※本記事は、セールスフォースの動画シリーズ「 Reskilling for Transformation 」での収録内容を、インタビュー形式で再構成いたしました。
2020年のリクルートワークス研究所による「リスキリング 〜デジタル時代の人材戦略〜」の提言書公開からまもなく3年が経過するなか、岸田首相による5年スパンでのリスキリング支援表明が昨年行われるなど、政府/中央官庁リーダー層や経済界のリーディングカンパニーを中心に、リスキリングへの取り組みは一定程度、進捗しています。
そうしたなか、生成AIの急激な普及による、AIによる既存業務と既存スキルセットの持つ価値のディスラプションが急展開する世界的事象が発生し、これまでのDXやデジタル人材育成のあり方を、再定義していくことが求められています。
今回、AI人材育成に早くから取り組む日本ディープラーニング協会の岡田隆太朗氏、いま企業が取り組むべきリスキリングのあり方について、語っていただきました。
世界から遅れをとる日本への危惧
JDLA(日本ディープラーニング協会)の各種検定の合格者にアンケートをとると、仕事や業務において、検定で習得した AIスキル を、合格者のおおよそ半分の人々しか活用できていないことがわかりました。そこから考えられるのは、現在、日本全体で就業者が4000万人いるなかで、JDLAが提供するレベルのAIスキルを活用できているのは、検定合格者全体の約7万人の半分、わずか3万5000人ほどに留まるのではないか、ということです。
ディープラーニングが普及した直後の2010年代半ばから、GAFAMに代表される海外のテック企業は積極的なAI導入を進めてきていますが、日本では未だに進んでいないというのが実状です。こうした状況の日本では、会社単位で「AIの活用を進めていくんだ」という勢いが必要です。そうでなければ、生成AIが急速に進化していく中、日本の企業は立ち行かなくなるのではないかという危惧を、私は抱いています。
企業がAIを導入する前に確認すべき5つのこと
自社でのAI活用において検討すべき事項は多いですが、まず最優先に自社で自問すべき5つのトピックをご紹介します。データの質やスキルの準備、組織の要件、信頼の構築方法、そしてAI用語へのキャッチアップについてぜひご確認ください。
General Purpose Technology(汎用目的技術)」としての生成AI
現在、とんでもないことが起こっています。生成AIの登場はとても大きなインパクトです。
これまではプログラミングという作業が必要でしたが、現在の生成AIは「言葉」で新しいアウトプットを生み出すことができます。これにより誰でも生成AIでプログラミングができるようになりました。英語が最も優秀なプログラミング言語ではないかといわれる、まさに新時代に突入しました。
私たちJDLAが公開する生成AIガイドラインでは、「GPT」という用語を「General Purpose Technology(汎用目的技術)」として、OpenAIが提供するChatGPTの「GPT(Generative Pre-trained Transformer)」よりも広範囲なものと位置づけしています。GPT(汎用目的技術)とは「内燃機関」や「インターネット」「電気」と並ぶ抽象度の高い概念で、生成AIがそうした社会のインフラの中でも特にベースの技術になると、私たちは考えています。
生成AIが企業、仕事にもたらすインパクト
現在、存在する仕事の多くは生成AIの登場で大きく変わります。あらゆるホワイトカラーの仕事における作業が、生成AIに置き換わっていくだろうと考えられています。
毎日、利用されているソフトウェア内で生成AIのCopilotが稼働し始めると、多くの人が感じていた、白紙状態のMicrosoft WordやPowerPointに向き合うという恐怖から開放されます。部下に対するように、「言葉」で指示できることもあり、書類があっという間に完成します。またそこで空いた時間は、書類の中身や提案内容をさらに良いものに仕上げていくという、より人間的で生産的な活動に割けるようになるのです。
AIはパートナー?私たちはもっと速く、クリエイティブになれるのか
生成AIの活用によって、どれだけ生産性が向上し、どれだけ創造性が向上するのか。実際のプロジェクトにおいてAIをパートナーとして活用した、3つのユースケースをご紹介します!
「ロボットは友達」と考える日本における生成AIのインパクト
2000年代以降、人間の仕事がAIに奪われるかもしれないと言われてきました。「シンギュラリティ(AIが人類の知能を超える転換点、またそれにより人間の生活に大きな変化が起こる概念)」もその際に言われることの1つで、シングルタスクにおいてはすでに起こっています。
Microsoft社が行った調査によると、70%の方が「生成AIで仕事が楽になる」とポジティブに回答されています。しかし、その一方で50%の人が「AIに仕事を奪われる」と考え、恐怖を感じていることがわかりました。
このギャップと矛盾は、「AIは何ができるものなのか」ということをわかっていないために生まれます。正しく理解をしていけば、「どこでAIを活用するか」を把握、判断した上で仕事を進められるようになります。一時的に職は減るかもしれませんが、AIがより深く生産活動につながってくれば、もっと働く場やチャンスは増えてくる可能性が高まります。
また、欧米と日本ではロボットやAIに対する考え方が異なります。欧米は、映画『ターミネーター』の国で「AI対人間」と対立構造で考える傾向が強く、それに対して日本は「ドラえもん」と「鉄腕アトム」の国であり、「ロボットは友達」と考える傾向があるのです。
こうした、ロボットやAIを「友達」と考える日本の心理的な環境は、今後、とてもポジティブに働くと思います。
まず必要なことはデジタル化
データがデジタル化された環境で使う道具こそAIです。この状況においてAIという道具にどのような使い方があるのかがわかると、DXは圧倒的なスピードで進展していきます。そのため、AIを活用するためには、まずデジタル化を進めていくことがとても大事になります。
また、業務において担当者は、自分の行なっているタスクしか見えない状態になってしまうものです。仕事は1人で行なうものではなく、前後のプロセスがあるものです。デジタル化されていれば、プロセスも共有可能になり、この中でトランスフォーメションができるようになります。また不要なプロセスも見つかってくるかもしれません。このようにどんどん繋がっていくと、より効率的なDXが起こっていきます。どのように効率良く仕事をしていくか、例えば残業時間がなくなるといった効果があれば、それに対してどんどん取り組んでいこうと考えるものです。
トップを含め全員で取り組むことでAIは活きてくる
ただし、いくら生成AIがすごいとしても、それだけでは何も始まりません。「やるぞ」と、これまでのやり方を変える必要があります。
1人でもやらない人がいるとAIはその人の情報を把握できなくなるため、全員で進めるべきです。また、経営のトップほどリスキリングするべきだと思います。部下が新たなスキルを学んでも、指示する側がそれを理解していなければ活かすことはできません。
運送業にとってクルマの性能はとても大事な要素ですが、同じようにデジタルという道具について性能べースでわかる程度になっておくことで、ビジネスで活用していけます。そもそもそれぞれの企業は自社の業務における課題については詳しいので、AIの使いどころは非常に多く見つけることができるはずです。
AIはマーケティングをどう変える?
Salesforce AI担当者が徹底解説
「生成AI」をマーケティングの世界に投入したら、変わり続ける顧客ニーズの把握、さまざまな業務の省力化、あらゆるデータの統合・分析など、どのように業務は変わるのでしょうか。
マーケティング関連の生成AI導入検討に向けたメリットと注意点、そして、AIがマーケティングにもたらす価値についてAIのスペシャリストと共に考えます!
AI時代のリスキリング、実践と活用
これまで約10万人がJDLAのG検定(ジェネラリスト検定)を受験しています。皆さんが社会で活躍してくれることこそが、社会実装ということであり、私たちの目的です。しかし、アンケートをとると半分の方は「会社では取り組んでいるものの、その部署に所属していない」「これから必要だと思ったため身につけたが、今、働いているところではそういう雰囲気になっていない」と実際の仕事では使っていないと回答しています。このような方たちが、会社や社会の中での適材適所に活躍することが、大変重要だと考えています。
身につけた知識を使っていくのは非常に大切なことです。経産省のマナビDXでは、学びのプラットフォームが設定されています。1層は座学、2、3層にPBL(Project Based Learning)や業務における活用、実例をつくることが組み込まれています。学びで終わってしまわず、2、3層に進んでいかなければいけません。
札幌市が開催している「札幌AI道場」では、座学だけでなく北海道にある実際の会社から集めてきた実課題にも取り組みます。3カ月ほどPoCをやってみると、デジタルのことがわかっていない課題を出した側も、「こういう効果があるのか」と理解し、出された側も実際に使ってみる場になります。
札幌AI道場のように、今後、社会は一気に進んでいきます。この取り組みは会社内でも十分できるものだと思います。また、自動車メーカーのダイハツでは、半年に1回、コンテストを開いていて、良いアイデアを積極的に実装しています。こういった取り組みを続けていくと、学び甲斐もあり、それで実際に業務改善を体験することもできます。このように、積極的にAI活用に取り組んで、実践に繋げていっていただきたいです。
心のシャッターを開けて、テクノロジーを自分の道具にする
私たちは、今後、生成AIと付き合っていくことになります。どういうことができて、そのリスクが何なのかをわかっていれば、怖がることはなくなり、積極的に使う方向に向かっていくはずです。
生成AIの技術的背景や、どのようなところで使えるか、そして大事なリスクについて学ぶ「JDLA Generative AI Test」を実施しています。私たちの団体JDLAでは、これらは人材育成でもありますが、より「標準化」に近いレベル感で進めていくべきとして取り組んでいます。
リスキリングも、AIをはじめとしたテクノロジーも新しい波がきています。シャッターを閉じることなく開けていただき、自分の道具としてテクノロジーを使える状況になっていただきたい。チーム、会社全体がそのマインドになることがとても大事だと考えています。
プロフィール
岡田隆太朗 (Ryutaro Okada)
一般社団法人日本ディープラーニング協会 専務理事
1974年生東京都出身。慶應義塾大学在学中に起業。事業売却後事業会社を連続設立し、2012年 株式会社ABEJAを共同創業。2015年より、IT経営者のコミュニティイベントInfinity Ventures Summitの運営事務局を設立し事務局長に就任(現シニアアドバイザー)。2017年、ディープラーニングの産業活用促進を目的に一般社団法人日本ディープラーニング協会を設立し事務局長に就任。2018年より同理事兼任(現専務理事)。2019年より全国高等専門学校ディープラーニングコンテストを開催。2021年より高専生の起業支援ファンド「DCON Start Up 応援1億円基金」を創設。