での利用など他業種へと利用が広がることもLTVの向上につながるでしょう。
このように具体的に「オートチャージ」「公共料金の支払い」「複数業種での利用」を増やすという戦略を考えたところで、それぞれに目標数値としてKPIを設定することができるようになります。例えば、利用者にオートチャージを勧めるキャンペーンを展開するのであれば、そのキャンペーンの成否を判断する指標となる参加率やコンバージョン率をエンゲージ指標として設定できます。
顧客のペルソナを意識して、最適な戦略から実行
ここまでを明確にしたうえで、どのKFSから手を着けるかを決めていきます。予算、人材、時間などが限られている中で、すべての戦略を同時に実行しようとするとリソースの無駄遣いになりかねません。そこで、どのKFSをどのような順番で実施するのが効果的かを見定める必要があります。
これを判断するにはペルソナ、つまり「お客様の顔」をイメージできることが重要です。「お客様はこういうステップで優良顧客になっていく」という過程を想定します。
メイン決済化の例で考えると、まず着手すべきKFSはオートチャージの利用者を増やすことでしょう。利用者のチャージの手間を減らせれば、それだけ使ってもらう頻度も上がっていくと考えられます。次は、継続利用を促すための公共料金の支払い設定です。最後に利用シーンを増やすための複数業種での利用という順番がよいでしょう。もし、すでにオートチャージ率が高いのであれば、2番目の公共料金の支払い設定を増やす施策から入ってもかまいません。
同時に、ターゲットの絞り込みも欠かせません。まずは優良顧客になりうる利用者と見込みのない利用者とに分け、生活におけるサービスとの関わり方をプロファイリングし、セグメントを分ける作業も必要です。
このようにして、KFSごとにKPIを設定し順番に実行していくという施策を行うことでメイン決済化する利用者が増加し、LTVの向上につながり、結果会社にとっての利益アップへとつなげることが可能となるでしょう。
KPIのPDCAを回すための環境整備
ただし、このような施策を実行するための環境についても考慮する必要があります。KPIを設定してPDCAを回そうとしても、お客様の状況をタイムリーに収集して分析する環境、たとえばマーケティングソリューションなどがなければうまく回りません。
また、PDCAを回すための十分な体制も必要です。分析した結果を意味のあるアクションにつなげるためには、プランニングするメンバー、分析するメンバー、実行するメンバーなど、役割を分担して進めなくてはなりません。その作業に見合った体制作りが必要です。
さらには意思決定の機会も欠かせません。定期的に会議を開き、経営陣や上司と情報を共有して意思決定していくプロセスを組み込んでおかなければ、運用がおざなりになりかねません。
このようにKPIのゴール化を防ぐためには、プランニング時点ではLTV最大化につながるKFSを発見し、運用時にはKFSを意識したアクションKPIや目標設定を行うことが大切です。そして、ゴールと定めた事業に関連する数字とKFSに紐づいたアクションが常に連動している形を作ることが、正しくKPIを設定する方法といえるでしょう。
Salesforceでは、ソリューションの提供だけでなく、デジタルマーケティング推進のためのコンサルティングをはじめ、ワークショップやファシリテートなど、さまざまな支援メニューを用意しています。デジタルマーケティング推進に不安をお持ちであれば、ぜひコンサルティングを含めてご相談ください。
【解説者紹介】
株式会社セールスフォース・ドットコム
カスタマーサクセス統括本部
デジタルマーケティング部
MCアドバイザリー
綱木 大典
Salesforceプロフェッショナルサービスに聞く!
マーケティングソリューション導入前に踏まえておきたいポイント
第1回:マーケティングソリューション導入の成否を分ける「組織的課題」
第2回:成果に結びつくビジネスKPIの考え方と正しい設定方法
第3回:デジタルマーケティングを成功に導くデータの「収集と整理」の仕方