第3回:デジタルマーケティングを成功に導くデータの「収集と整理」の仕方
多くの企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)を志向するなかで、カスタマーサクセス(クライアントの成功)の実現には、どのような取り組みが必要なのでしょうか。見込み顧客を見つけ出し、優良顧客へと導く「最短ルート」を具体的に示し、カスタマーサクセスを最大化する、その取り組みにはマーケティングソリューションの活用が必須です。
そこで、マーケティングソリューションの導入前に踏まえておきたいポイントについて、「組織的課題」「ビジネスKPIの考え方と設定方法」「有効なデータ収集と処理」をテーマに3回シリーズでお届けします。
第3回は、カスタマーサクセス統括本部 デジタルマーケティング本部 マーケティングクラウド エンゲージメントマネージャーの岡本貴司が、デジタルマーケティングを成功させるために欠かせないマーケティングデータの収集と整理の仕方について解説します。
難解なSQLをマスターしないとMarketing Cloud を活用できないという誤解
デジタルマーケティングを成功させるには、データの活用が不可欠です。顧客のメールアドレスや連絡先、居住地域や年齢、趣味や興味、POSやEコマースから取り込んだ購買データ、サイト解析による行動データなど、さまざまなデータをマーケティングオートメーション(MA)などのツールに取り込んで利用します。
ただし、Marketing Cloudを効果的に活用するには、取り込むデータにも工夫が必要です。多くのお客様は、自社で独自に蓄積している基幹システムにある顧客データなどを、そのままMarketing Cloudに投入して利用しようと考えます。しかし、Marketing Cloudは、顧客データを管理するプラットホーム(CDP:カスタマー・データ・プラットフォーム)ではありません。データをただ入れるだけで簡単に使えるわけではないのです。
例えば、企業がMarketing Cloudを活用しようとする際には、すでに蓄積してある顧客データの中から、「いつ」「どこの店舗で」「どのような顧客層が」「どのカテゴリの商品を」「どれだけの数量」購入したのか、といったデジタルマーケティングに必要なデータを抽出しなくてはなりません。つまり、Marketing Cloudに投入するデータを加工する必要があるのです。
もし、事前にデータを加工せずにMarketing Cloudに投入した場合には、デジタルマーケティングに必要なデータを取り出すためのSQLというデータベースを操作するコンピュータ言語を使い、必要なデータをMarketing Cloudの中で抽出をしなければなりません。
こうしたことから、「Marketing Cloudは、SQLを理解していないと使いこなせない」「Marketing Cloudを使いこなすのはハードルが高い」と思われてしまうお客様も多くいらっしゃるようです。
これらは誤解です。Marketing Cloudは、決してSQLを理解しないと活用できないものではありません。Marketing Cloudにデータを投入する際に、事前にデータを加工・準備しておけば、SQLを書かずともデジタルマーケティングに活用できるのです。
それでは、どのようにデータを加工し、準備すればよいのでしょうか。ポイントとなるのは、デジタルマーケティングでどのような成果をあげたいのかといった目的を明確にすること、目的達成のためのシナリオを描き、そのシナリオに沿ったデータ(シナリオ用データ)を用意することです。
さらに、シナリオ用データの作成におけるポイントは、「どのような構造のデータとするか」と「どのようなフィルターでデジタルマーケティングに必要なデータを抽出するのか」という2点です。
デジタルマーケティングの「シナリオ用データ」をどう作成するか
それでは、どのようにシナリオ用データを作成すれば、Marketing Cloudの本来の機能をうまく活用できるのでしょうか。具体的な事例を挙げて説明します。
あるお客様は、基幹システムにあるデータをそのままMarketing Cloudに取り込んで、都度、デジタルマーケティングに必要なデータをSQLで抽出していました。基幹システムにある複数のテーブルから、Marketing Cloudで実践するデジタルマーケティングのシナリオに必要なデータを抽出することは、SQLを設計する情報システム部門にとっても大きな負担でした。そのため、1回のメール配信を行うのに2週間から1ヶ月もの時間を要していました。
さらに、SQLによるデータの設計がシナリオに合っているのかという検証も必要でした。「販売数向上」「来店者数アップ」などの目的を達成するのに必要なデータが整理されているのか、マーケティング部門では情報システム部門が用意したデータが適したものかを検証をしなくてはならなかったのです。このお客様は「このままではスピーディーなデジタルマーケティング施策を打ち続けるのが困難である」と、Salesforceと一緒に抜本的な改善に取り組みました。
まず取り組んだのは、基幹システムから取り込んだデータを、デジタルマーケティングに活用しやすいシナリオ用データとして整理することです。ここでポイントとなるのが、先に示した「データ構造」と「データの抽出」です。
基幹システム上のデータベースは、項目ごとに分けて作られているのが一般的です(この形式を正規化データといいますが、このブログでは生データと呼びます)。生データは、基幹システムに合わせて設計されたものであり、もともとマーケティング用に作られたものではありません。
そこで、デジタルマーケティングのシナリオに沿ってマーケティング施策を実践するのに必要となるデータ項目を選定し、正規化されている生データからマーケティング施策のシナリオに利用しやすいような形式に整理(構造化)するのです(これを非正規化データと言いますが、このブログではシナリオ用データと呼んでいます)。
こうして作成したシナリオ用データには、マーケティングに必要なデータが揃っていることになります。Marketing Cloudで施策の実行に必要となるデータは、基本的には「セグメントデータ」と「パーソナライズデータ」です。それらの項目でフィルタリングするだけで、シナリオに沿った施策を実施できるようにすることが理想です。
さらに、デジタルマーケティングの目的、その目的を達成するためのシナリオから必要となりそうなデータ項目をマーケターと情報システム部門で洗い出し、セグメントデータかパーソナライズデータかに分けていきました。こうした作業を準備し、最終的なデータ項目を決定できるようにご支援しました。
正確なデータをもとにマーケティング施策を展開
この取り組みの結果、逐一情報システム部門に依頼してSQLを設計してもらう必要がなくなり、数週間かかっていたメール配信リストの作成が1日程度に短縮されました。また、データが正しいかを検証する作業もなくなり、マーケティング部門が本来のマーケティング業務に専念できる時間が増えました。
さらに、マーケティング部門だけで迅速に最終的なデータを決定できるようになったことで、さまざまな施策をスピーディーに展開できるようになりました。
また、マーケティング部門が自分達自身でデータを抽出する条件を指定できるので、デジタルマーケティングの目的を達成するのに確度の高いデータを得られるようになったことも大きな効果です。これにより、マーケティング部門では、ターゲットの顧客層に向けて、適切なタイミングで適切な内容のメールを送信できるようになりました。
このようにマーケディングソリューションを効率よく利用するには、さまざまなノウハウが必要となります。Selesforceでは、コンサルティングサービスなどを通して、お客様が目的に合ったマーケディングソリューションを効率よく運用できるよう、支援してまいります。
【解説者紹介】
株式会社セールスフォース・ドットコム
カスタマーサクセス統括本部
デジタルマーケティング本部
マーケティングクラウド
エンゲージメントマネージャー
岡本 貴司
Salesforceプロフェッショナルサービスに聞く!
マーケティングソリューション導入前に踏まえておきたいポイント
第1回:マーケティングソリューション導入の成否を分ける「組織的課題」
第2回:成果に結びつくビジネスKPIの考え方と正しい設定方法
第3回:デジタルマーケティングを成功に導くデータの「収集と整理」の仕方