Salesforceは、Salesforce CDP(顧客データプラットフォーム)(英語)をリニューアルし、お客様が顧客とつながる新たな方法を発表しました(英語)。スマートな分析とマーケティング以外のチームとの連携を可能にする「信頼できる唯一の情報源」が普及しつつある今こそ、Salesforceと業界の両方がどれほど進化したかを振り返る良い機会です。
私はGartnerのリサーチアナリストとして5年間マーケティングテクノロジーを担当していましたが、顧客データプラットフォーム(CDP)のような滑り出しを見せたカテゴリは見たことがありません。2016年に、ガートナーの有名な(新たなトレンドの兆候を追跡する)ハイプサイクルにCDPが取り上げられました。その登場は非常に鮮烈だったのでよく覚えています。2018年までには、「そもそも、CDPとは何か」という質問を顧客からもっとも頻繁に受けるようになりました 。
私はこの答えを得るため、あらゆる業態や規模の企業からの数百件を超える提案要求を調べ、彼らのCDPに対する詳しい要件をまとめてみました。その結果、目の疲れを感じつつも、私はバイヤーがこの一見まったく新しい製品を、ほとんどの問題を解決できる切り札と考えていることがわかりました。ただし、CDPがまったく新しいものという認識は誤りで、実際には、マーケティング分野のCRMが進化したものがCDPです。
Salesforce CDPは、マーケティングに役立つだけでなく、ビジネス変革の要となります。データ統合とID管理に苦労している多くの企業にとって、Salesforce CDPは信頼できる単一の情報源となるのです。これによりデータをよりスマートに管理し、マーケティング部門をIT、カスタマーサービス、Eコマース、データサイエンスなどの各部門と連携させることができます。
Bank of Montreal(BMO)マーケティングテクノロジー責任者のDavid Kavanagh氏をはじめとする顧客も同様に考えています。「私たちはSalesforceのCDPによって、豊富なプロファイルデータを有効活用し、顧客のためにより優れた体験を構築できるようになると期待しています。BMOが目指しているのは、ビジネスと人生において、果敢に善を育む(Boldly Grow the Good)ことです」
Kavanagh氏は「テクノロジーを駆使し、アクセス可能で充実したデータを用いて円滑で有意義なオムニチャネル体験を作り上げることで、顧客と自らに課した約束を果たすことができます。事業を展開するあらゆる場所で、私たちは、パフォーマンスの向上と継続的な善きことの醸成を目的として働き方の構築、投資、変革に全力を注ぎます」と続けます。
こうした目標を達成するために、革新的なSalesforce CDP用コネクタを、ビジネスインテリジェンスツールのTableauに登録しました。さらに、MuleSoft Anypointを介したアドバンスドデータアクセスも登録し、スマートセグメント機能を強化しました。私たちは全力で開発作業を進めて、業界初の画期的な「エンタープライズCDP」となるソリューションをNo.1 CRM上に構築しました。
しかし、CDPをとりまく過剰な期待を振り払うのは簡単ではありませんでした。新しいカテゴリでハイテクが期待を集めるのはいつものことですが、CDPはとりわけ実体がつかみにくいものでした。そのため、CDP Institute(英語)の創立者であるDavid Raab氏は、MarTech Conferenceで行ったプレゼンテーション(英語)のタイトルを「CDP Cures Baldness: Getting Past the Hype About Customer Data Platforms(脱毛も治せるCDP:顧客データプラットフォームの真実)」としたほどです。
CDPによる顧客データの結合
(私が知るかぎり)CDPで脱毛は治りませんが、顧客データの結合には大いに役立ちます。当初の誇大広告が沈静化すると同時に、Salesforceのような真のエンタープライズCDPが脚光を浴び、マーケターが直面する大きな課題の解消に役立っています。
CDPは、とりわけ3つの主要な問題に対応できます。
分断されたデータ
データが分断していると、顧客とつながるのが難しくなります。当社が実施した最新の『マーケティング最新事情』調査によると、マーケターが単独で使用するデータソースの数は、2019年の8個から2021年の12個(予測)へと、50%の増加を見せています。別の調査(英語)によると、標準的な企業が保有するアプリケーションの数は約900種類ですが、平均すると、記録システムに統合されているのはそのうちの28%のみです。
不完全なID
IDとプライバシーの管理は、今日、非常に重要視されている機能です。多くのデータソースに顧客IDがありますが、相互にマッピングされていないため、顧客プロファイルとしては完全ではありません。当社の調査によると、データソース間でIDを照合する機能に「満足している」マーケターは、全体の3分の1のみでした。
セグメント化の不整合
どのデータサイエンティストも、「不良データやデータ喪失を根絶する、魔法のようなアルゴリズムは存在しない」と言うでしょう。顧客プロファイルが不完全だったり、まったく異なる種類であったり、古い内容であったり、または明らかに間違っていたりすると、分析や予測モデルが不正確になりかねません。結局、信頼できる単一の情報源で真実を得る必要があります。
エンタープライズグレードのCDPで、マーケターはこれらの問題をどのように解決できるのか?
私がよくご紹介するのは、コンビニエンスストアCasey’sの事例です。米国中西部から南部の人にとってはおなじみのスポットで、Taco Pizzaなどの元気の出る食品や親しみやすいスタッフが特徴です。16州に2,200店舗以上を展開しており、地域の要所にあるコンビニエンスストアとして同社を利用する顧客層を持っています。
多くの小売店と同様、Casey’sも2020年には、ブランドコンセプトを反映した関連プロモーションと一緒に、よりパーソナライズされたデジタル体験を顧客に提供したいと考えるようになりました。デジタル体験部門のバイスプレジデントであるArt Sebastian氏(英語)は次のように述べています。「フレンドリーで身近な存在なのがCasey’sのセールスポイントです」
Casey’sが2020年1月に立ち上げたロイヤルティプログラムには、パンデミックの最中にも関わらず250万人もの熱心な顧客が登録しました。同社はSalesforce CDPのパイロットユーザーになり、顧客データ管理の改善に取り組みました。Sebastian氏は、離れてしまった顧客にアプローチしたり、買い物したばかりの顧客宛てのメールを控えたりすることに大きな効果があることを発見しましたが、これを実行するのはなかなか難しいことです。
Sebastian氏は次のように述べています。「お客様は、もっと自分にマッチしたものを求めています。他の人と同じものは求めていないのです。お客様が求めているのは、自分にピッタリのプロモーションや、自分だけに向けた、パーソナライズされたメッセージです」
ただし、顧客関連のデータがばらばらのシステムに保管されているような状況では、顧客体験の改善は望めません。Casey’sは、オンライン注文、実店舗での取引、Salesforce Marketing Cloud経由のメールデータを結びつけることで、各ゲストが最近購入したピザの種類のヒーロー画像を、メール本文に直接表示できるようになりました。
こうしたちょっとした工夫を行った結果、ピザだけでコンバージョン率が16%上昇しました。これはCDPの得意分野である、分断されたデータを結合した成果です。Casey’sはデジタルトランスフォーメーションジャーニーの一環として、顧客データ管理の改善に一丸となって取り組んでいます。
Sebastian氏は次のように述べています。「いきなりCDPに手をつける必要はありません。今回試験的に取り組んだことで、顧客との関係を深める変革に向けて良い一歩が踏み出せました。Salesforce CDPで当社が構築したのは、マーケターがデータセットをインポートし、オーディエンスセグメントを作成し、データディスカバリを実行できるようにするツールです。これで、ビジネスをスムーズに推進できるようになります」
次のステップ
Salesforceは、CDPにはまだまだ大きな可能性があると考えています。ビジネスインテリジェンス会社Advertiser Perceptions(英語)のプレジデント兼最高戦略責任者のKevin Mannion氏の表現を借りれば、「現在の状況は1回表の先頭バッター」です。
このため、多数の新機能や他のアップデートとともにSalesforce CDPをリフレッシュすることは、非常に大きな意味を持ちます。だからこそ、Casey’sやBank of Montrealなどの革新的なブランドがカスタムメイドのユニークな顧客体験を提供するために、マーケティングの枠を超える単一の情報源としてSalesforce CDPを活用しているのです。この市場はこれからもっと面白くなっていくでしょう。
Marketing Cloudは、デジタルマーケティング、メールマーケティング、ソーシャルメディアマーケティング、カスタマージャーニーマッピング、マーケティングアナリティクス、マーケティングの自動化、B2Bマーケティングにおいてあらゆるデジタルタッチポイントのどこからでも顧客とのコミュニケーションをパーソナライズすることが可能なソリューションです。
本稿は、テクノロジーを活用して取得したデータをもとに、顧客にとって自然で、関連性が高く、完璧なタイミングだと感じられる体験を構築する方法をマーケターに紹介する「Moment Makersシリーズ(英語)」の1つです。
Martin Kihn
Martin KihnはMarketing Cloudの製品戦略担当シニアバイスプレジデントです。Martin Kihnは、現職に就く前はGartnerの調査担当バイスプレジデントとしてマーケティングテクノロジーに関する執筆や講演で幅広く活動し、顧客である数多くのFortune 500企業にマーケティング戦略に関するアドバイスを行っていました。4冊の書籍も著しており、『House of Lies(ハウス・オブ・ライズ)』は米国のテレビ局「Showtime」にドラマ化、またChris O’Haraと共著の『Customer Data Platforms: Use People Data to Transform Marketing Engagement』がある。
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