政府や地方自治体においてもICTの有効活用が盛んになりつつありますが、それによって実現されることの1つとして注目したいのが「オープンガバメント」です。その実現は私たちの生活にどのように影響し、また行政をどのように効率化するのか、具体的な事例から探ります。
日本でも始まった「オープンガバメント」への取り組み
透明性を確保し、国民が政治や行政に積極的に参加し、そして組織の枠を超えた官民連携を目指す、「オープンガバメント」に向けた動きが各国で加速し ています。民主主義や国民の「知る権利」と密接であり、考え方自体は古くからありますが、オープンガバメントへの動きが加速したのは、インターネットの普 及を背景に、アメリカのオバマ政権のイニシアティブがきっかけです。
オバマ大統領は2009年に大統領に就任してすぐに、直属のCIO(Chief Information Officer)職を設置し、ヴィヴェク・クンドラ氏を任命しました。彼はオバマ大統領のオープンガバメントの方針に基づき、アメリカ連邦政府が持つさま ざまな情報をワンストップで入手できる「Data.gov」を立ち上げます。さらにクンドラ氏は政府機関向けのクラウドサービスポータルである 「Apps.gov」を開設しました。
Data.govは連邦政府の保有する大量のデータを団体や企業、消費者が容易に検索・入手できるポータルサイトです。このような取組はオープン データと呼ばれ、政府の透明化をはかるものであり、各州の州政府もこの動きに追随し、やがてアメリカ以外の国々にも広がりました。
このような最新のオープンガバメントは「透明性」と「市民参加」「官民連携」がカギであり、これからの政府・行政のあるべき姿として世界的に広く受け入れられました。
オープンデータの流れが加速
オープンガバメントに向けた取り組みは、このように各地で始まっています。前述したアメリカのData.govと同様に、行政が持つデータを積極的 に公開するオープンデータと呼ばれる流れは日本でも広まっており、人口や産業に関する統計、あるいは災害時の避難施設に関する情報などを多くの自治体が公 開し始めています。
たとえば福井県鯖江市ではインターネット上で情報を公開する「データシティ鯖江」構想を推進、公営バスのリアルタイム位置情報やAEDの設置場所、 人口や気温、市内の無線LANアクセスポイントの設置場所など、さまざまな情報を公開しています。このように公開されているデータは、PDFなどの形式に 加え、ソフトウェアで取り込んで活用できるデータ形式でも提供されているため、公開情報を活用した独自のスマートフォンアプリを開発することも可能です。
こうした情報公開に向けた取り組みは福島県会津若松市や千葉県流山市、神奈川県横浜市などでも行われているほか、公開されているデータを横断的に検 索することが可能なデータカタログサイトとして、日本政府も「DATA.GO.JP」を開設しています。総務省では、「ビッグデータの活用による路面管理 の高度化の実証」を行っており、この路面管理ビッグデータシステムの基盤として、Salesforce 1 Platformが使われています。この実証実験で公開された公共データを活用するアプリ開発のコンテストも行われるなど、オープンデータへの関心はます ます高まってきています。
スマートフォン片手に市民がレポートする「ちばレポ」:千葉市の例
千葉市は“市民が主役の街作り”に向けた取り組みを推進しています。これは「ちば市民協働レポート(ちばレポ)」と呼ばれており、市民が地域の課題 を見つけると、専用のスマートフォンアプリで報告します。市にとっては、多くの課題を市民の目を借りて見つけることができ、またそれをシステムで一元管理 することができるのです。その対応状況(受付済、対応中、対応済)がWebサイトで公開されるので、市民から見ると、報告した課題が行政に確実に届いたこ とが分かるだけでなく、解決に向けた動きも把握でき、参加のモチベーションとなります。実際、開始後1カ月で1,000人以上の市民が参加、1日平均10 件のレポートが寄せられるなど、市民と市政の双方にとってメリットのあるしくみになっています。
「ちばレポ」が、総務省「地方創生に資する『地域情報化大賞』」の奨励賞を受賞
このような自治体のオープンガバメント化を支援する仕組みとして、セールスフォース・ドットコムでは、モバイルやSNS、Web、ファックスなどで 寄せられた市民の声を一元的に管理し、オープンで市民協働型の市政を実現する「市民と行政をつなぐ市民の声管理システム」を提供しています。
公共機関向けソリューション「市民と行政をつなぐ市民の声管理システム」
情報公開や市民の行政参加、官民連携を推進するための取り組みなどは以前からありましたが、インターネットの普及やICTの進化により、それらを効 率的に、そして効果的に実現できるようになりました。現状では各国ともにオープンガバメントに向けた取り組みは始まったばかりですが、さらなる“開かれた 政府”の実現に向けて、これらの施策の一層の強化が求められます。
なお2011年8月にクンドラ氏はCIOを退任し、現在はセールスフォース・ドットコムで公共セクター担当エグゼクティブ・バイスプレジデントを務めています。
参考:
- 30歳代半ばのCIOが率いた米国政府のクラウド化(IT Leaders)
- ヴィヴェク・クンドラ:アメリカ合衆国・初代CIOに学ぶ本当の「オープンガヴァメント」(WIRED/ヴィヴェク・クンドラ)
- 日本における「オープンガバメント」の歴史と概要(林雅之)
- 経済産業省オープンガバメント推進サイト(経済産業省)
- データカタログサイト「DATA.GO.JP」
- 点検要員は「市民」 千葉市、老朽インフラみんなで守る インフラ老朽化対策の新潮流(日本経済新聞/日経コンストラクション 浅野祐一)
- 「ちばレポ」が、総務省「地方創生に資する『地域情報大賞』」の奨励賞を受賞(セールスフォース・ドットコム)
- データシティ鯖江